炭素鋼とは?炭素鋼の分類と特徴、炭素鋼の切削加工のポイント
- 更新日:
- 2023/02/22 (公開日: 2023/02/22 ) 著者: 甲斐 智
鉄のなかでも入手しやすく、日用品から産業機械まで幅広く使われている炭素鋼。炭素鋼は、炭素の含有量や熱処理によって特性が大きく変わるため、材料の検討段階で、それぞれの特徴を把握しておくことが重要です。
この記事では、炭素鋼の分類とそれぞれの特徴、炭素鋼を切削加工する際のポイントについて解説します。
炭素鋼とは
鉄は、炭素の含有量に応じて「純鉄」「鋼鉄」「鉄」に分類されます。
炭素鋼は「鋼鉄」のなかでも、合金鋼(鉄・炭素以外の金属を含んだ合金)や、特殊鋼(特殊な元素を添加した合金)に分類されないものを指します。
純鉄 | 0.02%未満 |
---|---|
鋼鉄 | 0.02%~2.14% |
鉄 | 2.14%~6.7% |
炭素鋼(英:carbon steel)引用元:炭素鋼|JSME Mechanical Engineering Dictionary
炭素を除く元素の量が,合金鋼として規定されている量以下の鋼.炭素量はおよそ2質量%以下で,これ以上の炭素を含むものは鋳鉄と呼ぶ.炭素鋼に含まれる炭素以外の元素には,マンガン,アルミニウム,けい素,カルシウム,リン,硫黄などがある.
炭素鋼は、炭素の含有量が多くなるほど、引張り強さや硬さが増します。一方で、伸びが減少し、被削性(削りやすさ)も低下してしまいます。
熱処理を行うことで、性質を大きく変えることができることも大きな特徴です。
炭素含有量による分類
炭素鋼は炭素含有量によって、「低炭素鋼」「中炭素鋼」「高炭素鋼」の3つに分類されます。
低炭素鋼 | 0.25%未満 |
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中炭素鋼 | 0.25%~0.6% |
高炭素鋼 | 0.6%以上 |
用途や製造方法による分類(JIS)
JISでは炭素含有量と用途によって、「SPC材」「SS材」「SC材」「SK材」などに分類されます。
〈炭素鋼の種類〉
炭素含有量 | 0.1%未満 | 0.1%~0.25% | 0.25%~0.3% | 0.3%~0.6% | 0.6%~2.14% |
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分類 | 低炭素鋼 | 中炭素鋼 | 高炭素鋼 | ||
JIS呼称 | SPC材 冷間圧延鋼板 |
SS材 一般構造用圧延鋼材 |
– | SK材 炭素工具鋼鋼材 |
|
SC材 機械構造用炭素鋼鋼材 |
SPC材(冷間圧延鋼板)
SPC(Steel Plate Cold)材は、冷間圧延鋼板とよばれ、常温に近い温度で圧延された板金用の鋼材です。炭素含有量が少なく、炭素鋼のなかではやわらかく伸びやすいため、加工性に優れていることが特徴です。またスポット溶接にも適しています。
一方で、炭素含有量が少ないことから強度が低く、それほど強度が必要とされない箇所へ採用されています。
SPC材には、一般用として多く使われている「SPHC」をはじめ、絞り用の「SPCD」や、深絞り用の「SPCE」、SPCCをさらに冷間圧延した「SPCC」などがあります。
SS材(一般構造用圧延鋼材)
SS(Steel Structure)材は、一般構造用圧延鋼材とよばれます。炭素量が少なく、熱処理をせずにそのまま使うことを前提とした材料です。
比較的安価で、加工性や溶接性などのバランスがよく、広い分野で採用されています。
代表的な材料には、「SS400」や「SS490」などがあります。(SSの後の数字は、引張り強さ(N/mm2)を表しています)
加工性が高いことから、産業機械の部品にも採用されています。
SC材(機械構造用炭素鋼鋼材)
SC(Steel Carbon)材は、機械構造用炭素鋼鋼材とよばれ、SS材と並んで使用頻度が高く、入手性が高い材料として知られています。
SS材にくらべて機械的強度が高く、熱処理による特性の調整を前提とした材料です。冷却によるひび割れや、溶接性の低下には注意が必要です。
代表的な材料には、「S45C」や「S50C」「S30C」などがあります。(SとCの間の数字は炭素含有量(45であれば、0.45%)を表しています)
さびやすいため、用途によっては防錆処理が必要です。
SK材(炭素工具鋼鋼材)
SK(Steel Kougu)材は、炭素工具鋼鋼材とよばれ、高炭素鋼に分類される材料です。
炭素の含有量が多く、硬さや耐摩耗性に優れることから、名前の通り工具の材料として使用されます。
熱処理をして使いますが、高温になりすぎると硬度が低下してしまうため、注意が必要です。
代表的な材料には、「SK140」や「SK85」などがあります。(SとCの間の数字は炭素含有量(140であれば、1.4%)を表しています)
その他の分類(SM材・SB材)
SM(Steel Marine)材 | 溶接用圧延鋼材です。 マンガンやシリコンなどを添加することで溶接性が高く、安価で入手しやすい点が特徴です。 |
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SB(Steel boiler)材 | ボイラ及び圧力容器用炭素鋼鋼板です。 高温で稼働するボイラーなどに使われる材料で、硬度が高い分、溶接がむずかしい点が特徴です。 |
炭素鋼の代表的な熱処理
炭素鋼は用途によって、「焼きならし」「焼きなまし「焼き入れ」「焼き戻し」などの熱処理が行われます。熱処理を使い分けることで、炭素含有量だけでは調整できない特性をコントロールすることが可能です。
炭素鋼を切削加工する際の注意点
炭素鋼は分類ごとに特性が異なるため、切削加工の際も、材料別に注意すべきポイントが変わります。
ここでは、低炭素鋼・中炭素鋼・高炭素鋼に分けて紹介します。
実際の加工では、工作機械・切削条件によってもポイントが異なるため、参考例としてご覧ください。
低炭素鋼の切削加工
低炭素鋼は炭素の含有率が低く、伸びやすいことが特徴です。
切粉が分断されにくくワークや工具に絡みつくため、ワークのキズや、切削工具への溶着・チッピングが発生しやすくなります。
溶着は「構成刃先」の原因となり、精度の低下につながるため、切粉を分断できるような工具や加工条件の選定が重要です。
中炭素鋼の切削加工
中炭素鋼の代表的な材料には、SC材があげられます。SC材は超硬工具との親和性が高いため、溶着が発生しやすくなります。
また中炭素鋼のなかでも炭素含有量が多いものは、切削熱が発生しやすく、熱に強い工具の選定が必要です。
高炭素鋼の切削加工
高炭素鋼の代表的な材料には、SK材があげられます。
SK材は一定以上の高温になると焼きが戻ってしまうため、強度が低下するおそれがあります。切削熱による温度上昇の影響を受けないように、加工条件の調整やクーラントの使用が必要です。