【徹底解説】タップ加工とは?タップの特徴とトラブル対策を紹介
- 更新日:
- 2024/03/18 (公開日: 2024/03/18 ) 著者: 甲斐 智
タップ加工とは、2枚の金属製基盤を接続する際に基盤にドリル穴をあけネジを切る加工です。
しかし、単にネジを切ればうまくいくわけではなく、ネジの軸が穴の軸とぴったり一致すること、ネジの内径が指定された公差であること、タップ加工時の金属くずの適切な処理など多くのポイントがあります。
このコラムでは、タップの構造や種類、タップ加工時のトラブルとその対策などを解説します。
タップ加工とは
金属の材料(ワーク)にドリルで穴を空け、メネジを切る切削加工がタップ加工です。タップ加工の概要と、大きく分類したタップの種類と方式について概要を紹介します。
タップ加工の概要と種類
タップ加工は、ドリルで開けた下穴をメネジに加工することです。
下穴に「タップ」と呼ばれる工具を入れ、ワーク側を切削してメネジに加工します。
下穴には、下穴がワークを通り抜ける通り穴と、下穴がワークの途中までの止り穴があり、それぞれ違うタップを使用します。
またタップの加工の種類には、大きく分けて、切削と転造の2つの分類があり、切削はさらに3つに分類されます。
図1に、この分類を整理しています。
切削タップ
切削方式のタップ加工で使用される切削タップは、下穴を切削してメネジを切ります。ほとんどの材料が、この方式でタップ加工されます。
切削に当たって注意すべき点は、切りくずの排出方法です。切りくずの処理が悪いと、タップの折損も起こり得ます。
切削タップには、3つの種類があり、次のような特徴があります。
ハンドタップ
主に機械によるネジ加工に使用します。手作業でのタップ加工にも使用されます。
切りくずは溝部に溜める構造です。
ハンドタップのうち、ネジ部の径が等しい等径タップは、食付き部の山数が7~10山の「先タップ」、3~5山の「中タップ」、1~3山の「上げタップ」の3組でネジサイズに対応します。
またネジ部の径を順次大きくする1番タップから3番タップ(仕上げタップ)の増径タップでも、ネジサイズを調整可能です。
ポイントタップ
貫通穴専用のタップで、切りくずを前方向に排出しながらタップ加工を進めます。
スパイラルタップ
溝が軸線に対して右または左にらせん状にねじれているタップです。
主に下穴が止まり穴の場合に使用されるタップです。ねじれている後方向、シャンク側に切りくずが排出されます。
転造タップ
転造方式のタップ加工で使用される転造タップ(盛り上げタップともいいます)は、タップ下穴にタップを挿入し、加工物を盛り上げてメネジを加工します。切削はまったく行わないため、切りくずが一切出ません。
盛り上げタップは、塑性流動によって加工するため、アルミのような展延性が良い材料に使用されます。
ロールタップが転造タップの代表的なタップです。
ロールタップは折れにくく、寿命が長いことが特徴のひとつです。
タップ加工で使用されるタップの構造
タップ加工で使用されるタップは、切削する刃の部分、刃部を支えるシャンク部分で構成されます。 この構成はタップの種類によって色々な形状を描き出しますが、基本的な構造と切削方式は同様です。 タップの基本構造と、ネジの切削加工についてご紹介します。
タップの形状
図2に切削方式のタップ加工で使用されるタップの構造を紹介します。
タップは、ネジ部、シャンク部、四角部から構成されていて、先端から四角部までが全長です。ネジ部は、食付き部と完全ネジ部で構成され、タップ加工は食付き部の刃先で切削します。
食付き部のネジ山数は、2.5山か5山が標準です、タップ加工によって山数が異なります。
完全ネジ部は、完全なネジ山の形状をしています。これに対して、食付き部は、不完全ネジ部といいます。
図2の左側の図は切れ刃の平面図です。
溝は、隣り合った切れ刃の刃先とヒールの間のへこんだ部分で、切りくずを排出します。ハンドタップでは、溝は直溝ですが、スパイラルタップでは、溝はねじれ溝です。
タップの切削は、切れ刃の刃先で行いますが、ランド部の刃先から刃裏までに逃げが施されています。
タップのネジ山と、加工したメネジの接触部が増えると、案内性が大きくなり、切削性が悪い加工材料では大きな摩擦力となって不具合を起こしやすくなります。そのため、逃げによって、この不具合を避ける役目を持っています。
逃げの取り方は、マージン部のないエキセントリックレリーフと、マージンを持つコンエキセントリックレリーフがあります。前者は切削性が良くなりますが自己案内性が小さくなり、電動機などに保護具を付ける必要があります。
後者の方は、適度な自己案内性を持った加工が可能になります。
タップによるネジ加工
タップによるネジ加工の概要について紹介します。
食付き部の不完全部に並んだ刃先によって、順にネジ加工が行われます。図3に刃の並びのイメージを示していますが、第1波が回転して4つの刃先で切削し、次に第2刃(最終刃)で切削してネジの切削加工が終わります。
図3の下の台形は、切削したメネジを表し、➀~⑧は切れ刃の刃先で順番に切削した様子です。
食付き部(不完全部)の刃が1回転する間に、刃の4部分が回転しながら切削して、ネジ山がひとつ加工されます。食付き部が2枚の刃で構成されていれば、2山のネジ山ができることになります。
タップ加工で使用されるタップの種類
タップ加工で使用されるタップの種類は数多くありますが、タップの材料、タップの用途、タップの構造などいくつかの分類に分けることができます。
ここでは、タップを特徴ごとに分類してご紹介します。
タップの刃部材料と表面処理による分類
刃部材料または表面処理 | 内容 | 備考 |
---|---|---|
合金工具鋼 | 刃部に合金工具鋼を使用したタップ | 耐摩耗性、耐熱性 |
高速度工具鋼(ハイス) | 刃部に高速度工具鋼を使用したタップ | 靭性により折れにくく、耐熱性に優れる |
超硬合金 | 刃部に超硬合金を使用したタップ | ・超合金は、炭化タングステン主体の焼結体 ・耐摩耗性優れる |
コーティング | ・刃部に窒化チタニウム、炭化チタニウムを表面に1層や多層に密着させています ・コーティングにより、耐摩耗性、耐熱性、耐溶着性が向上します |
・高速度鋼チタンナイトライドコーティングタップ ・超硬チタンカーバイドコーティングタップ |
窒化処理 | ・刃部の表面に窒化処理した材料使用のタップ ・表面の硬さを大きくして摩耗を防ぐ ・耐熱性が増す |
・切りくずが細かくなるワークに対して有効 |
酸化処理 | ・刃部の表面に酸化処理した材料使用のタップ ・切削油が穴に溜まり、タップの摩擦抵抗が低くなる |
・SUS材有効 |
窒化酸化処理 | 刃部の表面に窒化と酸化処理を施した材料のタップ | – |
ホモ処理 | ・黒錆(Fe3O4)の被膜を付け、密着性が良く多孔質。多孔質で切削油の保持します ・タップとワーク間の溶着や焼付きを防止します |
・潤滑性向上により耐摩耗性向上 |
タップの構造による分類
タップ名称 | 構造内容 | 備考 |
---|---|---|
むくタップ | ネジ部とシャンクが一体で製作されているタップ | – |
溶接タップ | ネジ部とシャンクが溶接されたタップ | – |
ろう付けタップ | 刃部材料がボデー、シャンクの材料とろう付けされたタップ | – |
接ぎ柄タップ | ネジ部とシャンクをネジなどで機械的に接続したタップ | – |
植刃タップ | ボディにチェーザを機械的に接続したタップ | ・φ50以上の太いタップで使用 |
シェルタップ | ネジ部が中空で、シャンクに付けて使うタップ | ・キー溝タイプ ・テノン溝タイプ |
エキスパンションタップ | 割り溝があり、ネジでネジ部径を調整する | ・調整式タップ |
アジャスタブルタップ | チェーザを植え込み、ネジ部径の調整が可能なタップ | – |
コラプシブルタップ | ネジ立て終了後に、チェーザが内側に引き込まれ、逆転させずにネジ穴からタップを引き抜けるタップ | ・4個のチェーザが設置 |
タップの用途による分類
タップ名称 | 用途 | 備考 |
---|---|---|
ロングタップ | ハンドタップに比べシャンクが長いもの | – |
テーパタップ | ネジ部がテーパになっていて、テーパネジ立てに使用します | – |
ナットタップ | ネジ立盤でナット製作時に使用します。食付き部が長いのが特徴です | – |
タッパタップ | 長いシャンクを有し、ネジ立てされたナットを複数個蓄積できます | – |
プーリタップ | シャンクの径がネジ外径に等しく、プーリのボスにオイルカップや止めネジを取付けるため、ネジ立てをリム穴に通します | – |
油穴付きタップ | ボディに油穴を持ったタップです | – |
深穴タップ | 深いネジ立ての際に切りくずの排出のため、タップの心部に穴を有します | – |
インターラップタップ | 奇数の溝数として、各ランドのネジ山を1山飛びに除去したタップです 薄く切削する場合にネジ山を減らすことで食付きがしっかりします |
・管用テーパタップ |
オーバーサイズタップ | ネジ部径が標準より大きいタップです 大きめのネジが必要な場合に使います |
– |
インサートコイルタップ | インサートコイルを使ってメネジの加工のために、ネジ部の径を大きくしたタップです | ・材料に直接タップを切らない方式 |
種タップ | 溝数をハンドタップより多くし、おネジ加工工具のネジ仕上げ加工用です | – |
増径段付きタップ | 1番タップ、仕上げタップをネジ部先端からシャンクの方に順に径を大きくたタップです | – |
異径段付きタップ | ネジ部に2種類の径が異なるネジを持ったタップです | – |
案内付きタップ | 穴と同径の案内部を持つタップです ネジの下穴とネジの軸心を同じとするためです |
– |
ネジの種類による分類
タップ名称 | 用途 | 備考 |
---|---|---|
メートル並目ネジ用タップ | メートル並目ネジ立てに使用します | JIS B 0205、4430 |
メートル細目ネジ用タップ | メートル細目ネジ立てに使用します | JIS B 0205、4430 |
ユニファイ並目ネジ用タップ | ユニファイ並目ネジ立てに使用します | JIS B 0206、4432 |
ユニファイ細目ネジ用タップ | ユニファイ細目ネジ立てに使用します | JIS B 0206、4432 |
管用平行ネジ用タップ | 管用平行ネジ立てに使用します | JIS B 0202、4445 |
管用テーパネジ用タップ | 管用テーパネジ立てに使用します | JIS B 0203、4446 |
溝の形態による分類
タップ名称 | 溝の形態 | 備考 |
---|---|---|
直溝タップ | 溝が軸線に平行になっています | – |
右スパイラルタップ | 溝が軸線に対し右にねじれています 右ネジでは、切りくずがシャンク側に排出されます |
溝のねじれ角により、スロー、ミディアム、ファーストがある |
左スパイラルタップ | 溝が軸線に対し左にねじれています 右ネジでは、切りくずが進行方向に排出されます |
– |
スパイラルポイントタップ | 食付き部切れ刃側の溝を、数山斜めに削り、切りくずが進行方向に容易に排出されます | ポイントタップ |
タップ加工時に発生しやすいトラブルと対策
下穴にメネジを製作するには、タップで切削します。しかし、タップの進行速度や進行方向、下穴の径の精度が悪いなど切削上に悪い条件が重なると、精度良い正確なネジの製作ができません。
ここでは、タップ加工によるトラブルの事例と、対策について紹介します。
タップに起こるトラブルと要因
トラブル例 | 要因 |
---|---|
メネジが拡大する | ・タップ選定が悪い ・切りくずの詰まり ・使用条件が適切でない ・溶着している |
メネジが縮小する | ・タップ選定が悪い ・メネジに傷がついている ・メネジに切りくずが残っている |
メネジのむしれやかじりの発生 | ・タップ選定が悪い ・切りくずが詰まる ・使用条件が適切でない ・タップの再研削が不適合である |
タップの折損 | ・切りくずが詰まる ・溶着を起こす ・切削トルクが過大である ・使用条件が不適切 |
タップの摩耗が大きい | ・切りくずが詰まる ・溶着を起こす ・切削トルクが過大である ・使用条件が不適切 |
タップの溶着 | ・摩擦熱が大きい |
タップトラブルに対する対策
ここではトラブルの原因を5つに分けて、対策をあげます。
タップ加工のトラブルは、単独の原因の場合もあればいくつかの原因が重なっているケースも考えられます。
タップ選定と設計が原因のトラブル例とその対策
トラブル例 | 対策例 |
---|---|
メネジの拡大や縮小 | 適正な精度のタップを選びます。またすくい角を拡大では小さくし、縮小では大きくします 食付き部の逃げ角の是正も必要です |
切りくずが詰まってメネジが拡大 | ポイントタップやスパイラルタップを使用します また、オイルホール付タップを使用します。 |
溶着によるメネジ拡大 | 表面処理を施したタップを使用し、オイルホール付タップを使用します。 |
切りくずが残ってメネジ縮小 | タップの切れ味を向上させ、ひげ状の切りくずが出ないように注意します |
メネジのむしれやかじり | 食付き部の長いタップを選定し、マージン幅や有効ネジ長さを短くします 溶着が要因なら表面処理を施したタップを使用し、オイルホール付タップを使用します |
切りくずの詰まりによりタップが折損 | ポイントタップやスパイラルタップを使用します また、オイルホール付タップを使用します |
溶着によるタップ折損 | 表面処理を施したタップを使用し、オイルホール付タップを使用します |
切削トルクによるタップ折損 | 食付き部の長さが長いタップを使い、すくい角を大きくして切れ味を向上させ、ネジレリーフを大きくして摩擦トルクを低減します |
タップの刃欠け | 切りくず詰まり防止のため、ネジ部の長さが短く低い硬さで、食付き部が長いタップを使用します |
タップ摩耗 | 表面処理したタップとし、ワーク材が硬質なら工具材質を向上させます |
摩擦熱大によるタップ溶着 | タップをネジ山の逃げを大きくし、ランド幅を薄くします |
使用機械の使用条件が原因のトラブル例とその対策
トラブル例 | 対策例 |
---|---|
メネジのむしりやかじり | タップをリード送りで進めます |
タップの折損や刃欠け | 使用機械の送りムラないように送ります |
切削上の使用条件が原因のトラブル例とその対策
トラブル例 | 対策例 |
---|---|
メネジが拡大 | 切削速度や送り速度を適正にします |
溶着によるメネジ拡大 | 切削速度を下げます また、反溶着性の切削油剤を高くすることも有効です |
メネジの傷によるメネジの縮小 | 逆転時にタップを抜く速度を適正にして、メネジに傷をつけないようにします |
溶着によるメネジのむしりやかじり | 切削速度を下げることと、切削油剤の種類と給油方式を見直し、油剤の交換や補充を適切に行います また、油中に異物や他の油の混入させないことです。 |
切りくずの詰まりによるメネジのむしりやかじり | 下穴をできるだけ大きくして、切削油の種類などを見直します |
タップ折損 | 切削速度を下げ、下穴との芯ずれや下穴の傾きをなくし、下穴への底突き当てをなくします |
タップの刃欠け | 切削速度を下げることと、切削油剤の種類と給油方式を見直し、油剤の交換や補充を適切に行います また、油中に異物や他の油の混入させないこと、さらに、耐溶着性の切削油剤を使用します |
タップの摩耗 | 切削速度を下げること、下穴の加工硬化をなくすことです 切削油剤の見直しも必要です |
タップの溶着 | 切削速度を下げることと、切削油剤の種類と給油方式を見直し、油剤の交換や補充を適切に行います また、油中に異物や他の油の混入させないことです |
ワーク材料が原因のトラブル例とその対策
トラブル例 | 対策例 |
---|---|
切りくず詰まりによるメネジ拡大 | 下穴の径はできるだけ大きくし、止り穴の場合はできるだけ深くします |
タップ選定によるメネジ拡大 | 下穴とタップも芯ずれをなくし、下穴の入口に面取り加工を施します |
タップ選定によるメネジ縮小 | 精度が大きいものを選定します (銅合金、アルミ合金、鋳鉄のような拡大代が小さい材料です) |
溶着によるメネジのむしりやかじり | 下穴径をできるだけ大きくします |
切りくずの詰まり | 下穴径をできるだけ大きくします |
メネジのむしりやかじり対策 | 材料の材質・硬さ・組織変化・バラツキに注意し、下穴との芯ずれや傾きをなくし、下穴の加工硬化が無いようにします |
切りくず詰まりによるタップ折損 | 下穴の傾きを是正し、止り穴の下穴をできるだけ深くします |
使用条件によるタップ折損 | 材料の材質・硬さ・組織変化・バラツキに注意し、下穴との芯ずれや傾きをなくし、下穴の加工硬化が無いようにします |
摩擦熱によるタップの摩耗大 | 材質・硬さ・組織変化・バラツキに注意し、下穴径をできるだけ大きくします また、止り穴の場合はできるだけ深くし、下穴の加工硬化を防止します |
その他の原因とその対策
トラブル例 | 対策例 |
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メネジに切りくずが残ってメネジが縮小 | ゲージチェック時には切りくずを完全に除去します |
溶着によるメネジのむしれやかじり | 前の行程で残った切りくずを完全に除去します |
切りくずの詰まりによるタップ折損 | 前の行程で残った切りくずを完全に除去すること、切りくずを除去する空間を確保します |