
表面処理とは?金属加工の表面処理の種類と表面処理でできること
- 更新日:
- 2025/02/07 (公開日: 2023/02/22 ) 著者: 甲斐 智
表面処理とは、その名の通り金属の表面に特殊な処理を行い、機能性を向上させる手法です。
ひと口に「表面処理」といっても、めっきから塗装まで、その手法はさまざま。材料従来の弱点を補ったり、使用場所によって耐久性やデザイン性をアップさせたりと、目的や用途によって使い分けがされています。
この記事では、金属加工の現場で行われている表面処理の種類と特徴について解説します。
表面処理でできること
自動車からスマートフォン、家電製品まで、身の回りの多くの製品に表面処理が行われています。
表面処理をすることで、下記のようなさまざまな性能の改善・向上が期待できます。
金属等表面処理:引用元:金属等表面処理の溶剤と洗浄方法の特性|東京都環境局
金属等表面処理の業種は、湿式めっき・気相めっき・溶融めっき・陽極酸化・塗装・溶射・化成処理・表面硬化など非常に多岐にわたり、近年は扱われる素材も、金属のみならず、プラスチック・セラミックをはじめとして各種の非金属上にもその処理が施されるようになっている。
機械/電気特性の向上 | 硬度、耐摩耗性、潤滑性、耐衝撃性、熱伝導性、伝導性 |
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耐性の向上 | 耐食性、耐薬品性、耐熱性、耐候性、防錆性、抗菌性、撥水性 |
その他 | 密着性、装飾性(外観)、生体親和性、はんだ付け性(ぬれ性) |
表面処理の種類

表面処理には、めっきやアルマイト、化成処理、塗装などさまざまな手法があります。
金属加工の現場でよく採用される、金属向けの代表的な表面処理について解説します。
〈銅合金の種類〉
めっき

めっきは、金属材料の表面に「異なる種類の金属」を用いて、薄い皮膜を形成する技術です。自動車部品をはじめ、電子基板や家電部品など、さまざまな製品にめっき処理が採用されています。
めっきは主に耐食性の向上を目的としており、「防食めっき」や「防錆(ぼうせい/ぼうさび)めっき」とよばれます。さびやすい材料を保護するのに欠かせない表面処理です。めっきのなかには、見た目(美観)の向上を目的に「装飾めっき」が行われることもあります。
またその他にも、電気的特性・機械的特性・光学特性・熱的特性など、さまざまな機能性を付与する目的で、めっき処理が行われます。
めっき:引用元:めっき工 |職業詳細 job tag
めっきは、さびや腐食を防いだり(防錆機能)、品物を美しく見せることによって価値を高める(装飾機能)、また、傷や摩耗を防いだり(機械的特性)、電気を伝わりやすくする(電気的特性)などの目的で広く使われている。
めっきに使われる素材は、金・銀・銅・クロム・ニッケルなどが代表的で、これらを溶かした「めっき液」に金属材料を浸すことで、表面に皮膜を生成します。
めっきは、皮膜の形成方法によっていくつもの種類があります。代表的な「溶融めっき」「電解めっき」「無電解めっき」について解説します。
溶融めっき

溶融めっきは、基材(金属材料)よりも融点の低いめっき材を溶かし、そのなかに浸すことで皮膜を形成する方法です。めっき材には、金属のなかでも融点が低い「亜鉛」や「アルミニウム」「鉛」「錫(すず)」などが使われます。
溶融めっきでは、基材とめっき材の表面にそれぞれの合金層が形成されるため、「密着性」や「強度」に優れた皮膜が形成されます。
他のめっき処理よりも厚い被膜を形成でき、高い耐食性や高温での耐酸化性が必要とされるような製品に採用されます。

まためっきの厚さを狙い通りに調整することがむずかしいため、薄物のめっきには注意が必要です。
電解めっき(電気めっき)

電解めっきは、電解液のなかに基材(金属材料)とめっき材を浸し、電流を流すことで発生する酸化・還元反応を利用して行うめっき処理です。電気めっきともよばれます。
基材をマイナス極、皮膜となるめっき材をプラス極に接続することで、プラス側では酸化反応によってめっき材が電解液に溶けだします(イオン化)。それがマイナス側の還元反応によって基材の表面に析出(固体として出現)し、めっきの皮膜となります。
通電による酸化・還元反応を利用することから、基材は導電性があるものに限られます。またプラス側のめっき材には、一般的に水溶液に溶ける材料が使われますが、クロムなどの溶けない材料を使う場合は、薬品を添加させることで対応可能です。

複雑形状へのめっきや、均一な厚さの皮膜形成はむずかしく注意が必要です。
無電解めっき
無電解めっきは、電解めっきのように材料に電流をかけることなく、化学反応によってめっき皮膜を形成する方法です。無電解めっきはさらに「置換めっき」と「化学還元めっき」に分類されます。
置換めっき
置換めっきは、めっき材を溶かしためっき液のなかに基材(金属材料)を浸し、液中に含まれるめっきの金属イオンが、放出された基材の電子を受け取る(電子の置換)ことで、析出(固体として出現)させるめっき方法です。
表面にめっき皮膜が形成されると電子の放出が止まるため、サブミクロンの薄膜に向いており、厚いめっき皮膜を形成することはできません。
置換めっきでは、「硫酸銅溶液」と「鉄」の組み合わせが代表的です。
化学還元めっき
化学還元めっきは、めっき液に還元剤を添加し、化学的な還元能力を利用してめっきを析出(固体として出現)させるめっき方法です。「非触媒型」と「自己触媒型」に分類されます。
触媒作用を利用しない非触媒型めっきの代表的な方法として、ガラスに銀めっきを施す「銀鏡反応」があげられます。また自己触媒型では、めっき皮膜となる金属自体が触媒として作用するため用途が限られます。
たとえば、無電解ニッケルとリンめっき、無電解銅めっきなどが代表的です。
アルマイト処理(陽極酸化処理)

アルマイト処理(陽極酸化処理)は、アルミニウムに酸化皮膜を人工的に生成する方法です。
アルミニウムの皮膜は非常に薄いですが、表面の硬度を高めることで、アルミニウムの弱点であるキズや摩耗に強くなり、さらに耐食性も向上します。
アルマイト処理は基本的にアルミニウム以外には対応できず、異なる金属と一緒に処理した場合、アルマイト処理中にその金属だけが部分的に溶けてしまう可能性があります。
(例外としてチタンのみが解けずに残りますが、基本的にはアルミニウム単体の状態で処理を行います)
アルマイト処理は、「白アルマイト」「硬質アルマイト」「カラーアルマイト」に分類されます。
それぞれ特徴が異なるため、目的に応じて使い分けられています。
エッチング | 表面の脱脂やエッチング(油分の除去)を行います |
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スマット除去 | 不純物やアルミニウム以外の合金を除去する「スマット除去」を行います |
電気分解 | 陽極(プラス)につないだアルミニウムを酸性の電解液に浸し、電気分解によって表面に酸化皮膜を形成します |

白アルマイト
一般的に行われるアルマイト処理は、アルミニウムの表面が白っぽく見えることから「白アルマイト」とよばれ、幅広いアルミ製品に採用されています。
硬質アルマイト
硬質アルマイトは、通常のアルマイト(白アルマイト)よりも硬度が高く、耐摩耗性に優れています。
通常のアルマイトで形成される酸化皮膜の厚さは10μmほどですが、硬質アルマイトの厚さは50μm程度と厚く、航空機や自動車など、高い耐食性や耐摩耗性、硬度が求められるアルミ製品に採用されています。
カラーアルマイト

アルマイト処理を行い酸化皮膜を形成した後で、染料や顔料を着色する処理を、カラーアルマイトとよびます。
カラーアルマイトは、酸化皮膜の厚さによって色の濃さを調整することができ、黒・赤・青・緑などさまざまな色を表現できます。耐食性の向上だけでなく、デザイン性が必要とされるインテリア製品などに採用されます。
化成処理
化成処理は、化学的な方法で皮膜を形成する方法です。
化学反応で表面状態を変化させるため、基材(金属材料)そのものにはない特性を与えることができ、耐食性の向上や塗料の密着性向上に多く利用されています。
化成処理は主に、「クロメート処理」「リン酸塩処理」「黒染め処理」「ジンケート処理」などに分類されます。

クロメート処理

クロメート処理は、金属の表面にクロムの酸化皮膜を形成する処理方法です。
亜鉛やアルミニウムなどの材料を、クロム酸塩をベースとした酸性溶液に浸すことで化学反応を起こします。
リン酸塩処理

リン酸塩処理は、皮膜の種類に応じた溶液のなかに基材(金属材料)を沈め、溶液中の金属が基材に付着することで形成されます。
皮膜の種類には、亜鉛や鉄、マンガンなどがあり、用途に応じて使い分けられています。
黒染め処理(ブルーイング)

黒染め処理(ブルーイング)は、高温の濃いアルカリ溶液のなかに鉄を沈めることで、四酸化三鉄の皮膜を形成する方法です。表面に耐食性のある黒い皮膜が生じることから、「黒染め」とよばれます。
ジンケート処理
ジンケート処理は、主にアルミニウムにめっきを行う際の前処理として行われます。
ジンケート処理では、アルミニウムの酸化皮膜を除去し、酸化皮膜が再度生成されないように亜鉛を還元します。一般的に、ジンケート処理を繰り返す「ダブルジンケート処理」が主流です。
溶射

溶射(ようしゃ)とは、「溶射材」とよばれる物質を加熱することで溶融・軟化させ、基材(金属材料)の表面に吹き付ける処理方法です。吹き付けられた溶射材は、基材の表面に付着し冷却され、皮膜を形成します。
溶射材は幅広く、金属や合金だけでなくサーメット、セラミックスなど、目的に応じてさまざまな皮膜を形成することができます。

また構造物などの大きな施工物に対しても、現地での溶射処理ができるため、広く採用されています。
低温溶射法(コールドスプレー)
低温溶射法(コールドスプレー)は、溶射材の加熱温度を抑え、溶融させない状態で高速で吹き付ける処理方法です。
通常の溶射にくらべて、熱による変形が少なく、反りが発生しにくいメリットがありますが、吹き付け可能な範囲が狭く、成膜時間も長くなります。
塗装

塗装も、金属材料の表面を塗料で覆う表面処理のひとつです。
外観やデザイン性のアップだけでなく、腐食しやすい鋼材をさびから守る効果があります。めっきよりも手軽なため、特に板金加工やプレス加工後の後処理として、数多く行われています。
ここでは、よく使われる塗装方法について紹介します。
静電塗装
静電塗装は、静電気を利用した塗装方法で、少ない塗料でも効率よく塗装することが可能です。
静電気のクーロン力によって、ワークの裏側や端面など、塗装しにくい箇所にもムラなく塗装できるのがメリットです。
塗装効率がよく静電塗装を自動化することもできるため、大量生産などでも多く採用されています。
電着塗装
電着塗装は、専用の塗料が含まれた水溶液にワークを浸し、電気を流すことで塗装を行う方法です。
静電塗装とおなじく塗装効率が高いことから、自動車ボディの下塗りなどの量産に採用されており、ムラのない塗装が可能です。
一方で設備が大型になり管理もむずかしいため、導入できる企業は限られています。
また塗装の色は灰色や黒が中心で種類が少なく、切り替えの手間も大きいなど、少量の塗装には向いていません。
溶剤塗装
溶剤塗装は、シンナーなどの有機溶剤に塗料を混ぜて行う塗装方法です。
古くから行われている方法ですが、人体に害のある有機溶剤を使うため密閉空間での作業がむずかしく、作業の際には保護具の着用や換気設備の導入が不可欠です。
有機溶剤に混ぜる塗料の種類を工夫することで、さまざまな塗料がつくれます。コストを抑えられる点も大きなメリットです。
焼付塗装

焼付塗装は、塗装後に熱を加え硬化させる表面処理で、100度以上の高温で処理を行います。
下地となる塗料の種類によって、特性や処理温度が異なります。ここでは、代表的な塗料である以下の5種類について紹介します。

メラミン焼付塗装 | 代表的な焼付塗装で、膜厚が厚く高級感のある仕上がりを実現します。 紫外線で劣化するため、屋内での使用に限定されます。 |
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アクリル焼付塗装 | 耐候性が高く、屋外での使用が可能です。 焼付温度が高く膜厚の調整がむずかしいため、扱いにくい面もあります。 |
エポキシ焼付塗装 | 密着性が高いため、さび止めの下地として使われます。 主原料は人体に影響を与える可能性があるため、注意が必要です。 |
フッ素焼付塗装 | 化学的に安定しており耐候性が高く、屋外での使用に耐えます。 価格が高いため、用途は限定されます。 |
シリコン焼付塗装 | 200℃程度でも安定するため、高温環境下で使われます。 |
ブラスト

ブラストは、表面にさまざまな種類の粒子を高速で材料にぶつけることで、表面の状態を変化させる処理方法です。
ブラストの目的には、表面の仕上げや、めっきや塗装の前のクリーニング、さび落としなどがあげられます。
材料にぶつける粒子はブラスト材(投射材)とよばれ、金属やセラミック、ガラス、樹脂など多岐にわたります。また投射材の形状は、球状の粒子であるショット、多角形の粒子であるグリット、線材を細かく切断したカットワイヤー、ビーズ、パウダーなどに分類できます。
投射材の材質と形状の組み合わせは多岐にわたるため、それぞれの特徴を把握し、目的に合わせて選定することで、狙い通りの加工を実現することが可能です。

ショットブラスト

球状の粒子であるショット(鋼球)を用いたブラスト加工を、ショットブラストとよびます。
ショットブラストは、材料の表面に付着したさびや汚れの除去、表面の梨地状の仕上げに使われます。
また、材料の強度を高めるための「ショットピーニング」も、ショットブラストのひとつです。
ショットピーニングは、ショットを高速で衝突させることで加工硬化を起こし、圧縮残留応力を与えることで、航空機や自動車部品などの耐摩耗性や疲労強度、放熱性の向上が期待できます。
サンドブラスト

珪砂などの砂を投射材として用いたブラスト加工を、サンドブラストとよびます。
サンドブラストは、ショットブラストと比較して安価で、加工後の表面粗さを抑えられることが特徴です。
珪砂の粗さを変えることで滑らかな仕上げができるため、表面の硬度がそれほど高くない製品や、外観が重視される製品に使用されます。
表面処理とは?まとめ
この記事では、金属加工の現場で行われている表面処理の種類と特徴について解説しました。
表面処理は万能ではありません!材料の相性や使用環境によっては、劣化や機能低下にるながることも… 金属材質の幅広い知識が必要とされます。
化学的な要素が多くむずかしく感じる技術ですが、表面処理を知るきっかけになればうれしいです。