【徹底解説】びびりとは?びびりの種類と発生要因、対策を紹介
- 更新日:
- 2024/03/18 (公開日: 2024/03/18 ) 著者: 甲斐 智
金属工具で金属片を切削加工するときに、気を付けることは、切削の加工条件です。
加工条件を生み出すのは、電気エネルギーで、回転するモータやその駆動力を伝える経路中の部品などです。
これらがうまくマッチングしている時は、切削加工はスムースに進みやすく、回転速度や送り量、工具の耐性に気を付けておけば十分です。しかし、それを覆すものが「びびり振動」です。
びびり振動が発生しても、ごく弱いうちは加工への影響は少なく、振動や加工条件のフィードバックから加工条件を少し調整すれば問題が無くなります。
しかしフィードバックが増長の方向に動いたときはどうなるのでしょうか。弱いはずの振動や音が大きくなり、調整のための切削速度の変化によって、さらにびびり振動が大きくなってしまうこともあります。
このようになる原因や、びびり振動が収まるための対応方法を知っていれば、大きな加工ミスを起こすこともなく安定した品質を確保することができます。
このコラムでは、びびり振動の発生要因から対応方法までご紹介します。
びびり振動
びびりとは何か、そしてびびり振動によって切削加工の品質や工具にどのような影響を及ぼすのかを紹介します。
びびり振動とは
びびりとは、切削工具とワークの間で連続的に発生する振動です。
「びびり」は英語では「chatter」といい、「おしゃべり、ガタガタ音がする」などと訳されます。
ニュアンス的に、びびりとはどのようなものかが分かると思います。
以下このコラムでは、びびりを「びびり振動」として統一して記述します。
びびり振動には、強制びびり振動と自励びびり振動があります。
図1は、この2つのびびり振動のイメージ図です。
以下で、「強制びびり振動」と「自励びびり振動」について解説します。
強制びびり振動
切削加工を系として見たときに系のどこかに特定の振動源があり、その振動の影響でびびり振動が発生したものです。
特定の振動源は、例えば以下のようなものが考えられます。
- 工作機械内部装置の振動
- 切削加工時の断続的または周期的な切削力
- 機械以外の外部から侵入する振動
自励びびり振動
特定の振動源からの影響ではなく、切削時の特性と切削プロセスの重複により起こる振動です。
切削時の特性と切削プロセスの重複に、特定の条件が合致したときに起こります。
自励びびり振動は、一旦始まると調整を誤ればどんどん振動が大きくなっていくという問題があります。
びびり振動による影響
びびり振動が起こった状態で切削加工を継続すると、びびりマークが切削面に現れます。
図2にそのイメージを紹介します。
びびり振動がなく普通に加工している時の切削面は、図2の左図のようにきれいに切削されます。
強制びびり振動があるときのびびりマークは、図2真ん中のように周期的線模様が現れます。
自励びびり振動の元で切削を行うと、図2右図のように周期的に曲がったやや太い線(溝)が描かれます。
びびり振動によって次のような問題が生じます。
- びびりマークによる劣化した仕上げ面
- 過度な負荷による工具の破損(チッピングや破損、場合によっては折損)
- びびり振動で機械に過負荷がかかったことによる、モータ・軸・歯車など主要部品の損傷
びびり振動の発生メカニズム
びびり振動の発生要因やメカニズムについて紹介します。
びびり振動は外から来るものと、加工系で起こるものがあります。特に加工系で起こるものは詳しい解析から詳細なメカニズムが解明されていますが、本コラムではその概要をイメージで解説します。
びびり振動の発生要因
びびり振動は、強制びびり振動と自励びびり振動に分けられますが、それぞれの発生要因は次のようになります。
強制びびり振動の発生要因
a)力に関する外乱 | 切削力の変動による振動 ・切削を断続的に行ったこと ・切削厚さが断続的に変動していること |
---|---|
b)変位変動に関する外乱 | ・機械部品(モータ、軸、歯車など)の振動 ・機械基礎から伝わる振動 |
自励びびり振動の発生要因
a)再生効果 | 一回転前、または一刃前に生じていたびびり振動による加工面の変動が、今回の切削加工にも影響(再生)してしてしまうことです 自励びびり振動の多くが再生効果で、大きなびびり振動を発生させます |
---|---|
b)モードカップリング | 多くの振動モードが連動して、大きなびびり振動を発生させることです |
再生効果のメカニズム
図3は、自励びびり振動の再生効果のイメージ図です。
びびり振動がある切削加工では、1回目の回転では加工面に緩やかな凹凸が残ります。
2回目の回転では、1回目の加工面との相対位置が加工する面となるため、切込み深さが変動して切削力などの加工条件が本来の加工に加えて変わります。
この変動が再生効果です。
加工条件が変わることで固有振動数が変わり、振動がさらに大きくなっていきます。
切削加工面上の凹凸が周期的に前の回転よりさらに大きくなることが繰り返され、大きなびびり振動を受けながらの切削加工となっていき、正常な切削ではなくなります。
つまり、びびり振動が発生したまま加工を継続すると、切削加工条件によっては、さらに大きなびびり振動が生じ、正常な加工ができなくなっていきます。
モードカップリング
ここでは、モードカップリングについてエンドミル加工を例に概説します。
①エンドミル加工は、工具の回転に沿って刃先の回転角度が変化することから、切取り厚さや切削力の変動を引き起こす切込みの振動方向が特定の方向に定まりません。
この場合、x,yなどの複数方向に生じる振動と切削力の変動の両者がお互いに影響し合って、びびり振動が発生します。
②軸対称形状のワークをエンドミルで加工する場合、軸に垂直の平面内には、直交する2つの方向に対して振動を起こします。
このときに共振周波数が一致すると、びびり振動が発生します。
びびり振動の工具ごとの対応
びびり振動の要因をあげそれぞれに対する対応を紹介します。
びびり振動の抑制
びびり振動には、強制びびり振動と、自励びびり振動に分けられます。
以下では、それぞれの振動への対応方法を紹介します。
強制びびり振動の対応
強制びびり振動は、何らかの強制力が機械の増幅によって拡大します。
増幅率の解析計算は省きますが、増幅した振動を求めることができます。
振動種類 | 対応方法 | 対応方法具体例 | 備考 |
---|---|---|---|
切削力の変動による振動 | ・切削力を低下させる ・強制振動を変える |
・工具形状の取替 ・刃数変更 ・不等ピッチに変更 |
刃数が少ないと振動低下 不等ピッチはエンドミルで採用 |
機械部品の振動 | ・振動部品の交換 ・振動部品固有振動数変更 ・振動経路変更か遮断 |
・モータなど部品の機種変更 ・振動経路を直線状から周り回路とする |
部品を変えることで固有振動数が変わる (振動経路変更にもつながる) |
土台など外部振動 | ・振動経路変更か遮断 ・防振対策 |
・防振基礎へ変更 ・ラバーマウント設置 |
– |
他 | ・機械系の動剛性向上 | ・モータの剛性向上 | 加速・減速で向きが変更する動的力への剛性 (モータなど) |
自励びびり振動の対応
自励びびり振動は、加工系統の振動に対する特性に要因があります。
特性 | 対応方法 | 対応方法具体例 | 備考 |
---|---|---|---|
切削特性 | 工具の変更 | ・ねじれ角やすくい角を増加する ・不等ピッチの採用 |
不等ピッチで共振を避けます |
切削特性 | 切削条件の変更 | ・切削速度低下 ・送りの低下 ・主軸回転数増加 ・回転数減少 |
– |
機械の動特性 | 機械構造の動特性の向上 | ・高剛性機械とする ・レジンコンクリート構造とする |
レジンコンクリートは、圧縮・引張力・曲げ耐力に優れます |
機械の動特性 | 工具の動特性の向上 | ・へ―ルバイト採用 | シャンク部をバネ状の視てびびりを抑制します |
びびり振動に対する対応を、強制びびり振動と自励びびり振動に分けてまとめました。
びびり振動はひとつの要因で起こることは少なく、いくつかの要因が重なった結果大きなびびり振動が発生します。
したがって、びびり振動が発生したときは、要因をひとつに絞らず、強制・自励に関係なく、考えられる要因をあげて対応すべきです。
びびり振動の要因と対策
図4では、びびり振動の要因と、要因別の対応例をまとめました。
びびり振動の要因と対策
びびり振動への対策は、切削工具ごとにも考えられます。
ここではその一例として、エンドミルのトラブルシューティングから、びびり振動の対応を紹介します。
種類 | 要因 | 対応 | 備考 |
---|---|---|---|
加工条件 | 切削速度が速い | 切削速度を下げます | 回転数を下げます |
加工条件 | 送り速度が遅い | 送り量を1刃ごとに調整します | – |
加工条件 | 切削抵抗が大 | ・切込みをより浅くします ・刃数の少ない工具で切削します |
– |
加工条件 | すくい角、逃げ角が大 | 角度の調整をするか、工具を変えます | – |
工具 | 剛性が小さい | ・工具外径を大きくする ・超硬ソリッドを使用 など |
剛性を高めます |
工具 | ねじれ角が大 | ねじれ角の小さい工具の使用 | ねじれ角が大きいと、コーナ部強度低下、ホルダから抜ける、薄いワークがたわむなどが起ります |
工具 | 長い突出し長さ | できるだけ短くします | 切削時の曲げモーメントが大きくなるため |
工具 | 刃数が多い | 刃数を小さくします (2~3枚) |
刃数が多いほど剛性が大きく、加工面精度が向上、工具寿命を延ばすなどと、トレードオフの関係にあるため、調整が必要です |
表3は、エンドミルに対するびびり振動の対応を紹介しましたが、他の工具についても、工具特有の問題以外は同じような要因の項目が出てきます。
それはびびり振動は、工具そのものの原因ではなく、外部からの振動や、切削加工条件と切削力の条件の違いからびびり振動が起こるためです。
またびびり振動のメカニズムから、どのような切削加工でも、モデルと同じような条件が生じ、条件が合わなければ、びびり振動が発生します。
表3にあげた対応方法を元に、他の工具におけるびびり対策についても行っていくと良いでしょう。