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【徹底解説】インコネルとは?インコネルの切削の課題と対策を紹介

【徹底解説】インコネルとは?インコネルの切削の課題と対策を紹介

更新日:
2025/02/07 (公開日: 2024/03/18 ) 著者: 甲斐 智
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塑性加工徹底解説シリーズ金属材料除去加工
     

鉄や非鉄金属は、他の金属やクロームやモリブデンのような物質を入れ合金とすると、本来持っていた特性が変わります。
強化される金属、本来の金属の特徴と全く異なった特性を持つ金属など変化し、世の中の技術向上へと役立っています。もちろん切削性についても変化します。
金属特性が変化したことで、いままで容易に切削できていたものが成分変化や合金化によっていままで通りには加工できなくなる場合があります。
切削が容易な材料を快削材といい、切削指数は100と表現します。逆に切削が難しい、切削指数が45以下のものは「難削材」と呼びます。
難削材もいろいろありますが、インコネルの切削指数は、6から15です。

本コラムでは、インコネルの種類と特徴、インコネルの切削について紹介します。

インコネルについて|このコラムでは「徹底解説シリーズ」と題して、いつもより一歩踏み込んだ内容でお送りしています。日頃の業務のお役に立てれば幸いです。
このコラムでは「徹底解説シリーズ」と題して、いつもより一歩踏み込んだ内容でお送りしています。日頃の加工や業務のお役に立てれば幸いです。

インコネルとは

インコネルはニッケル合金です。
ニッケル合金の種類について紹介し、その中でインコネルの種類について紹介します。

耐熱耐食合金の種類

インコネルは、超耐熱耐食合金です。
超耐熱耐食合金の種類のうち、ニッケル合金に分類されます。(Ni基)
ニッケル合金は、含まれる成分によって、耐熱合金、耐食合金、耐熱耐食合金に分かれます。
表1で、ニッケル合金の種類について紹介します。

〈表1 ニッケル合金の種類 〉
分類 JIS記号 名称 分類 JIS記号 名称
耐食耐熱超合金 NCF600 インコネル600 ニッケル・
ニッケル合金
NW2200 ニッケル200
NCF601 インコネル601 NW2201 ニッケル201
NCF625 インコネル625 NW4400 Ni-Cuモネル
NCF690 インコネル690 NW4402 Ni-Cuモネル
NCF718 インコネル718 NW5500 Ni-Cu-Al-Ti
NCF750 インコネルX NW0001 ハステロイB
NCF751 インコネル751 NW0665 ハステロイB-2
NCF80A メーカー登録名あり NW0276 Ni-Mo-Cr(W)
ハステロイC-276
NCF800 インコロイ800 NW6455 Ni-Mo-Cr(W)
ハステロイC-4
NCF825 インコロイ825 NW6210
NCF020 カーペンター20Cb-3 NW6007 ハステロイG
NCF354   NW6985 ハステロイG-3
NW6002 ハステロイX
◎製造中止品もあります
◎JISではニッケル合金の名称はインコロイやハステロイなどとなっていますが、メーカーで開発するニッケル合金は、参考としてJIS記号やインコネル番号を出していますが、メーカー独自の名称で組成や機械的性質を紹介しています

Ni基耐熱耐食合金の成分データ

ニッケル合金の成分と使用方法、機械的性質を代表として、JISをもとに紹介します。
(JIS G4902 参考)

〈表2 ニッケル合金成分表(%) 〉
記号 C Si Mn P S Ni Cr Fe Mo Co Cu
NCF600 <0.15 <0.5 <1.0 <0.03 <0.015 >72 15 8 <0.5
NCF601 <0.1 <0.5 <1.0 <0.03 <0.015 61 23 <1.0
NCF625 <0.1 <0.5 <0.5 <0.015 <0.015 >58 22 <5 9
NCF690 <0.1 <0.5 <0.5 <0.03 <0.015 >58 30 9 <0.5
NCF718 <0.08 <0.35 <0.35 <0.015 <0.015 53 19 3.1 <0.3
NCF750 <0.08 <0.5 <1.0 <0.03 <0.015 >70 16 7 <0.5
NCF751 <0.1 <0.5 <1.0 <0.03 <0.015 >70 16 7 <0.5
NCF80A 0.07 <1.0 <1.0 <0.03 <0.015 20 <1.5 <2.0 <0.2
NCF800 <0.1 <1.0 <1.5 <0.03 <0.015 33 21 <0.75
NCF800H 0.07 <1.0 <1.5 <0.03 <0.015 33 21     <0.75
NCF825 <0.05 <0.5 <1.0 <0.03 <0.15 43 22 3.0 2.2
NCF020 <0.07 <1.0 <2.0 <0.045 <0.035 35 20 2.5 3.5
NCF354 <0.03 <1.0 <1.0 <0.03 <0.01 35 23 7.5
NW2200 <0.15 <0.35 <0.35 <0.01 >99 <0.4 <0.25
NW2201 <0.02 <0.35 <0.35 <0.01 >99 <0.4 <0.25
NW4400 <0.3 <0.5 <2.0 <0.024 >63 <2.5 32
NW4402 <0.04 <0.5 <2.0 <0.025 >63 <2.5 32
NW5500 <0.25 <0.5 <1.5 <0.01 >63 <2.0 31
NW0001 <0.05 <1.0 <1.0 <0.04 <0.03 <1.0 5 28 <2.5
NW0665 <0.02 <0.1 <1.0 <0.04 <0.03 <1.0 <2.0 28 <1.0
NW0276 <0.01 <0.08 <1.0 <0.04 <0.03 15 5.5 16 <2.5
NW6455 <0.015 <0.08 <1.0 <0.04 <0.03 16 <3.0 15 <2.0
NW6210 <0.015 <0.08 <0.5 <0.02 <0.02 19 <1.0 19 <1.0
NW6007 <0.05 <1.0 1.5 <0.04 <0.03 22 20 6.0 <2.5 2.0
NW6985 <0.015 <1.0 <1.0 <0.04 <0.03 22 20 7.0 <5.0 2.0
NW6002 0.1 <1.0 <1.0 <0.04 <0.03 22 20 9 1.0
◎成分が、例えば10~14のような範囲である場合は、平均12のようにします
〈表2の成分の続き〉
記号 W Al Ti Nb Ta V B N 耐熱耐食
NCF600 耐熱耐食
NCF601 1.4 耐熱
NCF625 <0.4 <0.4 3.6 耐熱耐食
NCF690 耐熱
NCF718 0.5 0.9 5 <0.06   耐熱
NCF750 0.7 2.5 1.0 耐熱
NCF751 1.2 2.3 1.0  
NCF80A 1.4 2.3  
NCF800 0.4 0.4 耐熱耐食
NCF800H   0.4 0.4 耐熱
NCF825 <0.2 0.9 耐熱耐食
NCF020 8C-1.0  
NCF354   0.21 耐食
NW2200 耐食
NW2201 耐食
NW4400 耐食
NW4402  
NW5500 2.8 0.6  
NW0001 0.3  
NW0665 耐食低膨張
NW0276 4.0 <0.35 耐食
NW6455 <0.7  
NW6210 2.0 <0.35  
NW6007 <1.0 2.2  
NW6985 <1.5 <0.5  
NW6002 0.6 耐熱
◎成分が、例えば10~14のような範囲である場合は、平均12のようにします

インコネルの機械的性質

Ni基耐熱耐食合金のJIS記号で、NCF600のように、NCFはインコネルです。
成分表には、NW2200のようにNWJIS記号のニッケル合金の成分も、比較のために記載しています。
NW記号は、添加物を加えることで、耐熱・耐食性を増して目的の製造物ができるようにしています。
「モネル」や「ハステロイ」のように呼ばれている合金です。

〈表3 インコネルとニッケル合金の機械的性質(代表例) 〉
  硬さ(HV) 耐力
N/mm2
伸び
%
引張強さ
N/mm2
密度
g/cm3
融点
(℃)
熱伝導率
W/(mK)
熱膨張係数
/℃
備考
NCF600 <199 >245 >30 >550  
8.1

8.5
約1400 約15

18
約13

16
NCF601 >205 >30 >550
NCF625 >275 >30 >690
NCF690 >240 >30 >590
NCF718 >1035 >10 >1240
NCF750 <335 >615 >8 >960
NCF751 <395 >615 >8 >960
NCF80A <250 >615 >20 >1000
NCF800 <182 >205 >30 >520
NCF800H <171 >175 >30 >450
NCF825 <214 >235 >30 >580
NCF020 <217
(HR)
>240 >30 >550 500℃までの温度で使用
NCF354 >295 >30 >640 高耐食ニッケル合金
NW2200 >100 >40 >380 9 1400 70 15
NW2201 >80 >30 >345 9 1400 70 15
NW4400 >195 >35 >485 9 1400 22 14
NW4402 >160 >35 >430
NW5500 >620 >15 >900
NW0001 >345 >45 >795 9 1400 27 10
NW0665 >355 >40 >760 18 11
NW0276 >275 >40 >690 9 1400 18 10
NW6455 >275 >40 >690
NW6210 >310 >45 >690
NW6007 >245 >40 >625
NW6985 >210 >35 >590
NW6002 >245 >35 >660 8 1300 9 14
炭素鋼 150
HBW
>490 >17 >690 7.8 1400 0.58 11 参考
  • ニッケル合金鋼との比較用に、炭素鋼のデータを付帯しています。炭素鋼と合金鋼では熱伝導率が大きく異なります。
  • JIS記号NCF(主にインコネル)は、密度、融点、熱伝導率、熱膨張係数は、ほぼ同じ値なので、範囲で記述しています。
  • NW6007は、高温域を含めた耐食ニッケル合金で、密度・融点・熱伝導率・熱膨張係数などのデータは、メーカーや研究機関が実験等で得られたデータです。 どこの機関のデータもほぼ同じであるため、参考として整数値で表現しています。
  • 全体的には、ニッケル合金は、超耐熱耐食合金を含め、同じようなデータとなっています。
  • ニッケル合金は600℃の周囲温度での加工が可能です。超耐熱耐食合金は、1000℃の周囲温度での加工が可能です。
  • JISでは機械的データは、焼きなまし・固溶化処理に分かれて出ています。 本コラムでは、それぞれのデータに大きな差がないため、もっとも大きなデータを取り上げています。

インコネルの特徴

インコネルの特徴は(3)の成分表、機械的性質から、次のようにいえます。

  • 耐熱性に優れます
  • 耐食性に優れます
  • 高い強度を有します
  • 1000℃を超える高温下での燃焼ガスに対する耐性があり、耐酸化性を示します
  • 金属の高温下での長時間力が加わって起こるクリープ現象に対して、高い耐性を有します

インコネルは、ロケット・ジェットエンジン・原子力使用部材などに使用されます。そのすぐれた性能ゆえに、難削材の中でも最も上位にランクされる、切削加工が困難な難削材です。

インコネルの切削加工

インコネルは超耐熱材であり、耐熱材の切削には難しい課題があります。
その要因を紹介し、切削加工への影響と対策、そして適した工具について紹介します。

インコネルの切削加工における課題

インコネルは切削加工が特に難しい難削材です。

難削材とは

難削材とは切削加工が難しい材料で、次のような事象をひとつまたは複数起こす要因を有する材料です。
・刃先の摩耗やチッピングなどの損傷で、工具寿命を短くさせる。

  • 切削抵抗が大きくなる
  • 切りくずの処理が難しい
  • 切削温度が高くなる
  • 仕上げ面が粗くなる

インコネルが難削材である要因とその影響

インコネルが難削材となる要因は以下の通りです。

  • a) 熱伝導率が小さい
  • b) 加工硬化が生じ易い
  • c) 高温強度が高い
  • d) 工具との親和性が大きい

以上の要因に対して、次のような影響が起こります。

a) 熱伝導率が小さい

熱伝導率が低いことで、切削熱や切り屑の摩擦熱によって発生する熱量が切り屑とともに排出されないため、切り刃に熱が蓄積され、切粉などが刃先に付着・脱落を繰り返し、刃先が摩耗しチッピングなどで損傷します。
また熱が刃先に蓄積され高温になると切削抵抗が増え、切り屑が加工硬化を起こし、切り刃に負担がかかることも損傷の要因となります。

さらに、通常の材料の切削では、切削温度が上がると構成刃先ができやすくなるため、切削速度を上げて刃先の温度を材料の再結晶温度まで上げることで、構成刃先の生成を抑止します。しかし難削材は切削抵抗が増えて切れ刃損傷の要因となるため、切削条件の変更が難しくなります。

b) 加工硬化が起こりやすい

a)と同じように、切削抵抗が大きいことで加工硬化を起こし、切れ刃に欠損が生じやすくなります。
また切れ刃の摩耗が生じやすくなります。

c) 工具材料との親和性が大きい

温度がほとんど同じ高温の切屑と切れ刃が接することで、化学的に溶着し易くなり、その結果、切れ刃の摩耗と切れ刃の損傷が生じ易くなります。

d) 高温での強度が大きい

インコネル(超耐熱合金)は高温でも強度が大きいため、切削による温度上昇による工作物や切り屑の軟化は起こりません。
また構成刃先の生成を止めるために切削速度を上げても、高温強度が大きいことから切削抵抗の低下の減少は見込めません。
そのため刃先には、高温の状態で大きな切削抵抗力が掛かるため、切れ刃の摩耗と損傷が起こります。

インコネルを切削することで起こりうる問題点

難削材であるインコネルを切削することで、以下のような問題が起こります。

  • 工具の寿命が短くなる
  • 摩耗欠損した刃先で工作物を加工すれば、加工面の精度の狂いや荒れが生じ、品質低下を招く
  • 加工条件を変えることは、切削の問題をさらに悪化させる可能性があるため、安易に切削条件が変えられず、製造工程に影響を及ぼします

インコネルの切削加工への対策

切削上の課題に対して、次のような対策を講じます。

工具の変更

超耐熱合金の加工に合った工具へ変更しましょう。
図1は工具の材料ごとの特性イメージです。

インコネルについて|図1 工具の材料ごとの特性イメージ
図1 工具の材料ごとの特性イメージ

工具摩耗やチッピングなどへ対して、損傷の起こらない切れ刃と切れ刃の形状を持った工具への変更を検討する必要があります。
インコネルは多くの種類があり、特性も少しずつ異なります。
インコネルの種類によって、対応する工具も変わってきますので、必要とする加工に応じて工具を何種類か用意し、実験を繰り返すことで確実に適任する工具が選べます。
インコネルの切削加工では、超硬やサーメットより、セラミックスかCBN焼結体が良い結果を出すという実験データがいろいろな報告文献から垣間見えます。

切削条件の変更

切削条件を見直します。
切削速度、送り量を減少させ、発生熱を下げることを目指しますが、具体的な切削速度、送り量やその他の加工条件は、インコネルの種類によって異なります。
これも実験を繰り返すことで、取り扱うインコネルごとの最適な切削条件の実験データが得られます。

冷却

切れ刃を冷却することで温度を下げ、刃先を防御します。
冷却性の高い油剤を大量に噴射させて、刃先温度を下げましょう。

インコネル切削への慣れ

インコネルに限らず超耐熱合金などは、需要から滅多に手掛ける切削加工ではありません。
したがって、超耐熱合金の切削加工をはじめて行う場合、次のような問題が起こります。

  • 過去の切削加工でのデータや経験が役に立たない。(切削技術は役立ちます!)
  • 切削工具の選定が難しい
  • 切削加工条件の設定が難しい

これらの問題に対しては、もっとも近い耐熱合金(例えばSUS)の過去のデータをもとに繰り返し実験を行うことで、次第に整理されていきます。

塑性加工 徹底解説シリーズ 金属材料 除去加工

この記事の著者・監修者

甲斐 智
甲斐 智(Satoshi Kai)

1979年 神戸生まれ、多摩美術大学修了後、工作機械周辺機器メーカーに入社。
2020年に株式会社モノトを設立。長年に渡り工作機械業界・FA業界のWebマーケティングに携わる。
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J-GLOBAL ID 202101006017437323

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