
生産ラインの安全対策|安全対策の考え方と導入事例を解説
- 更新日:
- 2025/03/05 (公開日: 2025/02/24 ) 著者: りびぃ|監修: 甲斐 智
こんにちは、りびぃです。FA(ファクトリーオートメーション)業界で、生産設備の設計をしています!
生産設備や機械設備の立上げプロジェクトにおいて、Q(品質)・C(コスト)・D(納期)を重視して遂行されますが、それ以上に重要視されるべきなのが安全対策です。
生産ラインに導入される装置・機器は、重量物であったり高出力のアクチュエータを使うことが多いため、機械を扱う作業員の方が大きな事故に巻き込まれたり、大きな怪我をしてしまう危険性があります。
実際、厚生労働省の労働災害発生状況の資料によると、製造業では死傷災害の被害にあわれた方の人数が全業種の中で最多となっております。

もちろん技術進歩により、人の作業が機械に置き換えられていったり、より手軽で高精度な安全機器が導入されるようになったり、などが生産現場で進んでいます。
ですが、それによって全ての危険が排除された!というにはまだまだほど遠く、実際の現場では…
- 多品種少量生産に対応するために、作業の柔軟性が高い人手作業を中心にせざるを得ない
- 予算等の関係で高価な安全機器の導入ができない
- 機械を導入したものの、それによって新たな危険が発生
- 一部機械への置き換えを進めたものの、ワーク投入やメンテナンスなどでどうしても人手が介在する
という状況にあります。
特に昨今では、労働力不足を補うため外国人労働者を雇用する現場が増えていますが、言語や文化の違いによるミスコミュニケーションから「危うく大怪我をするところだった」という事態が起こった現場もあるのではないでしょうか。
そのため現在においても、生産現場に関わる方全員が、安全についてしっかりと理解し、そして安全意識を高く保ち続けることが非常に重要なのです。

そこで今回は、生産現場に関わる人が知っておくべき安全対策の基本やその事例について詳しく解説をしていきますので、ぜひ最後までご一読ください。
大きな事故・災害はヒヤリハットの積み重ねで起こる

現場で大きな事故・災害が起こるときはいつも突然だと感じる方が多いですが、実はこういった事故はおおよそ「ハインリッヒの法則」に従って発生するといわれています。
この法則はアメリカの損害保険会社で安全技師をしていたハインリッヒによって導き出されたもので「ひとつの重大な事故の背後には、29の軽微な事故があり、その背後にはさらに300の事故になる一歩手前のできごと(ヒヤリハット)が存在する」という経験則です。

他にも似た様な研究などはありますが、ここで重要なのは数字そのものではなく「大きな事故・災害は、多数の軽微な事故・災害やヒヤリハットの積み重ねで発生している」というものです。
安全対策は「実際に事故が起こってから対策を実施する」のではなく「事故が起こる前段階で、潜在的な危険を発見し、適切に対策を実施する」ことが理想的です。そのため日々の業務の中で発生したヒヤリハットを軽視せず、職場で報告・共有していくような活動が重要なのです。
さらにはそれを現場ルールとして仕組化するだけではなく、今後製作される生産設備などについて、その設計基準としても言語化されるようになるのが理想的です。
まずはリスクアセスメントを実施しよう

安全対策を実施していく上では、まずは危険を分析・評価するところから始めます。つまり、これから導入される機械の構造や、現在現場で行われている作業の中から危険(リスク)の有無や程度などについて分析・評価をしていくのです。これは一般的に「リスクアセスメント」と呼ばれており、安全対策を効果的に実施する上で非常に重要な作業であります。
安全対策についてノウハウが豊富にある企業様が相手のお仕事ですと、事前に企業様から安全のための設計基準の資料を支給いただき、その内容に従って設計業務を進めるようにします。もしそれがない場合は次のように実施していきます。

ステップ1:危険源を特定する
まずは設計した機械の図面・モデルを見ながら、危険源を特定していきます。危険源とは災害発生のきっかけとなるようなもののこと、つまり危険な箇所に人がアクセスしやすい状況のことをいいます。
実際はその設備の仕様や構造ごとに異なりますが、危険源としていくつか代表例をご紹介します。
すきま、開口
一つめは「すきま、開口」です。生産設備の外面は、基本的にカバー・扉・柵などで囲われておりますが、どうしても隙間や開口を設けざるを得ない箇所があります。
隙間や開口は、その大きさと、危険部までの距離などによって危険源となりうるかどうかが変わってきます。
例えば縦・横12〜13mm程度のすきまがあると、指などが入ってしまいます。そこへ機械がぶつかってくると大事故になりかねません。ただし、指が入ったとしても危険な箇所までの距離が1m以上も離れていれば、指が機械に接触するリスクが非常に低いため、危険源にはなりにくいです。
具体的な数値としてよく使われているのが「機械の本質安全化設計のための人間工学的要件」という資料ですので、参考にしてみてください。
引用元:労働安全衛生総合研究所
挟まれ・巻き込まれ
二つめは「挟まれ・巻き込まれ」です。これは昨今でも事故要因の中で上位になっているぐらいに多い災害です。そのため、機械安全の話になると必ずといっていいほど事例紹介されるものになります。

挟まれの代表例はプレス機、シャッター、扉のヒンジ部などがあげられますが、個人的に特に注意するべきはエアシリンダです。
装置の電源を落としたとしてもエア圧が抜けない構造になっている上に、圧力の状態が分かりにくい場合がほとんどですので、不意に手を出すと突然動き出して指などを挟まれる事故が起こる可能性があります。
一方、巻き込まれの事故については、モータ、ファン、工作機械やコンベヤの回転部に、作業着や軍手、首に巻いたタオル、髪の毛等が巻き込まれてしまうケースです。
挟まれ・巻き込まれは本当に多い事故ですので、こういった危険源を漏れなく特定するようにしましょう。
ステップ2:危険源を評価する
危険源を特定したら、続いてはそれらを評価していきます。数ある手法の中でも個人的に最も導入しやすいと思うのは「危険の影響度×発生頻度」で評価する方法です。
危険の影響度とは、その危険が人に及んだ時にどの程度のケガを被ると考えられるかについてです。「軽い傷、打撲程度=1点」「骨折する程度=3点」「救急搬送が必要な程度=6点」などと定義していきます。
発生頻度については、例えば「数時間おきに発生=5点」「1日に1回程度発生=4点」「1ヶ月に1回程度発生=2点」「年に1回あるかないか=1点」などです。
例えば、作業者の作業の中で発生し得るなら「数時間おきに発生」となりますし、月に1回のメンテナンス時に発生し得るなら「1ヶ月に1回程度発生」となります。
これらの項目を定義したら、たとえば合否判定の基準値を10点以下と定め、各危険源に対して点数をつけていきます。そして、基準値を超えるような危険源があれば、基準値以内に収まるよう対策を講じ、その結果を再度評価していきます。

この評価方法については厚生労働省のサイトにいくつかのフォーマットがございますので、ぜひ参考にしてみてください。
引用元:厚生労働省
危険源評価の3つのコツ

危険源の評価は「危険の影響度×発生頻度」で評価する以外にも、「デザインレビュー時に現場の安全衛生担当者が評価する方法」などのようにさまざまありますが、多かれ少なかれ「評価する人の主観が混じる」ため、評価にばらつきが生じるというデメリットがあります。
ただし、対策するべき危険源が評価をすり抜ける事態は避けなければなりません。そのため、こういった評価をする際には、3つのコツについて押さえておくことが重要です。
評価のコツ1:作業者はミスをするものである
一つめは「作業者はミスをするものである」というものです。
現場経験がない人がミスをしやすいということは皆さんも理解しやすいとは思いますが、たとえベテランの作業員であってもミスは起こり得ます。作業に慣れてくると無意識になっていき、注意力がなくなっていくからです。

ミスは「知識不足によるミス」「うっかりミス」「疲れによるミス」など要因がたくさんありますが、こういったミスに対して「次からは気を付ける」というのは対策として効果は高くありません。人は24時間365日全く同じように作業することはできませんから、その場の注意喚起だけではどうしても限界があるのです。
そのため「そもそも作業者は失敗する」という前提に基づいて評価を行うことが重要です。
評価のコツ2:機械は故障する
二つめは「機械は故障する」というものです。
人のミスほど発生頻度は高くないですが、機械にも故障するときは故障します。安全対策としてよく使用される「センサ」も、機械の寿命、作業者・工具との接触などにより故障することがあります。
また、機械を構成する部品ひとつをとっても、どんなに硬くて丈夫な金属を使用していたとしても、不具合は発生しにくいですが、絶対に発生しないとはいえないのです。
評価のコツ3:絶対安全は存在しない
三つめは「絶対安全は存在しない」というものです。
機械の安全対策をすることや、労働災害ゼロを目指すことは重要ではありますが、危険源をゼロにし絶対安全である状態にすることはできません。

このことはJIS Z 8051にも示されています。
危険源への対策をする
許容できないような危険源があった場合、どのようにして対策を実施すればよいかについて、その基本的な考え方をご紹介します。
プルーフルーフ
プルーフルーフ(Fool-Proof)とは、そもそも誤操作ができないようにする、あるいは誤操作をしても危険が及ばないようにすることをいいます。
事例の一つがインタロック(Interlock)という「特定の操作や手順が正しく行われないと機械や設備が作動しないようにする仕組み」などが該当します。
例えばモータの正転逆転を手動ボタンで操作する機械において、正転・逆転ボタンを同時押しするとモータ内で電気的にショートしてしまう場合があり、非常に危険です。そのため「どちらか一方のボタンが押されている間は、もう一方のボタンを無効化する」ようなインタロックを導入し、プルーフルーフを行います。

フェイルセーフ
フェイルセーフ(Fail-Safe)とは、何らかの異常やトラブルが発生した際に、機械やシステムが安全な状態に移行する仕組みを指します。
例えば生産設備では一般的に、安全用のセンサや故障している場合や、非常停止ボタンに繋がっている配線が断線している状態ではそもそも機械が動作できないよう設計をしていきます。あるいは、自動で上下運動をするような機構においては、急な停電が発生した際にその機構が落下しないようブレーキ付きのアクチュエータを選定します。

人による対策
どうしても機械の仕組みだけでは解決できないような危険源については、人による対策を検討していきます。例えば、作業者に危険が及びそうな箇所についてはトラテープやバリケードなどにより視覚的に注意喚起をしたり、鋭利な部分をスポンジテープで保護するなどの対策をします。
危険な作業が伴うような現場の多くでは、作業者への安全教育を実施し、導線や服装、作業手順についてしっかりと教育していきます。さらに、教育後もそれが守られているか、定期的に現場を視察し、適宜指摘をしていきます。

安全対策機器の事例

ここでは機械に導入される安全対策の事例に絞って、いくつか事例をご紹介していきます。
非常停止ボタン
作業者が危険や異常を感じた際に、即座に機械を停止させるためのボタンです。生産設備には必ずといえる程導入されます。
設置されるのは、以下のあたりが多いです。
- 作業者の作業エリア付近
- 操作盤やタッチパネルなどの、機械操作部の付近
- その他装置周辺の、作業者の目線の高さになる箇所

ソレノイドロック・セーフティセンサ
ソレノイドロックやセーフティセンサは、主にカバーや安全柵で覆われた設備の扉に取付されます。
ソレノイドロックは通電すると動くピンと、穴にピンが差し込まれていることを検知するセンサから構成されます。例えば設備を起動させるとソレノイドロックが作動してピンが穴に差し込まれ、そのピンをセンサが検知できれば実際に装置が動くという形で使用します。
ソレノイドロックが作動している間は、ピンが穴に差し込まれているので扉の開閉が物理的にロックされますので、装置稼働中に作業者が侵入できないようになります。身近な例ですとドラム式洗濯機の扉に導入されています。
セーフティセンサは扉をロックする機能はないものの、扉の開閉状態を検知することができます。そのため、装置稼働中に扉があいた場合にそれを機械へ知らせ、非常停止をするよう指令を出します。

一方で、物理的な扉を設けることが困難だったり不都合が生じる場合には、ライトカーテンを使用します。ライトカーテンはよくワークの投入口等に導入されることが多く、ワークを投入する時のみライトカーテンの機能がオフになり、投入後はオンになるという形で使用します。そして、ライトカーテンがオンの状態で何か物体が遮ると、それを機械へ知らせ、非常停止をするよう指令を出します。
産業用ロボットに関する安全機器

ここでは産業用ロボットに関する安全機器を二つ紹介します。
ロボット監視ユニット
一つめは「ロボット監視ユニット」です。産業用ロボットは非常に汎用性が高く、広範囲で自由度の高い動作・姿勢に制御させることができますが、その一方、周囲の装置や作業員に衝突すると大きな事故につながりかねません。そこで、不必要に動作をしないよう、ロボットの動作範囲を規制するのが「ロボット監視ユニット」です。

特に、ロボットのティーチング作業をする際は、作業者の誤動作によってロボットアームが暴走するなどの危険が伴います。 そこで、作業者の立ち位置や、その他周辺機器の設置場所には絶対にロボットが向かわないよう「ロボット監視ユニット」設定をすることで、作業者が安全にティーチング作業を進められるようにするなどのケースで使用されます。
協働ロボット
二つめは「協働ロボット」です。かつての産業用ロボットでは、使用するには安全柵の設置が義務付けられていました。しかし人手不足が深刻な飲食店や狭い工場では、安全柵を設置できるほどのスペースがなく、ロボットを導入できないケースが非常に多いのが課題でした。そこで、安全柵不要で設置・動作させられるロボットとして登場したのが「協働ロボット」です。

協働ロボットは一般的な産業用ロボットに比べると、動作速度が遅く、また稼働中に作業者が衝突した場合にすぐさま停止できるよう設計されています。これによってすぐ隣に人が作業しているような状況でも使用することができるのです。
協働ロボットはここ数年で需要が伸びていっており、さまざまな企業が協働ロボットの業界に参入しているため、今注目の機械だともいえます。
エアシリンダに関する安全機器

エアシリンダに関する安全機器を、ここでは二つ紹介します。
残圧抜きバルブ
一つめは「残圧抜きバルブ」です。エアシリンダ内の圧力は、装置の電源が落ちても基本的には自動的に抜けることがありません(これを残圧といいます)。そのため、メンテナンス作業前にこの残圧を抜いて、挟まれの事故が発生しないようにするために使われるのが「残圧抜きバルブ」です。
多くの場合、エア回路の基幹部に一つ配置するようにしますが、現場ルールや現場からの要望により、エアシリンダそれぞれに個別で残圧抜きバルブを使用するケースもあります。また残圧抜きバルブは作業者の目に入りやすいよう、つまみの色が赤色になっているものもあります。
デュアルスピードコントローラ
二つめは「デュアルスピードコントローラ」です。まずエアシリンダの動作速度は「スピードコントローラ」というつまみによって調整されるのですが、通常のスピードコントローラは排気側に圧力が残っていないと調整が効かないという特徴があります。つまり、エアシリンダ内の残圧を抜いた後の最初の動作では最大速度になってしまうのです(通称「飛び出し」といいます)。
そうするとワークに過度な荷重がかかったり、勢いよく飛ばされる可能性があり非常に危険です。その飛び出しを防ぐために使用されるのが「デュアルスピードコントローラ」という商品になります。

おわりに
機械安全は「事故が起こらないこと」ではなく、「事故を未然に防ぐこと」に重点を置くべき課題です。日々の業務の中でヒヤリハットを共有し、改善を積み重ねることで、より安全な生産環境を構築していくことが求められます。
本コラムが、安全対策を見直すきっかけになれば幸いです。