
【徹底解説】工具の再研磨とは?再研磨の必要性と注意点を紹介
- 更新日:
- 2025/02/07 (公開日: 2024/03/18 ) 著者: 甲斐 智
切削工具は例え良好な切削条件で加工が行われていたとしても、金属加工を繰り返すことで必ず摩耗が生じます。まして、切削条件が悪くなれば、摩耗の進行が早まったり、あるいは急激な摩耗や工具に欠けや損傷が起きることもあります。
工具は常に状態を管理し、摩耗が進んでいることが確認された場合には、再研磨が必要です。
本コラムでは、工具再研磨について解説します。

切削と工具の再研磨
切削工具は、使用しているうちに摩耗が進み、適切に切削できなくなっていきます。
切削における不具合の理由と対策を明らかにして、再研磨の必要性について紹介します。
なお、本コラムでは主にドリルとエンドミルについて解説していますが、他の切削工具についても同様に考えらえます。
再研磨が必要と思われる不具合とその原因
切削をする上で、何らかの原因でトラブルが起こります。トラブルの原因は様々ですが、工具に直接現れる異常は、刃部の摩耗とチッピングや欠け、折損です。
ドリルとエンドミルにおける不具合とその原因から、再研磨の必要性等を以下にまとめます。
ドリルの再研磨が必要と思われる不具合
ここではドリルの不具合とその原因等をまとめます。
不具合事象 | 原因 | 対策 | 備考 |
---|---|---|---|
切れ刃の欠け (チッピング) |
再研削不良 | シンニング片寄り再研磨 リップハイトの調整再研磨 |
– |
切れ刃摩耗 | 切りくず排出不良 | 適正なシンニングと逃げ角とする再研磨 | – |
穴の精度不良 | 食付きが悪い リップハイト大 チゼル偏心 先端角の非対称性 |
適正リップハイト再研磨 チゼル偏心適正化再研磨 |
再研磨後の精度確認 |
仕上げ面粗さ | 切り刃摩耗時の発熱 | 再研磨にてチップの耐摩耗性化 | – |
穴径ばらつき | マージン部摩耗 | 再研磨にてチップの耐摩耗性化 コーティング実施 |
– |
異常摩耗 | 外周コーナの異常摩耗は再研磨遅れ 逃げ角小 |
適正再研磨時期の設定 再研磨の正確さ |
工具交換もあり |
びびり | 逃げ角大 | 再研磨の正確さ | – |
エンドミルの再研磨が必要と思われる不具合
ここではエンドミルの不具合とその原因等をまとめます。
不具合事象 | 原因 | 対策 | 備考 |
---|---|---|---|
折損 | 工具損耗大 切り刃摩耗大 |
適正再研磨時期の設定 再研磨実施 |
工具交換もあり |
粗さ不良 | 工具損耗大 | 適正再研磨時期の設定 | 工具交換もあり |
バリの発生 | 工具摩耗大 | 適正再研磨時期の設定 | 工具交換もあり |
欠け | 全体的な欠け 刃先角が小さい |
ホーニングを適用する 角度を適正となるように研磨実施 |
– |
工具の速い摩耗 | 研磨が再度行う場合は、2番逃げ面の良好な研磨実施 | – | |
摩耗 | 外周逃げ角小 | 適正な逃げ角に研磨実施 | – |
切れ味悪化 | 切れ刃摩耗 | 再研磨実施 | – |
仕上げ面 | 切れ刃摩耗で粗さが悪い 外周逃げ角が不良 すくい角が不良 |
再研磨実施 適正角度に修正 再研削 適正角度に修正 再研削 |
– |
トラブルシューティングのまとめ
ドリルとエンドミルのトラブルシューティングを以下のようにまとめます。
再研磨を行うことが対策となる場合は、次のことを実施します。
(再研磨には実際には再研削が必要なものが多くありますが、本コラムでは、「再研磨」で統一します。)
- 摩耗面の再研磨を行う
- 角度不良を、再研磨を実施して適正とする
- ホーニングや寸法偏差に対して、再研磨を実施して適正とする
- 逃げ面、すくい面の再研磨の実施

摩耗の進行と再研磨
工具の摩耗は、図1のような形態で進みます。

切削工具の新規品は、はじめのうちは 初期故障域にあり、摩耗がやや進みます。初期故障域を過ぎると 定常故障域となって、ゆるやかに摩耗が進行します。
そして定常故障域を過ぎると 加速故障域に入り、摩耗量が急増するという流れです。

工具の再研磨か取替
工具の摩耗量増加を避けるためには、次の2つの方法があります。
- 再研磨を行う
- 工具を取り換える
図2では、この2つの方法を切削工具のサイズとコストとの関係で比較しています。

図2の青線は、工具を取り換えたときの工具サイズ(径)とコストの関係です。
図2の赤線は、工具を再研磨したときの工具サイズ(径)とコストの関係です。
切削工具のサイズが小さい場合は、再研磨と取替えのどちらのケースも大きな差はありません。切削工具のサイズが大きくなってくると、工具を買い替えたときのコストと、再研磨のコストとの差が、急激に大きくなります。
ただし、工具を再研磨した場合、再研磨している間は製造できなくなるため生産量が減るというデメリットがあります。
一方で、買換えの場合は、買換え費用は増えますが。生産が止まることはありません。
実際には、工具が壊れたときを考えて予備用の工具を備えているでしょう。その場合は、再研磨に出している間は予備品を使用すれば、生産量の確保は可能です。
しかし、予備品も何回か使用すれば寿命に達するため、買換えが必要となって、トータル的なコストが跳ね上がります。

切削工具の再研磨
切削工具に大きな摩耗・損傷が起きた際には、刃部を再研磨する必要があります。
ここでは、摩耗がどのようにして起こるか、そして工具再研磨の方法についてご紹介します。
切削工具の摩耗のパターン
工具を再研磨するかどうかの判断には、摩耗の状態を常に確認する必要があります。
ドリルとエンドミルを例として、摩耗のパターンを紹介します。
(参考:JIS B 0171、JIS B 0172)
図3では、ドリルの摩耗のパターンをいくつか紹介します。
ドリルは刃先部がワークと接触する箇所ですので、刃先部周辺の部位で摩耗が発生します。

図4では、エンドミルの典型的な摩耗のパターンをいくつか紹介します。
エンドミルは刃先部と側面分がワークと接触する箇所であり、刃先部と側面部の各部位で摩耗が生じます。

工具の摩耗は、切れ刃で起こります。ドリルの場合は、先端刃部だけが、ワークを切削するため、先端部周りが摩耗します。
エンドミルの場合は、先端部と側面分がワークの折損に関わるため、先端部と周辺部の摩耗が見られます。
再研磨を検討する目安と研磨箇所
切削工具を適切に使用するには、図3や図4の摩耗や欠けの部分の再研磨を実施することです。
以下に再研磨を検討する目安や研磨箇所等について紹介します。
ドリルの再研磨を検討する目安と研磨箇所
ドリルは長く使用して同じ加工を繰り返していると、ほぼ寿命期が分かるようになります。再研磨の検討はその時期と摩耗状態から判断します。
また寿命の時期でなくても、ドリルの切削状態から異常と判断した場合、摩耗状態を調べます。
切りくずの状態
切りくずが細かく縮れている場合、刃先の摩耗状態を調べます。
また切削がうまくいっていないと熱が発生し、切りくずの色が黒っぽくなることがあります。この場合も刃先の摩耗の進行が疑われます。
切削面の色の状態
加工面の光が薄れ、くすんでいるようなら、摩耗が進んでいるという目安になります。
ドリルの再研磨箇所
切れ刃と逃げ面の再研磨、シンニング加工を行います。
クレータ摩耗や欠け欠損がある場合は、先端切れ刃部分は切断し、刃部を再構築します。
エンドミルの再研磨
エンドミルもドリル同様、長く使用して同じ加工を繰り返しているとほぼ寿命期が分かるようになるため、再研磨の検討はその時期と摩耗状態から判断します。
また寿命の時期でなくても、エンドミルの切削状態から異常と判断した場合、摩耗状態を調べます。
底刃のカットと再研磨
刃の再生後には、ギャシング加工を行い、すくい角から切りくずが排出しやすいようにします。底刃の第1逃げ面の再研磨では、若干のすかし角を付けます。
コーナの損傷防止のために、ギャッシュ再研磨時に、刃先のすくい面に砥石が当たるように再研磨し、強度向上を図ります。
外周切れ刃の再研磨
外周逃げ面の再研磨
外周逃げ面の再研磨には、コンケイブ法、フラット法、エキセントリック法があります。
すくい面の再研磨
ラフィングエンドミルの再研磨では、すくい面の再研磨を行います。
ボールエンドミルの再研磨
先端のR形状部のみの再研磨だけで、外周刃の再研磨はほとんど不要です。
再研磨できないとき
摩耗や欠け・欠損が大きいなど再研磨では復旧できないと判断された場合は、刃部の不良部分までカットして、新たに刃部を再構築します。
その分、工具の刃長が短くなりますが、対応は次の項で紹介します。
再研磨によって起こる注意事項
工具を再研磨することで摩耗や欠損部分がなくなり、切削工具は健全な状態となりますが、工具の径や長さなど今まで使用していたものと同じではありません。
この章では、再研磨することで発生するいくつかの問題や、再研磨を発生させないためにどうするかについてご紹介します。
再研磨によるドリル径縮小
図5はドリルの径にバックテーパがあるイメージ図です。

ドリルは、先端から後端に行くほど径が小さくなる、バックテーパが施してあります。
そのため、摩耗によってドリル先端をカットし先端刃部を製作し直した場合、新しいドリル先端の径はオリジナルより小さくなります。
再研磨したドリルで穴を開けると、穴の公差から外れる可能性 があります。
1度か2度のカットで再製作されたドリル先端であれば、公差に入っていることが多いですが、カットの回数や長さによっては穴の径が 公差を維持できるかどうかを、再研磨する前に確認する必要があります。
公差に入らなければ、ドリルの交換となります。
再研磨によるドリル可能な深さの変化
図6では、ドリルの刃部の摩耗部をカットし刃部を再製作した際、溝長が今までよりも短くなったことで起こる問題を紹介します。

ドリルの溝部は切りくずが溝を伝って、外に排出されるようになっています。
ドリル加工で切削できる穴の深さは排出される切りくずを考慮しなくてはならず、加工物の穴の外側に径の1.5倍以上(H=1.5~2.0×ドリル直径D以上)確保する必要があります。
ワーク外の溝部分を十分に確保しないと、切りくずが詰まりドリル折損を招きます。
図6では、1回目のカットを伴う再研削では、Hの長さが計算で求められた値より長いため、切りくずの排出は良好に行われます。 しかし2回目のカットを伴う再研磨では、Hの長さが計算よりも短くなることが予想され、切りくずがドリル内に溜まりトラブルの原因となる可能性があります。
この場合、ドリルは使用中止とするか、あるいは短い穴の加工用として使用します。
段付きドリルの再研磨
図7では、段付きドリルの刃部のカットを伴う再研磨時の問題を紹介します。

段付きドリルは、最先端と、シャンク前に切り刃がある2段式切り刃のドリルです。後半の切り刃は、主に面取りとして使用されます。
再研磨時に先端部の再研磨だけを行うと、先端部から2段目の刃部までの長さが短くなり、このドリルでは、規定の長さの穴が切削できないことになります。
そのため2段目の刃部も、先端部を短くした長さに相当する部分をカットして、規定の長さの穴が切削できるようにドリルの長さを調整する必要があります。
図7は、点線部が再研磨前の長さで、実線部分が再研磨後の長さです。
摩耗が早い場合の対応
摩耗が早ければ、それだけ工具の寿命が短くなります。
また摩耗が部分的に急速になって、切削にトラブルが生じることがあります。
そのような場合、工具に与えるダメージを緩和するために、次のような切削工程の調整を試してみると良いでしょう。
- 切削速度の調整(上げ、下げ)
- 送りの調整
- エンドミルであればダウンカットに移行する
- 切りくず対策として、給油方法の変更や切削油剤の変更を検討する
- 刃部にコーティングを行い、耐熱性を向上させる
再研磨の日常管理
切削工具の日常管理は、寿命管理上重要です。
日ごろから次のような点に注意し、再研磨の時期を検討しましょう。
- 仕上げ面に光沢がなくなっている
- 切りくずの色や形(連続した切りくずや粉状の切りくずなど)の変動
- 切削加工時の音が、周期的な異音や大きな音に変わり始めている
- 寸法精度が悪くなる、偏差が出るなどの測定値が通常と異なっている