プレス機械とは?プレス機械の種類と機械・油圧・サーボプレス
- 更新日:
- 2022/09/06 (公開日: 2020/07/09 ) 著者: 甲斐 智
プレス機械は「プレス加工」のための機械です。
金属の板材を「金型」に挟み、強い力をかけることで製品を成形。
加工速度が速く、
おなじ部品の大量生産
に向いています。
多彩なプレス機械を組み合わせることで、複雑なカタチの成形もでき、切る・抜く・曲げるなどさまざまな工程で使われています。
加工精度は機械と金型の精度で決まるため、作業者の熟練を要しません。
自動車業界をはじめ、「金属加工」を代表する機械として、世界中で広く使われています。
この記事では、生産現場で実際に使われているプレス機械の種類や、「C型プレス」「サーボプレス」などさまざまなプレス機械の分類を解説しています。
プレス加工の現場で活躍しているプレス機械
プレス機械には、汎用プレスから「せん断」や「曲げ」に特化した専用プレスまで、さまざまな種類があります。
汎用プレス機械
もっとも一般的なプレス機械です。
金型を交換することで、さまざまなプレス加工ができます。
自動プレス機械
長時間の稼動や無人の自動加工には、自動プレス機械が使われます。
高速精密プレス
高速精密プレスは「順送り加工」で使われる、自動プレス機械です。
加工内容によっては、5,000spm(毎分5,000回)の超高速プレスが可能。
ストレートサイド型(門型)で、高い精度と剛性をもっています。
機械の振動を防止するバランス装置や精度の高い送り装置を備え、リードフレーム・コネクタ・スイッチなど、精密電子部品の量産で使われています。
ダイイングプレス(ダイイングマシン)
ダイイングプレスは「順送り加工」で使われる、自動プレス機械です。
300spm(毎分300回)~の、高速連続プレスができます。
圧力能力600kN以下と小型の機械が多く、コストが低いのが特徴です。
ストレートサイド型(門型)で、高い精度と剛性をもっています。
従来のプレス加工とは逆の「アンダードライブ方式」のため、重心が低く精度が安定。
小型の電子部品や、半導体フィルム・プラスチック素材などのプレス加工にも使われています。
トランスファープレス
トランスファープレスは、「トランスファー加工」で使われる、自動プレス機械です。
板材をトランスファーフィーダで送りながら、複数の金型で自動プレス。
大型の機械が多く、ストレートサイド型(門型)で、高い精度と剛性をもっています。
自動車部品など、さまざまな自動プレスで使われます。
金型調整に使うダイスポッティングプレス
ダイスポッティングプレスは、ダイ(金型)の調整に使われる専用のプレス機械です。
量産前の金型の型合わせをすることで、噛み合い不良による破損を未然に防ぎます。
金型を定期点検し修正することで、精度の高いプレス加工が実現します。
専用プレス機械
プレス加工の内容に応じた、専用のプレス機です。
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その他のプレス機械(鍛圧機械)
プレス機械にはその他にも、「鍛圧(たんあつ)機械」とよばれるさまざまな種類があります。
これらの機械は、プレス機械とおなじように「圧力」を使って金属を加工する機械ですが、ビレット(厚い金属材料)を加圧するため、より高い機械強度がもとめられます。
そのため、一般的なプレス機械とは区別されています。
プレス機械の分類 ~駆動編~
プレス機械は「ラム(駆動部)」をさまざまな動力でスライドさせることで、圧力をかけます。
プレス加工では、「金型」を押し付ける時間が長いほど成形が安定します。
(この現象を形状凍結といいます)
そのため「下死点(スライドの最下点)」での加圧時間が長くなるよう、さまざまな工夫がされてます。
プレス機械は、駆動の動力によって4つ種類に分けられます。
- 機械プレス:動力源に「フライホイールの回転運動」を利用
- 液圧プレス:動力源に「油圧」や「水圧」を利用
- サーボプレス:動力源に「サーボモータ」を利用
- ハイブリッド式プレス:動力源に「油圧サーボモータ」を利用
機械プレス
機械プレスは、フライホイールの回転を「ラム」のスライド運動に換えて圧力をかけるプレス機械です。
1回ごとの圧力量が決まっているため、任意の位置でスライドを止めることはできません。
加工スピードがはやく生産性が高いため、プレス機械の全体の約90%を占めます。
油圧式にくらべメンテナンス性が高く、液漏れの心配もありません。
機械プレス:引用元: 日本鍛圧工業会「鍛圧機械とは?-プレス機械」
電動モータによる回転運動を、機械的機構によりスライドの直線運動に変えて、金型を介し素材を成形するプレスです。
液圧プレス
液圧プレスは、油圧や水圧で「ラム」をスライドさせ圧力をかけるプレス機械です。
現場では、油圧による「油圧プレス」が広く使われています。
小ロットの大きな製品から大量生産の小さな部品まで、はば広く使われています。
油圧プレスについて
「油圧プレス」は、油圧で「ラム」をスライドさせ圧力をかけるプレス機械です。
油圧バルブのコントロールで、加圧パターンや加圧量を制御することができます。
ストロークが長いため、大きな「絞り加工」や「曲げ加工」に向いていますが、機械プレスにくらべ加圧スピードは遅くなります。
(1~10mm/s 程度)
油圧プレス:引用元: 日本鍛圧工業会「鍛圧機械とは?-プレス機械」
機械プレスではできない特殊な分野で活躍しています。ほとんどが油圧作動プレスです。
水圧プレスについて
「水圧プレス」は、水圧で「ラム」をスライドさせ圧力をかけるプレス機械です。
油圧プレスとくらべ、液体メンテナンスがかんたんでコストも低いため大型の機械が多くあります。
圧力能力10,000kN以上の超大型機械もあり、特大製品の成形もできます。
過熱による火災・事故などの心配がないため、熱間鍛造で使われます。
サーボプレス
サーボプレスは、サーボモータで「ラム」を直接スライドさせるプレス機械です。
サーボモータでスライドを駆動するため、加圧力や加圧量を精密に制御することができます。
スライドを「NC制御」することで、マグネシウムなどの難加工材や、複雑なカタチのプレスもできるようになります。
加圧スピードの制御による「生産性向上」と、加圧量の制御による「歩留まり低下」を両立。
IoTによる加工データの蓄積で、工場の自動化も実現します。
ハイブリッド式プレス(油圧サーボプレス)
「油圧」と「サーボモータ」を組み合わせたプレス機械です。
サーボモータで油圧ポンプを制御し、「ラム」をスライドさせます。
加圧力や加圧量を精密にコントロールしながら、油圧のパワーが発揮できます。
作動油や発熱も少なく、環境性能に優れたプレス機械です。
プレス機械の分類 ~フレーム編~
プレス機械は、本体のフレーム構造によってふたつに分けられます。
- C型プレス:「作業性」重視のフレーム構造
- ストレートサイド型プレス(門型プレス):「剛性」重視のフレーム構造
C型プレス
C型プレスは、「作業性」重視のフレーム構造です。
横から見たカタチが「C」に似ていることに由来します。
加工エリアの左右と手前があいているため作業性がよく、単発プレスや産業用ロボットによる「ロボットライン」に最適です。
構造がシンプルで低コストなため、小~中型のプレス機械に多く採用されています。
フレーム剛性は落ちるため、機械のゆがみ(口開き)に注意が必要です。
圧力能力2,500kNまでの機械が多いですが、高強度フレームを採用した機種もあります。
ストレートサイド型プレス(門型プレス)
ストレートサイド型プレスは、「剛性」重視のフレーム構造です。
「門型プレス」ともよばれます。
本体の四隅を柱で支えているため剛性に優れますが、加工エリアに柱があるため作業性は低下。
ゆがみに強いため、中~大型のプレス機械や「鍛造プレス」に多く採用されています。
C型プレスとくらべ、加工精度が高く、振動・騒音が少なくなります。
圧力能力2,500kN以上の機械が多くあります。
プレス機械の材料供給装置(アンコイラ)
アンコイラは、コイル材の材料の巻きを「ほぐす」ための装置です。巻きほぐしによるループ(たるみ)を調整することで、スムーズに材料を供給します。
またコイル材の巻きグセやひずみを矯正する「レベラー」も使われています。
材料を複数のロールに通すことで、巻きグセを取り除き加工不良を防止します。
リールスタンド | 軽量なコイル材(100kg程度)で使われる、小型アンコイラです。 コイル材の中心軸をモータで回転させ、巻きほぐします。 |
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マンドレル | 重量のあるコイル材で使われる、アンコイラです。 コイル材の保持具(マンドレル)をモータで回転させ、巻きほぐします。 |
コイルクレードル | 厚板や重量のあるコイル材で使われる、アンコイラです。 2本のロール(ピンチロール)でコイル材を引き出し巻きほぐします。 マンドレルにくらべ、コイル材のセットがかんたんです。 |
水平アンコイラ | コイル材を横に寝かして設置する、アンコイラです。 縦に積み重ねができ、コイル材の交換時間も短縮できます。 材料がねじれるため、薄板のコイル材に限られます。 |
プレス機械作業主任者について
プレス機械を5台以上設置する工場では、労働災害を防止するため、プレス機械作業主任者技能講習を修了した「プレス機械作業主任者」を選任する必要があります。
プレス機械作業主任者とは:引用元: プレス機械作業主任者技能講習とは|公益社団法人東京労働基準協会連合会
①プレス機械及びその安全装置の点検をし、 ②それらに異常を認めたときは、直ちに必要な措置をとり、③切り替えキースイッチがあるものはキーの保管をし、④金型の取付け取外し及び調整の作業を直接指揮する責任者です。
プレス機械の選び方 ~3つの能力~
プレス機械の選定は、「加圧能力」「トルク能力」「仕事能力」の3要素が重要になります。
プレス加工の内容によって最適な能力は変わります。
圧力能力
圧力能力は、プレス機械が耐えることのできる最大加圧量です。
キロニュートン(kN)で表されます。
圧力能力を超える加圧は、機械のひずみや、金型の破損につながります。
プレス加工の内容にあわせて、余裕をもった選定が重要です。
トルク能力(能力発生位置)
トルク能力は、プレス機械のスペック上の加圧能力(公称圧力)が発生する位置です。
金型の下死点(スライドの最下点)からの距離で表されます。
「絞り加工」など、高い位置から加圧がはじまる加工で重要になります。
仕事能力
仕事能力とは、プレス1回のあたりの放出エネルギー量です。
キロジュール(kJ)で表されます。
放出エネルギーが多いほど、作業エネルギーの蓄積が必要です。
「絞り加工」や「冷間鍛造」など、大きなエネルギーを必要とする加工で重要になります。
プレス機械のスペックの見方
カタログスペックでは上記の3要素だけではなく、さまざまな仕様が記載されています。
ストローク長さ
ストローク長さは、スライドの稼働距離です。
プレス加工の内容によって、適切なストローク長さは変わります。
連続ストローク数
連続ストローク数は、無負荷状態での、1分間のストローク回数です。
ストロークパーミニッツ(spm)で表されます。
ストローク長さがみじかいほどストローク数は上がり、生産性があがります。
連続プレス加工で重要になる能力です。
ダイハイト
ダイハイトは、ボルスター(加工テーブル)上面からスライドの下死点までの距離です。
金型の最大サイズ(高さ)の目安となる数値です。
ダイハイトを超える高さの金型は、取り付けできません。
スライド調節量
スライドの上下の調節可能量です。
調節量が大きいほど、使える金型の種類が広がります。
ダイハイトからスライド調節量を引いた数値が、金型の最小サイズ(低さ)になります。
スライド面積
スライドの面積です。
金型(上型)を取り付けるために使われます。
ボルスター面積
ボルスター(加工テーブル)の面積です。
金型(下型)を取り付けるために使われます。
ボルスターへの局所的な加圧を防ぐため、金型の設置面積はボルスター面積の約2/3以上が目安となります。
プレス機械とは?まとめ
この記事では、生産現場で実際に使われているプレス機械の種類や、「C型プレス」「サーボプレス」などさまざまなプレス機械の分類について解説しました。
プレス機械は、作業者の熟練に頼らない安定した大量生産が魅力です。
しかし精度の高いプレスには、金型加工などエンジニアの高い技術がかかせません。
切削加工をせずに、いかに「ネットシェイプ」に近づけるかが、大きなテーマになっています。
(ネットシェイプ:切削工程なしで、「最終製品」を成形する高精度成形技術)
プレス機械の仕組みを知ることで、プレス加工方法の選定の参考になればうれしいです。