鍛造とは?熱間鍛造/冷間鍛造と切削・鋳造・プレスとの比較
- 更新日:
- 2022/08/31 (公開日: 2020/06/09 ) 著者: 甲斐 智
鍛造(たんぞう)は、金属のかたまりを叩いて成形する「塑性加工」のひとつです。
「鉄は熱いうちに打て!」という言葉のとおり、 加熱してたたくことで、強度の高い鍛造品ができあがります 。
鍛造によってつくらた製品は「鍛造品」とよばれ、自動車部品をはじめ、ネジ・歯車など強度と安全性がもとめられる量産部品の成形に使われています。
鍛造は、加工の温度や工具によって、さまざまな種類に分けられます。
この記事では「鍛造」の種類や、切削加工との違いなどを図解をもとに解説します。
鍛造で知る!ねばり強い金属の秘密
鍛造は、金属の塊を「工具」や「金型」を使い、たたいて圧縮する塑性加工法です。
「鍛える」という字のとおり、金属は叩かれることで内部の気泡がつぶれ、結晶が細かくなり、ねばり強い金属へと生まれ変わります 。
鍛造:引用元: 技のとびら「鍛造技能士」
「鍛造」とは、金属を打撃・加圧することで強度を高めたり、目的の形状にすることです。
「鍛造職種」は鍛工品の製作及び製造の仕事を対象としています。
鍛造は、その加工方法の違いにより、自由鍛造、ハンマ型鍛造、プレス型鍛造などに分かれます。
鍛造の歴史は古く、紀元前4000年ごろから行われており、日本でも古来から日本刀や火縄銃などの成形技術として知られています。
鍛造には「鍛造機械」とよばれる専用の機械が使われます。
鍛造のメリットと、切削・鋳造との違い
鍛造でつくられる鍛造品は、切削加工・鋳造とくらべて強度が高いことが特徴です。
発電用タービンなどの大きな製品から、自動車部品などの小さな部品まで、さまざまな業界で使われています。
鍛造 |
切削加工 | 鋳造 | |
強度 | ◎ | ○ | △ |
---|---|---|---|
加工時間 | ◎ | △ | ○ |
寸法精度 | ○ | ◎ | △ |
肉薄化 | ◎ | △ | △ |
材料のロス | ◎ | △ | ◎ |
鍛造のメリット
製品のカタチに沿ったファイバーフローが発生することで、強度が高い金属になります。
そのため切削加工と「おなじ強度」でも部品を肉薄化でき、軽量化が実現します。
鍛造とプレス加工との違い
鍛造とあわせて検索されるキーワードに「プレス加工」があります。
どちらも大きな力で金属を圧縮する加工方法ですが、加工するワークの種類によって使い分けがされています。
- 鍛造:ビレット(厚い金属の材料)を加工
- プレス加工:ブランク(薄い金属の板材)を加工
鍛造の分類について
鍛造は使用する「温度」や「工具」によって、さまざまな種類に分けられます。
「加工温度」による分類
加工する温域によって、「熱間鍛造」「冷間鍛造」「温間鍛造」に大きく分けられます。
〈熱間鍛造〉鋼材の場合は 約1000~1200℃
熱間鍛造は、ワークを「再結晶温度以上」に加熱し、高温の状態で成形する方法です。
(鋳造のようなドロドロの状態ではありません)
熱間鍛造のメリットとデメリット
〈冷間鍛造〉常温
冷間鍛造は、ワークを「再結晶温度以下」の常温で成形する方法です。
常温下では金属の変形抵抗が高いため、鍛造には大きな圧力が必要です。
そのため加工に限界があり、冷間鍛造できる金属の質量は約10kgまでとなります。
金型の材質には工具鋼やハイス鋼などの強度が高い素材が使われます。
冷間鍛造のメリットとデメリット
〈温間鍛造〉鋼材の場合は 約600~900℃
温間鍛造は、熱間と冷間の「中間温域」で成形する方法です。
熱間と冷間の両方のメリットを得られます。
〈溶湯鍛造〉
鍛造と鋳造を合わせた方法です。
ワークを高温の溶解(ドロドロ)状態で加圧することで、鋳巣(空洞)の発生を防ぐことができます。
〈恒温鍛造〉
ワークと金型を同時に加熱しながら成形する方法です。
加熱装置を備えたプレス機械と、特殊な金型が必要になります。
難加工材や複雑形状の成形に使われます。
「使用工具」による分類
鍛造は、使う工具によって「自由鍛造」と「型鍛造」に分けられます。
- 自由鍛造:「ハンマー」を使い、叩いて成形する
- 型鍛造 :「金型」を使い、圧縮して成形する
自由鍛造とは
鍛造プレスを使い、ワークを「ハンマー」で叩いて成形する鍛造法です。
金属材料のもととなる鋳塊(インゴット)の鍛錬や、発電用タービンなどの大きな製品の製造に使われます。
熱間鍛造で鍛造されるため、「熱間自由鍛造」ともよばれます。
寸法精度が低いため、鍛造後には切削加工による追加工が必要です。
多品種小ロットや、中~大型部品の製造に適しています。
自由鍛造の種類と工程
- 据込み(すえこみ)
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金属を上下から叩き、高さを減少させます
- 鍛伸(たんしん)
-
金属を上下から叩き、長さを伸ばします
- 展伸(てんしん)
-
金属を叩きながら、薄く広げます
型鍛造とは
鍛造プレスを使い、ワークを「金型」で圧縮する鍛造法です。
ビレット(厚い金属材料)を、自動車部品などの小さな製品に成形します。
寸法精度が高く、切削加工による追加工が不要です。
金型を使うため、大ロットの小型部品の量産に適しています。
〔型鍛造の種類と工程〕
- 半密閉鍛造
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一対の金型にビレット(厚い金属材料)を入れて圧縮。
型のスキマにわざとバリをつくることで、金型のすみずみまで金属を流動させます。バリは仕上げ加工で除去(トリミング)されます。
冷間鍛造では金属の変形抵抗が高く、金型にかかる負荷が大きくなります。
- 密閉鍛造
-
一対の金型にビレット(厚い金属材料)を入れて圧縮。
型にスキマがないのでバリが発生せず、仕上げ加工(トリミング)が不要です。鍛造品が丸物に限定され、複雑なカタチの鍛造には向いていません。
金属の流動性を高めるために、温間鍛造で行われます。
- 閉塞鍛造
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金型に閉じ込めたビレット(厚い金属材料)を、パンチによって圧縮します。
型にスキマがないためバリが発生せず、仕上げ加工(トリミング)が不要です。パンチの動きや形状によって、複雑なカタチの鍛造ができます。
金属の流動性を高めるために、温間鍛造で行われます。
- 圧印加工(コイニング)
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ブランク(薄い金属板)に凹凸状の金型を押しあて、模様を付ける加工方法です。
コイニングともよばれ、冷間鍛造に分類されます。切削加工や鋳造からの置き換えで、大幅なコスト削減が実現。
コインや装飾品をはじめ、小さな部品の大量生産で使われています。
- 据え込み加工(つぶし加工)
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据え込み加工は、金型の中にバー材を入れパンチでつぶす加工方法です。
据え込み加工の種類
- アプセット加工
金型の中にバー材を入れ上からパンチでつぶす加工方法です - ヘッダー加工
頭部(ヘッダー)だけをパンチでつぶすことで、ボルトやねじなどの「頭つき部品」をつくります
- アプセット加工
回転鍛造について
回転鍛造は、ワークや工具を回転させながら加圧する鍛造法。
「型鍛造」とは使う機械や工具がことなるため、区別されることが多いです。
加工にかかる力が低く、騒音や振動が少ないのが特徴です。
回転鍛造の種類
揺動鍛造(ようどうたんぞう)
円すい型の工具を傾けながら回転させ、加圧する鍛造法です。
ワークと工具との接触面が少なく、自由鍛造のような大きな設備が不要です。
騒音や振動が少なく、小さな圧力で成形することができます。
揺動の動き方によって、円・菊・スパイラル・シーソーの4つのモーションがあります。
リングローリング
フランジ部品などの「リング状部品」をつくるための鍛造法です。
外径ロール・マンドレルやさまざまなロールを制御しながら、圧延します。
多品種小ロットから量産まで、柔軟に対応ができます。
ねじ転造
転造ダイスとよばれる型にワークを回転させながら加圧し、ねじ山を転写する鍛造法。
鍛造により、精度の高いネジ・ボルトを量産することができます。
旋削加工によるネジ加工とくらべて強度が高く、切粉が出ないため材料にムダがありません。
ねじ転造の種類
- 平ダイス式
2枚の移動ダイの往復運動でワークを転がし、ねじ山を転造 - 丸ダイス式(ローラダイス方式)
1組のローラーの回転運動でワークを転がし、ねじ山を転造
ウォームなどのねじ歯車の加工に使われます - ロータリ式(プラネタリー方式)
丸形ダイと扇形ダイとの間でワークを転がし、ねじ山を転造
同時に複数のネジを成形できるため、量産に適しています
歯車転造
転造ダイスとよばれる型にワークを回転させながら加圧し、歯型を転写する鍛造法です。
鍛造により、精度の高い歯車を量産することができます。
歯車加工による歯車より強度が高く、切粉が出ないため材料にムダがありません。
歯車転造の種類
- プランジ転造法
ワークにダイスを押し付けて転造する方法 - スルーフィード転造法
ダイスにワークを通過させながら押し付ける転造法
長い歯車の転造に使われます - ラック形ダイス式
1組のラック形ダイスの間で金属を転がし、歯型を転造 - 2ロールダイス式
1組のローラーの回転運動で金属を転がし、歯型を転造
ロール鍛造
ロール鍛造の種類
- クロスローリング加工
回転するロールの間にバー材を転がし、部品をつくる鍛造法
ダイスの形状によって、段付きの軸製品をつくることができます - スエージング加工
高速で往復運動するダイスにより、ワークを加圧しながら伸ばす鍛造法
棒やパイプなどのバー材の外形を絞ったり、テーパを付ける加工法です
ボール転造
1組のローラーの回転運動でワークを転がし、球を成形します。
棒材から、精度の高い球を量産することができます。
焼きなまし(焼鈍)と潤滑処理とは?
冷間鍛造では、加工前に焼きなまし(熱処理)をして、金属をやわらかくします。
焼きなましは「焼鈍(しょうどん)」ともよばれます。
型鍛造時には潤滑油を吹き付け(潤滑処理)、金属と金型との焼き付きを防止。
潤滑油には、金型を冷却する役割もあります。
産業機械に使われている鍛造品
〈熱間自由鍛造〉による大型部品
数百トンもの巨大な鋼塊を加熱し、押しつぶして鍛造します。
- 船舶用クランクシャフト
- 発電用タービン
- 原子炉圧力容器
- 圧延機ロール
〈熱間型鍛造〉による自動車部品
棒材を1200℃以上に加熱し、鍛造プレスで金型を打ち付けます。
鋳造部品にくらべて強度が高く、軽量化も実現します。
- ピストン
- クランクシャフト
- ステアリングアーム
〈冷間型鍛造〉による自動車部品
寸法精度が高いため、切削による追加工が不要です。
- コンロッド
- ロッカーアーム
- カムシャフト
- コネクティングロッド
〈冷間転造〉による機械要素部品
切削による加工品とくらべ強度が高く、切粉が出ないため材料にムダがありません。
- 歯車
- ピニオンギア
- ねじ
- ボルト
〈恒温型鍛造〉による精密部品
加熱装置を備えたプレス機械と特殊な金型で、難加工材を成形します。
- 航空機用ジェットエンジン部品
- 高温ガスタービン用部品
注目を浴びる!板鍛造(FCF)とは
板鍛造は、「鍛造」と「プレス加工」を組み合わせた加工方法です。
FCF工法(Flow Control Forming in Sheet Metal)ともよばれています。
複雑なカタチの製品を、高精度・低コストでつくることができるため、いま注目を浴びている技術です。
プレス加工による「せん断」「曲げ」「絞り」加工に、冷間鍛造を取り入れることで、立体的な3次元成形が実現。
切削からの置き換え加工として、小型の電子部品から大型の自動車部品まで、さまざまな業界に広がりつつあります。
鍛造とは?まとめ
この記事では、鍛造の種類や工程を通して、鍛造の基本について解説しました。
熱間と冷間を組み合わせた「複合鍛造」も広がるいま、切削で加工するのか?鍛造で成形するのか?が大きな加工のわかれ道となっています。
本記事が、加工の選定の参考のひとつになればうれしいです。