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【徹底解説】チッピングとは?発生要因とメカニズム、対策を紹介

【徹底解説】チッピングとは?発生要因とメカニズム、対策を紹介

更新日:
2024/03/18 (公開日: 2024/03/18 ) 著者: 甲斐 智
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塑性加工徹底解説シリーズ除去加工
     

切削加工では、工具がワークの金属内に入り込むために薄くて硬い金属を用いる必要がありますが、薄いがゆえに摩耗やチッピングのような損傷がもたらされやすくなります。
ある程度の摩耗やチッピングの発生は仕方のないことですが、使い続けるほどに損傷は大きくなり、そのまま削り続けていけば工具の破損に至ることは容易に予想できます。
そのため加工に携わる人には、工具寿命を長く、しかも加工精度が維持できる加工方法を考え・実験して最適な方法を見つけ、さらにもっと良い方法を検討・改良し続けることが求められます。

このコラムでは、工具を損傷させるチッピングについて解説し、工具の損傷を軽減するための方法等を紹介します。

チッピングについて|このコラムでは「徹底解説シリーズ」と題して、いつもより一歩踏み込んだ内容でお送りしています。日頃の業務のお役に立てれば幸いです。
このコラムでは「徹底解説シリーズ」と題して、いつもより一歩踏み込んだ内容でお送りしています。日頃の加工や業務のお役に立てれば幸いです。

チッピングとは

ここではチッピングとは何かについて、イメージ図を交えてご紹介します。さらに、工具の材料とその機械的性質や、チッピングが発生しやすい材質とその特徴を解説します。

切削工具の刃先のさまざまな不具合

チッピングとは、切削刃の微小な欠けのことをいいます。
切削を行うと、切削する刃にはチッピングも含め次のような不具合が起こります。

  • 摩耗
  • クレータ摩耗のような異常摩耗
  • チッピング
  • 欠け
  • 破断

切削は、工具の金属とワークの金属が接触しながらワーク金属を除去していくため、摩耗は必ず起こります。
問題は加工条件の変化などで摩耗が急激に増えたり異常摩耗が起こったりすることで、これらは管理を徹底することで避けられます。
チッピングの発生は、切削条件や切りくずが安定していないことなどからある程度予想できます。
そしてチッピングを放置すると、欠けや破断のような異常へ進行します。これらも、管理の徹底により避けることが可能です。

チッピング

チッピングは、「切削によって切れ刃に生じた小さな欠け」とJISで規定されています。いわゆる「ギザギザ」が、切れ刃に生じたものです。
一方、欠損は「切削によって切れ刃に生じた大きな欠け。通常、欠損が生じると切削が困難となる」とJISで規定しています。
図1はチッピングや欠けのイメージです。

チッピングについて|図1 切削工具の損傷
図1 切削工具の損傷
JIS B 0170 「切削工具用語」の図を参照

切削工具の機械的性質

チッピングは、切削工具とワークの硬度と靭性の大きさがひとつの要因です。靭性とは、「もろさ」のことです。
別の要因としては、切りくず粉が刃面に高温の切削熱で融着し、それが剥がれたときに刃の微小部分も剥がれることなどがあげられます。
図2は切削工具の材料と機械的性質についてまとめました。
工具で最も良く使用されるハイス(高速度工具鋼)と超硬合金の他に、超硬合金のサーメット、セラミックス、ダイヤモンド焼結体を比較しています。

チッピングについて|図2 工具材料と特性
図2 工具材料と特性

これらの材料の特徴は、次の表1のようにまとめられます。

〈表1 工具材料と特長と対象ワーク〉
材料 特長 主な対象ワーク
ハイス
(高速度工具鋼)
・硬さがある
・靭性が大きい
・耐熱性、耐摩耗性が悪い
・炭素鋼
・合金鋼
超硬合金 ・硬さがある
・靭性はハイスより悪い
・耐摩耗性がある
・炭素鋼
・合金鋼
・ステンレス鋼
・難削材
サーメット ・超硬合金とセラミックの特徴を有する ・炭素鋼
・合金鋼
セラミックス ・高温での硬さがある
・靭性が小さく欠けが出る
・鋳鉄
・耐熱合金
・工具鋼
ダイヤモンド焼結体 ・耐熱・耐摩耗性
・鏡面面切削
・ダイヤモンドは靭性が小で欠けが出るが、焼結体のため靭性が改善
・非鉄金属
・セラミックス

表から、ハイスと超硬合金は、通常の切削加工では、チッピングは起きにくいことが分かります。

チッピングの発生要因

チッピングが起こるとワークにどのような影響が出るかを紹介します。またチッピングが発生するメカニズムをイメージ図で概説し、チッピングの発生要因について解説します。

チッピングの影響とその予防

刃先の問題である摩耗・チッピングによって、ワーク側には加工精度が悪くなるという影響が出ます。
しかし、事前に次のような予兆が生じるため、それらを管理することで影響を小さくできます。

  • 仕上げ面が荒れ(きれいでない)始める
  • 大きいバリが出始める
  • 加工精度が悪くなる(寸法から外れる)
  • 加工音が大きくなる
  • 切りくずの色や形が変化している

チッピングが起こるメカニズム概要

切削のイメージを、図3に紹介します。

チッピングについて|図3 切削イメージ
図3 切削イメージ

工具に掛かる力は、次の力に対する切削抵抗力です。

  • 切削力
  • すくい面から切りくずが流れる摩擦力
  • 逃げ面と切削面の間の摩擦力
  • 切削による加熱温度による抵抗力

上記のような抵抗力がワークに発生し、さらに機械衝動などが加わると刃先にチッピングが生じ易くなります。
また刃先は切削熱によって高温になるため、切りくず粉が刃先に融着しやすくなります。そして融着したものが刃先から剥がれる際にもチッピングが生じます。

チッピングが生じる要因には、工具の材質や不具合による切削抵抗だけでなく、

  • 切削機械の調整不足
  • ワーク固定状況不足
  • 切削条件の不適合

などにより、切削抵抗がより大きくなることも要因となります。

チッピング発生要因

以下にチッピングが起こる要因を列挙します。

解説記号 要因  詳細
a 機械調整 機械的衝撃や振動、繰り返し応力によって、工具刃先の靭性を含む限界強度を超過したときに発生します
b 加工条件 工具の切削熱によるひずみや衝撃、応力が繰り返しかかり、工具刃先の靭性を含む限界強度の超過が局所的に生じたときに起こります
c 切りくずの付着 高圧状態でワークの一部が局所的に付着した後、付着強度が結合強度を超えたときに付着物が脱落するとチッピングが起こります
d 切りくずの嚙み込み 切りくずの噛み込みがあると、切りくずは加工硬化によって硬度が高くなっているため、傷が生じてチッピングに発展します
e 切削工具 ワークの硬度が高いのに対して、工具の硬度がマッチングしていない場合に起こります
f 加工条件 送り量が過大になると、切削抵抗が増して切れ刃への負担が増加し、チッピングが起こります
g 機械調整(振動) ドリルの場合、工具にビビリ振動が生じると切れ刃に周期的に切削抵抗が加わり、チッピングが生じます
h 切削工具 逃げ角が大きい場合、刃先の強度が不足してチッピング起きやすくなります
i 切削工具 超硬合金材の工具は靭性が劣るため、ハイス材よりチッピングが起きやすい材質です
j 切削工具 マージン幅が小さいとトルク軽減ができますが、マージン幅が小さすぎるとチッピングを起こす要因となります

チッピングが起こる要因を整理すると、表2のようになります。
※表中の「対応する解説」は上記のa~jが対応します。

〈表2 チッピング発生要因 〉
分類 要因概要 対応する解説
機械調整
(振動)
機械的衝撃や振動、繰り返し応力による
a
周期的ビビリ振動による
g
加工条件 切削熱によるひずみ、衝撃、繰返し応力による
b
過大な送り量による
f
切削工具 ワークの硬度と工具の硬度がアンマッチングによる
e
小さすぎるマージン幅による
j
逃げ角が大きい場合による
h
靭性が劣る工具材の使用による
i
切りくず 高圧状態で付着した付着物の脱落による
c
噛み込みによる
d

チッピング対策

チッピングの発生要因をもとに、チッピングを発生させないための対応について説明します。

チッピングの防止

チッピングの要因 a) ~ j)への対応は、それぞれ以下の通りです。

解説記号 要因  対応策
a 機械調整

・靭性の高い材料の工具を使用します
・送り速度を下げます
・切込み角度を下げます
・工具のホルダを剛性の大きいものに変えます

b 加工条件

・耐熱のある材料の工具に変えます
・切削速度を上げます
・送りを下げます

c 切りくずの付着 ・ワークと工具の材料を、親和性が低い超硬合金のような材料に変えます
・工具のコーティングも有効です
・切削速度を上げます
・送りを上げます
・刃をホーニング(*注)して、刃のエッジ強度を向上させます
・刃先に付着させないように多量の切削油をかけます
d 切りくずの嚙み込み ・水溶性切削油剤を増やして、切りくずの排出をスムーズにします
・切削部分に切りくずの堆積防止を行います
・切りくずはチップブレーカの取付けで、切りくずを適切に排除します
e 切削工具 ・工具の材質を変更します
・ワークを焼きならしや焼きなましで、調整します
f 加工条件 送り量を下げます
g 機械調整(振動) ・ドリルの突き出し長さを短くし、ビビリを起こさないようにします
・ワークの取付けを緊密に行い、ビビリを起こさないようにします
h 切削工具(逃げ角) 逃げ角を大き過ぎないようにします
i 切削工具(材質) 超硬合金の硬さが必要なワークの切削には、じん性を向上させた超微粒子超硬合金(HF種)などの工具材料の変更も検討します
j 切削工具(マージン幅) マージン幅が大きすぎると摩擦熱による溶着やトルク増大につながり、工具寿命を短くし、加工精度が悪くなるため、適量のマージン幅とします

※注 ホーニングについて図4で紹介します。

チッピングについて|図4 ホーニング
図4 ホーニング

ホーニングは、鋭利な刃先から刃先に強度を持たせた刃先の面取りです。面取りには、角ばったチャンファーホーニングと、丸くした丸ホーニングがあります。
ホーニングの量が多いと、切れ味が悪くなるため、切削抵抗とワークの状態から、ホーニング量を決めます。

チッピング要因ごとの対応

チッピング状況別の対応を以下に示します。

①衝撃性チッピングの対応

  • 靭性の高い工具を使う
  • ホーニングを施す
  • 送り量の調整による切削条件変更

②溶着性チッピングの対応

  • コーティングの効果が大きい
  • 切削速度を遅くする
  • 切削油を幾分多めにかける。

③振動・衝撃によるチッピングの対応

  • 靭性の高い工具材を使用する
  • 剛性の高いホルダを使用する
  • 送りを低下させる切削条件の調整
  • 切込みを小さくする切削条件の変更

チッピング対応

図5は、チッピングの対応についてのまとめです。

チッピングについて|図5 チッピング対応図例
図5 チッピング対応図例

この記事では、チッピングの要因に対する代表的な対応策をご紹介しました。
切削工具には、ドリル、リーマ、エンドミル、バイトなどがあり、使用する工具の形状やそれらを駆動する機械も様々です。
またワークの素材やワークの加工方法も異なり、加工条件も異なります。
そのためチッピングが発生するメカニズムは個々の加工ごとにそれぞれ違っているはずで、対応も当然みな違ってきます。

ここで解説したチッピングが発生する基本的な要因やその対策をヒントに、加工ごとに当てはめていくことで、チッピングや摩耗、欠けといった不具合を避けることができ、工具の寿命を長くし、精度の良い加工が可能になるでしょう。

〈 チッピング の関連キーワード〉

塑性加工 徹底解説シリーズ 除去加工

この記事の監修者

甲斐 智(KAI Satoshi)
甲斐 智(KAI Satoshi)

1979年 神戸生まれ
多摩美術大学修了後、工作機械周辺機器メーカーの販売促進部門
15年以上に渡り、工作機械業界・FA業界のWebマーケティングに携わる
文部科学省「学校と地域でつくる学びの未来」参加企業

2020年に「はじめの工作機械」を立ち上げ(はじめの工作機械とは

所属
掲載・登録
寄稿・著書
SNS・運営サイト

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