鋳造とは?鋳造の歴史とさまざまな鋳造法・自動車部品の鋳造例
- 更新日:
- 2022/08/31 (公開日: 2020/06/06 ) 著者: 甲斐 智
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鋳造(ちゅうぞう)は、金属加工のなかでももっとも歴史のある基礎的な加工技術です。
つくりたいカタチの鋳型に溶けた金属を流し込み、冷やして固めることで、
複雑な製品を効率よく量産
。
塑性(そせい)加工・除去加工とならぶ代表的な金属加工法ですが、切削加工エンジニアにとってはなじみの薄い分野でもあります。
鋳造ってどんな加工?
鋳造(ちゅうぞう)は、純度の高い金属原料を熱で溶かし、型に流し入れ「冷やし固める」加工方法です。
鋳造の歴史は古く紀元前4000年ごろから行われ、日本でも弥生時代の銅鐸や、東大寺の大仏などに鋳造の技術が使われています。
鋳造:引用元:日本機械学会「鋳造」
材料加工法の一つで金属および合金を溶融状態で鋳型に注入し,凝固,冷却後鋳型より取出して製品とする.
鋳造により得られたものを鋳物という.鋳造の歴史は古く古墳の出土品にも鋳物が存在する.
最初は,開放型,次に合せ型,さらに中子を有する鋳造法が発達したと考えられている.
現代では自動車のシリンダーブロックや機械部品の製造技術として、さまざまな業界で活用されています。
(鋳造でつくられた金属は振動の吸収率が高く、工作機械のテーブルやプレス機械のフレームにも活用されています)
鋳造工程はふたつに分けられ、目的によって規模や設備が大きくかわります
鋳造で「鋳塊(インゴット) = 金属素材」をつくる
金属の原料から、鋳塊(ちゅうかい)とよばれる金属素材をつくります。
鋳塊は「インゴット」ともよばれ、あらゆる金属製品のもとになる金属のかたまりです。
鋳造で「鋳物 = 金属製品」をつくる
金属の原料から、鋳物(いもの)とよばれる製品を鋳造します。
鋳物はそのまま製品として利用されますが、最終仕上げで加工されることもあります。
鋳物は大きな製品や複雑なカタチでも低いコストで量産でき、大量生産にはかかせません。
金属をたたいて強くする鍛錬工程がないため、強度はやや落ちます。
そのデメリットを補うため、さまざまな鋳造方法が開発されています。
鋳造の現場でよく使われる用語
鋳造では、切削加工の現場では聞きなれない用語が使われます。
鋳塊(ちゅうかい) | 鋳造でつくられた金属素材、インゴット |
---|---|
鋳物(いもの) | 鋳造でつくられた金属製品 |
湯(ゆ) 溶湯(ようとう) |
溶けた金属、溶融金属 |
溶鋼(ようこう) | 溶けた鋼 |
鋳込み(いこみ) | 金属を注ぎ込むこと |
鋳型(いがた) | 砂や金属で作った型 |
凝固 | 溶融金属を冷やし固めること |
砂型 | 砂でつくった型 |
金型 | 金属でつくった型(金型全般についてはこちら) |
巣(す) | 鋳物の中にできた小さな気孔 |
ひけ巣 | 鋳物の中にできた、大きな空洞(加工不良) |
ブローホール | 鋳物の中にできた、ガスによる大きな空洞(加工不良) |
ピンホール | 鋳物の中にできた、ガスによる小さな空洞(加工不良) |
介在物 | 鋳物の中に巻き込んだ、異材の混入(加工不良) |
湯境(ゆざかい) | 溶湯と溶湯の温度差などで発生する境目(加工不良) |
模型 | 鋳型の原型となる型(木型、金属模型、石膏型、プラスチック型、ポリスチロール型) |
中子(なかご) | 中空の鋳物をつくるため、内部に入れる鋳型 |
鋳鉄(ちゅうてつ) | 鉄で作った鋳物 →鋳鉄についてさらに解説 |
鋳鋼(ちゅうこう) | 鋼で作った鋳物 |
青銅 | 銅で作った鋳物 |
アルミ鋳鉄 | アルミニウムで作った鋳物 |
湯口(ゆぐち) | 溶湯を注ぎ込む口 |
湯道(ゆみち) | 溶湯が注ぎ込まれる通路 |
押湯(おしゆ) | 凝固時の金属収縮でできたスキマに、不足溶湯を注ぎ込むこと |
鋳造で知る!鋳鉄の約60%は自動車部品
鋳鉄の生産量の約60%は、「自動車部品」へと加工されます。
また低コストで大量生産に向いているため、デジカメや家電など民生品の部品加工にも多く使われています。
自動車部品での鋳造例
- エンジンのシリンダブロック
- エンジンのシリンダヘッド
- エンジンブラケット
- クランクシャフト
- カムシャフト
- ブレーキキャリパ
- アルミホイール
鋳造の種類について
鋳造には、用途にあわせてさまざまな技法があります。
連続鋳造
溶けた鋼から、金属材料になる「鋼片」をつくる技法です。
鋳型に注入した鋼を鋳型の底から引き出し、圧延して帯状の鋼片を製造。
鋼片は、カタチによって「棒材用のビレット」「形鋼用のブルーム」「板材用のスラブ」に分けられます。
ビレットはさらに塑性加工により、棒材・線材・形材・管材とよばれる半製品に加工され、自動車部品や機械部品の材料になります。
砂型鋳造
砂型鋳造は、砂を固めた「砂型」とよばれる鋳型を使って鋳物をつくる技法です。
砂型鋳造のメリット
砂型鋳造のデメリット
砂型鋳造は用途にあわせてさまざまな技法があります。
機械エンジニアが現場でみかける代表的な鋳造法を、かんたんにご紹介します。
《生砂型鋳造法》
水と粘土を混ぜた鋳物砂で鋳型をつくり、乾燥させずに溶融金属を注入する鋳造法です。
工期がみじかく低コストで、部品の試作や多品種少量生産に使われます。
《ロストワックス法》
ワックス(ろう)でつくった模型を砂で固め、ワックスを溶かし出し鋳型にする鋳造法です。
古くからある伝統的な鋳造方法ですが、精度が高く複雑なカタチの鋳物が可能。
工程が多いためコストがかかりますが、インペラやタービンなど航空機部品の鋳造にも使われます。
「インベストモールド法」ともよばれます。
《乾燥型鋳造法》
水と粘土を混ぜた鋳物砂で鋳型をつくり、焼成乾燥させる鋳造法です。
生砂型鋳造法とくらべ、鋳物の強度が高いのが特徴です。
《シェルモード法》
加熱した金属模型に「RCS(熱硬化性樹脂)」をかけ固化させ、鋳型をつくる鋳造法です。
鋳型のガス抜けがよいため、巣のないキレイな鋳肌になります。
肉薄の金属や、精度の高い自動車エンジン部品などの精密鋳造に使われます。
《ガス硬化型鋳造法》
水ガラス(ケイ酸ナトリウム)でつくった鋳型を、炭酸ガスで硬化させる鋳造法です。
鋳型が強固で鋳型のバラシがむずかしいですが、精度の高い鋳物が得られます。
《フルモールド法》
発泡スチロールでつくった模型を砂に埋め込み、溶解金属を注入する鋳造法です。
溶解金属の熱で発泡スチロールを消失(気化)させることで、バリが少なく、複雑なカタチの鋳物が得られます。
「消失模型鋳型鋳造法」ともよばれ、自動車部品をはじめさまざまな分野で使われます。
《Vプロセス法》
模型に特殊フィルムを重ね、真空状態の砂型内に鋳型をつくる鋳造法です。
ガスの発生が少なく、巣のないキレイな鋳肌になります。
鋳砂は回収して再利用できますが、成形できるカタチには限界があり、
「減圧造型鋳造法」ともよばれます。
《石膏鋳造法》
石膏で鋳型をつくり、溶融金属を注入する鋳造法です。
鋳型の製作がしやすく、低コストで精度の高い鋳物ができます。
多品種小ロットの部品製作や、ダイカストの試作品の製作としても使われます。
金型鋳造
金型鋳造は、耐熱合金鋼でつくられた「金型」を使い鋳物をつくる技法です。
金型鋳造のメリット
金型鋳造のデメリット
金型鋳造は用途にあわせてさまざまな技法があります。
自動車部品や精密機器など、精度がもとめられる精密部品の鋳造に使われています。
《ダイカスト鋳造法》
アルミや亜鉛・マグネシウムなどの溶融金属を、ダイカスト金型に高速・高圧で注入する鋳造法です。
溶融金属を高速で圧入するため、巣や充填不足が起きやすいですが、鋳肌がキレイで肉薄の鋳物ができます。
生産性が高く、ダイカストマシンによる大量生産が可能。
自動車部品をはじめ民生品や建築材料など、さまざまな業界で使われています。
ダイカスト鋳造による鋳物は、「ダイカスト」や「ダイキャスト」とよばれます。
《金型重力鋳造法》
重力(金属の自重)を利用して、金型に溶融金属を注入する鋳造法です。
溶湯の凝固スピードがはやく、鋳物の強度に優れます。
《低圧鋳造法》
圧縮空気で加圧して、金型に溶融金属を注入する鋳造法です。
低速・低圧で鋳造するため、ガスによる空洞やひけ巣が少なく歩留まりがよいのが特徴です。
凝固スピードがおそいため、サイクルタムは長くなります。
《高圧鋳造法》
アルミなどの溶融金属を金型に低速で注入し、高圧で凝固させる鋳造法です。
低速で注入するため、巣や充填不足が起こりにくいのが特徴です。
ダイカストとくらべ空気やガスの巻き込みが少ないため、熱処理による強度の高い鋳物がつくれます。
《遠心鋳造法》
回転による遠心力を利用して、中空円筒状の鋳物をつくる鋳造法です。
鋳型を高速で回転させることで、中子を使わず低コストで筒状鋳物をつくることができます。
水道管や配水管などの鋳鉄管の鋳造に使われています。
鋳造とは?まとめ
この記事では「鋳造」の種類と特徴を、基本的な鋳造法や用語をまじえて解説しました。
切削加工の現場では、なかなか触れることの少ない金属鋳造ですが、本記事が鋳造技術を知るきっかけとなればうれしいです。