HOME > 工作機械がわかる > 【徹底解説】難削材とは?難削材の種類と特徴、加工ポイントを紹介
【徹底解説】難削材とは?難削材の種類と特徴、加工ポイントを紹介

【徹底解説】難削材とは?難削材の種類と特徴、加工ポイントを紹介

更新日:
2025/02/07 (公開日: 2024/03/18 ) 著者: 甲斐 智
関連タグ:
塑性加工徹底解説シリーズ金属材料除去加工
     

切削加工をする金属は、純粋な金属だけでも数多くあり、また合金という形でも多くの種類を構成します。そして添加物の量や種類まで考えると、数えることができない種類の金属材料が存在し、加工のしやすさ・難しさをはじめ、性質はさまざまです。
また切削工具にも多くの種類があり、材料との組み合わせ次第で切削加工による「工作物の仕上がり」と「工具の寿命」は異なります。

このコラムでは、金属材料の種類ごとに、工作物の仕上がりと工具の寿命がどのように違うか、そしてその対策等について、解説します。

難削材について|このコラムでは「徹底解説シリーズ」と題して、いつもより一歩踏み込んだ内容でお送りしています。日頃の業務のお役に立てれば幸いです。
このコラムでは「徹底解説シリーズ」と題して、いつもより一歩踏み込んだ内容でお送りしています。日頃の加工や業務のお役に立てれば幸いです。

金属材料の切削加工

切削加工の基本と快削材(硫黄複合快削鋼鋼材)を紹介します。

切削加工の基本と被削性

図1は、工作物(ワーク)を工具で切削加工するイメージ図です。

難削材について|図1 工作物(ワーク)の切削加工
図1 工作物(ワーク)の切削加工

切削は、工作物・工具・工作機械が揃って、目的の加工物とするための切削条件(切削速度、送り量、切込み、切削油など)が設定され、切削加工が行われ、目的とする工作物が仕上がります。
この切削過程で、ワークの切削部分が切りくずとして排出されながら工作物の仕上げ面が精度内に加工されます。
工具には、摩擦・切削熱・切削抵抗などの影響で、摩耗やチッピングなどの軽い損傷が発生します。通常起こる範囲の摩耗やチッピングであっても、同じような加工の繰り返しにより工具寿命は短くなっていきます。

切削のしやすさは金属材料によって変わります。この切削のしやすさのことを「被削性」といいます。
被削性は硫黄及び硫黄複合快削鋼鋼材の被削性指数を100とした「被削性指数」によって表されます。数字が大きいほど切削しやすく、小さいほど難しくなります。

快削材とは

切削するワークの材料で、スムースに切削加工が行われるものを「快削材」といいます。
快削材は金属に次のような処置を施したものです。

  • 元の機械的性質を変えない程度の微量の添加物を加えます。
  • 熱処理により被削性を向上させています。
  • そのほか、材料性能向上させる加工を施します。
  • 硫黄や鉛を添加したSUM21などの快削鋼鋼材は、快削材として使用されます。
  • SUM21などの快削材は、JIS G 4804 で、種類や成分、棒材や角材の寸法精度などが規定されています。(表1に例を紹介します。)
    ただし、機械的性質(硬さ、伸び、熱伝導率など)は、明らかにされません。
〈表1 硫黄及び硫黄複合快削鋼鋼材(例)〉
種類 C Mn P S Pb
SUM21 0.13以下 0.70~1.00 0.07~012 0.16~0.23
SUM22L 0.13以下 0.70~1.00 0.07~012 0.24~0.33 0.10~0.35
SUM31 0.14~0.20 1.00~1.30 0.040以下 0.08~0.13
SUM41 0.32~0.39 1.35~1.65 0.040以下 0.10~0.20  
◎添加物を加えることで、切削抵抗の低下や切りくずとの摩擦の軽減が図られます

難削材の種類と特長

快削材について紹介しましたが、それに対して「難削材」も存在します。
ここでは、難削材について紹介します。

難削材とは

難削材とは、被削性指数が45以下の金属です。
以下の表からわかるように、被削性指数は金属によってさまざまです。

〈表2 加工材料の被削性指数例〉
被削材 被削性指数 被削材 被削性指数
硫黄快削鋼 100 ステンレス鋼 オーステナイト系
(SUS304、306など)
50~35
85~75 マルテンサイト系
(SUS410、440Cなど)
55~40
65~50 フェライト系
(SUS430など)
65~50
60~50 耐熱合金 インコロイ901 30~10
鋳鉄 70~50 インコネル718 15~6
黄銅 200~600 ステライト21 15~6
アルミニウム 300~1500 チタン合金 30~20
クロム鋼鋼材(SCr420) 65 ニッケル合金 50~20
アルミ合金 240~140 低合金鋼(合金元素5%以下)
SCN435(クロムモリブデン鋼)
70~30
マグネシウム合金 2000~500 工具鋼 30~25

難削材は切削加工が難しいことで、次のような問題をひとつまたは複数起こす要因となり得ます。

  • 刃先の摩耗やチッピングなどの損傷で、工具寿命を短くさせる
  • 切削抵抗が大きくなる
  • 切りくずの処理が難しい
  • 切削温度が高くなる
  • 仕上げ面が粗くなる
  • 加工中に発火する

上記のような問題は、次のような要因によって引き起こされます。

  • 高い硬度
  • 低い熱伝導性
  • 加工硬化を起こしやすい
  • 大きい工具との親和性がある
  • 高い靭性(延性が大きい、粘りがある)
  • 強度が大きい
  • 硬質粒子が含まれた材料

切削障害のメカニズム

前項では、難削材を切削した際に起こりうる問題とその要因をあげました。
図2では、切削加工時にどのような力や熱が生じるのか、いくつかの要因とそれが起こるメカニズムを紹介します。

難削材について|図2 切削の基本モデル
図2 切削の基本モデル
  • 図2から、切削工具の刃先がワークに食い込むと刃先に合った部分はせん断力が生じ、切りくずとして材料本体から切り離され、刃先のすくい面に沿って排出されます。 切りくずの厚さは、せん断域を生じたときのせん断角の大きさで決まります。 切りくずは材料によっては加工硬化を起こし、硬度が上がり、刃先に負担が掛かります。そして条件によっては構成刃先を生成し、構成刃先がワークの切削を行うことで加工面の精度が悪くなります。
  • 切削によって、刃先からの切削熱、切りくずと刃先間の摩擦熱、刃先と加工面との摩擦熱が生じ、大きな熱が刃先に掛かります。発生した熱は切りくずに伝熱されて外に逃げますが、材料の熱伝導度が低いと熱は外に逃げずに刃先に熱が加わります。 刃先に熱が加わると刃先に切りくずが凝着し、刃先を摩耗、損傷させる要因となります。
  • 刃先には、切削速度や送り量による切削力と摩擦力が合わさった切削抵抗が掛かります。

以上のような力や熱が刃先に掛かるため、刃先には摩耗や損傷が起こり、加工面の仕上がりや精度に影響を及ぼします。

難削材の種類と特長および使用方法

難削材の種類には多くの材料が含まれます。
ここでは表2の材料から難削材を中心として、注意すべき被削性の材料を取り上げ、その特徴と切削の障害因子について紹介します。

〈表3 難削材の種類と特長〉
材料名称 特長 切削の障害となる因子 主な用途 備考
ステンレス鋼 SUS304はオーステナイト系ステンレス鋼で、耐食性に優れています
他の系のSUS鋼と違い、磁性がない
・加工硬化性が大きい
・熱伝導性が低い
・切削温度が高いと刃先と融着を起こす
・硬度:HV=168、靭性・延性が大きい
・加工硬化を起こしやすい
・工具との親和性が高い
・建築材料
・食器
・機械部品
・腐蝕環境下での配管やバルブ
SUSは他にフェライト系、マルテンサイト系があります
耐熱合金インコネル NiベースのCrとFeの合金で、耐食性、高温強度に優れた耐熱材料です
インコネル600は500℃以上の超高温度で使用できます
・熱伝導性が低い
・工具材との親和性が高い
・加工硬化しやすい
・ガスタービン
・ジェットエンジン
チタン チタンの特徴は、高強度・耐食性・軽いこと・耐熱性です
チタンは、Fe5%、O10%、残りTiの成分です
硬さHB=140、密度4.5g/cm3、引張強さ45kgf/mm2です
・熱伝導性が低い
・密度が小さく、工具と切りくずの接触域が狭い
・高温下表面で、窒化物・酸化物・炭化物を形成しやすい
・化学的親和性が高い
・宇宙、航空関連
・原子力発電
・海洋
チタン合金は、Al;やNiを混ぜたチタンで強度と耐食性を向上させます
ニッケル合金 ニッケルの成分を50%以上とした金属合金です
Niは腐食や酸化に対する耐性を有します
ハステロイXはNi47%、Mo9%、Fe18%、Cr22%の耐食性に優れたニッケル合金です
モネルも、Ni63%、Fe2.5%、Cu28%、Mn2%の耐腐食性ニッケル合金です
・硬度が高い
・熱伝導率が低い
・加工硬化が著しい
・蒸気発電所配管
・化学プラント装置
・工業用熱交換器
・海洋構造物
・ジェットエンジン
銅は純銅と銅合金があります
銅は金の他に光沢を有する金属です
銅は軟らかすぎて加工が難しいと感じられます
・硬度が非常に低い(軟らかい)
・展性・延性に富みます
・熱伝導度が高い
・調理製品
・楽器
・時計
・ボルト、ナット
・被削性指数は40程度です
・銅合金も基本的に同じです
マグネシウム合金 マグネシウムは最も軽い金属です
マグネシウム合金の切削抵抗は小さく、加工しやすいことが特徴です
ただし、マグネシウムは着火し易く激しく燃焼しますので、防火対策が欠かせません
・比熱が小さい
・着火し易く、激しく燃焼する
・加工硬化率が高い
・ノートパソコン
・携帯電話
・電子機器部品
・自動車や航空機の軽量部品
・被削性指数は500以上です
アルミ合金 アルミ合金は添加物質ごとに、1000番台から7000番台まであります
ジュラルミンは、A2017です
2000番台はCuを4~5%含むのが特徴です
他にFe、Mn、Cr、Siなどを若干含みます
・融点が低い(約600℃)
・熱伝導率が高い
・延性が高い
・硬度は低い
・航空機用材
・各種構造材
・被削性指数は140以上です
鋳鉄 ネズミ鋳鉄FC20が代表的な鉄の鋳物です
硬度がHB:80程度で、C3.4%、Si3%、Mn0.4%、PやSを微量含みます
耐摩耗性と熱伝導度が良く、鋳造・被削性に優れていることが特徴です
・切削抵抗が小さい
・熱伝導率が低い
・加工硬化性が高い
・延性が低い
・切くずが細かく分断される
・一般機械部品 ・被削性指数は50以上です

難削材の特徴と対応する切削方法

どのようなプロセス・要因で難削材となるか、そしてその対策について紹介します。

難削材の要因と対策

難削材の特徴となる切削加工に不具合を生じさせる要因は難削材の種類ごとにさまざまですが、共通の要因も多数あります。
ここでは共通する要因を中心に、それが発生する状況と対策について説明します。

熱伝導性が低い場合

発生状況

切削時に発生する切削熱は、切りくずの排出に伴って70%程度が奪われます。
材料の熱伝導性が低いと切りくずに切削熱が取り込まれないため、発生した熱量はそのまま刃先に加わって熱衝撃で損傷します。

対策
  • 切削速度を下げ、送り量を減らすよう切削条件を変更することで、刃先に発生する切削熱を減少できます
  • 冷却性の高い油剤を大量に噴射し、刃先の温度を下げます

加工硬化の大きい材料

発生状況

切削点の温度が高くなると加工硬化を起こしやすく、加工硬化した材料は硬度が大きくなるため刃先が材料に食い込みにくくなったり切削できなくなったりします。そして、刃先の摩耗が激しくなります。
また材料は、加工硬化によって脆く延性がなくなるため、破損する可能性があります。
加工硬化を起こした切りくずが粉状となって刃先に付着し、刃先を摩耗・損傷させます。

対策
  • 耐摩耗性のある工具に交換します
  • コーティングされた工具であれば、さらに摩耗を抑制できます
  • 切りくずが粉状にならないようすくい角を調整し、切りくず排出管理を行います
  • 温度が高くなることで加工硬化しやすいため、刃先の切削点に対し冷却性の高い油剤を大量に噴射します

工具との親和性の高い材料

発生状況

工具との親和性が高いと切粉が刃先に付着しやすくなるため、切れ刃のチッピングによる損傷が起こり、仕上げ面の精度が悪くなります。

対策

材料との親和性が高くない工具に変更します。

切削データが少ない材料

発生状況

はじめて切削する材料で、実験も含め切削データがない場合があります。

対策

材料特性なども不明なため、超硬合金工具を使って、切削を行います。

硬度が高い材料

発生状況

材料の硬度が高いことで、工具の切れ刃の摩耗が大きくなったり欠損を起こしたりします。
また切削抵抗が大きいことで刃先がワークに食い込みにくくなり、加工精度が悪くなります。

対策

刃先強度の高い工具に変更します。

 

切りくずのできやすい材料

発生状況

切削部の高温度と切削抵抗力から切りくずが刃先に凝着し、構成刃先が生成され、刃先の一部のように工作物に食い込み切削を行います。
構成刃先は生成と脱落が短い時間で繰り返されるため、刃先の損傷と仕上げ面の品質低下が起こります。

対策

構成刃先ができたときは切削速度を上昇させ、切削温度を上昇させます。温度が上がることで、構成刃先が溶融し生成が止まります。

難削材別の対策

表3で紹介した難削材について、具体的な対策についてご紹介します。

〈表4 難削材の対策例 〉
材料名称 切削の障害となる因子 難削に対する対策 備考
ステンレス鋼 ・加工硬化性が大きい
・熱伝導性が低い
・切削温度が高いと刃先と融着を起こす
・硬度:HV=168、靭性・延性が大きい
・工具との親和性が高い
・切削速度と送り量を下げ、発生熱を減少させます
・高い冷却性油剤を多量に噴射し、刃先温度を下げます
・硬い材料対応で、すくい角が大きい工具に変更します
耐熱合金インコネル ・熱伝導性が低い
・工具材との親和性が高い
・加工硬化しやすい
・切削速度と送り量を下げ、発生熱を減少させます
・高い冷却性油剤を多量に噴射し、刃先温度を下げます
・材料に溶着しない切削工具に変更します
チタン ・熱伝導性が低い
・密度が小さく、工具と切りくずの接触域が狭く、構成刃先ができやすい
・高温下表面で、窒化物・酸化物・炭化物を形成しやすい
・化学的親和性が高い
・切削速度と送り量を下げ、発生熱を減少させます
・切削油剤は耐熱性が良く、極圧添加剤を多く含む油剤を用いて構成刃先背性防止します
・構成刃先ができやすいため、刃先を別の工具にするかコーティングを施します
ハステロイ
(ニッケル合金)
・硬度が高い
・熱伝導率が低い
・加工硬化が著しい
・工具摩耗に強い、切削工具への変更
・切削速度、送り量を減少させ、発生熱を下げます
・冷却性の高い油剤の噴射量を大量にして、刃先温度を下げます
工具は損傷前に定期交換します
・硬度が非常に低い(軟らかい)
・展性・延性に富みます
・熱伝導度が高い
・融点が低い
・銅切削時は切削速度を早くして加工します
(切削速度が遅いと、加工面の品質低下につながります)
・切削による温度が上がっても、切りくずとともに排出されます
切削速度が遅いと、熱が残って、材料を溶かして刃先に影響します
・切削温度が材料と刃先に溜まらないように、切れ刃のすくい角度は大きくします
マグネシウム合金 ・比熱が小さい
・着火し易く、激しく燃焼する
・加工硬化率が高い
・マグネシウムは切削しやすい材料です
・加工硬化によって切粉が刃先に付着すると、刃先の腐蝕の他に、熱で発火する恐れがあります
マグネシウム合金の切削加工時には、消火器が必要です
アルミ合金 ・融点が低い(約600℃)
・熱伝導率が高い
・延性が高い
・硬度は低い
・切削時は切削速度を早くして加工します
・切削による温度上昇で、材料と刃先が融着する恐れがあるため、切れ刃のすくい角度は大きくします
鋳鉄 ・切削抵抗が小さい
・熱伝導率が低い
・加工硬化性が高い
・延性が低い
・切くずが細かく分断される
・切削熱が外に逃がせず、加工硬化性が高いため、切粉が刃先に凝結する恐れがあり、切削温度を上げて鋳鉄の溶融温度1200℃にならないよう注意します

難削材でなくとも、切削条件や切削工具の位置、切りくずの管理、潤滑油材の投入などを誤れば、難削材になってしまうことがある点にも注意が必要です。
例えば、延性と粘りにある切削しやすい金属でも、加工条件を誤れば、簡単に構成刃先が生成されます。
すぐに対応を取れば問題は起こりませんが、対策を誤れば、構成刃先で材料を切削し続けることになります。

難削材は材料ごとの特性や成分が異なるため、その対策はさまざまです。
例えば、切りくずの状態、切削抵抗の変化の違いなどが材料ごとに異なるため、本記事を参考に十分な検討と過去の(できれば他者の)加工データを参照すると、的確な対応が可能でしょう。

塑性加工 徹底解説シリーズ 金属材料 除去加工

この記事の著者・監修者

甲斐 智
甲斐 智(Satoshi Kai)

1979年 神戸生まれ、多摩美術大学修了後、工作機械周辺機器メーカーに入社。
2020年に株式会社モノトを設立。長年に渡り工作機械業界・FA業界のWebマーケティングに携わる。
researchmap ID:R000028669
J-GLOBAL ID 202101006017437323

XLinkedInFacebookInstagramnote

所属
掲載・登録
運営サイト

難削材 とあわせて読みたい技術コラム