
熱処理とは?焼入れ・焼き戻し・焼きなまし・焼きならしを解説
- 更新日:
- 2025/02/07 (公開日: 2020/12/21 ) 著者: 甲斐 智
熱処理とは、 金属を加熱し冷却することで素材の特性を変化 させ、硬さ(硬度)や 粘り(じん性)を持たせる処理方法です。
金属加工の現場では、加工の目的に応じて「焼入れ」や「焼き戻し」などのさまざまな熱処理が行われています。
この記事では金属加工の現場で使われる「熱処理」の種類や、熱処理で使われる試験機を紹介します。

熱処理とは?オーステナイトとマルテンサイト
引用元:ねずみ鋳鉄パーライト|Leica Microsystems
熱処理では、加熱温度や冷却速度の違いによって組織が大きく変化。
金属の組織は、過熱することで「オーステナイト」に変化し、冷却することで「マルテンサイト」が形成されます。
引用元:東京工業大学|マルテンサイト逆変態を利用した鉄鋼材料の革新的組織制御
「オーステナイト」と「マルテンサイト」の2つの状態は、熱処理後の金属の特性に大きく関わっています。
オーステナイト | 金属の結晶が大きく粗い = やわらかく・粘り強い金属になる |
---|---|
マルテンサイト | 金属の結晶を小さく緻密 = 硬く・もろい金属になる |
熱処理の分類

熱処理は、「焼入れ」「焼き戻し」「焼きなまし」「焼きならし」の4つに大きく分類されます。
加工の目的や加工工程に応じて、使い分けされています。
焼入れ(熱処理)

焼入れは、金属を「硬く」するための熱処理です。
金属を加熱し「オーステナイト」に変化させた後、急速冷却することで「マルテンサイト」が形成され、金属結晶が小さくなります。
焼入れ後は非常に硬くなりますが、粘り(じん性)のないもろい金属となります。
焼入れには、用途にあわせてさまざまな方法があります。
鋼材を常温冷却した場合、オーステナイト(残留オーステナイト)が内部に残る場合があります。
残留オーステナイトは完成品の寸法精度に悪影響を及ぼすため、焼入れ直後に0℃以下(サブゼロ)に急速冷却し、マルテンサイトに変化させます。これをサブゼロ処理(深冷処理)といいます。
リニアガイドやベアリングなど、精密機器の部品加工には欠かせない処理です。
水焼入れ
水で冷却する焼入れ処理です。
冷却速度が速く、より硬い金属となります。
油焼入れ
油で冷却する焼入れ処理です。
冷却速度が遅く、硬さムラや不良(焼きワレ)の発生を防止します。
高周波焼入れ
高周波の電磁波による電磁誘導を利用する焼入れ処理です。
表面を急速に過熱するため、表面は硬化し内部には粘り(じん性)が残ります。

高周波焼入れされた金属は、耐疲労度と耐摩耗性に優れます。
焼き戻し(熱処理)

焼き戻しは、金属を「粘り強く」するための熱処理です。
焼入れでもろくなった金属をもとに「戻す」ため、焼き戻しとよばれています。
焼入れとセットで行われ、マルテンサイトが形成された金属を再加熱することで、金属の粘り(じん性)を調整することができます。
また内部応力(金属の内部に残ったひずみ)を除去することができます。
焼き戻しには、用途にあわせてさまざまな方法があります。

鋳造や鍛造では金属が冷えて固まる時に、温度差による収縮スピードの違いから、表面と内部に「縮もうとする力」と「引っ張られる力」が残ります。
内部応力が残っていると、焼入れや機械加工の際に割れなどが発生することがあるため、除去する必要があります。
低温焼き戻し
硬さ(硬度)を優先させた焼き戻し処理です。
鋼の場合 約200℃付近で熱処理し、再冷却します。
高温焼き戻し
粘り(じん性)を優先させた焼き戻し処理です。
鋼の場合 約650℃付近で熱処理し、再冷却します。
焼きなまし(熱処理)

焼きなましは、金属を「やわらかく(軟化)」するための熱処理です。
加工前に焼きなましをして金属をやわらかくすることで、加工性を高めます。
金属を電気炉で加熱し「オーステナイト」に変化させ、そのまま一定時間加熱した後、炉に入れたままゆっくり放冷します。
時間をかけて冷却することで金属結晶が大きくなり、やわらかい金属組織へと変化します。
焼きなましには、用途にあわせてさまざまな方法があります。
焼きなましは「焼鈍(しょうどん)」ともよばれます。
完全焼なまし
完全焼なましは、一般的に行われている焼きなましです。
冷間鍛造や切削加工前に金属をやわらかくすることで、加工性を高めます。
中間焼なまし
中間焼なましは、加工の途中で行われる焼きなましです。
鍛造や絞り加工などの中間工程で行い、加工硬化によるワレや破断を防止します。
ひずみ取り焼なまし(応力除去焼鈍)
ひずみ取り焼なましは、内部応力(金属の内部に残ったひずみ)を除去する焼きなましです。
鋳造や圧延で発生した「内部応力」を取り除くことで、加工性を高めます。
焼きならし(熱処理)

焼きならしは、金属の組織を「整える」ための熱処理です。
金属を加熱し「オーステナイト」に変化させた後、そのまま空気中で放冷(空冷)します。
(焼きなましよりも、はやく冷やします)
焼きならしをすることで、熱処理・ひずみなどの影響をリセットし、不安定になった金属をもとの性質に戻すことができます。
大きい材料の場合、冷却時に表面と内部に温度差が出るため「二段焼きならし」や「二重焼ならし」などの処理も行われます。
熱処理による結晶粒微細化
引用元:国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)|鉄鋼材料の組織微細化
鉄鋼材料を高度を強化する手法のひとつに、熱処理による結晶粒微細化があります。
結晶粒微細化では、適切な温度で大ひずみ加工(金属に応力を与える)をすることで結晶粒径が小さくなり、鉄鋼の強度が大幅に向上します。
結晶粒の微細化:引用元: 滋賀県東北部工業技術センター|金属のいろは
結晶粒の微細化は、結晶の大きさを小さくすることで強度を上げる手法です。
…(中略)…
結晶粒の微細化には強加工を行いひずみを無数に入れた後に熱処理により微細な結晶を新た作り出す方法や鋼の場合は焼き入れ焼き戻しの熱処理が用いられています。
熱処理で使われる試験機

硬さ測定には「硬さ試験機」が使われます。
よく使われる硬さの指標には、「ブリネル硬さ」「ロックウェル硬さ」「ビッカース硬さ」「ショア硬さ」の4種類があります。
焼入れ・焼き戻しの硬さ測定には、JIS規格に準拠した「ロックウェル硬さ試験機」が主に使われます。
ロックウェル:引用元: 硬さ試験の分類|滋賀県工業技術総合センター
主に熱処理を施した鉄鋼材料の硬さ測定に利用されます。測定が簡便で測定者による誤差要因が少ないのが特徴です。
ロックウェル硬さ試験機
引用元:ロックウェル|滋賀県工業技術総合センター
ダイヤモンド先端子を材料に押し付け、その「痕」の深さから硬さを測定します。
焼入れ・焼き戻し後の硬さ測定に、多く使われます。
熱処理とは?まとめ
この記事では、金属加工の現場で使われる「熱処理」の種類や、熱処理で使われる試験機を紹介しました。
焼入れでは、ひずみやワレを防ぐ「マルテンパ」や、じん性に富んだ「オーステンパ」など、ここでは紹介しきれないさまざまな熱処理技術が開発されています。
この記事が、金属加工の熱処理を知るきっかけとなればうれしいです。