
【徹底解説】エンドミルとは?エンドミルの特徴と切削条件を紹介
- 更新日:
- 2025/02/07 (公開日: 2024/03/18 ) 著者: 甲斐 智
エンドミルはフライス加工で使われる工具の一種で、主に金型の製作に使用されます。
真っすぐなもの、丸いもの、先のとがったもの、ドリル状のものなど、エンドミルには多くの種類があり、ほとんどの要請に応じることが可能ですが、一方で正確な切削には正しい条件設定が必要です。
本コラムでは、エンドミルの構造や種類、切削の仕方などについてご紹介します。エンドミルを正しく理解し、適切な切削ができるようにしましょう。

エンドミルとは?種類と特徴
エンドミルについての基本的解説や、種類及び特徴などをご紹介します。
エンドミルとは?
エンドミルは、フライス盤などに設置して切削を行う工具です。エンドミルの切削は、底刃と外周刃によって行われ、X,Y,Z軸方向にワークを移動することで、いろいろな形状の加工が可能です。
エンドミルは、図1のように、ワークにさまざまな形状の切削をすることができます。

エンドミルは多くが側面加工に用いられますが、エンドミルの径を小さくしての溝加工も自由です。また倣い加工のような曲面加工も可能です。
エンドミルの種類と特徴
エンドミルには様々な種類がありますが、図2では汎用的に使用されている、基本的なエンドミルをご紹介します。

スクエア刃 | 先端が平坦な形状をしているエンドミルで、側面の切削などに使用される最も汎用的な種類です |
---|---|
ボール刃 | 先端がボールのように丸い形状のエンドミルで、曲面加工に使用されます |
ラジアス刃 | スクエア刃の底刃のコーナーにRを付けて丸くしたエンドミルです 側面の切削時に、側面と底面が交わる角を曲面に切削できます ボールエンドミルと同じような使い方も可能です |
基本的な3種類をご紹介しましたが、エンドミルの外周刃のねじれ角もさまざまで、0°から60°まであります。また右側ねじれのもの、左側ねじれのもの、ねじれ角が不等(箇所ごとにねじれ角が異なる)のエンドミルもあり、加工の方法によって的確なものを選ぶことが大切です。
表1では、エンドミルを刃部の形状別に分類して紹介します。(表1)
種類 | 特徴 | 備考 |
---|---|---|
一枚刃エンドミル | 切れ刃が1枚のエンドミルです 主に軽合金の加工に用いられます |
- |
二枚刃エンドミル | 切れ刃が2枚です | 図4参照 |
多刃エンドミル | 切れ刃が3枚以上です | 図4参照 |
テーパ刃エンドミル | 外周刃がテーパとなっています | - |
ボールエンドミル | 底刃が球状です | 図2参照 |
テーパボールエンドミル | 底刃が球状で、刃部がテーパ状です | - |
ラジアスエンドミル | コーナが丸状のエンドミルです | 図2参照- |
スクエアエンドミル | コーナが角状のエンドミルです | 図2参照- |
強ねじれ刃エンドミル | 外周刃のねじれ角が40°以上のエンドミルです | - |
ニック付きエンドミル | 外周刃がニック(細い溝)切れ刃を持っています | - |
中仕上げエンドミル | 外周刃が台形状になっています 荒削りか中仕上げに使用されます |
- |
荒削りエンドミル | 外周刃が波形になっています 荒削りに使用されます |
「ラフィングエンドミル」ともいいます |
キー溝エンドミル | キー溝の加工に用います | - |
歯切りエンドミル | 歯車の歯切り加工に使われます | - |
エンドミルの構成と構造
ここでは、エンドミルの構造や刃数、刃の角度などについて解説します。
エンドミル構成図
図3はエンドミルの構造のイメージ図です。

- 図3右上
エンドミルの外形図です。刃で校正されたボディと首部、フライス盤に取付けるシャンク部で構成されます。 - 図3左上
刃1枚の拡大図です。 - 図3下側
刃部の平面図と側面図のイメージ図です。刃部の溝の部分は、チップポケットといって、切りくずを排出する空間です。
エンドミルの刃数による分類
エンドミルの刃数は、図3では、4枚の刃を例としていますが、1枚から8枚まで製作可能です。中でも2枚~6枚の刃数が標準で、2枚刃と4枚刃が最も良く用いられます。
図4では、2枚刃と4枚刃のイメージ図を紹介します。

2枚刃はチップポケットが大きく、切りくずが溜まらずに研削が容易で、研削精度が高いことが特徴です。
多刃の代表といえる4枚刃は、チップポケットに関しては小さく切りくずが溜まり易い構造になっている反面、芯厚が厚いため剛性が強く、曲げや折損に強いというメリットがあります。
このように、2枚刃と多刃では異なる特徴があり、切削する対象の目的に応じて刃数を選ぶ必要があります。
多刃エンドミルの角度
図5は、多刃エンドミルの角度をずらしている様子をイメージした図です。

4枚の刃の間の角度が同じエンドミルは等分割刃といい、角度が異なる(対角線上は同じ)ものは不等分割刃といいます。
等分割の場合、同じ回転数でエンドミルが切削していると、ワークと接触する周期が同じになって、周期的な振動が起こり共振することがあります。
それに対し、不等分割刃は振動を抑制する効果を狙ったものです。

エンドミルの切削
ここでは、エンドミルによる切削についてご紹介します。
また切削抵抗の理解を深め、切削抵抗の影響をできるだけ小さくして切削条件を整える方法を説明します。
エンドミルの切削—アップカットとダウンカット
エンドミルの切削には、図5で紹介するように、アップカットとダウンカットがあります。

- アップカット
エンドミルの回転方向と、切削方向が同じ向きにある場合の切削です。切削は図のように進み、はじめはゼロから次第に厚く切削します。 - ダウンカット
エンドミルの回転方向と、切削方向が逆の向きにある場合の切削です。切削はアップカットとは逆にはじめに厚く切削し、次第に薄くなり、最後はゼロとなります。
ダウンカットが一般的に行われますが、溝加工の場合は、両方のカット方式が必要です。
両者を比較すると次の表のように整理できます。
カット方式 | 特徴 |
---|---|
アップカット | ・刃先の摩擦時間が長く、摩耗量が大きい ・切込み量ははじめは少なく次第に大きくなる ・機械的こすり摩耗が起きやすくなります |
ダウンカット | ・刃先の摩擦時間が短く、摩耗量が少ない ・切込み量ははじめに大きく次第に薄くなる ・工具寿命が長くなります ・はじめに削り過ぎることが注意点です |
エンドミルの切削力と切削抵抗
エンドミルの切削に関わる切削力と、切削抵抗についてご紹介します。
図7は、切削するときに発生する切削力と、それに対抗する切削抵抗のイメージです。

図7の左側図は、一般的にワークを切削するときに、刃部に働く力のバランスを示しています。
刃部とワークの切りくずに働く力は、送り方向の主分力と、工具にかかる背分力が掛かり、それらを合成した力が、切削力です。
刃部に対して切削力の反対向きに掛かる力が、切削抵抗になります。
図7の右側図は、エンドミルでワークの側面を切削している模式図です。
エンドミルに働く切削抵抗は、送り方向の送り分力、機械からの主分力、工具に掛かる配分力に分解できます。また主分力と送り分力の合成した力は曲げ分力となり、エンドミルを曲げる方向に働きます。
エンドミルに働く分力の配分、すなわち切削抵抗は、切削条件で変わってきます。
切削抵抗を小さくする対策には、次のことが考えられますが、切削条件が変わると切削に影響する場合もあり、全体的に検討する必要があります。
〈切削抵抗を小さくする対策〉
- 送りを下げる
- 切込み量を減少させる
- 回転数を増加する
- 刃先を鋭利とする
- すくい角やねじれ角を大きくする
切削条件
切削する際には、エンドミルに合った切削条件を設定しなければなりません。
切削抵抗によって切削条件が崩れることがあるため、その影響を少なくし、切削条件を整える必要があります。
切削条件には、切削速度、送り速度、切込み深さがあります。それぞれについて解説します。
切削速度
切削速度は、1分あたりの切削量を表し、m/minの単位で、1分間にどれだけの長さを切削できるかで、切削速度を表します。 エンドミルの外周刃の動く速度です。
送り速度
テーブルの送り速度=回転速度×刃数÷1刃当たりの送り速度
送りとはエンドミルとワークの相対的移動のことで、その速度が送り速度です。テーブルの送り速度は、生産性を表します。
1刃当たりの送り速度は、刃部に掛かる負荷を表します。
切込み深さ
切込み深さで切りくず排出量が決まります。
以下に、切削条件によって発生するさまざまな現象とその対応をまとめます。
切削条件 | 発生現象 | 対応 |
---|---|---|
切削速度上昇 | ・切削熱が大幅に上昇 ・振動増加 |
・半径方向の切込み深さを減少させます |
送り速度上昇 | ・切削熱が上昇 ・振動増加 ・切削抵抗増加 |
・軸方向、半径方向ともに、切込み深さを減少させます |
軸方向の切込み深さ上昇 | ・切削熱が上昇 ・振動増加 ・切削抵抗増加 |
・切削速度をやや減少させます ・送り速度を大きく減少させます |
半径方向の切込み深さ上昇 | ・切削熱が大幅上昇 ・振動大幅増加 ・切削抵抗大幅増加 |
・切削速度を大きく減少させます ・送り速度を大きく減少させます |
エンドミルの障害と対策
ここでは、エンドミルの切削時の障害及び、原因と対策について概略を解説します。
エンドミルの切削で起こる問題
加工時にエンドミルの刃部に起こる障害を表4にまとめています。
刃部の障害はエンドミルの寿命を短くする要因となりますが、早期に対応することで寿命を延ばすことができます。
障害名称 | 障害内容 | 備考 |
---|---|---|
摩耗 | ・切削中に刃部に生じる摩耗:逃げ面摩耗、外周逃げ面摩耗、コーナ(逃げ面)摩耗、境界(逃げ面)摩耗 ・逃げ面の切削部と非切削部境界で生じる細長い溝状の摩耗:すくい面摩耗 ・すくい面摩耗でくぼみができる摩耗:クレータ摩耗 要因は、ワークとの摩擦、切りくずとの摩擦などがあります |
刃部の損傷 |
チッピング | 刃部に微小な欠けが生じる現象です | 刃部の損傷 |
はく離 | エンドミル表面の一部が剝がれる損傷です 切りくずが工具すくい面を擦りながら通過する際に、工具表面に凝着してむしり取ります |
刃部の損傷 |
熱き裂 | 刃部に熱的なき裂が生じる状態です | 刃部の損傷 |
欠損 | 切削により切れ刃に生じる大きな欠けです | 刃部の損傷 |
破損 | 刃部、チップ全体、大きな範囲で生じる破壊です | 刃部の損傷 |
折損 | ボディまたはシャンクが折れた状態です | 刃部の損傷 |
仕上げ面粗さ | 仕上げ面の粗さが悪い状態です | - |
びびり | 切削加工中に工具とワーク間に振動が断続して起こる状況です 加工精度を悪くし、工具の寿命を短くします |
- |
切りくず詰まり | 刃数が多く芯厚が太く切りくずが排出しにくいと、詰まる場合があります 刃が切りくずを噛み込むことで、加工精度の悪化、刃の損傷が起こります |
チップポケットの大きさ |
寸法精度不良 | 加工面の寸法公差が取れない、切削面に粗さが残る状態です | - |
エンドミル障害の対策
エンドミルの不具合の原因と対策を表5にご紹介します。
不具合はひとつの原因で起こるわけではなく、いくつかの要因が重なって起こります。そのため対策も複数必要になることがあります。
障害 | 原因 | 対策 | 備考 |
---|---|---|---|
刃部の摩耗 | ・切削速度が速い ・送り速度が小さい ・アップカット加工による ・切りくずを再度切削する |
・切削速度の適正化 ・送り速度の適正化 ・ダウンカット加工を検討 ・切削油剤やエアブローで溜まった切りくずを排出 |
- |
チッピング 欠損 |
・切れ刃が摩耗している ・切削速度が速い ・送り速度が速い ・大きな切込みを行った ・刃先角が小さい ・切りくずが噛み込んだ場合 ・刃先が弱い |
・刃部の摩耗は、摩耗対策によります ・切削速度を適正化 ・送り速度を適正化 ・切込みの大きさを小さくします ・刃先角度を適正に調整 ・ダウンカットを検討 ・切削油剤やエアブローで溜まった切りくずを排出 ・靭性のある超硬の材質変更 ・切削油剤を交換 ・刃先強度の高いエンドミルの使用 |
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折損 破損 |
・送り速度が速い ・エンドミルの損耗が激しい ・エンドミルの突き出し長さが長い ・エンドミルの剛性が弱い ・切込みが大きい |
・切削条件の見直し ・エンドミルは切れ味の良いものを使用 ・エアブローで溜まった切りくずを排出 ・靭性のある超硬の材質変更 ・切りくずを排出しやすくします ・ワークのクランプを確実にします ・剛性の大きいエンドミルを使用 ・切込みを少なくする |
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仕上げ面粗さ | ・切削速度が遅い ・送り速度が速い ・ダウンカットの切削方向 ・エンドミルに揺れがある ・切りくずの排出不良 |
・切削速度、送り速度の適正値への調整 ・アップカットへの変更 ・ホルダの締め直しや鋼管を検討 ・エアブローや切削油増量で切りくずの排出を高める |
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びびり 振動 |
・切削条件が悪い(切削速度と送り速度) ・突き出し長さを長くしない ・エンドミルの芯厚を大きくする ・等分割・等リードを使用 |
・切削速度と送り速度を適正に変更 ・不等分割・不等リードを使用 ・突き出し長さを必要以上に長くしない ・芯厚の厚い工具を使用 |
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切りくず詰まり | ・切削量の多いこと ・チップポケットが小さい刃部を使用 ・切削油量が少ない |
・送り速度の調整 ・チップポケットの大きい刃数の刃部を使用 ・切削量を増やし適正な量を確保する ・切削速度を上げて切りくずが絡まないようにする ・ラフィングエンドミルの使用 |
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寸法精度不良 | ・機械やホルダの剛性が小さい ・エンドミルの剛性不足 ・エンドミルの突き出し長さが長い |
・エンドミル外径の大きいものを採用 ・1刃当たりの送り速度を遅くして送り量を少なくする |
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