HOME > 工作機械がわかる > 【徹底解説】SUS430とは?SUS430の特性と切削の注意点を紹介
【徹底解説】SUS430とは?SUS430の特性と切削の注意点を紹介

【徹底解説】SUS430とは?SUS430の特性と切削の注意点を紹介

更新日:
2024/03/18 (公開日: 2024/03/18 ) 著者: 甲斐 智
関連タグ:
塑性加工徹底解説シリーズ金属材料除去加工
     

鉄、鉄鋼は、硬く強度が高く何にでも加工できます。しかし、許容できない欠点がひとつあり、それが「錆びる」ことです。
錆の対策には塗装やコーティングがありますが、定期的に塗装剥げがあれば再塗装というメンテナンスが欠かせません。
鉄鋼の「錆びる」という欠点をクロム金属を配合することで改善したものが、ステンレス鋼です。錆の発生しない鉄であれば、日用品から大型建築物、プラント設備など幅広い需要があります。

本コラムでは、フェライト系に属するステンレスSUS430を中心に、ステンレス鋼についての特性やSUS430の切削加工について紹介します。

SUS430について|このコラムでは「徹底解説シリーズ」と題して、いつもより一歩踏み込んだ内容でお送りしています。日頃の業務のお役に立てれば幸いです。
このコラムでは「徹底解説シリーズ」と題して、いつもより一歩踏み込んだ内容でお送りしています。日頃の加工や業務のお役に立てれば幸いです。

SUS430とステンレス鋼

ステンレス鋼について、それぞれの種類や組成を紹介します。またステンレス鋼の種類ごとの機械的性質と物理的性質を、SUS430を中心に解説します。

SUS430とステンレス鋼

ステンレス鋼は鉄にクロムCrを入れた合金で、「さびない鉄鋼」として利用されます。
JISG0203用語では「ステンレス鋼はCrの含有率を10.5%以上、炭素の含有率を1.2%以下として耐食性を向上させた合金鋼です」と、定義されています。

SUS430とステンレス鋼の種類

ステンレス鋼の種類は、基本的には次の5つの種類があります。

  • オーステナイト系
  • フェライト系
  • マルテンサイト系
  • オーステナイト
  • フェライト系
  • 析出硬化系

ステンレス鋼の種類ごとに、属する種類をJIS記号で分けると、表1のようになります。

〈表1 ステンレス鋼の分類 〉
分類 種類記号例 分類 種類記号例
オーステナイト系 SUS301 フェライト系 SUS405
SUS301L SUS410L
SUS304 SUS430
SUS304Cu SUS430LX
SUS304N1 SUS430J1L
SUS304J1 SUS434
SUS310S SUS444
SUS316 SUSXM27
SUS316L マルテンサイト系 SUS403
SUS316N SUS410
SUS316Ti SUS410S
SUS316J1 SUS420J1
SUS317 SUS440A
SUS321 オーステナイト・フェライト系 SUS329J1
SUS347 SUS329J3L
SUS890L SUS329J4L
SUSXM7 析出硬化系 SUS630
SUSX15J1 SUS631
◎SUS304記号の後のLは低炭素鋼、J1は低Ni、Cu追加のように、元のステンレスSUS304の性質を改善したものです

それぞれの違いを以下で解説します。

オーステナイト系

SUS304が代表で、常温でオーステナイト組織を示します。
クロムとニッケルを主成分とし、もっとも耐食性に優れている、低高温時の特性に優れるなどの特徴があります。
一般的製品の他、化学・原子力などのプラント部材に使用されます。

フェライト系

SUS430が代表で、Cr>10.5%有して、常温でもフェライト組織を示します。
耐食性が優れ安価であるため、一般的な製品に使用されます。

マルテンサイト系

SUS410が代表で、炭素量を増やし、熱処理で硬化させてマルテンサイト組織とします。
焼き入れによって、非常に硬い金属組織に変化します。
耐食性に優れ、高強度・耐熱性にも優れ、ポンプ・タービンなどの部材に使用されます。

オーステナイト・フェライト系

SUS329が代表で、常温でオーステナイト組織とフェライト組織とが混在します。
クロムとニッケルを主成分とし、応力腐食割れが生じにくい特徴があり、海水用復水器や熱交換器のプラント装置部材に使用されます。

析出硬化系

SUS630が代表で、アルミニウム、銅、他の元素を添加して、熱処理によって添加した元素の加工物が析出し、硬度が高くなったという特徴を有します。
タービンやスプリング部材に使用されます。

SUS430と各種ステンレス鋼の組成

各種ステンレス鋼の組成の構成について、SUS430のフェライト系を中心に整理し、どのような点に違いがあるか見てみましょう。

〈表2 各種ステンレス鋼の組成(%) 〉
種類 記号 C Si Mn P S Ni Cr Mo Cu N その他
オーステナイト系 SUS304 <0.08 <1.0 <2.0 <0.045 <0.03 10 20
SUS304L <0.03 <1.0 <2.0 <0.045 <0.03 13 20
SUS316 <0.08 <1.0 <2.0 <0.045 <0.03 14 18 3
SUS316L <0.03 <1.0 <2.0 <0.045 <0.03 15 18 3
SUS321 <0.08 <1.0 <2.0 <0.045 <0.03 13 19 >Ti 5×C
SUS347 <0.08 <1.0 <2.0 <0.045 <0.03 13 19 >Nb 10×C
フェライト系 SUS405 <0.08 <1.0 <1.0 <0.04 <0.03 14
SUS410L <0.03 <1.0 <1.0 <0.04 <0.03 13
SUS430 <0.12 <0.75 <1.0 <0.04 <0.03 16
SUS430LX <0.03 <0.75 <1.0 <0.04 <0.03 19 Ti 1.0
SUS430J1L <0.02 <1.0 <1.0 <0.04 <0.03 20 0.8- <0.02 Ti,Nb,Zr 8×(C+N)
~0.8
SUS434 <0.12 <1.0 <1.0 <0.04 <0.03 18 1.2
SUS436L <0.02 <1.0 <1.0 <0.04 <0.03 19 1.5 <0.02- Ti,Nb,Zr 8×(C+N)
~0.8
SUS444 <0.02 <1.0 <1.0 <0.04 <0.03 20 <2.5 <0.02- Ti,Nb,Zr 8×(C+N)
~0.8
SUS447J1 <0.01 <0.4 <0.4 <0.03 <0.02 32 <2.5 <0.01-  
SUSXM27 <0.01 <0.4 <0.4 <0.03 <0.02 27 <1.5 <0.01-  
マルテンサイト系 SUS403 <0.15 <0.5 <1.0 <0.04 <0.03 13
SUS410 <0.15 <1.0 <1.0 <0.04 <0.03 13
SUS440A 0.75 <1.0 <1.0 <0.04 <0.03 18
オーステナイト・フェライト系 SUS329J1 <0.08 <1.0 <1.5 <0.04 <0.03 6 28 3  
SUS329J3L <0.03 <1.0 <2.0 <0.04 <0.03 6 24 3 0.2
析出硬化系 SUS630 <0.07 <1.0 <1.0 <0.04 <0.03 5 17 5 Nb 0.4
SUS631 <0.09 <1.0 <1.0 <0.04 <0.03 7 18 Al 1.5
◎表2では、成分が10~14のような範囲である場合は、平均12としてまとめました

SUS430の機械的性質と物理的性質

各種ステンレス鋼の機械的性質と物理的性質について、SUS430のフェライト系を中心に整理し、どのような点に違いがあるか見てみましょう。

〈表3 ステンレス鋼の機械的性質と物理的性質(参照値) 〉
分類 JIS記号 硬さ(HV) 耐力
N/mm2
伸び
%
引張強さ
N/mm2
密度
g/cm3
融点
(℃)
熱伝導率
W/(mK)
熱膨張係数
10-6/℃
備考
オーステナイト系 SUS301 <218 >205 >40 >520 7.9 1450 16 17  
SUS304 <200 >205 >40 >520 7.9 1450 16 17
SUS310S <200 >205 >40 >480 7.9 1450 16 14 固溶化熱処理
SUS316 <200 >205 >40 >520 7.9 1400 16 16
フェライト系 SUS410L <200 >360 >22 >360 7.7 1700 25 19
SUS430 <200 >205 >22 >420 7.7 1500 26 10
SUS444 <200 >245 >20 >410 7.7 1500 26 10
マルテンサイト系 SUS403 <210 >205 >20 >440 7.7 25 10
SUS410 <210 >205 >20 >440 7.7 1700 25 10
SUS440A <270 >245 >15 >590 7.7 25 10
オーステナイト・フェライト系 SUS329J1 <290 >390 >18 >590 8 1400 21 11
析出硬化系 SUS630 <400 >1175 >10 >1310 7 1450 18 11 熱処理
H900
SUS631 <450 >1030 >4 >1230 7   16 11 熱処理
RH950
参考 S45C <160 >490 17 690 7.8 1400 44 11 焼き入れ/焼き戻し
◎表3のデータは、JISG4305のデータを参考としています
表記データはA~Bのように範囲で書かれていますが、範囲の最高値を記載しています

SUS430材の切削

切削の基本とSUS430の切削性の概要を紹介します。また快削の基本条件とSUS430への影響や、SUS430を切削するときの注意事項についてまとめます。

快削材とは?SUS430等ステンレス鋼の被切削指数

快削材は、硫黄や鉛などを添加することで被削性を向上させた材料です。切削が容易になり、そのぶんきれいな仕上がりが期待できるなどの利点があります。
被切削物が快削材か難削材かを決めるものに被切削係数(基準100)があり、45以下を難削材としています。
ステンレス鋼の被切削係数は、次のようになります。

・オーステナイト系 → 50~35
・フェライト系   → 65~50
・マルテンサイト系 → 55~40

以上の被切削係数は目安であって、個々のステンレス鋼種類によって違いがあります。
例えば、オーステナイト系の被切削係数は、40くらいですが、SUS303の場合は、Moを添加することで、加工性を向上させ、被切削係数は60です。

SUS430については、フェライト系の被切削係数が50以上であることから、難削材ではなく、快削とはいえないまでも加工性が良い部類に入ります。

快削の基本とSUS430への影響

工作物材料の被削性の良い・悪いの評価として、「被削性の良い」ものには、次の事項があげられます。

  • A) 切削抵抗が小さい
  • B) 切削温度が上がらない
  • C) 切屑が処理し易い形状で流れる
  • D) 仕上げ面が滑らかに仕上がる
  • E) 工具の寿命が長い

A)~D)の事項に直接関係する工作物材料の切削影響には、次のa)~g)の事項があります。

a 硬度が大きい(かたい 硬度が大きいと工具刃先の摩耗も大きくなります。
硬度が大きいことで刃先と接触した際の切削抵抗も大きくなり、刃先に衝撃力を与え、摩耗や破損し易くなります。
b 熱伝導率の大きさ 切削時の大きな発熱は工具刃先に熱衝撃を与え、摩耗・破損の要因となります。
発生した切削熱は通常は材料からの切りくずに熱が伝わり、切りくずとともに排出されます。
c 加工硬化性の大きさ 金属材料は多少なりとも切削に伴い加工硬化性があります。
加工硬化する程度により、加工硬化により硬くなった材料を切削することで、刃先に負担がかかり、摩耗や損傷の要因になります。
d 工具との親和性の深さ 工具の材質と材料の材質が化学的に物質間の結合し易さがある場合、高温の刃先と切りくずとの溶着が起こり、刃先の摩耗と損傷を促進します。
e 強度の大きさ 強度が大きいと変形しにくく、例えば切削速度と送り速度が大きくなって切削力が増えれば切削抵抗も増えます。
切削抵抗が増えたとき、刃先に負担が大きくかかり、刃先を痛める要因になります。
f 靭性の大きさ(ねばさの有無)

靭性の大きい材料は、切削時に刃先で切り分けることが簡単にできず、切削抵抗を増やします。切削抵抗の増加は、刃先への力の負担が大きくなり、刃先を痛める要因となります。

g 展延性の大きさ(伸びと絞り) 延展性は材料の変形の柔軟性に関わる事項です。切りくずを断つのが難しい、断つことができなかった切りくずでワークに傷などがつくなどの問題があります。

SUS430では難削材ではないため、以上の項目からの問題が大きかったりして切削加工に影響することは基本的にありません。しかし、切削条件によっては影響する項目も出てくるため、注意が必要です。

SUS430の切削時の注意事項

SUS430は切削加工に影響を及ぼす、大きな機械的・物理的性質の数値は見られません。ただし、難削材との境界値である被切削係数45に近い値であることから、難削材とまではいかないものの切削の難しさを内在しているともいえます。

SUS430をS45C(被切削係数65程度)と比べると、次の点に注意すべきでしょう。

  • ア) 強度がやや小さい
  • イ) 熱伝導率が小さい
  • ウ) 他の部材とは関係なく、SUS430材と工具の親和性の有無

SUS430の切削時の注意事項を記載する前に、切削加工のモデルのイメージを、図1で紹介します。

SUS430について|図1 切削加工のモデルイメージ
図1 切削加工のモデルイメージ

強度についての注意事項

切削抵抗が大きくならないため、工具刃先の力による摩耗などはありません。また加工硬化もSUS材は少ないといわれていて、切削抵抗も大きくならないことから、それらによる摩耗等もありません。

熱伝導率についての注意事項

熱伝導率はそれほど小さくありません。そのため通常の切削加工で発生する切削熱は、切りくずに伝熱されて切りくずとともに排出されます。
しかし、次のような問題が起こることもあり、対応が必要です。

切削条件変更時
  • 切削速度と送り速度が変更されたときには、刃先切削温度が上がり切削抵抗が増えるため切削温度が上昇します
  • 熱伝導率がそれほど高くないため、温度上昇が高くなった際には刃先温度を冷やすまでの熱量を切りくずと排出できないことがあります

〈対応〉

切削速度と送り速度などの切削条件を遅くして、熱の発生をコントロールします
切りくずの形状
  • 切削条件変更がうまくコントロールできないとき、切りくずの形状によっては、熱伝導だけで刃先の発生熱を十分に下げることができない場合もあります

〈対応〉

切りくずの形状が流れ形であれば、刃先のすくい角度を30°として、切りくずから刃先の接触域を少なくして、切り刃の温度を下げます。
また切りくずと刃先の接触部には、潤滑油を常時流すことで、切りくずが刃先に融着しないようにします。
また潤滑用液は刃先の潤滑作用だけでなく、冷却効果もあるため、十分な量の重滑油を噴射します。
加工硬化の注意事項

フェライト系の加工硬化性は低いため、問題はないでしょう。

工具との親和性に対する注意事項

SUS430材と工具とに親和性がある場合は、工具を親和性のないものに交換します。SUS430材の硬さは大きくないので、SUS430材の硬さの3倍以上の硬さの工具を選択します。工具との親和性が高いと、構成刃先ができやすくなりますので、工具を変えることが一番の対策です。

SUS430切削加工のまとめ

SUS430は、難削材となる機械的性質・物理的性質はありません。
通常、普通の切削加工で問題は発生しないと思われますが、特に以下の点に注意して切削加工を行うと良いでしょう。

  • 切削抵抗が大きくならない切削条件とする
  • 急激に温度変化が起こる切削条件の変更は避けるか、注意深く進める
  • 切屑の形状と切削条件が安定するように管理する
  • SUS430と親和性のない工具を使用する
  • 工具の硬度と形状はSUS430の使用性質に合ったものを選ぶ
  • 工具は定期的に再研磨か交換する。
  • 工具の切削熱が高くならないように、潤滑油管理する
  • 加工条件設定によっては、構成刃先ができる場合があるので、発熱量に注意する

〈 SUS430 の関連キーワード〉

塑性加工 徹底解説シリーズ 金属材料 除去加工

この記事の監修者

甲斐 智(KAI Satoshi)
甲斐 智(KAI Satoshi)

1979年 神戸生まれ
多摩美術大学修了後、工作機械周辺機器メーカーの販売促進部門
15年以上に渡り、工作機械業界・FA業界のWebマーケティングに携わる
文部科学省「学校と地域でつくる学びの未来」参加企業

2020年に「はじめの工作機械」を立ち上げ(はじめの工作機械とは

所属
掲載・登録
寄稿
SNS・運営サイト

SUS430 の関連記事