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【徹底解説】SCM435とは?SCM435の切削の課題と対策を紹介

【徹底解説】SCM435とは?SCM435の切削の課題と対策を紹介

更新日:
2025/02/07 (公開日: 2024/03/18 ) 著者: 甲斐 智
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機械構造用鋼は、土木・建築・機械部品・車両・家庭機器部品などで使われる材料です。
構造用鋼には、一般構造用圧延鋼材(SS材など)を代表に多数の種類があり、それぞれ強度や特徴が違います。
SCM435は、機械構造用合金鋼の部類に入る鋼材です。合金鋼は炭素鋼に、モリブデン・クロム・ニッケルなどの金属を混合し、炭素鋼で補えなかった強度・靭性・耐食性など付加価値の高い構造用鋼に仕上げたものです。

今回のコラムでは、合金鋼の代表「クロモリ鋼」でお馴染みのクロムモリブデン鋼であるSCM435の切削加工について紹介します。

SCM435について|このコラムでは「徹底解説シリーズ」と題して、いつもより一歩踏み込んだ内容でお送りしています。日頃の業務のお役に立てれば幸いです。
このコラムでは「徹底解説シリーズ」と題して、いつもより一歩踏み込んだ内容でお送りしています。日頃の加工や業務のお役に立てれば幸いです。

機械構造用合金鋼SCM435

SCM435鋼に代表される機械構造用合金鋼の種類について紹介し、それぞれの種類に属する合金鋼の組成構成を紹介します。
またクロムモリブデン鋼の機械的性質と、他の合金鋼の代表の機械的性質を解説します。

機械構造用合金鋼の種類とSCM435

機械構造用鋼には、次の3種類があります。

  • 機械構造用炭素鋼
  • 機械構造用合金鋼
  • 焼入性を保証した構造用鋼

SCM435は、機械構造用合金鋼のクロムモリブデン鋼です。
機械構造用合金鋼は、0.15~0.50%の炭素と、種々の合金元素(Mo、Cr、Mnなど)を適量添加した鋼材です。合金元素の添加物は、鋼材の機械的に大きく影響します。

JIS G 4053 で規定されている機械構造用合金鋼を表1 で紹介します。

〈表1 機械構造用合金鋼の種類〉
分類 合金鋼の種類 分類 合金鋼の種類
マンガン鋼 SMn420 ニッケルクロム鋼 SNC236
SMn433 SNC415
SMn438 SNC631
SMn443 SNC815
マンガンクロム鋼 SMnC420 SNC836
SMnC443 ニッケルクロムモリブデン鋼 SNCM220
クロム鋼 SCr415 SNCM220
SCr420 SNCM240
SCr430 SNCM415
SCr435 SNCM420
SCr440 SNCM431
SCr445 SNCM439
クロムモリブデン鋼 SCM415 SNCM447
SCM418 SNCM616
SCM420 SNCM625
SCM421 SNCM630
SCM425 アルミニウムクロムモリブデン鋼 SACM815
SCM430
SCM432
SCM435
SCM440
SCM445
SCM822

機械構造用合金鋼の組成

表2では、表1で紹介した、機械構造用合金鋼のうち、SCM435に代表されるクロムモリブデン鋼の構成組成を紹介します。
機械構造用合金鋼の名称は、次のようなルールが決められています。

【S   ①②③   ④   ⑤⑥   ⑦】

①②③ 主要合金元素記号
主要合金元祖コード(2、4、6、8)
⑤⑥ 炭素量値
Hが付記されれば、焼き入れ鋼
〈表2 クロムモリブデン鋼の組成〉
合金鋼 C
炭素
Si
ケイ素
Mn
マンガン
P
リン
S
硫黄
Ni
ニッケル
Cr
クロム
Mo
モリブデン
Cu
SMn420 0.28 0.35 1.5 <0.03 <0.03 <0.25 <0.35 <0.3
SMnC420 0.23 0.35 1.65 <0.03 <0.03 <0.25 0.7 <0.30
SCr415 0.18 0.35 0.9 <0.03 <0.03 <0.25 1.2 <0.30
SNC236 0.4 0.35 0.8 <0.03 <0.03 1.5 0.9 <0.30
SNCM220 0.23 0.35 0.9 <0.03 <0.03 0.7 0.6 0.25 <0.30
SACM645 0.5 0.5 <0.60 <0.03 <0.03 <0.25 1.7 0.3 <0.30
SCM415 0.18 0.35 0.9 <0.03 <0.03 <0.25 1.2 0.25 <0.30
SCM418 0.21 0.35 0.9 <0.03 <0.03 <0.25 1.2 0.25 <0.30
SCM420 0.28 0.35 0.9 <0.03 <0.03 <0.25 1.2 0.25 <0.30
SCM421 0.28 0.35 0.9 <0.03 <0.03 <0.25 1.2 0.3 <0.30
SCM425 0.28 0.35 0.9 <0.03 <0.03 <0.25 1.2 0.3 <0.30
SCM430 0.38 0.35 0.9 <0.03 <0.03 <0.25 1.2 0.3 <0.30
SCM432 0.37 0.35 0.6 <0.03 <0.03 <0.25 1.2 0.3 <0.30
SCM435 0.38 0.35 0.9 <0.03 <0.03 <0.25 1.2 0.3 <0.30
SCM440 0.48 0.35 0.9 <0.03 <0.03 <0.25 1.2 0.3 <0.30
SCM445 0.48 0.35 0.9 <0.03 <0.03 <0.25 1.2 0.3 <0.30
SCM822 0.25 0.35 0.9 <0.03 <0.03 <0.25 1.2 0.45 <0.30
S45C 0.48 0.35 0.9 <0.03 <0.035 <0.20 <0.20 <0.30
◎それぞれの組成は、a~b(%)のように変動がありますが、表2では、最大値bを記載しています
◎参考にSCM以外の合金鋼の組成と、S45C鋼の組成を載せています

機械構造用合金鋼の機械的性質

表3では、機械構造用合金鋼のうち、クロムモリブデン鋼の機械的性質と物理特性を紹介します。

〈表3 クロムモリブデン鋼の機械的性質〉
  硬さ(HB)

降伏点
N/mm2

伸び
%

引張強さ
N/mm2

密度
g/cm3

融点
(℃)

熱伝導率
W/(mK)

熱膨張係数
/℃

備考
SCM415 320 16 830 7.8 1400~1500 44 13 クロムモリブデン鋼
SCM418 330 15 880
SCM420 350 14 920
SCM421 370 14 980
SCM430 300 680 18 680
SCM432 320 730 16 880
SCM435 330 780 12 930
SCM440 350 830 12 980
SCM445 360 880 12 1000
SCM822 400 12 1000
S45C   150 490  17  690  7.8  1400  44  11  機械構造用炭素鋼 
HBW
◎データは 旧JIS G 4105(廃止)やデータ情報から得たもので、範囲の最高値を記載しています

クロムモリブデン鋼は、炭素の量によって硬さや引張力、伸びがわずかに異なり、それぞれが特徴のある強度を有します。そのため、使用目的によってどのクロムモリブデン鋼が適しているか選ぶ必要があります。

表3から機械構造用炭素鋼とSCM435などのクロムモリブデン鋼との差を見ると、次の点に違いがあることがわかります。

  • 硬度が高い
  • 降伏点や引張強さなどの強度が高い
  • 耐腐蝕性が強い
  • 耐高温性がある
  • 靭性が高い(衝撃に強い)
SCM435について|S45Cも焼き入れ後には、硬さと強度はクロムモリブデン鋼と同等程度となります
S45Cも焼き入れ後には、硬さと強度はクロムモリブデン鋼と同等程度となります

SCM435クロムモリブデン鋼はボルトやナット、エンジンや航空機脚などの部品、自転車のフレームなどに使用されますが、例えばSCM435と他のクロムモリブデン鋼では、組成の違いや焼き入れ・焼きなましの程度などにより、使用先が変わります。

SCM435合金鋼の切削加工

ここでは、切削の基本について確認し、SCM435 を切削する際の課題とその対策を紹介します。

切削の基本

SCM435の切削加工の解説の前に、切削の基本をイメージ図で紹介します。
図1は、バイトによる円筒棒の切削例です。

SCM435について|図1 バイトによる円筒棒の切削例
図1 バイトによる円筒棒の切削例

切削抵抗は、次の3つの分力から成り立ちます。(図1左)

主分力 切削動力の大半が作用する力です
背分力 工具の形状やすくい角などで大きく変わります
送り分力 送りによる分力。横切れ刃の大きさで分力は変化しますが、他の2つの分力に比べるとはるかに小さな力です

図1の右図は、切削の様子を二次元化して表した図です。
この図をもとに、切削に関わる各部の詳細のモデル図によって、切削の様子がシミュレーションできます。

また切削加工では、工作物・工具・工作機械に対して、工作物は加工物と切りくずに分かれます。
工具はチッピングのような損傷と摩耗が付加されます(加工条件によります)。
そして工作機械は加工のための動力を出力しますが、それらは機械内部の損失以外には、工具刃で発生する熱、刃に掛かる切削抵抗力、工作物内部に残るひずみエネルギーに変わります。さらに発生熱は、 切りくずに伝熱して排出されるものと、切り刃への負荷となる熱に分かれます。

切削加工におけるポイントとSCM435を切削する際の課題

被削性指数は快削鋼を100として、45以下を切削加工が難しい「難削材」としています。
SCM435に代表されるクロムモリブデン鋼の被削性指数は75~50で切削加工は決して難しくありません。

切削加工では、どのような材料であっても以下のようなポイントが守られることが大切です。

  • 工作物の品質(精度と加工面が滑らかなこと)が保たれること
  • 工具寿命が長いこと
  • 生産性が高いこと、コストが安くできること

そして上記のためには以下について注意する必要があります。

  • 切削温度が上がらずに、切り刃に負担をかけない温度で安定すること
  • 切りくずの排出および形状が安定していること
  • 切削抵抗が工作物の機械的性質に対応できる程度に小さいこと
  • 工作物の精度が維持でき、加工面が滑らかに仕上がること
  • 工具の寿命が長いこと(損傷がなく摩耗が想定範囲であること)

一方、SCM435は以下のような性質によって、切削加工の課題が発生します。

  • a. 加工硬化が大きい
  • b. 工具との親和性が大きい
  • c. 硬度が高くなる
  • d. 切削温度が大きい
  • e. 強度が大きく切削抵抗が大きい

次項でこれらの発生要因とその影響を解説します。

SCM435を切削する際の課題の発生要因とその影響

前項でのSCM435の切削の課題について、発生要因とその影響は次のようになります。

a) 加工硬化が大きい

加工硬化がある工作物(SCM435材)に工具の刃先が当たると、材料に刃先が食い込みにくいため切削性が悪くなります。
また加工硬化を起こした切りくずの切粉が切り刃にまとわりつくと、切削精度に影響します。

b) 工具との親和性が大きい

工作物(SCM435材)と工具の親和性が大きいと、切粉が工具に融着し、融着物がはがれるときにチッピングなど刃先に損傷を起こします。
また切粉が融着した工具で加工すれば、工作物の加工精度や滑らかさに悪影響を及ぼします。

c) 硬度が高い

工作物(SCM435材)の硬度が高く、さらに加工硬化を起こせばさらに硬度を増し、その材料に工具刃先が当たると、刃先に損傷を起こす危険があります。
また切削抵抗が大きくなるため、切削速度を上げるなどの対応を取れば切削抵抗は小さくなります。しかし、切削温度が上昇することで刃先に温度上昇による損傷を与えることもあるため、条件調整は慎重に行うべきです。

d) 切削温度が大きい

切削温度が大きすぎると刃先に熱衝撃が加わり、損傷の要因になります。
SCM435 材の熱伝導率は小さくなく、切削熱と摩擦熱による熱量は切りくずに伝わり、切りくずとともに排出されます。そのため刃先に熱負担がかかりません。
しかし、切削条件の変更などで切りくずの形状が細かな形状になって熱の排出がうまくいかないと、刃先に熱負担がかかり損傷の原因となります。

e) 切削抵抗が大きい

SCM435 材の硬度は高いため、引張力や耐力など強度が大きくなります。
切削抵抗は、硬度が高いと増加するため、切削熱が多く発生し、刃先に摩耗や損傷を与える要因となります。

SCM材を切削する際のポイント

SCM435材を切削するときの課題は、前項までに明らかにしてきました。

ひとつの課題の解決策が別の課題の解決策にもなることもあれば、逆に、ひとつの課題の解決策が、別の課題をさらに悪化させる場合もあります。 切削上の課題の対策は慎重に検討する必要があります。

切削加工のモデルイメージと問題点

ここではSCM435材を切削する際の課題への対策を理解するために、切削時に発生する切削熱について解説します。(図2参照)

SCM435について|図2 切削加工のモデルイメージ
図2 切削加工のモデルイメージ

切れ刃にはすくい面と逃げ面があります。
刃先が工作物を切削し、刃にメルト、工作物にせん断域ができて、せん断力で切りくずができます。
切削時の刃先と工作物間の切削熱に加え、切りくずと刃先のすくい面との接触摩擦熱、逃げ面からの摩擦熱などで切削域は高温となりますが、切りくず中に熱が伝導して、切りくずとともに排熱されるため、刃先への熱衝撃を押さえ込めます。
一方、刃先が工作物に食い込む量が増えると、切削抵抗が増加し切削熱も増加し、構成刃先が生成する要因となります。
図2の右側の図は、構成刃先が生成された図です。構成刃先は切りくずが刃先に凝着して、工作物を切削する刃先のようにふるまいます。そして構成刃先は生成と分離を繰り返すため、刃先の摩耗・損傷の要因となるほか切削面を粗くする弊害をもたらします。

SCM材の切削時の対策

材料が硬い場合

材料が硬い場合の対応として、工具を取り替えます。SCM435の硬度が高いため、工具の硬度を3倍以上とします。
超硬合金かサーメットを使用し、高温の影響があれば、セラミックスを使います。
クロムモリブデン鋼は、焼き入れ後に使用するケースが多く硬度も増すため、超硬の工具は使えない可能性があります。

工具との親和性がある

SCM435と工具とに親和性がある場合は、工具を親和性のないものに交換します。
工具との親和性が高いと構成刃先ができやすくなるため、工具を変えることが一番の対策です。

構成刃先に対する対応

前項でも構成刃先に対しての対応を書いていますが、切削条件の変動でも構成刃先ができることがあります。
構成刃先ができそうなときは、切削速度と送り量を上昇させます。切削速度と送り量の上昇によって刃先の温度が上昇しますが、温度が切削材料の再結晶温度まで上昇すれば構成刃先は脱落し、以後構成刃先の生成はありません。
再結晶温度は融点の60%程度です。

切削温度が大きい場合の対応

SCM435の熱伝導度は低くないため、切削温度の多くは切りくずに熱伝導し、切りくずとともに排出されます。
切削温度が高すぎて切りくずの排出でも間に合わない場合は、切れ刃のすくい角を30°程度にすることで切りくずと切れ刃の接触を減らすと、温度の蓄積も減少します。

切削油剤の噴射

加工硬化、切削熱の増加、切削抵抗による発熱など切削の問題は、刃先の摩耗やチッピングや破損の原因となります。
その場合、切削油剤を大量に噴射することで刃先の切粉の付着防止と切削熱の低下が望めます。

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この記事の監修者

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