SUS303とは?ステンレス鋼SUS303の特徴とSUS304の見分け方
- 更新日:
- 2024/07/20 (公開日: 2023/02/22 ) 著者: 甲斐 智
耐食性や強度に優れたステンレス鋼ですが、切削がむずかしい難削材として知られ、複雑な加工ではコストが上がってしまうことがあります。そこで開発されているのが、SUS303のような快速ステンレス鋼です。
この記事では、ボルト、ナット、シャフトなどの要素部品や工業製品、機械部品などに幅広く採用されているSUS303について、その特徴を解説します。
SUS303とは
SUS303は、難削材であるステンレス鋼のなかでも快削性が高い、オーステナイト系のステンレス鋼です。
リン(0.2%程度)や硫黄(0.15%程度)を配合することで、焼き付き性や快削性を向上させています。
SUS303の特徴
SUS303は、オーステナイト系ステンレスと共通の特徴と、高い快削性を持ち合わせています。
SUS303の快削性
オーステナイト系のステンレス鋼は切削加工がむずかしい難削材として知られていますが、その理由のひとつに「粘性」の大きさあげられます。
粘り気が大きい材料を切削加工すると、切粉が分断されにくくつながったままになってしまい、切粉が原因で加工精度が低下してしまったり、工具の摩耗が進みやすくなってしまいます。そこでSUS303は、リンや硫黄を加えることで、粘り気を小さくしています。
ステンレス鋼のなかで「快削材」に分類されるものは他にもあり、SUS303e、SUS430F、SUS416、SUS420F、SUS440Fなどがあげられます。
快削性を高める元素としては、硫黄やリンに加えて、セレンや鉛などがあり、これらを添加したステンレス鋼を「快削ステンレス鋼」とよびます。
SUS303の耐食性
ステンレス鋼に含まれるクロムは、不働態皮膜(酸化皮膜)を形成する作用があり、高い耐食性を発揮します。SUS303も高い耐食性を誇りますが、快削性を高めるリンや硫黄の影響で、特定の環境では耐食性が低下することがあります。
湿気が多い場所や、水分が触れるような環境下では耐食性が低下するため、食品工場や医療機器などには向いていません。
SUS303の耐焼付き性(凝着性)
焼付きは「凝着」ともよばれ、材料どうしの接触面に大きな荷重がかかったり、摩擦面の温度が高温になる際に、摩耗(凝着摩耗)が発生する現象です。焼付きは、工具寿命の低下や精度低下につながります。
SUS303はステンレス鋼のなかでも「耐焼付き性」に優れた材料で、工具への影響を他のステンレス鋼にくらべ小さく抑えることができます。
SUS303の溶接性
SUS303に添加されている硫黄やリンは、熱間加工性を阻害する作用があるため、溶接性が著しく低下しています。
建築部材など、溶接が必要とされる製品には向いていません。
SUS303とSUS304:引用元:JWES|溶接Q&Aフォーラム
303は、機械加工性を上げるために、多量の硫黄(S)が含まれています。このため、溶接すると各種溶接欠陥が生じ、特に、著しい高温割れが生じます。
SUS303とSUS304の見分け方
SUS303とSUS304は、目視だけでは見分けることができません。見分け方としては、切削加工時の切粉を見る方法や、実際に溶接をしてみる方法が行われています。
通常、材料の粘り気が大きいほど、切削加工時の切粉は長くつながります。一般的にSUS304の切粉は長くつながることが多く、SUS303の切粉は細切れになります。
またあまり実用的ではありませんが、実際に溶接をした際にうまくできない方が、SUS303だと判断することもできます。
SUS303のコスト
SUS303は流通量が多く、基本的にはそれほど高価な材料ではありません。しかしSUS304にくらべ、流通している形状やサイズが限られているため、材料費が高くなってしまうことがあります。
一方で、快速性によって工具摩耗や加工時間を抑えることができるため、SUS303とSUS304のどちらでもよい場合、SUS303を採用する方が、コストダウンできる場合が多いです。