プレス加工とは?代表的なプレス加工法とプレス加工工程・事例
- 更新日:
- 2022/08/31 (公開日: 2020/06/17 ) 著者: 甲斐 智
プレス加工は、金属の板材に「金型」を押し付けて成形する「塑性加工」のひとつです。
金属加工を代表する技法で、「大量生産」の工業製品にはかかせません。
身近な日用品から、最先端のロケットまで、さまざまな製品がプレス加工によってつくられています。
1回のプレス加工にかかる時間は、わずか2~3秒ほど。
小さな部品だと、1分間に数百回ものプレス加工が可能です。
多くのプレス工程は自動化によって「連続加工」され、 大量生産の代名詞 となっています。
この記事では「プレス加工」の基本や、さまざまなプレスの種類・工程を解説します。
プレス加工ってどんな加工?
プレス加工は、金属の板材を「金型」で挟み、プレス機械で加圧する塑性加工法です。
板材は「ブランク」とよばれ、切る・抜く・曲げるなど、いくつもの工程を重ねて金属部品へと成形。
プレス加工では、
金属がまるで「紙」や「粘土」のように、柔軟に加工されていきます
。
自動車部品をはじめ、電子部品や日用品など、先端産業から身のまわりまで、多くの金属製品が「プレス加工」でつくられています。
プレス加工の品質向上には、「金型」と「プレス機械」が深くかかわっています。
プレス加工のメリットとデメリット
プレス加工の一番の特徴は、金型を使っておなじ製品を大量につくれることです。
高価な金型を使うため、計画的な生産が必要になります。
プレス加工のメリット
プレス加工のデメリット
製品のカタチに沿ったファイバーフローができることで、強度が高い金属になります。
そのため切削加工と「おなじ強度」でも、部品を肉薄化でき、軽量化が実現します。
プレス加工の種類について
プレス加工は、「せん断」「曲げ加工」「絞り加工」「張出し成形」に分けることができます。
これらの加工を順番に組み合わせることで、製品を効率的に生産。
いくつもの工程を同時に行う複合加工も行われます。
「せん断加工」について解説
「曲げ加工」について解説
「絞り加工」について解説
「張出し成形」について解説
「フォーミング」について解説
プレス加工と鍛造の違い
プレス加工とあわせて検索されるキーワードに「鍛造(たんぞう)」があります。
どちらも大きな力で金属を圧縮する加工方法ですが、以下のような違いがあります。
- プレス加工:薄い金属の板材(ブランク)を加工
- 鍛造:厚い金属の材料(ビレット)を加工
プレス加工による製品の例
プレス加工と自動車部品
自動車は「プレス加工技術」のかたまりです。
プレス加工製品の約80%が自動車部品で、自動車1台につきおよそ1000点以上のプレス部品が使われており、素材には「鋼板」や「高張力鋼板」などが使用されます。
自動車プレス加工の高い技術は、オートバイや自転車の生産にも活用されています。
- ボディー
- ドア
- ボンネット
- パネル
- フレーム
プレス加工と電化製品
家電や住宅などの「身のまわり」の生活必需品にも、プレス加工が使われています。
プラスチックとくらべ強度と耐熱性が高いため、多くのプレス部品が活用されています。
- 洗濯機
- 冷蔵庫
- 電子レンジ
- エアコン
- ステンレスシンク
- ガス台
- 浴槽
プレス加工と鉄道・航空機
新幹線や宇宙ロケットなどの外装にも、プレス加工が使われています。
車両先端の曲面加工には、高度なプレス加工技術がもとめられ、素材には軽量で強度の高い「チタン合金」などが使用されます。
プレス加工と精密機器
時計やデジカメ、OA機器やパソコンの筺体にも、プレス加工が使われています。
外装だけでなく内部の機械部品にも、多くの精密プレス部品が活用されています。
プレス加工と電子部品
パソコンのハードディスクや、スマホの電子部品にも、プレス加工が使われています。
半導体のリードフレームには、0.1mm厚の銅合金が使われています。
またコンデンサやコネクタなどの小さな電子部品や、自動車の電装品にも多数のプレス部品が使用されています。
プレス加工と日用品
アルミ缶
アルミ板材を、プレス加工で絞り成形します。
硬貨
金属の板材を丸く打ち抜き、コイニングで模様を転写します。
日用品
スチールの机・イスや、文房具、ファスナーやアクセサリー装飾品など。
身のまわりのさまざまな日用品にも、プレス加工が使われています。
プレスで使用される材料「ブランク」「定尺材」について
プレス加工では、ブランクや定尺材とよばれる金属の板材を使います。
ブランクのサイズは、最終製品を平面展開した時のサイズとほぼおなじです。
ブランク引用元: 大阪金属プレス工業会「プレス標準用語」
素板 プレス作業のために打抜きあるいは切断した板状の素材
材料の形態よって、さまざまな種類に分けられます。
コイル材
コイル材は、所定の幅に切り取られ「コイル状」に巻き取られた金属材料です。
プレス加工時に材料送り装置で自動供給され、「フープ材」ともよばれます。
自動化された量産ラインに向いています。
定尺材(ていじゃくざい)
定尺材は、大きく切り取られた「シート状」の金属材料です。
プレス加工前に所定のサイズに裁断され、ブランクとして使われます。
裁断された定尺材は「短冊材」ともよばれます。
1×2m(メーター板) | 約1000mm × 2000mm(ステンレス鋼、アルミなど) |
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3×6尺(サブロク板) | 約914mm × 1829mm(建材向けなど) |
3×8尺 | 約914mm × 2438mm |
4×8尺(シハチ板) | 約1219mm × 2438mm |
5×8尺 | 約1524mm × 2438mm |
5×10尺(ゴトウ板) | 約1524mm × 3048mm |
5×20尺 | 約1524mm × 6096mm |
スケッチ材
スケッチ材は、指定のサイズに切り取られた「裁断済み」のブランクです。
製品の展開サイズにあわせて、あらかじめ裁断された状態で業者から納入されるため、
「切り板材」ともよばれます。
自動車ボディーなどの大きな製品に使われます。
テーラードブランク
テーラードブランクは、成形部品の使いみちにあわせて、あらかじめことなる鋼材を貼りあわせたブランクです。
材料のムダがなく工程を減らすことができるため、金型や材料のコストを削減することができます。
ことなる鋼材の組み合わせによって、部品の軽量化や強度アップが実現します。
ブランクの素材について
プレス加工では「鉄鋼」や「非鉄金属」など、さまざまな金属が使われています。
なかでも鋼板は、自動車部品や家電などプレス加工でもっともよく使われる素材です。
プレス加工で使われる代表的な素材を解説します。
高張力鋼板
高張力鋼板は、自動車のボディー外装や骨格に使われる特殊な鋼です。
「ハイテン材」ともよばれ、衝突性能を保ちつつ軽量化が図れます。
従来の鋼板にくらべて強度が高いため、より能力の高いプレス機械や、高度な金型加工が必要になります。
鋼板
鋼板は「圧延加工」でつくられた金属素材です。
圧延時の加工温度によって、「熱間圧延鋼板」と「冷間圧延鋼板」に分けられ、厚みは約0.6~2.0mmほどです。
鋼はサビやすいため、プレス加工の前後でメッキや塗装などの表面処理が施されます。
熱間圧延鋼板
軟鋼ともよばれ、加工性にすぐれますが、表面に黒いスケール(酸化膜)があるため見た目がよくありません。
そのため低コストで、自動車や建材など外観が重視されない分野で広く使われます。
表面にできたスケールを取り除くため、酸に通した後水洗いし乾燥させることを「酸洗(脱スケール)」といいます。
冷間圧延鋼板
表面に光沢がありキレイなため、外観が重視される家電などに利用されます。
寸法精度が高いため、精密機械部品にも使われています。
アルミニウム合金
アルミニウム合金は、プレス加工でよく使われる軽量素材です。
サビに強く表面がキレイなことから、家庭用品や日用品などに利用されます。
銅合金
銅合金は、加工性にすぐれた金属素材です。
電気伝導率が高いため、電子部品に多く使われます。
チタン合金
チタン合金は、軽量で強度が高くサビに強い金属素材です。
ジェット機の軽量化や、建築・医療などの最先端素材として使われています。
強度が高いため、プレス加工では難加工材として扱われます。
マグネシウム合金
マグネシウム合金は、軽量で強度が高い金属素材です。
金属との置き換えで「軽量化」、プラスチックとの置き換えで「高強度化」が実現。
電気的特性にすぐれるため、電子部品としても使われています。
強度が高いため、プレス加工では難加工材として扱われます。
プレス加工工程の種類について
プレス加工の工程は、大きく3つに分けられます。
プレス部品のカタチ・コスト・生産数によって、使い分けがされています。
- 単工程加工
- 順送り加工
- トランスファー加工
- ロボットプレスライン
単工程加工(単発プレス)
「単工程加工」は、工程ごとに単発でプレスをする基本的なプレス加工方法です。
作業者がプレス機械にブランク(板材)をセットし、1回ずつプレスをおこないます。
プレスされた部品は、つぎの工程に手作業で送られます。
生産性は落ちますが、大きな製品や少量多品種のプレス加工に最適。
加工内容によっては金型を使い回すことができるため、コストが削減できます。
順送り加工
「順送り加工」は、材料を自動で送りながら順番にプレスする連続プレスラインです。
コイル材をプレス機械にセットし、フィーダーによってすこしずつ順に送られます。
1回のプレス工程で、完成品まで成形することができます。
ブランク両端は「キャリア」とよばれるつなぎで保持され、小さな部品のプレスもできます。
「絞り加工」など、大きな変形をともなう加工には向いていません。
生産性が高く、小さな製品や大量生産のプレス加工に向いています。
金型が複雑になるため、コストがかかります。
トランスファー加工
「トランスファー加工」は、工程ごとに金型をならべた、自動プレスラインです。
ブランク(板材)の移動には、自動搬送装置(トランスファーフィーダ)が使われます。
ブランクは吸盤やマグネットでつかまれて、プレス機械内の金型を順番に移動します。
順送り加工にくらべ生産性は落ちますが、金型を個別に交換することができるため、多品種生産に対応可能。
また加工スペースの高さが確保できるため、順送りではむずかしい「絞り加工」にも対応できます。
ロボットプレスライン
ロボットプレスラインは、単工程のプレス機械を「産業用ロボット」でつないだプレスラインです。
単にプレス機械をならべて搬送距離を短くしたものは、タンデムラインとよばれます。
プレス加工の後工程
プレス加工後の代表的な後工程には、「バリ取り(研磨)」「バレル加工」「プレス加工油の洗浄」があります。
製品の仕様にあわせて、メッキや焼入れなどの熱処理が行われることもあります。
バリ取り(研磨)
タレパンやシャーリングマシンによるせん断では、製品のフチに「バリ」が残る場合があります。
バリは加工不良やケガの原因となるため、熟練作業者による研磨がかかせません。
工作機械業界では「少子高齢化」による工作機械の自動化ニーズを背景に、研磨ロボットなどの導入が急がれています。
バレル加工
「バレル加工」は、プレス加工や切削加工でできた「バリ」を除去するための後工程です。
バレルとよばれる容器に製品と研磨剤を入れ、回転させながらバリをこすり落とすことで、細かなキズがなくなり、光沢のあるキレイな表面に仕上がります。
小さな部品や複雑なカタチの製品でも一度に研磨することができるため、鋼材からプラスチックの研磨まではば広く使われています。
たいらな容器内で、振動させながらバリを落とす「振動バレル加工」もあります。
プレス加工油の洗浄
プレス加工では金属の滑りをよくし、キズ・焼き付きを防止するため、プレス加工油が使われます。
そのためプレス加工油による皮膜を落とすための「洗浄」工程がかかせません。
プレス加工とは?まとめ
この記事では「プレス加工」の基本や、さまざまなプレスの種類・工程を、図解をもとに解説しました。
プレス加工は、日本が誇るものづくり技術のひとつ。
単純そうに見えるプレス加工ですが、そこには金型のノウハウが詰まっています。
最新のプレス加工現場では、「鍛造」技術を組み合わせた、「FCF」とよばれる板鍛造加工も増加しています。
本記事が、金型設計やライン立ち上げのヒントになればうれしいです。