
工作機械の急停止を防ぐ – ドカ停・チョコ停事例とIoT導入効果
- 更新日:
- 2025/02/07 (公開日: 2022/07/09 ) 著者: 甲斐 智
工場の現場責任者・経営者を悩ます、工作機械の急停止。工作機械によるラインストップは、工場で発生するトラブルのなかでも損失が大きく、後工程や生産スケジュールにも影響するため、もっとも避けたい事態のひとつです。
工作機械の急停止を防止するためには、日頃の定期的なメンテナンスがかかせませんが、人手不足が進む工場では、いかに故障の兆候をつかみ、事前のメンテナンスを実施していくかが大きな課題となっています。
この記事では、産業機械に欠かせないリニアモーションガイド(LMガイド)で高い世界シェアを誇るTHK株式会社に、工作機械における急停止トラブルの例と、トラブルを未然に防ぐ同社の「OMNIedge(オムニエッジ)」についてお聞きしました。

工作機械の稼働率アップには、大きな機械停止だけでなく、現場の小さな機械停止をしっかりと把握することも重要です。
工作機械の急停止による影響とは

工作機械の急停止は「これまでに費やした加工時間のロス」だけでなく、停止直前に加工したワークの全数検査や再始動時のテストカットなど、後工程にも大きな影響を及ぼします。
特に大きな金型など長時間の無人加工では、ワーク廃棄による損失が数百万円単位にのぼることも… また工作機械の工程間をガンドリーローダーや搬送ロボットで連結している量産ラインでは、関連する工程が停滞してしまい、工場全体の深刻なラインストップにもつながります。
〈工作機械の急停止による損失の例〉
- × 加工時間のロス
- × ライン復旧までの機会損失
- × 加工途中のワークの廃棄
- × 全数検査にかかる費用


復旧作業にかかる人件費も課題となっています。
工作機械のチョコ停とドカ停

工作機械の急停止は、作業者レベルで解決できてしまう軽微なものから、工場全体を長時間停止させる深刻なものまで、その種類は「チョコ停」と「ドカ停」の大きく2つに分けられます。
チョコ停とは

チョコ停は「ちょこっと停止する」という意味で、10〜30分程度の短時間の機械停止のことを指します。
工作機械でいえば、工具のチッピングや段取りの不備によって、一時的に工作機械がストップしてしまいチョコ停が発生します。
チョコ停は長時間のラインストップにくらべ軽く見られがちですが、作業者がその場で解決してしまうことも多く、実態がわかりにくいことが課題です。そのためわずか数分のチョコ停が積み重なり、1日を通して大きな機会損失につながっている例も少なくありません。
ドカ停とは

ドカ停は「どかっと停止する」という意味で、長時間の機械停止のことを指します。
工作機械でいえば、主軸や機械要素部品・油圧部品などの故障により、突発的に工作機械がダウンすることでドカ停が発生します。
通常であれば非稼働日(休日など)を利用した計画メンテナンスで済むはずが、ドカ停の場合、数百~数千万円以上の想定外コストになってしまうことも… ドカ停は工作機械の稼働率や工場の生産性を大きく下げるため、徹底した原因究明と対策がもとめられます。

CNC工作機械に必ず備えられている「非常停止ボタン」。非常停止ボタンにはサーボモータや各種油圧ユニットを緊急停止させ、機械の事故(主軸衝突など)や人身事故(巻き込まれなど)を防ぐ役割があります。
非常停止後は、リニアモーションガイドやボールネジなどの位置精度に影響が出ていることも多いため、すぐにサイクルスタートさせることはできません。大きなドカ停につながる要因のひとつです。
工作機械のよくある急停止トラブルと対策

工作機械のドカ停・チョコ停につながる、代表的な急停止トラブルと対策を紹介します。
〈トラブル例〉
段取りに起因する工作機械の急停止

加工品種の切り替えやワークの段取りでは、作業者の熟練度・作業のばらつきによって、チョコ停が発生しやすくなります。
特に多品種少量生産が増えている加工の現場では、機外・機内でのワークの段取り回数も増え、工作機械の稼働率が落ちてしまうケースが多くあります。
〈考えられる対策〉
- ワーククランプ方法の見直し
- 治工具の見直し
- センサによるワークの位置検出
- 多面パレット/外段取りによる効率化
工具折損による工作機械の急停止

ドリル・フライスやインサートなどの切削工具は適切に扱わないと、思わぬ工具折損につながり、チョコ停の原因となります。
工具折損の直前にはチッピング(刃先の欠け)や、工具の異常摩耗が起きていることが多く、工具折損で急機械が停止した際には、加工途中のワークの廃棄だけでなく、以前の加工にさかのぼって全数検査が必要になる場合もあります。
〈考えられる対策〉
- 切削条件や加工パスの見直し
- センサを活用した工具摩耗・折損の検出
- RFIDタグによるツーリングの寿命管理
- 高圧クーラント/クーラントスルー工具による切粉の排出
クーラントトラブルによる工作機械の急停止

クーラントは、切削加工の潤滑・冷却・洗浄にかかせない切削油です。クーラントポンプによって高圧で押し出されたクーラントは、加工点へ送られその後回収、フィルターを通して工作機械を循環します。
クーラントポンプの不具合やフィルター詰まりによって液量が不足すると、工作機械の重大な故障につながり、ドカ停の原因となります。クーラント関連のトラブルは、初期症状に気がつきにくいため注意が必要です。
〈考えられる対策〉
- クーラントポンプの状態監視
- センサによるクーラントの流量管理
- フィルタの定期メンテナンス
- タンク内の異物検出
主軸の不調による工作機械の急停止

工作機械の命ともいえる主軸。加工精度を左右する主軸は、一旦故障すると、分解・交換などの大がかりなメンテナンスとなり、数日にわたる大規模なドカ停になります。
剛性の低下やたわみ・異音など、主軸の不調のサインを見抜くには、熟練作業者に頼ることも多く、経験やカンに頼らない仕組みづくりが重要です。
〈考えられる対策〉
- 主軸にかかる負荷のモニタリング
- 主軸にかかる電流値の異常検知
- 加工時の振動変化による劣化診断
- 遠隔診断によるメンテナンスサービスとの連動
直動部品の故障による工作機械の急停止

工作機械は、リニアモーションガイドやボールねじなどさまざまな直動部品で構成されています。工作機械の停止トラブルで多いのが、これら直動部品の故障によるドカ停です。
直動部品は故障してから交換するのではなく、壊れる前にメンテナンスを行うことで、急な故障によるドカ停を防ぐことが重要です。
〈考えられる対策〉
- 使用期間による寿命の一律管理(予防保全)
- IoTセンサによる故障の予兆検知(予知保全)
引用元:LMガイド|THK株式会社
直動部品は、使用箇所によって消耗スピードや部品への負荷に差があります。
そのため単純な使用期間の一律管理だけでは、交換のタイミングを見誤ることも… IoTによる予兆検知が、ドカ停防止のカギとなります。
直動部品の予兆検知で、ドカ停を防止

直動部品の故障によるドカ停を防ぐには、予防保全が有効です。しかし、予防保全は部品の状態にかかわらず一定期間でメンテナンスを行うため、まだ使える「壊れていない部品」を交換してしまうムダがありました。
そこで注目されているのが、IoT(モノのインターネット)を駆使した、THKの予兆検知IoT「OMNIedge(オムニエッジ)」です。予兆検知によって「もうすぐ壊れそうな部品」を事前に検知し、故障が発生する前にメンテナンスを行うことができるようになります。

OMNIedgeは、「簡単・安全・初期コストゼロ」をコンセプトに開発された、IoTパッケージ。従来、センサの選定から、アルゴリズムの確立・ネットワーク環境の構築まで、時間と費用が掛かっていた導入のハードルをなくして、すぐにはじめることができるようになりました。
「データ収集はしたものの、データ解析できず活用ができない…」「ITエンジニアがいないので運用が不安…」といった現場にもおすすめです。

自動化ラインでは、これらの周辺装置が急停止すると「前工程」「後工程」などすべての工程が停滞しドカ停になってしまうため、確実に防ぐ必要があります。
製造業向けIoTサービス「OMNIedge」の導入効果

OMNIedgeの予兆検知により、直動部品の故障によるラインストップを最小限に抑え、生産スケジュールのスムーズな遂行とライン稼働率の向上を実現します。

導入前 | 稼働と故障による急停止を繰り返すことで、トータルの生産量が減少 |
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導入後 | 故障が発生する前にメンテナンスを実施することで、停止時間を最小限に抑え、生産量を維持 |

ロボット搬送ラインの状態監視の事例

複数のリニアモーションガイドをつなげた、15〜20mもの長いロボット搬送ライン。
従来、直動部品の故障で突発的なライン停止が起きてしまうと、長期間のドカ停になっていました。
直動部品の交換作業には「精度出し」や「ティーチング」も含むため、3日ほどがかかりますが、OMNIedgeによる予兆検知で、定期メンテナンスを行うことで、ラインストップを最小限に抑えることができました。
悪環境下での状態監視の事例

きびしい悪環境下で稼働するCNC工作機械では、切粉の噛み込みやクーラントの侵入によって、直動部品の交換頻度が高くなります。
特に使用している切削油の種類やミストによっては、その成分が部品の奥深くまで侵入し、破損の原因に… OMNIedgeによる予兆検知で、直動部品の状態を事前に知ることで、メンテナンスのタイミングを見極め、ラインストップを最小限に抑えることができました。
工作機械における急停止トラブルとは?まとめ
この記事では、THK株式会社(東京都港区)に、工作機械における急停止トラブルの例と、トラブルを未然に防ぐ同社の「OMNIedge(オムニエッジ)」についてお聞きしました。
リニアモーションガイドなどの直動部品は、装置のベース部分にあることが多く、交換時間もかかる傾向にあります。ドカ停を防ぐためには、「機械の故障は必ず起こるもの」と考え、止まらないラインを追い求めるのではなく、いかにIoTセンサを活用し停止時間を短くするかが重要となります。
今すぐはじめられる工作機械のドカ停の防止は、ぜひ一度「THK」までお気軽にお問い合わせください。
THK株式会社について

会社名 | THK株式会社 |
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本社 | 東京都港区芝浦2-12-10 |
事業内容 | LMガイド、ボールスプライン、ボールねじ、LMガイドアクチュエータ等の機械要素部品の開発・製造・販売 |
公式サイト | https://www.thk.com/ |