
【徹底解説】アーク溶接とは?溶接の原理と種類、トラブルを紹介
- 更新日:
- 2025/02/07 (公開日: 2024/03/18 ) 著者: 甲斐 智
金属と金属を接合する方法には、ボルト・ナットなどで接合する機械的接合、接着剤などを使う化学的接合、そして、溶接などで接合する材料的接合の3つの方式があります。
さらに材料的接合には接合する素材によって溶接やろう付けなどさまざまな方式があります。
今回のコラムでは金属どうしを溶接する「アーク溶接」について解説します。

アーク溶接とは
アーク溶接の基本である「溶接」と「アーク」について、イメージ図を交えながらご紹介します。
そしてアーク溶接とは何か、その方式について解説します
溶接とは
図1では、溶接の基本原理のイメージを紹介します

溶接の基本原理は、2つの金属の接続したいところに熱を加え、母材の接続部を溶解し、溶融金属A(母材A側)と溶融金属B(母材B側)を一緒にして、接続溶融金属とすることです。
接続溶融金属は、温度が下がって固体化した所で母材AとBがひとつの金属となっています。図1に接続溶融金属部の原子イメージ図を示していますが、母材AとBはまったく同じ原子構造です。
これを金属結合といい、イオン結合状態になっています。
アーク溶接の基本原理
図2は、アークについての解説です。

アークは放電現象のひとつで、多数ある放電現象の中でも低い電圧中で大きな電流が流れることが特徴です。
プラスとマイナスの電極が短絡している状態から電極を引き離すと、2つの電極の間に放電現象が生じます。これがアークです。
アークが発生すると低電圧で大きな電流が流れ、発生する温度は500℃~20000℃といわれています。
(ステンレス鋼の融点は1500℃、銅が1000℃、アルミで600℃です。)
図3は、アーク溶接のイメージを紹介した図です。

アーク放電により周囲の電離イオンは+側と-側に引き込まれ、電圧と電流の大きな変化によって母材に高い熱が発生し、母材は溶融します。
2枚の母材間にアークによる熱が発生すると、2枚の母材間は溶融し溶け合い混合します。アークが収まって温度が低下すると、溶融金属は元の固体に戻り2つの母材は接合されます。
これがアーク溶接です。
アーク溶接の種類と具体例
アーク溶接にはさまざまな方式があります。
アーク溶接の体系図やそれぞれの方式の概要を示すとともに、アーク溶接の例として最も良く使用される「被覆アーク溶接」と「ティグ(TIG)溶接」について、その構成と溶接の仕組みをご紹介します。
アーク溶接の種類
アーク用溶接の方法にはいろいろな方式があり、状況によって使い分けられます。
図4では、アーク溶接の体系についてご紹介します。

アーク溶接には、大きく分けて、「非溶極式」と「溶極式」があります。
非溶極式は、放電電極が溶けない方式のアーク溶接です。
溶極式は、放電電極が溶融する方式のアーク溶接です。
非溶極式
ティグ溶接
電極にタングステン、シールドガスにAr(アルゴン)・He(ヘリウム)などを用い、溶加棒や溶接ワイヤを溶加材として使う方式です。
プラズマ溶接
ティグ溶接のアークを拘束ノズルにすることで、広がりのない高密度で高温のアークが得られ、ビード幅が狭く溶け込みが深い溶接部ができます。
溶極式
被覆アーク溶接
金属心線にフラックスを塗布した被覆アーク溶接棒を使って、アーク溶接を行います。
ガスシールドアーク溶接
ガスによって空気から溶接面を遮断するアーク溶接法です。シールドガスの種類で、MAGとMIGの溶接法に分けられます。
マグ溶接(MAG) | シールドガスに炭酸ガス、炭酸ガス+アルゴンガスを用いる方式です 炭酸ガス単独の場合は、主に軟鋼(490N/mm2まで)に一般に使用されます 炭酸ガス+アルゴンガス混合の場合は、高張力鋼、低温用鋼、低合金鋼に一般に使用されます |
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ミグ溶接(MIG) | シールドガスに炭酸ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスを用いる方式です アルミや銅の非鉄金属の溶接に用いられ、ステンレス鋼の溶接でも使われます |
エレクトロガスアーク溶接
厚板を立て向かい姿勢で溶接する方式です。造船などで用いられます。
セルフシールドガスアーク溶接
溶接ワイヤを自動で送給して溶接する方式で、シールドガス供給は行わない方式です。
シールドガスはフラックスを用いてシールドガスを発生させます。
サブマージアーク溶接
はじめから溶接線上にフラックスを散布し、フラックス中にソリッドワイヤを入れて、アークを発生させて溶接する方式です。ワイヤに大口径ワイヤを使用して大電流を流し効率の良い溶接が可能です。
また溶接機を自動で移動させることで、自動式アーク溶接も可能です。
アーク溶接例
ここではアーク溶接の例として、被覆アーク溶接とTIG溶接についてご紹介します。
被覆アーク溶接
図5は被覆アーク溶接のイメージ図です。

母材を+電極、溶接棒を-電極として溶接機と接続し、溶接棒と母材間でアークを発生させ、母材を溶接する溶極式の溶接方式です。
溶接棒には心線を被覆材で覆ったものを使用し、溶接層にフラックスを塗布して使用します。
溶接棒と母材間にアークを発生させ、母材を溶融して溶接金属を形成して溶接を行います。アーク熱によってフラックスが分解して発生したガスは、シールドガスとして大気から溶融金属を保護します。
母材や電極がアーク熱で溶融して液化した溶融金属の溜まりは、溶融池といいます。
被覆アーク溶接に限らず、溶接ではこの溶融池に溶加材の溶滴を垂らしながら溶接を進めます。溶融池の出来によっては溶接欠陥が発生します。
被覆アーク溶接において非金属の溶接は限られますが、鉄系の金属は全て一般的に適用されます。
ティグ(TIG)溶接
図6は、ティグ溶接のイメージ図です。

ティグ溶接は、放電用電極にタングステンを使い、シールドガスとしてアルゴン(Ar)やヘリウム(He)の不活性ガスを使用します。
タングステンと母材間にアークを発生させて、母材を溶融して溶接します。
溶融池には、溶加材として溶加棒や溶接ワイヤを添加します。
ティグ(TIG)溶接の特徴として、次のことがあげられます。
〈良い点〉
- アークが安定して供給できる
- スパッタはほとんど発生しない
- 良い品質の溶接金属が生成される
- 溶接部は緻密で、気密性に優れている
〈悪い点〉
- 溶接速度が遅い
- 溶加材の使用は手作業で行われるため、下向き以外の姿勢は作業性が劣る
- 狭い箇所の溶接の作業性が劣る
TIG溶接は、非金属の溶接、ステンレス鋼の溶接、低合金鋼の溶接に一般的に適用されます。高張力鋼の溶接は、限られた用途で適用されます。
溶接と工具の関係
切削工具の中には溶接と関係のあるものもあります。
溶接を加える工具
工具の中には、製作時に溶接を加えるものがあり、図7のように溶接で接続がなされます。

溶接ドリル | ボディとシャンクを突き合わせて溶接したドリルです |
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溶接フライス | ボディとシャンクを溶接したフライスです |
溶接リーマ | ボディとシャンクを溶接したリーマです |
本体とシャンクを溶接で接合する理由は、価格的な理由です。本体は高価な超硬やハイスが用いられますが、シャンクはSUS材を使うことで価格を抑えることができます。
溶接と切削加工
アーク溶接では溶接ビードという、溶接に使用する溶加材や溶接ワイヤなどが溶接時に溶け、溶けた金属中に含まれたものができます。
溶接ビードは魚のうろこのように波状に、盛り上がって整然と溶接個所に並んで配置されます。
溶接ビード自体には特に害もないため、そのままにされる場合もありますが、見た目が良くないことを気にする場合や衛生上問題となる場合には、溶接ビードの除去を行います。この溶接ビードの除去は、ビードカットといわれます。
ビードカットはフライスで除去する方式と、グラインダーで表面を研磨し、仕上げにバフ研磨を行う方法などがあります。
ビードカット時には、カットの仕方によって溶接自体の強度を弱めてしまう問題も起こり得るため、技能の長けた人が行う方が良いでしょう。
アーク溶接のトラブルとその対応
アーク溶接では表1のような問題(溶接欠陥)が起こることがあり、アーク溶接前に対策を講じる必要があります。
表1では、主な溶接欠陥名、欠陥の概略と原因、対策に分けて記載しています。
溶接欠陥 | 欠陥内容と原因 | 対策 | 備考 |
---|---|---|---|
ピット | 溶接金属内部にできたガス孔が、ビード表面に放出され開口した気孔です 発生原因は、シールドガス不良・脱酸材不足・母材開先面油分・材料中の水分です |
ガス供給の欠点の確認、安定した供給できるように調整する | – |
アンダカット | 母材又は既溶接の上に溶接して生じた止端の溝です 発生原因は、過剰に高い溶接電流や溶接速度、大きいウィービング幅です |
溶接電流や溶接速度を調整します | – |
オーバラップ | 母材表面に出た溶接金属が止端で母材に融合せず重なった部分です 原因は、低溶接速度や過剰溶着金属量です |
溶接速度を高くする、溶接電流を減らすなどの溶接条件見直しを行います | – |
過大余盛 | 開先溶接やすみ肉溶接で、必要以上に表面から盛り上がった溶着金属です 原因は、溶融池の大きさに対し熱源の移動速度が遅いことがあります |
溶融池の大きさに対し熱源の移動速度を早くする ただし、移動速度が速すぎると、余盛不足の原因となるため、調整が必要です |
– |
表面の割れ | 溶接割れは、冷却又は応力の影響で発生する固相の局部破壊による不連続部です |
溶接時の温度管理(上げたり、下げたりする間合い)を適切に行います | – |
①縦割れ 溶接線に平行方向に対して生じる割れです |
溶接金属、ボンド部、熱影響部、母材などに存在 | ||
②横割れ 溶接線に対して直角方向に生じる割れです |
溶接金属、熱影響部、母材などに存在 | ||
③放射割れ 同じ位置から放射状に生じる割れで、小さなものは星割れ、スタークラックといいます |
溶接金属、熱影響部、母材などに存在 | ||
④クレータ割れ 溶接部終端部のクレータに生じる割れです |
溶接線方向に沿う割れ、溶接線に直交方向の割れ、放射状の割れ | ||
⑤分割割れ いろいろな方向に分離して存在する割れです |
溶接金属、熱影響部、母材などに存在 | ||
⑥分岐割れ ある割れに端を発し、分岐した割れです 溶接直後の高温状態で溶接部に発生するひび割れと、凝固時に発生する割れがあります また多層溶接時に、前の溶接層が次の溶接で溶けることで発生する割れもあります |
溶接金属、熱影響部、母材などに存在 | ||
アークストライク | 母材の上に瞬間的にアークを飛ばし、直ちにアークを切ったときに生じる不完全部・欠陥です 溶接開始時に溶接ワイヤなどを母材に接触させたときのアーク発生で起こります 溶接熱が急熱急冷されるためです |
・溶接棒の取扱いに注意 ・溶接時以外は、電源を切る ・アースを溶接母材に取る |
アークストライクは、母材の割れの原因となります |
ビードの曲り | ビードの蛇行によって、溶接線からずれる欠陥です 原因は、自動供給する溶接ワイヤの曲がりなどがあります またワイヤ供給速度や、溶接電流の設定値が不十分なことも原因となります |
ワイヤの曲りなどは溶接前に点検確認する | – |
ブローホール | 溶接金属中に生じる球状の空洞(ガス孔)です 原因は、シールドガス不良・脱酸材不足・母材開先面油分・材料中の水分です |
シールドガスの不具合をなくす 母材開先面に付着物が無いよう点検する |
– |
スラグ巻き込み | スラグが溶接金属に巻き込まれた状態です 原因は、溶接中生成のスラグが溶融金属よりも先に凝固し、溶融金属内にスラグが残るためです |
融合不良を防止すること 溶接前にスラグを入念に除去すること |
・線状 ・孤立状 ・群れ状 などがあります |
溶け込み不良 | 設計溶込みに比べ実溶込みが不足していることです 原因は、設計溶融金属への入熱不足より、目的位置や深さまで溶け込まないためです |
設計に合わせた溶け込み量を確保できる入熱を確認する | – |
融合不良 | 溶接境界面が互いに十分に溶け合っていないことです 原因は、溶融金属への入熱不足などで、先に溶け込ませる奥層のビード(前層ビード)が、溶融しきれないことで発生します |
設計入熱を確認し、溶接時に設計通りの熱かを注して溶接する | – |
溶接内部の割れ | 溶接内部の割れは、冷却又は応力の影響で発生する固相の局部破壊による不連続部です |
溶接時の温度管理(上げたり、下げたりする間合い、予熱)を適切に行います 溶接中に水素進入防止を図る |
– |
①ルート割れ ルートの切欠きの応力集中部分に生じる箇所の割れです |
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②ビード下割れ ビード下側に発生する割れです |
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③高温割れ 溶接部の凝固温度範囲か直下の高温箇所で発生する割れです |
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④低温割れ 溶接後に溶接部温度が低下して発生する割れです |
ルート割れ、ビード下割れ、止端割れなどは低温割れに属します | ||
⑤再熱割れ 溶接部を再加熱したときに発生する割れです 原因は、「表面の割れ」の項で書いたこととほぼ同じです |
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スパッタ | アーク溶接などで、溶接中に飛散し、溶接部に付着した金属粒です | シールドガスにArが含まれる混合ガスを使用します ワイヤを送給する場合は、等速度で送ります |
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