せん断加工とは?せん断の特徴とせん断のバリ・だれの仕組み
- 更新日:
- 2022/08/31 (公開日: 2020/06/29 ) 著者: 甲斐 智
せん断加工は、金属の板を切断する「プレス加工」のひとつです。
プレス材料のブランクを切り出す
「プレス加工のはじめの工程」
といっても過言ではありません。
シンプルでわかりやすい加工方法ですが、ファインブランキングなどの精密せん断技術の登場で、飛躍的に進化しています。
この記事では「せん断加工」の種類や、せん断の過程でできる「バリ」や「だれ」の仕組みを、図解をもとに解説します。
せん断加工ってどんな加工?
せん断加工は、金属の板材を「パンチ」と「ダイ」とよばれる金型で切断する塑性加工で、シャーリング加工(Shearing)ともよばれます。
板材の切断から、打ち抜き・穴あけまで、目的にあわせてさまざまな加工があります。
せん断加工で使われる金型は、上型の「パンチ」と下型の「ダイ」に分けられます。
- 切断加工:板材を「切断」する
- 分割加工:板材を「分割」する
- 打ち抜き加工:板材から、所定のカタチを「打ち抜く」
- 切り欠き加工(ノッチング加工):板材の一部分を「切り落とす」
- 切り込み加工(スリット加工):板材に「切り込み」を入れる
- 板材に「穴をあける」
- 「打ち抜き」と「穴あけ」の複合加工
- 板材の余肉を「切り落とす」
- シェービング:板材の切り口を「薄く削り取る」
- 仕上げ抜き:板材を「精密に打ち抜く」
- ファインブランキング:板材を「精密に打ち抜く」
さまざまなせん断加工
ブランク加工とその種類
プレス加工は、材料になる金属の板を用意することからはじまります。
この前工程を「ブランク加工」とよび、切り出された板材は「ブランク」とよばれます。
(ブランク加工には、材料の洗浄や積み上げなどの一連の工程も含まれます)
切りはなされた金属片は、余肉や抜きしろとして処理されます。
利用後は、仕上げ工程で切り落とされ、スクラップとして排出されます。
切断加工(シャーリング加工)
切断加工は、金属の板を「切断」するブランク加工です。
プレス加工の前工程として、「コイル材」や「定尺材」を所定のサイズに切断。
「切りはなした側」と「切り離された側」の両方が材料として利用されます。
ブランクのカタチは左右対称となり、バリの方向は左右逆になります。
分割加工
分割加工は、金属の板を「分割」するブランク加工です。
切断加工と似ていますが、切断部にはばをもたせ、余肉をスクラップとして排出。
左右非対称のブランクを同時に成形でき、バリの方向も左右おなじになります。
材料の切り出しだけでなく、プレス加工後の製品の切りはなしにも使われます。
打ち抜き加工(パンチング加工)
打ち抜き加工は、金属の板から所定のカタチを「打ち抜く」ブランク加工です。
プレス機械で金属を打ち抜き、「打ち落とされた」金属片が製品になります。
金型の上に残った抜きしろ(周りの余肉)は、スクラップとして除去されます。
材料を押さえながら切断するため、切断加工にくらべてソリが発生しません。
切り欠き加工(ノッチング加工)
切り欠き加工は、金属の板の縁の一部を「切り落とす」ブランク加工です。
大きな板材の端の一部分を「切り欠く」ことで、所定のカタチに成形します。
「ノッチング加工」ともよばれ、ブランクの補強や工数削減のため利用されます。
切り込み加工(スリット加工)
切り込み加工は、金属の板に「切り込み」を入れるブランク加工です。
「スリット加工」ともよばれ、曲げ加工と組みあわせて利用されます。
穴あけ加工(ピアス加工)
穴あけ加工は、金属の板に「穴」をあけるせん断加工です。
「ピアシング」や「ピアス加工」ともよばれます。
プレス機械で金属を打ち抜き、金型の上に残った金属が製品になります。
(打ち落とされた方の金属片は、スクラップとして排出されます)
穴あけを応用した「追い抜き加工」「ニブリング加工」によって、複雑なカタチの穴あけ加工ができます。
追い抜き加工
追い抜き加工は、金属の板をずらしながら連続的に穴をあける加工方法です。
丸型・角型などの汎用金型を使いながら穴を重ねることで、さまざまなカタチの穴をあけます。
ニブリング加工
ニブリング加工は、金属の板を細かくずらしながら連続的に穴をあける加工方法です。
丸型の汎用金型を使い、「追い抜き加工」よりも狭いピッチの穴を重ね穴をあけます。
穴の縁が粗くなるため仕上げ加工が必要で、ピッチが細かいほど金型の摩耗が大きくなります。
コンパウンド加工(総抜き加工)
「打ち抜き」「穴あけ」を同時におこない、工程を短縮する加工方法です。
1回のプレスで済むため加工位置のズレがなく、精度の高い部品が成形できます。
金型の構造が複雑になるため、メンテナンスコストが増えることがあります。
トリミング加工(縁切り加工)
トリミング加工は、板材の周囲の余肉を「切り落とす」せん断加工で、「縁切り加工」ともよばれます。
精密せん断加工
精密せん断加工は、切り口をキレイに仕上げる精度の高いせん断加工です。
通常のせん断は、断面の「ワレ」のため、切削加工とくらべ切り口が粗く精度が劣ります。
切り口が粗い部品は、故障や騒音の原因にもなります。
精密せん断では、「ワレ」のない美しく滑らかな切り口を実現。
切削加工や研削加工などの後工程が不要になり、精密部品のプレス加工ができるようになります。
シェービング
シェービングは、せん断済みの板材の切り口を「薄く削り取る」精密せん断加工です。
せん断用の金型を使い、断面を薄く(板厚の5~10%)削り、縁を仕上げます。
板材が厚い場合は、シェービングを何度も繰り返します。
追加工のため工数がかかりますが、汎用のプレス機械と金型を使って加工ができるのが特徴です。
(シェービングプレスとよばれる専用の機械もあります)
排出されるスクラップが薄くて除去しいくいため、キズや噛み込みによる加工不良に注意が必要です。
仕上げ抜き
仕上げ抜きは、金型のはめあいを小さくして「打ち抜く」精密せん断加工です。
基本工程は「打ち抜き加工」や「穴あけ加工」とおなじですが、金型を丸く面取りし、上型下型のクリアランス(スキマ)を小さくすることで、「ワレ」の発生を防ぎます。
汎用のプレス機械で加工ができるため、簡易的な精密せん断方法として使われます。
金型のクリアランスが小さいため、金型同士の接触によるチッピング(欠け)に注意が必要です。
ファインブランキング(FB)
ファインブランキングは、板材に圧力をかけながら「打ち抜く」精密せん断加工です。
金型の上型と下型のクリアランス(スキマ)を小さくし、板材を上下から強く押さえることで、「ワレ」の発生を防ぎます。
板材には、「金型」「板押さえ」「逆板押さえ」の3つの圧力がかかります。
金属は、四方から均等に圧縮することによって、変形力が高くなります(静水圧効果)。
ファインブランキングでは、プレス加工ではむずかしいミクロン単位の精密加工ができます。
難加工材のプレス加工もでき、鍛造や切削加工からの置き換えも増加しています。
せん断加工で使われるプレス機械
せん断加工には「プレス機械」や、切り方に合わせたさまざまな機械が使われます。
「プレス機械」について解説
「シャーリングマシン」について解説
「タレットパンチプレス」について解説
「ファインブランキングプレス」について解説
せん断加工の仕組みとバリの原因
せん断加工の切り口には、だれ・せん断面・破断面・バリ が現れます。
製品の品質に大きく影響する「切り口」を、せん断の工程を通して解説します。
せん断の工程
せん断加工のはじめと、金型のクリアランス
下型の「ダイ」の上に板材を置き、上型の「パンチ」を押し付けます。
パンチとダイの間には、「クリアランス」とよばれるスキマが設けられており、クリアランスの量は、せん断の切り口の良し悪しや金型の寿命を左右します。
◯ クリアランスが適切な場合
素材がスムーズに分断され、切り口が整います。
せん断面(きれいな面)が大きくなり、だれ・バリ は小さくなります。
× クリアランスが大きい場合
素材同士が引きちぎられ、大きな だれ・バリ が発生します。
× クリアランスが小さい場合
せん断に大きな圧力が必要になります。
ワレが発生しやすく、破断面(荒い面)が大きくなり、金型の焼き付きや摩耗で工具寿命が短くなります。
1.だれの発生
材料にパンチを押し付けると、表面が押し込まれて「だれ」が発生。
「だれ」は下側に引っ張られ、丸みを帯びたなめらかな面になります。
2.せん断面の発生
さらにパンチを押し付けると、パンチが材料にめり込み、「せん断面」が発生。
「せん断面」は、光沢のあるキレイな垂直面で、表面には金属の結晶が筋状にながれています。
クリアランスが適切なほど、大きなせん断面が発生します。
3.破断面の発生
パンチを押しつづけると、せん断面からワレが発生して材料が分断されます。
ワレによってできた面を「破断面」とよびます。
「破断面」は凹凸がはげしく、垂直にはなりません。
4.バリ(かえり)の発生
パンチを最後まで押し切ることで、せん断が完了します。
押し切る際、材料から突起が飛び出し、鋭利な「バリ(かえり)」が発生。
「バリ」は加工不良の原因となるため、後工程で除去されます。
また製品に混じると、キズやケガの原因となり危険です。
バリを防ぐには、金型の摩耗管理やクリアランスの調整がかかせません。
せん断加工のスクラップ処理と、スクラップカッタ
せん断加工では、切り落とされたスクラップ(余肉)の処理がかかせません。
スクラップはせん断加工後に落とされ、シュートやコンベアで排出。
大きなスクラップは、「スクラップカッター」で小さく切断され、回収されます。
スクラップが金型に残ると、自動プレスのライン停止の原因になり、製品へ混入するおそれもあります。
金型内部にスクラップが詰まる現象を「かす詰まり」、金型の上にスクラップが乗ってしまう現象を「かす上がり」とよびます。
せん断加工とは?まとめ
この記事では「せん断加工」の種類や、せん断の過程でできる「バリ」や「だれ」の仕組みについて紹介しました。
せん断加工はプレス加工を代表するシンプルな加工方法ですが、ファインブランキングなどの精密せん断の登場によって、最終製品の成形ができるまでに進化しています。
せん断の仕組みを知ることで、プレス加工方法の選定の参考になればうれしいです。