【徹底解説】バリとは?バリの発生原因と抑制・除去方法を紹介
- 更新日:
- 2024/03/18 (公開日: 2024/03/18 ) 著者: 甲斐 智
金属を加工するときに避けられないのが、バリの発生です。
手で触っても感じられない程度の大きさでも内面にはやや大きなバリが隠れている可能性や、小さなバリでも後工程で大きな影響が出ることもあるため、バリ対策はとても重要です。
本コラムでは、バリの定義を確認し、バリが与える影響やバリの抑制・除去の方法などについてご紹介します。
バリとは
ここでは、バリについてJISの定義を確認します。そしてバリの生成過程や種類、バリはどのような加工のときに発生するかなどを解説します。
バリの定義
バリとは、「かどのエッジにおける、幾何学的な形状の外側の残留物で、機械加工または成形工程における部品上の残留物」とJISで定義されています。
(JIS B 0051「製図−部品のエッジ−用語及び指示方法」)
※JISではバリは「ばり」と定義されていますが、平仮名だと文章が読み難いため本コラムでは、「バリ」とカタカナ表記しています。
またエッジは、「2つの面の交わり部」と定義されています。(JIS B 0051)
図1はエッジとバリのイメージ図です。
(参考:JIS B 0051 )
エッジとは図1左上のように2つの面が交わった部分で、3つの面が重なる「かど」の部位をコーナーといいます。
バリとは、図1の左下の図のように、工作物がエッジから突き出した部分です。
図1右図のように、エッジの形状は垂直面の交差部分だけではなく、角度のある面との交差部もエッジです。
エッジの角度によって、生成されるバリの大きさが、変わります。角度が大きいほどバリの大きさが小さくなります。
バリの種類と発生
図2は、バリが発生する様子のイメージ図です。
金属の直方体のワークの表面を切削工具で切削加工すると、切削部分は圧縮応力がかかり塑性変形領域となります。
切削が進むにしたがって、塑性変形領域が切削方向に進むのを塑性流動といいます。
切削に伴い切削くずが出るのと同時に、切削方向と垂直方向に切削部分が流れていき、エッジにバリとして残ります。
図2右図は、切削が終了したときの様子です。エッジには、ポアソンバリとロールオーバーバリ、引きちぎりバリが残ります。
ポアソンバリ | ワークのエッジ部分に、切削工具による圧縮変形で生じるバリです ポアソンバリは、切削開始時やワークへの食い込み時にも発生します |
---|---|
ロールオーバーバリ | 塑性流動で切削方向の最終エッジに押し出されて残るバリです |
引きちぎりバリ | 切削のはじめと終わりに、ワークエッジ部にせん断による引きちぎり現象で生じるバリです |
加工方法とバリの発生
切削バリは次のような加工によって生じます。
加工種類 | 加工方法 | バリの種類 | 生成過程 |
---|---|---|---|
機械加工 | 旋削加工 フライス加工 ドリル加工 研削加工 |
切削バリ 研削バリ |
切削切りくずができたときに、ワーク素材の一部が塑性流動を起こし、バリが発生します |
塑性加工 | プレス加工 せん断加工 |
せん断バリ | ダイとポンチ間のすき間に、素材が塑性流動を起こし、バリが発生します |
鋳造加工 | 鋳造 プラスチック成形 |
鋳造バリ プラスチック成型バリ |
金型の合わせ面で、素材が塑性流動を起こしバリが発生します |
鍛造加工 | 鍛造 転造 |
塑性変形バリ | 型のフラッシュランドなどで、一部の素材の塑性流動によりバリが発生します |
付加加工 | 溶接 溶着 |
溶融凝固バリ | スポット溶接や摩擦溶接部周辺が盛り上がり、バリが発生します |
バリによる影響
バリが発生すると精度が維持できない半製品や部品が発生します。精度以外にも組立がうまくできない、動作不良の製品など、製造業にとっては致命的な問題が起こります。
バリによってどのような障害や影響が出るかについて解説します。
図3は、バリによって起こるさまざまな不具合のうちの代表的な4例です。
- 図3左上の測定誤差は、バリにより傾き、赤の正しい値aに対し、a1やa2の測定誤差が生まれます
- 図3右上のはめ合い不良では、穴の径がバリで狭まり、部品の挿入ができないか、挿入できても傾きが生じます
- 図3左下のバリの押し込みでは、バリを押し込むことで、製造品に欠陥が生じます
- 図3右下のバリによる傷害では、鋭いバリ先に振れて、怪我を負う危険があります
バリによる影響は図3の4例以外にも多くの影響が考えられ、それらを表2にまとめて、ご紹介します。
バリの影響 | 影響の具体的内容 | 備考 |
---|---|---|
測定精度 | ・図3では基準面に対して面が傾き正しい寸法が測定できません ・ワークの底面と上面の差には、バリの厚さが加わるため、求める公差内に入らない恐れがあります |
(図3参照) |
はめ合い不良 | ・ワークの穴に入れる部品が挿入できないことがあります ・バリの大きさが微小であっても、挿入する部品に傾きが生じる可能性があります ・穴の挿入部品が回転体であれば、バリによって回転不良、傷がつくなどの障害が起こります |
(図3参照) |
バリの押し込み傷 | ・2枚の金属片を重ねたときに、バリを押し込んでしまい、空洞が生じるなどの弊害が出ます ・バリによって、正しく組み付けができないと、製品の動作不良が起こります |
(図3参照) |
バリによる傷害 | ・バリが長く鋭角であれば、人身に怪我を負う危険があります | (図3参照) 労災になると対応が大変です |
バリの脱落 | ・バリが電子基板に脱落し、ショートさせます ・動作機械内に、バリが脱落して動作不良、性能不良が起こります |
– |
工具不良 | ・バリによって切削工具の寿命低下が起こります ・バリによって切削工具の切れ味が悪くなります |
– |
資材の機械強度不良 | 応力集中が生じ、材料の疲労強度を低下させます | – |
バリを除去する、バリが発生しない切削方法を選択するなどの対応が重要です
バリの抑制と除去
工作物にバリがないようにするためには、バリを除去することはもちろん、バリが出ないか、出ても極小になる抑制効果のある加工方法をできるだけ採用します。
バリの抑制方法や除去方法の紹介と、バリの出ない工具や装置をご紹介します。
バリの生成の抑制方法
切削加工を中心に、バリの抑制方法やポイントをあげます。
ワークの塑性変形領域を狭小化
- エッジ形状を鈍角化
エッジ部の交差角を大きく(135°以上程度)すると、バリができにくくなります - 加工数を少なくして加工抵抗を少なくする
- 耐摩耗性が大きい鋭利な切れ刃を持つ工具を使用する
- エンドミル加工をする
溝のような加工部では、予備切削を行った上で、さらにエンドミルで本加工します。
加工条件の変更
- ワークの進行速度、材料と工具の加工方法などを見直す
(ただし、現場の経験則によって左右されます) - ドリルで穴を開けるときに、出口側に皿もみ状にエッジ角を設ける
加工方式の見直し
- 切削工具を使用しない加工法を検討
例)電界加工、放電加工、エッチング加工など
切削工具の設計変更
- フェースミルの使用
フライス盤を使った切削工具による加工です - フラットドリルの使用
ドリル先端がフラットで、安定した穴加工です - ダブルアングルドリルの使用
ドリル先端刃をダブルアングルとし、ダイヤモンドコーティングしたドリル
バリの除去方法
表3では、バリの除去方法を紹介します。
切削時にバリの発生をゼロにすることは難しいですが、さまざまな除去方法があります。
一般的に、バリの高さが低く厚さが薄いほど、除去しやすくなります。
大分類 | バリ取り方法 | 方法例 | 備考 |
---|---|---|---|
機械加工 | 機械使用 | フライス盤などを使用してバリを除去します | – |
手仕上げ | 手仕上げ用道具でバリを除去します | – | |
ブラッシング | ブラシを使ったバリ除去です | – | |
砥粒加工 | 砥粒ジェット | 砥粒を気流で吹き付ける方式です | – |
砥粒流動 | 砥粒をバリのあるワークに流動させる方式です | – | |
バレル研磨 | 容器中にワークと砥粒を入れてかき回して表面を平滑化し、バリを除去します | 細かい部品のバリ取り | |
ベルト研削 | 研磨剤が付着したベルトでバリを研削します | ベルト研磨機にセット | |
熱加工 | 火炎使用 | 火炎でバリを加熱してバリを焼き取ります | – |
プラズマ | プラズマで加熱してバリを焼き取ります | – | |
抵抗加熱 | バリ部に通電、発熱させて除去します | – | |
化学的加工 | 化学研磨 | 薬品でバリを溶解(エッチング)し、バリを除去します | 薬品とは酸性の化学研磨液です |
化学的バレル | 電極のついたバレルポットを電解液中で回転させ、金属表面を電解反応によって、バリを溶解して平滑化処理を行います | – | |
電気化学加工 | 電解研磨 | 電解液中に研磨用ワークを入れて、通電後に液を上下に揺動し、ワーク表面を溶解させて研磨効果を発揮します | – |
バリ取り工具
バリ取りの工具や機械、装置やツールなどは多くの種類があります。
ここではそれらの中から10種類に絞って、仕組みやバリ取りの方法について解説します。
専用手工具
刃物でバリをなぞって除去します。
砥石やカッターを回転させ、バリを除去します。
研磨工具
研磨でバリを除去する工具です。
例)棒状のヤスリ、回転する研磨ベルト、研磨ディスクにバリ部を押し当てて除去する工具など
ブラシ
ナイロンブラシや金属ブラシでワークを摺り上げて、バリを除去する工具です。
ブラシを機械やハンドツールで回転させ、ワークのバリ部を押し当てて除去するものもあります。
バレル研磨機
ワーク、研磨剤、水、研磨補助剤(コンパウンド)をバレル(樽(たる))の中に混入し、相対摩擦によってワークを研磨してバリを取り除く装置です。
バレル研磨の方式には、流動式、遠心式、振動式、回転式があります。
流動式
底にある回転盤を回転して流動状態を起こし、研磨を行います。
遠心式
4個のバレルを、バレル自体の自転と、4個のバレル全体を公転のように回転させて、バレル内に遠心力を加え、研磨を行います。研磨力が強く、大きいものから微細なバリまで仕上げることが特徴です。
振動式
バレルに振動を加え、ワークと研磨剤が相互に摩擦することで研磨します。
回転式
バレルを速い速度で回転させ、すべり層でワークと研磨剤等が相互運動によって研磨する方式です。
回転中のバレルの上層部にあるワークが下方に落下してすべり層を作り出します。すべり層は常に循環し、ワークの研磨力を増長させます。
電解研磨
ワークを電解液中に浸漬して、ワーク側を+(プラス)電極、電解液中のカソードを-(マイナス)電極として、直流電源に接続します。
もしワークが箱型であれば、箱の内面にもカソードを入れて-電極とすれば、ワークの外面だけでなく、内面も研磨することができます。研磨の理論は、次の通りです。
通電によって金属イオンが電解液中に溶けだし、電解液とワークの間に抵抗の大きい粘液層を形成します。
ワーク側のバリの部分を山として仮定すると、山の頂上側の粘液層が薄いために抵抗が小さく、電流が流れやすくなります。逆に山の谷側では粘液層が厚く抵抗が大きいため電流が流れにくくなります。
電流が流れやすい山側は溶解が急速に進み、山は平滑化して研磨された状態となります。
ウォータージェット加工機
超高圧に加圧された水を、超高速で噴出させたのが、ウォータージェットです。このウォータージェットの水流を調節し、切断・穴あけ・剥離・掘削・バリ取りなどが行われます。
熱影響が少なく、素材に応力が残らず、素材の改質などがないという利点があります。
ウォータージェット加工には、アブレイシブ加工とハイドロジェット加工があります。
アブレイシブ加工
噴出した水流に研磨剤を混合させ、その先の細いノズルから噴出した水流で切断などを行います。より固い材料を高精度に加工します。
ハイドロジェット加工
研磨剤を含まない水流で切断などを行います。
エアーブラスト加工機
研磨剤をエアーで投射して、ワークに衝突させてバリを研磨する方式です。
均一な衝突では、角があるものが優先的に削除されやすいという性質を利用しています。
この方式を用いた装置では、大量のワークを一度に処理できるという特徴があります。
磁気研磨機
磁気研磨機ではバレルの下に内蔵された磁気盤が回転し、N局とS局が交互に変換します。
バレルの中にはワークと磁性メディア、洗浄液が入っており、磁気盤の回転によって洗浄液の中で磁性メディアが高速回転することで、ワークと磁性メディアが擦れ合ってバリが除去されます。
複雑な水流で細部にわたって研磨が可能になることが特徴です。
砥粒流動加工機
砥粒流動加工は、粘弾性のポリマーと砥石を混ぜ合わせたメディアをワーク内部に流し込み、砥石メディアとバリがぶつかり合ってバリの除去と内面の研磨加工を行います。
砥粒流動加工機は、油圧駆動で、適当な圧力の砥石メディアが双方向に押し出され、加工が行われます。
複雑な内面を含む内面加工に適しており、高い精度での仕上げが期待できます。
サーマルデバーリング
燃焼ガス(メタンや水素など)と酸素の混合ガスを、ワークの入った密閉容器内で加圧し、その後スパーク点火プラグで瞬間的な爆発的燃焼を発生させます。
バリは即座に酸化されて酸化物となり除去されます。ワークはバリよりもはるかに大きいため、瞬間的熱では損傷しません。