【徹底解説】汎用旋盤とは?汎用旋盤の特徴とトラブル対策を紹介
- 更新日:
- 2024/07/20 (公開日: 2024/03/18 ) 著者: 甲斐 智
円筒形状の工作物を切削するには、エンドミルのように、工具が回転して工作物が移動するパターンではうまく切削できません。
例えばリンゴの皮を剥くときには、リンゴを回転させて、リンゴの皮の上から少し中側に入るよう刃物を添えることで、リンゴの形状はそのままに、皮が剥けます。
旋盤はこれと同じ方式で、旋盤に据付けた円筒状の工作物を両側から押さえ込み、円筒に刃物の付いた工具をあてがって切削を行います。
このコラムでは、旋盤、旋盤を使った加工法、旋盤で使う工具、バイトを中心に解説しています。
旋盤の役割と種類
旋盤について、その加工法や種類と特長などを紹介します。
旋盤とは
旋盤は、「工作物を回転させ、主にバイトなどの工具を使用し、外丸削り・中ぐり・突切り・正面削り・ねじ切りなどの切削加工を行う工作機械です。」とJIS B 0105で定義されています。
エンドミル、ドリル、リーマなどの切削は、工具が回転して、工作物を切削加工します。
旋盤は、バイトなどは送りなどの移動を行い、工作物(ワーク)が回転して切削加工が行われます。
図1に旋盤のイメージ図を紹介します。
図1は普通旋盤です。数値制御旋盤(NC旋盤)で自動加工するものもあります。
旋盤で加工する場合に使用される工具には、外径・内径用バイトなどの加工に応じたバイト、ドリルなどの工具が使用されます。
右側の点線円中の図は、ワークをバイトで切削しているイメージ図です。
旋盤による加工方法
旋盤を使った加工方法を以下(図2)で紹介します。
図2のそれぞれの加工法について、表1で解説します。
加工法名称 | 加工内容 | 備考 |
---|---|---|
外丸削り | バイトを使用して、ワークの外周を円筒状にする旋削加工法です | - |
面削り | バイトを使用して、ワークをの端面を平面状にする旋削加工法です | - |
テーパ削り | バイトを使用して、ワークをテーパ状にする旋削加工法です | - |
溝削り | バイトを使用して、ワークを回転させ、バイトを半径方向に送って、溝を作る切削加工法です | - |
中ぐり | バイトを使って、穴をくり広げる切削法です | ・ワークが回転する場合 ・バイトが回転する場合 があります |
ねじ切り | バイトを使用して、ワークにねじを削り出す切削方法です | ・おねじ、めねじの切削法が、それぞれあります |
突切り | バイトを使用して、ワークを回転させ、溝を作る際に、さらに切削を続けて、ワークを両断する切断法です | - |
図2では代表的な加工方法を紹介しています。(加工法の名称は、JISに準拠)
「~法」と命名された加工法だけでも上記以外にも多くありますが、旋盤とバイトの特徴を踏まえて工夫することで、さらに自由なオリジナルの加工も可能になります。
旋盤の種類と特長
旋盤には多くの種類がありますが、以下ではその代表例を紹介します。加工の目的ごとに旋盤の種類を選びます。
種類名 | 内容 | その他 |
---|---|---|
普通旋盤 | 回転が水平面内で行われ、主軸・ベッド・主軸台・心押台・往復台・送り機構などで構成される基本型の旋盤です | ベッド上振り・センタ間距離・往復台上振りで大きさを表します |
卓上旋盤 | 作業台に据え付け、コレットチャックによる作業が主体となる小形旋盤です | ベッド上振り・センタ間距離で大きさを表します |
多頭旋盤 | 複数の主軸台を有する旋盤です | ・対向主軸旋盤 ・平行2主軸旋盤 などがあります |
多刃旋盤 | 刃物台上に多数の刃物が設置され、必要数の刃物で、同時に切削する旋盤です | NO1と同様に大きさを表します |
タレット旋盤 | タレットヘッドに複数の刃物や工具を設置して、タレットヘッドから必要なバイトを選んで切削する旋盤です (タレットヘッドは複数の工具が接続できる円盤状の刃物台です) |
– |
自動旋盤 | カム・油圧・電気的機構および数値制御により、自動的に切削加工を行う旋盤です | ・単軸自動旋盤 ・多軸自動旋盤 |
立て旋盤 | 垂直面内の主軸に設置したテーブル上に、ワークを置いて、刃物台をコラムやクロスレールに沿って送り、切削する旋盤です | 加工可能な最大直径とテーブルとクロスレール間距離で、機械の大きさを表します |
倒立旋盤 | 垂直面内の下向き主軸に設置したチャックで押さえ込んだワークを、水平面内に回転させて刃物台をクロスレールに沿って送り切削する旋盤 | – |
正面旋盤 | 水平面内の主軸に面板を備えて、正面削りを行う旋盤です | 刃物台は、主軸に直角方向に広く動作します |
中ぐり旋盤 | 中ぐり加工専用の旋盤で、直径に比べ長い穴を、中ぐりする旋盤です | シリンダライナ加工専用などで使用します |
クランク軸旋盤 | クランク軸のピン部あるいはジャーナル部を切削する旋盤です | カム軸旋盤のように工作機械専用の旋盤があります |
また、旋盤を使う際の注意点とその対策を、2点ご紹介します。
注意 | 太く長い円筒を旋削加工する場合、普通旋盤を使用するとワークの重量と長さにより途中で重力によるたわみが生じ、加工精度が維持できません。 |
---|---|
対策 | 普通旋盤ではなく立て旋盤を使用することで、ワークの重力は軸方向に向き、容易に旋削加工が可能です。 |
注意 | ワークの重量などが均一でなく、位置によって大きく重量が異なる場合、普通旋盤でそのまま加工すれば、途中のたわみなどで加工精度が悪くなります。 |
---|---|
対策 | ワーク全体の重量などが均一にできるような、ワークを押さえる補助用具があります。補助具を設置してワークに掛かる重量などを均一としてから、切削加工を行います。 |
旋盤とバイト工具による旋削加工
バイトの基本的な分類・詳細な分類の紹介と分類ごとの特徴などを解説します。
旋盤で使用する工具
旋盤で使用できる工具にはバイトやドリルがありますが、主に使用されるのはバイトです。バイトには、旋削加工の目的に応じていろいろな形状のものがあります。
図3で紹介するバイトのイメージ図は、構造の分類として基本的なバイト3種類です。
むくバイト | 刃部とシャンク部が一体としたバイトです。 むくバイトはそのままでは切削には使用できず、切れ刃としてワークの加工に都合のよい加工を施して、使用します。 切れ刃として加工したものが、「完成バイト」です。 |
---|---|
付刃バイト | 切れ刃チップをボディにろう付けしたバイトです。 |
スローアウェイバイト | 切れ刃の寿命が来たら取り替えて使うという発想から生まれたバイトです。 チップには加工方法に合わせて、色々な形状のものがあります。 |
バイト工具の種類と目的
バイトを分類すると以下のように分類できます。
- 刃部材料及び表面処理による分類
- 構造による分類
- 使用工作機械による分類
- シャンク(取付け部)の形態による分類
- 機能又は用途による分類
以下の表3では、用途による分類によるバイトを紹介します。
用途分類では30種ほどありますが、ここでは代表的な20種類を取り上げます。
バイト名 | 内容 | 備考 |
---|---|---|
粗削りバイト | 粗削り工程で使用するバイトです | ・重切削用形状 ・切屑処理形状 |
仕上げバイト | 仕上げ工程で使用するバイトです 一般に良好な仕上げ面を得るように考慮されている |
・仕上げ面良好を考慮 |
突切りバイト | 切落し、幅の狭い溝削り用のバイトです | - |
逆突切りバイト | 突切りバイトを、刃物台下向きに設置して使います | - |
中突切りバイト | 突切りバイトの主切れ刃がシャンクの軸に対称にして使います | - |
へール突切りバイト | 切落し、溝削りに使うへールバイトです | ヘールバイトは、首を曲げたバイトで、ばねのよう動きます |
溝削りバイト | 溝削りに使うバイトです | - |
リセッシングバイト | 内面溝削りで使うバイトです | - |
穴ぐりバイト | 穴を旋削するとき使用するバイトです | 曲がった刃部が長い首の先端に |
穴仕上げバイト | 穴ぐりバイトの主切れ刃が、シャンク軸と平行なバイトです | - |
穴ぐり荒バイト | 穴仕上げバイトがシャンク軸と傾斜するバイトです | - |
中ぐりバイト | 小形バイトを中ぐり棒に取り付けます | - |
面削りバイト | 面削りようのバイトです | - |
ねじ切りバイト | ねじ切りに使います | ・めねじ切バイト ・おねじ切バイト |
キー溝バイト | キー溝削りに使用します | - |
面取りバイト | ワークに鋭角を面取りするときに使用します | - |
座ぐりバイト | ボルトの締付け座の加工時に使うブレードで、座ぐり棒に取り付けます | - |
回転バイト | 回転できるように、丸こまバイトをホルダに取付ける組立バイトです | ・切削運動に従属して回転 ・強制的に回転 |
スカイビングバイト | 大きいすくい角と切れ刃傾き角で、接線送り1回ごとに目安の輪郭寸法となるように使うタンジェンシャルバイトです | タンジェンシャルバイトは、20項に記載 |
タンジェンシャルバイト | 主運動方向と送り運動方向が、一致するようにして使うバイトです | - |
旋盤の加工
以下の図4は、バイトによる旋削加工のイメージ図です。
旋盤による旋削加工の際には、工具寿命を長く、そして高品質に仕上がる方法を検討します。
- どのバイトを使うか
- バイトに合った旋盤はどれか
- どのような加工条件で切削加工するか
以上の加工条件を決めるには、図面から切削の3条件(➀切削速度、②送り量、③切込みの量)を決めます。切削の3条件から、使用する旋盤に必要な動力が算出でき、同時に工具の寿命とワークの品質が決められます。
また図4の仕上げ面の波形状は、「仕上げしろ」です。仕上げしろは、JISで加工法ごとに決められています。
実際の加工では、切りくず状態、加工硬化、構成刃先、びびり対策などにより、切削条件が決められてきます。
旋削加工のトラブルシューティング
ここでは以下の旋削加工のモデル図(図5)から、旋削加工に関するトラブル例とその原因・対策について、工具側・ワーク側・切削状況のそれぞれの観点別に紹介します。
いずれの切削においても、切削力と切削抵抗力、切削速度や送り速度などの加工条件からトラブルの発生しない切削の条件を求めることが大切です。
それぞれのトラブルには原因があって、その原因に対策を取れば、工具寿命の長い、加工品質の良い加工が可能です。
バイトに対するトラブル
トラブル事象 | 原因 | 対策 |
---|---|---|
逃げ面の摩耗 | ・工具の形状不良 ・切削条件が悪い ・バイト摩耗力不足 |
・バイトの材種を変える ・切削速度上昇 ・送り速度調整 ・切削剤を見直す ・摩耗に強い材種工具変更 |
すくい面の摩耗 (クレータ摩耗) |
・工具の形状不良 ・切削条件が悪い ・バイト摩耗力不足 |
・すくい角の多きいバイト変更 ・切削速度下降 ・送り速度下降 ・切削剤を見直す ・摩耗に強い材種工具変更 |
チッピング | ・機械的衝撃が加わる ・熱衝撃が加わる ・圧着や溶着が生じる |
・送り速度下降 ・切込み量を薄くする ・ホーニングを加える ・熱衝撃に強い材質工具へ変更 ・切削速度上昇 ・すくい角の多きいバイト変更 |
欠損 | ・チッピングが大となる ・切削条件不良 ・工具の剛性不足 |
・チッピング対策を取る ・送り速度下降 ・切込み低下させる ・シャンクサイズを大とする ・チップ厚さを大きくする ・すくい角の減少 |
フレーキング (剥離) |
・切削条件不良 | ・送り速度低下 ・切削速度低下 ・すくい角を小さくする |
溶着・構成刃先生成 | ・切削条件不良 | ・切削速度上昇 ・送り速度上昇 ・すくい角を大きくする |
ワークに対するトラブル
トラブル事象 | 原因 | 対策 |
---|---|---|
寸法不良 | ・熱による変位 ・工具が摩耗している |
・環境影響を避ける ・空調の調整 ・工具取替 |
仕上げ面が粗い | ・構成刃先生成 ・ビビリ発生 ・工具不良 |
・工具の構成刃先生成で示した対策を行う ・工作機械点検補修 ・ワーク取付けを確実に ・剛性のある工具使用 |
円筒度が不良 | ・工作機械調整不良 ・機械の摩耗が進行 |
・センター位置の調整 ・機械の保全により摩耗部分の補修(円筒長手方向寸法の一定化) |
真円度が出ない | ・チャック保持力低下 ・強制振動 ・軸受精度が悪い |
・チャックの締め直し ・チャック構造変える(爪数増加、幅のある爪) ・振動源除去 ・軸受交換(軸受は消耗品) |
切削条件に対するトラブル
トラブル事象 | 原因 | 対策 |
---|---|---|
振動大 | ワークの重量が一定でない | ・バランスウエイトで重力一定化 ・ワークと機械の据付け状態確認 ・回転数低下 |
ビビリ発生 | ・機械・ワーク・工具の剛性が低い ・切削条件不良 |
・ワークの取付け方法変更 ・機械の剛性チャック ・ガタがあるような部品交換 ・剛性のある工具交換 ・回転数変更し共振回避 ・送りの調整 ・切削力低下させる |
切り屑不良 (長くつながる) |
チップブレーカが切削条件に合っていない | ・チップブレーカ幅を切り屑状態に合わせて変更 ・送り速度上昇 ・切削速度低下 ・切込み角調整 |
切り屑不良 (短く飛散) |
・チップブレーカ幅を切り屑状態に合わせて変更 ・送り速度低下 |
トラブルの多くは、切削条件に起因しており、切削抵抗、ワークや切り刃の発熱、せん断力による抵抗力、塑性変形と加工硬化、構成刃先の生成、びびり振動の発生など、切削に直接影響する事象が現れます。
ワークや工具の相性だけでなく、材質の影響もあって、切削条件は変化します。 図5で紹介した切削のモデルを参考に、切削条件によって切削抵抗や発熱や切りくず状態を調べていくことで、トラブルの原因が予想できるでしょう。