
押出し加工とは?押出し加工のメリットと分類・押出加工機
- 更新日:
- 2025/02/07 (公開日: 2020/06/17 ) 著者: 甲斐 智
押出し加工は、金属を金型の穴から押して出す「塑性加工」のひとつです。
押出しは、「引抜き」とあわせて、
切削加工で使われるバー材の大量生産
にかかせません。
身近なアルミサッシをはじめ、ダイ(金型)の穴を変えることで、線・丸棒・角棒など、さまざまなカタチに対応。
圧延や引抜き加工ではつくることができない、ヒートシンク・ハニカム材などの複雑断面をもったバー材の成形や、管・針金・チューブなどの芯材の加工もできます。
この記事では「押出し」の基本や用語、押し出しで使われる機械を解説します。

押出し加工ってどんな加工?
押出しは、コンテナとよばれる耐圧容器に素材を入れ、押棒で「押出す」塑性加工法です。
コンテナの先には穴のあいたダイ(金型)があり、ダイの穴とおなじカタチのバー材を成形することができます。
押し出しの材料には、「連続鋳造」でつくられたビレット(厚い金属材料)が使われます。
高温(熱間)で加工を行うため素材の変形抵抗が小さく、少ない圧力で押し出しができます。
押出加工:引用元: 一般社団法人日本アルミニウム協会「押出加工」
押出加工はアルミニウムやアルミ合金を400~500℃の熱間で押出す加工方法です。
一般には円柱の鋳塊(ビレット)を押出機を用いて、強い圧力を加えて各種の形状をもつダイス穴から押出して、細長い加工製品(押出材)をつくります。
精度が必要な棒材の押出しは、常温(冷間)で行われる場合もあります。
押出し加工のメリットとデメリットとは

押出し加工のメリット
押出し加工のデメリット
押出し加工の種類について

押出し加工には、ビレットの押し出し方向や、加圧方法によってさまざまな種類に分けられます。
ポピュラーな「直接押出し」と「間接押出し」を中心に解説します。
直接押出し(前方押出し)

コンテナに加熱したビレットを入れて、ラム(押棒)で押し出す加工法です。
もっとも一般的な押出し加工で、アルミニウ棒材などの成形に使われています。
ラムで押し出されたビレットは、ダイの穴形状にあわせて成形されます。
ビレットをラムの進行方向「前方」へ押し出すため、「前方押出し」ともよばれます。
コンテナの内壁に摩擦が発生するため、大きな押し出し圧力と強固なコンテナが必要です。
押し出し「はじめ」と「終わり」で圧力が変わるため、成形が安定しないことがあります。
ダイの穴の近くでは、素材が流動しない「デッドメタル領域」が発生するため、すべてのビレットを出しきることはできません。
間接押出し(後方押出し)

コンテナにビレットを入れて、ラム(押棒)先端のダイで押し出す加工法です。
アルミニウム合金などの成形に使われています。
ビレットは、ラム先端のダイの穴のカタチにあわせて成形されます。
ビレットをラムの進行方向とは逆の「後方」へ押し出すため、「後方押出し」ともよばれます。
コンテナ内壁に生じる摩擦が少ないため、小さな圧力で安定した押し出しが可能。
押し出し「はじめ」から「終わり」まで圧力が均一なので、成形が安定します。
摩擦が少ないためビレットが発熱しにくく、ヒビやワレが発生しません。
静水圧押出し

液体の入ったコンテナにビレットを入れ、ラム(押棒)で押し出す加工法です。
長い材料や複合材などの成形に使われています。
ビレットは液体で加圧され、円すいダイの穴のカタチにあわせて成形されます。
ビレットが高圧液体(粘性の流体)で覆われるため、コンテナ内壁に摩擦が生じません。
摩擦がないため加工温度が低く、小さな圧力でも安定した押し出しが可能。
水圧によって、ビレットのヒビやワレを防ぐこともできます。
中空押出し

中空押出しは、パイプや管などの中空製品を押し出す加工法です。
ダイ先端のマンドレルでビレットに穴をあけ、「直接押出し」とおなじ要領で押し出し。
穴あけ工程は「ピアシング(穿孔加工)」とよばれ、内径の大きい管には「エキスパンション(拡孔加工)」が行われます。
高圧力による温度上昇を抑えるため、潤滑剤には「ガラス」を使用。
ガラスによる潤滑で材料の焼き付きを防ぎ、材料の流動性がよくなり、長い管材を成形することができます。
コンフォーム押出し

コンフォーム押出しは、「回転ホイール」と「固定シュー」による加工法です。
線材を回転ホイールに挿入し、固定シューを押し付けて引き込み。
線材の進む先にダイが固定されており、行き場を失った線材がダイ穴から押し出されることで成形されます。
連続押し出しができ、長い線材や細いバー材の成形に使われます。
押出し加工の用語

デッドメタル
コンテナ内のダイ付近では素材が停滞して、「デッドメタル」が発生。
デッドメタルは押し出しを阻害したり、製品に混入して不良品の原因にもなります。
ダイの設計や摩擦力を低下させる潤滑剤で対策します。
テアリング
テアリングとは、製品「表面」についた微小のキズやヒビです。
テアリングの原因は、以下のようなものがあります。
- ダイに付着したビレット片によるカキキズ
- せん断による、ビレットのワレ
- ビレット内部の温度差による、不純物の混入
- 不安定な押し出しスピードによる、金属流動のかたより
シェブロンクラック
シェブロンクラックとは、製品「内部」にできる亀裂です。
ビレット固有の内部不良や、ダイの設計ミスによる流動の不順が原因となります。
シェブロンクラックの発生は外見ではわからないため、注意が必要です。
加工温度による押出し加工の分類


押出し加工は、加工する温度によって「熱間」「冷間」「温間」に分けることができます。
押出し加工は、コンテナ内のビレットの「流動」が重要となります。
ビレットの「流動」には、加工温度の選定がかかせません。
ビレットを加熱することで、流動性を高くし、ダイの穴から金属を押出します。
「熱間」の押出しが主流ですが、潤滑剤や機械の進歩によって、「冷間」での押出しも増加。
冷間押出しによって、寸法精度の高いバー材や特殊素材の押し出しも実現します。
熱間押出しとは
ビレットを「再結晶温度以上」に加熱し高温状態で押し出す加工法で、もっとも一般的な押出し加工です。
加熱温度は素材によって違いますが、鋼で1000℃以上になります。
素材の変形抵抗が低いため、1回の押し出しで大きく圧縮できます。
ユージンセジェルネ法による、潤滑剤を使った押出し
鋼の「熱間押出し」で使われる、潤滑剤にガラス粉末を使った加工法です。
加熱したビレット表面にガラス粉末をふりかけ、コンテナ内部にガラス片を投入。
ビレットにガラス皮膜ができるためコンテナ内壁に摩擦がなく、小さな圧力でも安定した押し出しができます。
製品の表面に張ったはガラスの皮膜は、冷却後に洗浄して除去。
難加工材の成形にも応用され、油性剤やグラファイトなどが潤滑剤として使われています。
冷間押出しとは
ビレットを「再結晶温度以下」の常温で押出しをする加工法です。
寸法精度がよいため、ピストンやギヤ部品などの自動車部品に多く使われています。
素材の変形抵抗が高いため、大きく圧縮することはできません。
熱間押出しにくらべ、さまざまなメリットがあります。
冷間押出しのメリット
温間押出しとは
熱間押出しと冷間押出しの「中間温度」で成形する方法です。
加熱温度は素材によって違いますが、およそ600~1000℃の温度になります。
「表面の酸化を抑えたいが、冷間では押出しできない」など、熱間・冷間の両方のメリットが得られます。
押出加工機(押出プレス)について
押出機は、ラムに強い圧力をかけてビレットを押し出す機械です 。
熱間押出しで成形されたバー材は、1本につき数十メートルにもなるため、冷却用の「クーリングテーブル」や、歪みを矯正する「ストレッチャー」を備えています。
押出機は、圧力の駆動方式とコンテナの向きによって分けられています。
一般的な押出しでは、「横型 油圧式押出機」による熱間直接押出しがよく使われます。
駆動方式による押出機の分類
液圧式押出機

押出しでは一般に「液圧式」を使います。
- 油圧式押出機
-
油圧式押出機は、「直接油圧駆動式」の押出機です。
構造がシンプルで強度が高いため、冷間押出しから冷間押出しまではば広く使われます。押出し圧力が一定なため、成形が安定します。
押出しスピードは、50~200mm/s ほどです。
- 水圧式押出機
-
水圧式押出機は、「アキュムレーター駆動式」の押出機です。
油圧式とくらべ、液体のメンテナンスがかんたんで、大型の機械に採用されています。油圧式にくらべ、熱間の過熱による火災・事故などの心配がありませんが、押し出し中の圧力が落ちます。
押出しスピードは、300mm/s 以上になります。
機械式押出機

- 小型押出機
-
「モーター駆動式」や「スクリュー回転式」などの小型の押出機です。
ゴムやプラスチックなどの押出し成形で使われます。
コンテナの向きによる押出機の分類
横型押出機
コンテナとラムを水平方向に配置した押出機です。
もっとも使われています。
縦型押出機
コンテナとラムを垂直方向に配置した押出機です。
押出し加工とは?まとめ
この記事では「押出し」の基本や用語、押し出しで使われる加工機械を紹介しました。
押出し加工は金属だけでなく、樹脂やセラミックスなどにもはば広く使われるメジャーな加工法です。
押し出しによる金属の特性を知ることで、機械設計や切削加工の助けになればうれしいです。