
アクチュエータの種類を徹底解説|電動・エア・油圧の違いとは
- 更新日:
- 2025/03/25 (公開日: 2025/03/25 ) 著者: りびぃ|監修: 甲斐 智
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こんにちは、りびぃです。FA(ファクトリーオートメーション)業界で、生産設備の設計をしています!
私が担当する仕事の多くは、特定の対象物を自動的に生産・処理できる装置を考えることです。お客様が要望している装置に適する機構を考え、最も適するアクチュエータを選定しながら設計を進めていきます。
自動機を設計する上でよく使われるアクチュエータが主に3つあります。それが「電動・エア・油圧」です。この3つのアクチュエータにはそれぞれ違った特徴があり、それらを理解したうえで自身の業務でうまく活用することが、この業界で働くエンジニアにとっては非常に重要なことです。

そのような認識ですと、流石に「うまく活用できている」とまではいい切れないことでしょう。
今回は、電動・エア・油圧それぞれのアクチュエータの特徴についてわかりやすく解説をしていきます。
電動アクチュエータの特徴

電動アクチュエータは電気エネルギーを機械エネルギーに変換をすることで機能します。
電気が動力源であることから、電動アクチュエータ専用で特別な動力源を用意する必要はほとんどありません。(電動アクチュエータを使わなくとも、どのみちFA業界の機械は電気をほぼ確実に使いますので)

〈電動アクチュエータの特徴〉
動力源が扱いやすく、変換効率がいい
電動アクチュエータは、電気エネルギーから機械エネルギーへの変換だけしか行わないのでエネルギーの変換効率が良いのもメリットです。他のアクチュエータに比べて消費電力を低く抑えることができますので、ランニングコストや環境への配慮などの観点からも優れています。

制御の自由度が高い
電動アクチュエータは非常に多彩な制御が可能です。例えば速度制御においては、スイッチやPLC(プログラマブルロジックコントローラ)と組み合わせることで指令速度を変更することができます。

モータの種類は目的に応じて選定することになりますが、起動停止の頻度がほぼなかったり、位置決めが低くても問題がない等であれば「インダクションモータ+インバータ」の組み合わせで採用されることが多いです。主にファン・ブロワやコンベヤなどで使用されます。
さらに、モータの加減速を滑らかにしたり、複数のモータを同期させて動作させるという場合には、よくステッピングモータやサーボモータと、コントローラ・PLC等を使用していきます。

主に加工機のスピンドルなどで使用されている印象です。
一方で位置決め制御についてですが、数あるモータの中でも位置決め制御によく使われるものの一つが「ステッピングモータ」で、基本的にはステップ角と呼ばれる単位で位置決めが可能です。最も一般的な二相ステッピングモータであればステップ角が1.8°で、この単位で位置決めが可能です。
位置決め可能な点数はコントローラの仕様によりますが、数十点~数百点の登録が可能です。

もう一つ位置決め制御には「サーボモータ」が使われますが、こちらは位置決めの位置を多数登録できることはもちろん、モータの動作に対してフィードバック制御が行われ、指令値とのずれがあった際にはズレを修正するという動作をします。これによって高い位置決め精度を実現することができます。

メンテナンスの頻度が少なく済む
電動アクチュエータは通常運転している限りは、特にメンテナンス等は必要がありません。強いていうならば、長時間使用をしたことでモータ内の部品が寿命を迎えた際に、モータ本体の交換が必要というぐらいです。

導入には専任のエンジニアが必要
一方電動アクチュエータを使った機械を立ち上げるためには、専任のエンジニア(電気・制御系)に作業してもらう必要があります。
まず電気については、システムの構成、消費電流の計算、保護回路や漏電防止などの機器選定、配線作業、制御盤の設計・製作などが必要になります。そのうえで制御設計を行い「モータをどのように動かすか」を設定・プログラム等する必要があります。

あまり高速・高精度が必要ない場面で使用される「インダクションモータ+インバータ」の組み合わせであれば、複雑な制御をするケースはそこまで多くないです。しかし、FA業界でよく使用される「ステッピングモータ+アンプ+コントローラ+PLC」や「サーボモータ+アンプ+コントローラ+PLC」という組み合わせの場合、制御の自由度が高い反面、その設定やプログラミングにも高いスキルが要求されます。

またエンジニアの設計・施工の費用に加え、モータ使用に付随する機器の価格も高価になることもあるので、イニシャルコストや保守費用が高くなりがちです。
本体がかさばりがち
モータはボールねじ等を使って回転を直動へ変換をすることで「電動シリンダ」として使用することができます。電動シリンダとして市販されている商品も、中身はモータ+ボールねじであることが多いです。
ですがこの電動シリンダは、エアアクチュエータや油圧アクチュエータと比較するとアクチュエータ本体がかさばりやすい傾向にあります。

こうなると、取付スペースの設計自由度が低い箇所に配置するのに苦戦することになります。
エアアクチュエータの特徴

エアアクチュエータは、内部構造がシンプルであることで本体がかさばりにくく、狭いスペースにも配置可能なタイプもあります。
〈エアアクチュエータの特徴〉

本体が安価でコンパクト
エアシリンダは「エア圧を供給すれば、そのエア圧自体によってシリンダロッドを動かす」という原理で動作するので、内部の構造がシンプルです。ですから電動アクチュエータに比べると本体価格が安いというメリットがあります。

動力源はそこそこ扱いやすいが、変換効率は悪い
エアアクチュエータの動力源は「空気」になります。周囲空気を供給してアクチュエータを動かし、最後は空気中に排出させるという使い方をします。
空気は皆さんの周りにいつもあるものですので、仮に動力源が漏れたとしても安心です。またエアアクチュエータは着火源になるようなものがほとんどないので、防爆環境が求められる環境でも導入しやすいという特徴があります。
ただし常圧の空気ではアクチュエータとして仕事することができないので、コンプレッサーを使って圧力を加えて使用する必要があります。このコンプレッサーを使って圧縮空気を作るには、コンプレッサー内に内蔵されているモータを駆動させることになります。

つまり電気エネルギーを圧縮空気に変換してから機械エネルギーとして出力されるわけですから、変換の回数が多く、無駄に消費されるエネルギーが多いのです。
そのため、ランニングコストや環境への配慮を重視する現場では積極的には採用しないこともあります。
他のエア機器と併用しやすい
動力源である圧縮空気は、エアアクチュエータ以外の空圧機器にも使用されます。
ただこの空圧機器の種類は非常に多彩で、エアブローや真空による吸着機構(エジェクターを使う場合)などにも同じ圧縮空気を使用します。ですからこういった空圧機器と併用する際、また複数のエアアクチュエータを使用する際にも比較的導入しやすいです。

応答性が低い
電動アクチュエータなどと比較するとエアアクチュエータは動作指令を出してから、実際にその通りに動くまでのタイムラグが大きい傾向があります。この理由は主に二つです。
速度が遅い
一つめは、圧縮空気が配管・エアアクチュエータ内へ伝播する速度が電流と比べると遅いためです。
特に長くて太い配管・エアシリンダを採用する場合には圧縮空気の供給時間が長くなるので遅延が発生しやすくなります。
体積が縮む
二つめは「圧縮性」です。これは空気の性質で、圧力を加えると体積が縮む性質があるのです。
例えば、「エアシリンダのピストンを動作させるためにシリンダの容積から計算して1Lの空気が必要」だったとしても、シリンダ内で圧力が上昇すると空気が圧縮されるため、ピストンを所定のストロークで動かすためには1L以上の空気量が必要になります。

こういった理由から「高速、高応答」が求められるような箇所にエアアクチュエータは採用しにくい傾向があります。
制御の自由度が低い
エアアクチュエータはあまり複雑な制御を行うことができません。
速度について
まず速度についてですが、エアアクチュエータは基本的に「スピードコントローラ」と呼ばれるバルブを使用して速度調整を行うことになります。これによりエアアクチュエータの速度は一意に決まってしまうため、「あるタイミングは○○の速度、あるタイミングはxxの速度」というような制御はできません。また、エアアクチュエータの加減速を調整することもできません。
特に減速をコントロールできないため、エアシリンダでは毎動作ストッパに衝突させて停止させることになります。

位置決めについて
続いて位置決めについてですが、エアシリンダでは基本2点のみ(押し側のストッパ端、引き側のストッパ端)での位置決めが可能です。一応ソレノイドバルブ等で工夫をすれば途中でエアシリンダを停止させることもできますが、その停止精度は悪いです。
エアシリンダを複数組み合わせれば疑似的に位置決め点数を増やすことはできますが、そうすると本体がかさばるため、電動アクチュエータとの優位性が小さくなってしまいます。
定期メンテナンスが必要
エアアクチュエータを使う際は、定期的にメンテナンスが必要です。
といいますのも、動力源である空気には水分が含まれていますが、この水分はエアアクチュエータを動作させるために空気の圧力や温度が変動する際に凝集して水となって出てきます(これをドレンといいます)。

この水分はアクチュエータへ入り込んでしまうと錆びの原因になるので、フィルタを設置してドレンを容器で回収するようにするのが一般的です。ただ一定時間運転させるとドレンの回収容器がいっぱいになるので、定期的にドレンを捨てる作業が必要です。
また、エアの排出口には基本的にサイレンサーを取り付けるのですが、このサイレンサーがゴミの付着などにより目詰まりすると、エアアクチュエータ等がうまく動作しなくなってしまうので、定期的に交換する必要があります。

油圧アクチュエータの特徴

〈油圧アクチュエータの特徴〉
大きな力を発生させやすい
油圧アクチュエータは大きな力を発生させるのが非常に得意です。圧縮性が低いため、負荷に対して効率よく圧力をかけることができます。
またパスカルの原理の説明図のように、負荷側の受圧面積を大きくすることで、加えた力を何倍にも増幅させることができます。
パスカルの原理
密閉した容器のなかで静止している流体の一点の圧力をある大きさだけ増すと,流体内のすべての点の圧力はその大きさだけ増すという法則。

電動バルブを使えば制御の自由度は高い
油圧は圧縮性が低いため、制御をさせるという観点でいえばメリットが大きいです。油圧は粗い速度設定値であればスピードコントローラでも十分ですし、複雑な制御や高い精度での制御をしたいのであれば電動のバルブを使用していきます。電動による制御の自由度の高さをそのまま油圧にも使用することができます。

システム構成としては複雑にはなるものの、電動による制御の自由度と、油圧による大きなトルクの性質を組み合わせることで相乗効果が生まれるので、プレス機などで採用されていることが多い印象です。
動力源は扱いにくいが、変換効率はそこそこ
油圧アクチュエータの動力源は「油」になります。油ですから部品の劣化などにより油が漏洩が問題となるような「クリーン環境」や「食品工場」などでは特に採用が難しいです。

またエアアクチュエータ同様、単に油を注いでもアクチュエータとして仕事できないので、油圧ポンプを使って圧力をかけることになります。
この油圧ポンプも、内蔵されている電気モータによって動作させる必要がありますから、油圧アクチュエータにも電気が必要です。そのため電動アクチュエータに比べるとエネルギーの変換効率は落ちてしまいます。
ですが油は圧縮性が非常に少ないので、エアアクチュエータに比べるとエネルギーロスは発生しにくいのが特徴です。
メンテナンス性が悪い
油圧の油は循環させて使用しますが、使用し続けると次第に劣化していきます。
例えば水分や異物が混入したり、酸化したり、油中の成分が熱など影響で化学反応してスラッジと呼ばれる異物が生成したりなどです。この劣化した油をアクチュエータ等に供給し続けてしまうと、アクチュエータ内部の部品を早期に劣化させてしまいます。

また油圧に使われる油には「油圧アクチュエータを動作させる」以外にも「アクチュエータやその他機器の摺動部を潤滑させる」という役割がありますが、油の劣化によって潤滑性能も低下してしまいます。
一般的に異物等は油圧の流路内にフィルタを設置して除去しますが、このフィルタは定期的に交換が必要です。また油自体が劣化した際には新しい油に交換する必要があります。

高速動作はできない
油圧アクチュエータが動いている様子を見たことある人は「油圧はなんかジワジワ動作する感じ」という印象があると思いますが、そのとおり油圧は高速動作には不向きです。この理由は「油の粘性の高さ」です。
粘性が高いとは、イメージでいうと「粘り気、ドロドロした感じ」を意味します。この粘性が高いと、流体を流そうとしたときに配管内での摩擦抵抗が生じやすくなります。これにより、はやく動かそうにも抵抗により制限がかかってしまうのです。

油の温度が上昇すると油の劣化などが引き起こされ、機器の故障につながりかねないこともあります。そのため、油圧アクチュエータはジワジワ動作させるのが基本となります。
おわりに
このように、電動・エア・油圧それぞれのアクチュエータには異なる特性があり、適材適所で使い分けることが重要です。目的や環境に応じたアクチュエータの選定が、設備のパフォーマンスやメンテナンス性に大きく影響します。
設計の際に少しでも参考になれば嬉しいです。