
ステンレス鋼とは?ステンレス鋼の種類とステンレス加工のコツ
- 更新日:
- 2025/02/07 (公開日: 2023/02/22 ) 著者: 甲斐 智
ステンレス鋼はその耐食性の高さから、日用品や産業機械、土木建築や発電所などのプラント、医療機器や美術品など、それぞれの材料が持つ特性を活かし、さまざまな用途で使われています。
この記事では、ステンレス鋼の分類とそれぞれの特徴、ステンレス鋼を切削加工する際のポイントについて解説します。
ステンレス鋼とは
ステンレス鋼の用途は、私たちが日常的に使う食器から産業機械まで、多岐にわたります。
鉄を主成分に、炭素やクロムを含んだステンレス鋼は、その材料の含有率と金属組織の形態によって細かく分類されます。
主要成分による分類
ステンレス鋼は、鉄以外の主要成分によって「クロム系」「クロム・ニッケル系」に分類されます。
上記以外にもマンガンを加えたものなどがあり、その種類は多岐にわたりますが、分類方法としては、次項の金属組織による分類が一般的です。
金属組織による分類
ステンレス鋼の特性は、金属の組織状態によって大きく変わります。
常温時の組織状態によって、下記の5つに分類されています。
〈金属組織による分類〉
オーステナイト系ステンレス
オーステナイト系ステンレスは、「オーステナイト」主要な組織とするステンレス鋼で、代表的な材料に SUS303やSUS304、SU316があります。ステンレス鋼のなかでもっとも一般的で、広く使われています。
他のステンレス鋼とくらべ、耐食性や高温・低温環境での強度変化が小さく、さまざまなシーンに対応可能です。
一方、高温状態で一定時間経過すると耐食性が低下するため、溶接や熱処理を行う場合には注意が必要です。
マルテンサイト系ステンレス
マルテンサイト系ステンレスは、「マルテンサイト」を主要な組織とするステンレス鋼で、代表的な材料に SUS410 や SUS420J2 があります。
マルテンサイトは、安定したオーステナイトの状態から急激に冷却することによって得られる材料で、鉄鋼材料の組織ではもっとも硬く、もろいことで知られています。
焼き入れをして強度を高めることが多いマルテンサイト系ステンレスですが、そのまま使うともろいため、焼き戻しをすることでじん性を高めてから使用されます。
フェライト系ステンレス
フェライト系ステンレスは、「フェライト」を主要な組織とするステンレス鋼で、代表的な材料に SUS430 があります。他のステンレス鋼と比較して強度は高くないものの、コストが低いため幅広く使われています。
フェライト系ステンレスは、炭素含有量が比較的少なく、焼入れの効果が出にくいことがあります。また低温で脆性破壊しやすいため、フェライト系の材料を選定する際には注意が必要です。
オーステナイト・フェライト系ステンレス
オーステナイト・フェライト系ステンレスは、「オーステナイト」と「フェライト」の二相からなるステンレス鋼で、ステンレス鋼のなかでも優れた強度を持つ材料です。
応力腐食割れ(経年損傷の一種)への耐性が高いことで知られていますが、溶接を行う際には熱影による組織変化に注意が必要で、用途は限られています。
析出硬化系ステンレス
析出硬化系ステンレスは、特定の元素による「析出(せきしゅつ)硬化」が起きているかどうかによる分類です。
析出硬化は、合金中の化学成分を析出させ、金属組織内に微小な粒子を分散させる現象で、耐食性を低下させずに高強度・高硬度を実現できます。
原料や製造コストが高いため用途は限られており、耐食性と高い強度の両立が求められる船舶や、航空機の部品などに採用されています。
ステンレス鋼のメリット

幅広い用途に使われるステンレス鋼には、次のようなメリットがあります。
ステンレス鋼は耐食性が高い
ステンレス鋼は、化学的に安定した皮膜が表面を覆っており、傷がついても再生するため、常に高い耐食性を維持することができます。
ステンレス鋼の種類によって耐食性に大きな幅がある点には注意が必要です。特に、オーステナイト系は耐食性に優れ、マルテンサイト系は耐食性に劣ることが知られています。
ステンレス鋼は耐熱性が高い
ステンレス鋼は耐熱性が高く、500℃程度までであれば高い強度を維持します。
500℃以降は機械的強度が低下し、特にマルテンサイト系とフェライト系は強度の低下幅が大きいため、高温環境で使う場合には注意が必要です。
ステンレス鋼は剛性が高い
ステンレス鋼は炭素を含んでいるため、高い強度を誇ります。
実際の特性については、ステンレス鋼の種類や熱処理の有無によって大きく異なるため、材料ごとに確認が必要です。
ステンレス鋼のデメリット

メリットの多いステンレス鋼ですが、デメリットもあります。
ステンレス鋼は加工硬化しやすい
ステンレス鋼は「n値(加工硬化指数)」が鋼板の2倍と大きいため、加工硬化しやすい性質を持ちます。特に板金加工では、注意が必要です。
ステンレス鋼は放熱性が低い
ステンレス鋼は熱伝導率が低いため、放熱性が求められる部品では注意が必要です。
切削加工の際も、刃先の熱が放熱せず集中してしまうため、工具摩耗が進行しやすい特徴があります。
薄肉の切削加工や、薄板の溶接を行う際は、熱の影響でワークに反りが発生するおそれがあります。
ステンレス鋼の種類

工業分野で使われる代表的なステンレス鋼には、下記の種類があります。
〈銅合金の種類〉
SUS304
SUS304は、オーステナイト系ステンレスのなかでも代表的な材質です。
クロム(18%以上)とニッケル(8%以上)が含まれており、18-8ステンレスとよばれることもあります。
SUS304:引用元:国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
SUSはγ鉄にクロムや微量のNiなどの合金元素を混ぜたステンレス鋼の呼称で、その代表的なものが18%Cr、8%Niを含むJISで規格化されたSUS304です。SUS304は錆び難く機械的性質も大変優れているため、厨房・家電や自動車・鉄道車両、原子炉のシュラウドなど幅広い用途で実用されています。
SUS303
SUS303は、難削材であるステンレス鋼のなかでも快削性が高い、オーステナイト系のステンレス鋼です。
リンや硫黄を配合することで、焼き付き性や快削性を向上しています。
SUS316
SUS316は、SUS304にモリブデン(Mo)を添加し、耐食性と耐孔食性を向上させたステンレス鋼です。希少なモリブデンを含む分、SUS304よりもコストが高くなります。
モリブデンの影響で、SUS304とくらべて、加工性が落ちるため注意が必要です。
SUS430
SUS430は、クロム(18%)を含むフェライト系ステンレスです。
ニッケルが含まれていないため耐食性は劣りますが、加工性に優れコストが低いため、SUS304の代替としても広く使われています。(高温環境下での置き換えには向いていません)
ステンレス鋼を使用した製品例

ステンレス鋼はその耐食性の高さから、日用品から産業製品まで、幅広い用途に使われています。
日用品 | 食品産業では、スプーンやナイフなどのカトラリーにオーステナイト系やマルテンサイト系のステンレス鋼が使用されています。 また流し台やフライパンなどの調理器具にも採用されています。 |
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産業製品 | 電気・電子機器では、耐指紋性や抗菌性を高めるため、クリア塗装を施したステンレス鋼が多く採用されています。 輸送機器では、アルミと共に車両本体に使用され、エンジン周辺の主要部品には耐熱性に優れたステンレス鋼が採用されています。 |
ステンレス鋼を切削加工する際のポイント

ステンレス鋼は熱伝導率が低く、切削熱を刃先を通して放熱することができないため、工具摩耗が急速に進展します。また加工硬化の影響で、トラブルが発生しやすい難削材として知られています。

実際の加工では、ステンレス鋼の種類・工作機械・切削条件によってもポイントが異なるため、参考例としてご覧ください。
ステンレス加工の工具選定ポイント
ステンレス鋼の切削には、耐摩耗性に優れているコーティング工具を使うのが効果的です。
また刃先の負担を減らすため、強ねじれ刃や、ポジティブなすくい角の工具を選定することがポイントです。
穴あけを行う際は、ねじれ角度を途中で変えることで切粉の排出性と高剛性を両立する、デュアルリードタイプのドリルが効果的です。
ステンレス加工の切削条件ポイント
ステンレス鋼の切削では、切り込み量を少なめにし、送り量を多くする必要があります。(切削速度は150~300m/分程度)
加工時の冷却は、基本的に切削点へのエアー供給で問題ありません。しかしクーラントを使うことで、潤滑・冷却・洗浄の効果を期待できます。また仕上げ加工の際には、オイルミストを供給することで、工具の摩耗を抑えながら仕上げ精度を向上させることができます。
ステンレス鋼の切削に使うクーラントは、高温環境で発火してしまわないように、水溶性のクーラントを使うことが望ましいでしょう。