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【徹底解説】真鍮とは?真鍮の特性と切削加工のポイントを紹介

【徹底解説】真鍮とは?真鍮の特性と切削加工のポイントを紹介

更新日:
2024/03/18 (公開日: 2024/03/18 ) 著者: 甲斐 智
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塑性加工徹底解説シリーズ金属材料除去加工
     

真鍮は、銅と亜鉛の合金で、時計や金管楽器、お寺や仏具など、デザイン性や精度の高い加工が要求される製品によく使われています。亜鉛の含有量を調整することで金色に近い色できらびやかな雰囲気を出すことができる上に、熱を加えることで加工しやすく、しかも腐食に強いなどの特徴があります。
一方で、真鍮はその展延性の高さゆえの加工の難しさもあり、確かな技術が求められる金属でもあります。

このコラムでは、真鍮の特性や、真鍮に合った切削加工のポイントを解説します。

真鍮について|このコラムでは「徹底解説シリーズ」と題して、いつもより一歩踏み込んだ内容でお送りしています。日頃の業務のお役に立てれば幸いです。
このコラムでは「徹底解説シリーズ」と題して、いつもより一歩踏み込んだ内容でお送りしています。日頃の加工や業務のお役に立てれば幸いです。

真鍮とは

真鍮とは銅と亜鉛の合金で、JISでは亜鉛を20%以上含むものを黄銅(真鍮)、20%以下は丹銅としています。
真鍮の亜鉛の混合率は様々で、さらに他の金属も加わった合金もあり、それらは全て性質が少しずつ異なります。
ここでは真鍮の特徴や性質をJIS規格から解説します。

真鍮の特性

真鍮の性質はその物理性から来るもので、黄銅としてJISで示されています。
JISでは銅および銅合金全体が書かれていますが、ここでは黄銅(真鍮)に関して表1で紹介します。

〈表1 黄銅(板及び条)の名称・種類・合金番号・特色・用途例〉
名称 合金番号 特色 用途例
黄銅
C2600
展延性・絞り加工性に優れ、メッキ性 端子コネクタ
C2680
端子コネクタ、配線器具
C2720
展延性・絞り加工性 浅絞り用
C2801
強度が高く、展延性 折り曲げて使用する配線器具部品、計器板
快削黄銅
C3710
打ち抜き性に優れ、被削性 時計部品、歯車
C3713
すず入り黄銅
C4250
耐応力・腐食割れ性・耐摩耗性・ばね性 スイッチ、リレー、コネクタ、ばね部品
ネーバル黄銅

C4621

耐食性・耐海水性 熱交換器用管板、船舶取入口用
C4640
◎JIS H 3100 「銅及び銅合金の板及び条」を参考としています。表2、表3も同様です。
真鍮について| 同じ真鍮でも含有される金属やその量によって特色が変化し、それに伴い用途も多種多様であることがわかります
同じ真鍮でも含有される金属やその量によって特色が変化し、それに伴い用途も多種多様であることがわかります

表2では、黄銅の化学成分について、ご紹介します。

〈表2 黄銅の化学成分〉
合金番号 Cu(銅) Pb(鉛) Fe(鉄) Sn(錫) Zn(亜鉛) P(リン)
C2600
68.5〜71.5
0.05以下
0.05以下
残部約30
C2680
64.0〜68.0
0.05以下
0.05以下
残部約35
C2720
62.0〜64.0
0.07以下
0.05以下
残部約35
C2801
59.0〜62.0
0.10以下
0.07以下
残部約37
C3710
58.0〜62.0
0.6〜1.2
0.10以下
残部約37
C3713
58.0〜62.0
1.0〜2.0
0.10以下
残部約37
C4250
87.0〜90.0
0.05以下
0.05以下
1.5〜3.0
残部約10
0.35以下
C4621
61.0〜64.0
0.20以下
0.10以下
0.7〜1.
5
残部約35
C4640
59.0〜62.0
0.20以下
0.10以下
0.5〜1.0
残部約35

表3では、黄銅の機械的性質についてご紹介します。

〈表3 銅合金の機械的性質(完全なまし~加工硬化処理)〉
合金番号 引張強さN/mm2

伸び%

ビッカース硬さHV
C2600  O 375 — 490 35 — 40
1/8H~ESH 410 — 620 28 — 35 75 — 180
C2680  O 275 35 — 40
1/8H~ESH 325 — 670 10 — 30 75 — 215
C2720  O 275 40 — 50
H 325 — 440 28 — 35 75 — 145
C2801  O 325 35
H 355 — 470 15 — 40 85 — 160
C3720 H 375 — 510 18 — 20
C3713 H 375–510 10 — 18
C4250  O 295 35
EH 335 — 520 5 — 25 80 — 200
C4621 F 315 — 375 20
C4640 F 315 — 375 25
無酸素銅  O 195 20 — 35
H 215 — 275 10 — 20 55 — 120
S45C 690 17 290
◎「O」は完全なまし、「F」は製造状態で熱処理・加工硬化なし、「H」がついているものは引張強さを調整する加工硬化処理したものです。
◎表に表している数値は最小から最大の値です。

表3の最後の3行に、参考として銅(Cu)と炭素鋼(S45C)の機械的性質を乗せています。
銅と比べると銅の軟らかさに対して黄銅(真鍮)はやや硬いため、切削加工しやすくなることが分かるでしょう。
また引張り強さと硬度の大きな炭素鋼(S45C)と比べると、黄銅(真鍮)は、軟らかさと展延性が増して、細かな切削加工に向いていることが分かります。

真鍮について|表にはありませんが融点は銅が約1000℃、炭素鋼が約1500℃に対して、真鍮(黄銅全体として)は約600℃です
表にはありませんが融点は銅が約1000℃、炭素鋼が約1500℃に対して、真鍮(黄銅全体として)は約600℃です

真鍮のまとめ

ここまでをまとめると、真鍮の機械的性質は次のように整理できます。

優れた展延性

展延性は、展性と延性に分けられます。展性は圧縮力に対して変形する能力で、延性は引っ張り力に対する変形能力です。すなわち、展延性は材料が破断しないで、柔軟に変形できる限界を表しています。
真鍮は展延性に優れた金属といえます。

優れた電気伝導性

電気伝導性と熱伝導性は比例関係にあり、真鍮は熱伝導性も優れています。

優れた切削加工性

銅の切削加工は、軟らかすぎるため難しくなります。しかし亜鉛を加えて合金化することで硬度が加わり、切削加工性が高くなります。
この高い切削加工性によって、表1の黄銅(真鍮)の用途例にあるようにさまざまな用途で使用されています。

優れた耐食性

真鍮は、腐食されにくく錆にくいという性質があるため、精密部品の材料に利用されます。銅製の5円玉硬貨は長く使っていると黒ずんできますが、これは腐食ではなく銅硬貨に酸化被膜ができているためです。
この酸化被膜が腐食性雰囲気から守ってくれているため、ボロボロになることがありません。

真鍮の用途例

真鍮と呼ばれる黄銅の合金番号は、C 2600からC 4650で、一部を除いて、Zn(亜鉛)がほぼ30%以上で、Cu(銅)が60%から70%ほどの金属成分と微量の金属成分から成っています。
この成分の違いが真鍮の加工性を特徴付け、いろいろな製品が出来上がります。

例えば、展延性や絞り加工性、メッキ性の良さが特徴的なC2600やC2680は電気端子やそのコネクタ、金管楽器などに使用されます。
打ち抜き性が良く被削性が良いC3710やC3713は時計部品など精密機械に、耐食性・耐海水性が良いC4621やC4640は配管や船舶業界に使われるなど、金属成分の違いによる真鍮の特徴に合わせて製品が作られます。

以下では、真鍮の金属成分割合と使用用途をご紹介します。

〈真鍮の金属成分割合と使用用途〉
合金番号 真鍮金属成分割合 真鍮の特徴 真鍮製品例 製造業界例 備考
C2600 銅70%、亜鉛29.9%、鉄と鉛0.05% 展延性・絞り加工性・メッキ性が良い 電気端子、端子コネクタ、金管楽器 電気、楽器業界 黄銅
C2680 銅65.9%、亜鉛34%、鉄と鉛0.05% 展延性・絞り加工性・メッキ性が良い カメラ、端子コネクタ、配線器具、深絞り品(魔法瓶) 電気、カメラ、日用品 黄銅
C2720 銅63%、亜鉛36.8%、鉄と鉛0.07% 展延性・絞り加工性(浅絞り)が良い フライパン 日用品 黄銅
C2801 銅61%、亜鉛38.8%、鉄と鉛0.17% 展延性が良く、高い強度がある
熱間加工性が良いが、 冷間加工性は悪い
打ち抜き配線器具、折り曲げ配線器具、ネームプレート 電気、装飾品、機械部品 黄銅
C3710 銅60%、亜鉛38.7%、鉄と鉛1.3% 打ち抜き性が良く、被削性が良い 時計部品、歯車 精密機械製造 快削黄銅
C3713 銅60%、亜鉛38%、鉄と鉛2.0% 同上 同上 同上 快削黄銅
C4250 銅88%、亜鉛7.8%、鉄と鉛2.0%、錫2.2%、リン0.35 耐応力性、耐摩耗性、ばね性が良く腐食割れに強い スイッチ、リレー、コネクタ、ばね部品 電気、精密機械製造 錫を含む黄銅
C4450 銅71%、亜鉛27%、鉄と鉛0.1%、錫1.0%、リン0.09% 耐食性が良い ガス配管用溶接管 配管 燐を含むアドミラルティ黄銅
C4621 銅62%、亜鉛36%、鉄と鉛0.3%、錫1.2% 耐食性、耐海水性が良い 熱交換器管板、船舶海水取り入れ口、ロイド船・NK船で使用 配管、船舶業界 ネーバル黄銅
C4640 銅60%、亜鉛38%、鉄と鉛0.3%、錫1.0% 耐食性、耐海水性が良い 熱交換器管板、船舶海水取り入れ口、AB船級用 配管、船舶業界 ネーバル黄銅

真鍮を切削加工する際の問題点とその対策

真鍮は、柔らかく展延性に富み、融点が低いなどの特徴があります
ここでは、その特徴による切削加工時の問題点とその対策を解説します。

真鍮は柔らかいためすくい角に注意が必要

バイトでワークを加工するときに設定をしなければならないのが、刃先の角度です。
真鍮はやわらかい金属であるため、設計通りに削るためにはバイトの角度に注意しなければ削りすぎてしまう可能性があります。
図3はバイト刃先が工作物に当たるイメージ図です。

真鍮について|図3 バイト刃先イメージ
図3 バイト刃先イメージ

刃先面と、垂直線との角度を「すくい角」といい、刃先の下側の面と水平面との角度を逃げ角といいます。
一般的に、金属の切削加工は、金属と金属がぶつかり合うため、大きな摩擦力とエネルギーが必要です。
工作物が硬いときは、工作物に食い込むためにすくい角を小さく(図3左では0°)して、工作物に向かう力が摩擦力に打ち勝つようにして食い込んで進めます。

一方で、工作物が真鍮のようにやわらかい金属であれば、すくい角を小さいまま旋削を行えば、工作物に食い込み過ぎて余計に削ってしまいます。
そのため、 切削する金属がやわらかいときはすくい角を大きくして金属に刃先が食い込み過ぎないように調整します。
アルミや銅、真鍮の場合のすくい角は25°位といわれていますが、すくい角が大き過ぎても削り過ぎてしまうという難点も出てきます。

真鍮について|すくい角がどの程度ということは、計算である程度の目安を付けることも可能ですが、各材料に対する適切なすくい角のノウハウを、加工メーカーは持っているのではないでしょうか
すくい角がどの程度ということは、計算である程度の目安を付けることも可能ですが、各材料に対する適切なすくい角のノウハウを、加工メーカーは持っているのではないでしょうか

真鍮を切削加工する際の問題点

真鍮について|図4 工作物の表面を切削するイメージ
図4 工作物の表面を切削するイメージ

図4は、工作物の表面を切削しているイメージ図で、矢印方向に刃先が動いています。
真鍮のように、すくい角度が大きく工作物が展延性に富み、融点が低い金属材料であると、次の問題が発生します。

〈真鍮を切削加工する際の問題〉

  • 切削くずが途中で切れず、工具などに巻き付く
  • 摩擦熱などにより刃先に切削くずが付着し、構成刃物となって工作物を切削する
  • 摩擦熱などによる刃先の劣化、それに伴う加工精度の低下
  • 上記の融解物の一部が離れて工作物上に落ちて、工作物面に傷をつける

真鍮を切削加工する際の問題の対策

上記の問題には次の両方の対策が必要です。

〈対策〉

  • すくい角を大きくとらないよう注意する
  • 切削油で刃先を冷やす

切削時には切りくずができるときのせん断変形時の発熱、刃先すくい面に切りくずが流れるときの摩擦熱、逃げ面の摩擦熱などの熱で刃先が高温になります。
この熱によって、構成刃先の形成、刃先の劣化、加工精度の低下などの問題が起こるため、切削油で刃先を冷却することは特に重要です。

切削剤は、冷却作用の他に、摩擦を減らす潤滑油効果、構成刃先の抑制、切りくずや刃先の汚れをなくす洗浄効果、錆の発生を防ぐ錆止め効果など多様な効果があります。
用途ごとに細分化された切削油剤があるので、切削材料や条件、目的に合った油種を選びましょう。

真鍮について|これらの問題は真鍮だけに限らず、条件さえ合えばさまざまな金属で同じことが起こる可能性があります
これらの問題は真鍮だけに限らず、条件さえ合えばさまざまな金属で同じことが起こる可能性があります
切削加工を行う際は常に対策を取るべきでしょう

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この記事の監修者

甲斐 智(KAI Satoshi)
甲斐 智(KAI Satoshi)

1979年 神戸生まれ
多摩美術大学修了後、工作機械周辺機器メーカーの販売促進部門
15年以上に渡り、工作機械業界・FA業界のWebマーケティングに携わる
文部科学省「学校と地域でつくる学びの未来」参加企業

2020年に「はじめの工作機械」を立ち上げ(はじめの工作機械とは

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