絞り加工とは?絞り加工の工程とさまざまな絞り加工を解説
- 更新日:
- 2022/08/31 (公開日: 2020/07/09 ) 著者: 甲斐 智
絞り加工は、金属の板を成形する「プレス加工」のひとつです。
板材にパンチを押し込むことで、カップ状や箱形に成形。
成形品には「つぎめ」がなく、
少ない工数で複雑な製品
をつくることができます。
自動車のボディから、鍋やシンクなどの日用品まで、さまざまな製品に使われています。
この記事では、さまざまな「絞り加工」の種類や、絞り加工の不良の原因を図解をもとに解説します。
絞り加工ってどんな加工?
絞り加工は、1枚の板材から「容器状の製品」をプレスする塑性加工です。
「絞る」には「狭くする」という意味があり、底板の面積を狭くし「深さ」をつくります。
絞りのなかでも
底が深いものを「深絞り」、浅いものを「浅絞り」
とよびます。
絞り加工は、その特徴を生かした深絞りが多いため「深絞り加工」ともよばれます。
絞り加工の工程
1. ダイに板材をセット
ダイ(下型)に板材をセットし、「しわ押さえ」で押さえます。
「しわ押さえ」はブランクホルダーともよばれ、成形時のしわを防ぎます。(しわは、成形中のワレの原因にもなります)
2. 板材にパンチを押しあて
板材にパンチ(上型)を押しあて、ダイに押し込みます。
「しわ押さえ」で押さえた箇所も同時に引き込まれるため、成形の前後で板厚は変わりません。
「しわ押さえ」の圧力は、ダイクッション(エア圧)で微調整されます。
3. 絞り加工を繰り返す
成形する「深さ(高さ)」によって、絞り加工を繰り返します。
1回目の絞り加工を「初絞り」、2回目以降の絞り加工を「再絞り」とよびます。
1回あたりの絞り量には限度があり、より深く絞るためには「再絞り」がかかせません。
4. 余肉のトリミング加工
加工後、成形品の周囲には「耳」とよばれる余肉が残ります。
「耳」は波状に伸びているため、トリミング加工によって切り落とします。
「耳」の一部は、さらに平坦加工(リストライク)を加えフランジとして残す場合もあります。
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フランジは、部品の結合や強度アップのためにつくる「つば状」の出っ張りです
絞り加工の種類
絞り加工は、絞るカタチによって3種類に分けられます。
円筒絞り
円筒絞りは、板材を「円筒状」に成形する絞り加工です。
もっとも基本的な絞り加工で、均等に圧力をかけられため成形が安定。
成形品は、カップやボウルのようなカタチになります。
断面形状によって「円すい絞り」「半球絞り」「テーパ絞り」などに、細かく分けられます。
角筒絞り加工
角筒絞り加工は、板材を「四角状」に成形する絞り加工です。
成形品は、シンクや弁当箱のようなカタチになります。
円筒絞りとくらべ角の金属のながれが悪いため、ワレやたるみが発生しやすくなります。
異形絞り加工
異形絞り加工は、板材を「複雑なカタチ」に成形する絞り加工です。
自動車や電子部品など、デザイン性・機能性の高いさまざまな製品が成形されます。
もっと深く絞りたい、特殊な絞り加工
温間絞り加工(局部加熱成形)
温間絞り加工は、しわ押さえを「加熱」し金属の加工性を高める絞り加工です。
材料を加熱することで金属の「伸び」がよくなり、より深く絞ることができます。
アルミやステンレスなど、加工性が低い合金の「絞り加工」に適しています。
全体を加熱すると金属の「引張り強度」が低下するため、局部的に加熱。
パンチを冷却することで、製品の強度があがります。
加工にはヒーターなどの「加熱冷却装置」を備えた、特殊なプレス機械が必要です。
しごき加工(アイオニング)
しごき加工は、絞り加工した成形品を「より深く」絞るための加工で、「アイオニング」ともよばれます。
絞り加工後の金属を、クリアランス(スキマ)の小さい「パンチ」で再絞りします。
板厚を「しごく」ことで薄く均一になり、より深く・高精度に仕上がります。
張り出し加工やスピニング加工との違い
絞り加工と似た加工に、「張り出し加工」「スピニング加工(へら絞り)」があります。
これらの加工は成形品が似ており混同されやすいですが、それぞれに特徴があります。
張り出し加工との違い
張り出し加工は、1枚の板材から「凹凸のある製品」をつくりだすプレス加工です。
固定した板材に「パンチ」を押し込むため、板厚は伸ばされ薄くなります。
絞り加工とくらべ、深いカタチは加工できません。
「絞り加工」と組み合わせ、自動車のドアやパネルなどの複雑部品を成形することができます。
スピニング加工(へら絞り)との違い
スピニング加工は、板材を回転させながら「工具」を押しあてる加工法です。
絞り加工とくらべ加工スピードは落ちますが、小さな圧力で成形が可能。
新幹線や宇宙ロケットの先端など、大型製品の小ロット生産に適しています。
NC制御でローラーをあてる「スピニング加工」と、作業者がヘラをあてる「へら絞り」があります。
プレス機械を使わない、ダイレスフォーミング
絞り加工には、金型とプレス機械を使わない特殊な加工方法もあります。
「ダイレスフォーミング」とよばれる、3次元の逐次成形技術です。
立形マシニングセンタや産業用ロボットに「押し棒」工具を持たせることで、NC制御による3次元成形が実現。
工具で金属板を押し付け成形することで、専用金型が不要になります。
試作品の成形や、多品種小ロットの加工に使われはじめています。
絞り加工の不良について
絞り加工の代表的な加工不良に、「しわ」と「ワレ」があります。
金属の圧縮量が大きいため、ほかのプレス加工にくらべて発生しやすく注意が必要です。
しわ
しわは、板材が「ダイ」に引き込まれる際の「ゆがみ」で発生。
「しわ押さえ」で確実に押さえながら、均一に加圧することで防ぎます。
パンチとダイのクリアランス(スキマ)が大きい場合も、しわの原因となります。
くぼみによる段差が、絞り加工時の金属流動のバランスをよくします。
しわの発生や、ゆがみ・たるみを防止することで成形が安定。
絞りビードは仕上げ工程で切り落とされたり、そのまま製品に残すこともあります。
ワレ
ワレは、板材にムリな力がかかることで発生します。
「しわ押さえ」の押さえが強すぎると、材料がパンチの加圧に耐えられず割れます。
また加圧時に大きな力がかかると、ネッキングとよばれる「くびれ」が発生。
ネッキングは、ワレや不良品の原因となります。
絞り加工専用のプレス機械「複動プレス」
絞り加工では、汎用プレス機械だけでなく「複動プレス」とよばれる機械も使われます。
複動プレスは、金型の駆動スライドとはべつに「しわ押さえ」用の駆動スライドを装備。
2軸のスライド機構をもった「絞り加工専用」のプレス機械です。
絞り加工とは?まとめ
この記事では、さまざまな「絞り加工」の種類や、絞り加工の不良の原因を解説しました。
絞り加工は「しわ」や「割れ」などが起こりやすくむずかしい加工ですが、設計の自由度が高いのが魅力です。
絞り加工の仕組みを知ることで、プレス加工の選定の参考になればうれしいです。