〈インターモールド2023〉金型の精密加工を実現する最新加工機
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- 2024/01/10 (公開日: 2023/04/19 ) 著者: 甲斐 智
部品の大量生産に欠かせない金型。近年では、半導体やEV(電気自動車)関連技術の高度化にともない、より精密な金型加工が求められています。
この記事では、2023年4月12日~15日にかけて東京ビックサイトで開催された、金型加工の総合技術展 INTERMOLD2023(第34回金型加工技術展)の会場レポートをお届けします。
金型加工のトレンドは「EVシフト」
製造現場では、プレス金型や射出成形用のプラスチック金型、ゴム型など、さまざまな種類の金型が使われています。金型の市場は「自動車産業向け」が 67.8%※ を占めていますが、自動車のEVシフトによって、その市場は大きな転換点を向かえています。
※需要業界別の生産金額構成比 2022年:自動車用 67.8%(日本金型工業会調べ)引用元:一目でわかる日本の金型産業(令和5年)|一般社団法人日本金型工業会
EVでは、動力がエンジンからモーターに変わることで、部品点数が40%以上減少。エンジン関連の金型が大幅に減少する一方、モータやバッテリー関連の金型や、車載センサに使われる電子部品向けの金型加工がトレンドとなっており、より精密化する金型の加工ニーズにいかに応えていくかが課題となっています。
インターモールドは、年に2回「東京・大阪・名古屋」で開かれる、金型技術の大規模展示会です。
インターモールド(金型加工技術展)にあわせて、金型メーカーが集結する「金型展」と、プレス加工に特化した「金属プレス加工技術展」も同時開催され、最新の金型技術が日本中から集結します。
→インターモールドについて詳しく解説
金型の精密加工を実現する加工機
金型の精密加工では、放電加工機やマシニングセンタ・5軸加工機などの加工機が使われます。特にEV向けの金型加工には、超精密が求められるため、各メーカーがしのぎを削って加工機の開発を進めています。
また長時間に及ぶ金型加工では、作業者の負担が大きく、ロボットを活用した自動化システムや省人化にも注目が集まっています。会場で取材した、最新の加工機をご紹介します。
放電加工機三菱電機株式会社
三菱電機株式会社では、超高精度加工から自動化システムまで、多彩なソリューションを提案。なかでもEV向け金型加工で注目なのが、超高精度油ワイヤー放電加工機「MX900」だ。
MX900は、長時間の連続加工でも±1ミクロンの安定した加工精度を発揮する。精度の高い油加工で、100時間以上に及ぶEV向けモータコアの金型加工に最適だという。
また今後は、AI技術「Maisart(マイサート)」の搭載を予定している。Maisartは、難しい加工形状でも、過去のビックデータから最適条件を抽出して、ノウハウレスで加工ができる三菱電機独自のAI技術だ。熟練者が減るなか、初心者でもスタートボタンを押すだけで加工でき、高精度加工に貢献する。
そしてもうひとつの注目は、放電加工機とAMR(自律走行搬送ロボット)を組み合わせた自動化システムだ。
これまでの自動化は、安全柵やロボット用レールの設置が必要で、レイアウト変更が難しかった。ロボット自身が空間認識するAMRを活用することで、ロボットと作業者がスペースを共有することができ、レイアウト変更も容易になるという。
人手不足が叫ばれるなか、工程間を連携できる新たな自動化システムとして省人化ニーズに応える。
- 三菱電機株式会社
放電加工機西部電機株式会社
西部電機株式会社では、超精密ワイヤー放電加工機のリニューアルモデル「MM50UP」を出展。従来機のY軸ストークを50mm延⻑し、加工範囲を拡大するとともに、機械構造の見直しを計り、25%の剛性アップを実現した。
またオプションとして、ワイヤー放電加工で必要なスタートホール(ワイヤーを通す穴)を機上であける「穴あけ太郎」を展示。専用機やマシニングセンタ・ボール盤による穴あけ工程を削減し、生産性向上を狙う。
EV向けではモータコアの金型や、順送プレスのプレート金型の加工ニーズが増えているという。±1ミクロンのピッチ精度と安定した自動結線で、金型の精密加工ニーズに応える。
- 西部電機株式会社
放電加工機株式会社ソディック
株式会社ソディックでは、従来機に比べ、加工性能と環境性がさらに向上した、ワイヤー放電加工機「ALN400G iGroove⁺Edition(アイグルーブ プラスエディション) 」を出展。金型加工における生産性向上と、脱炭素社会に向けた環境対応ニーズに応える。
ALN400Gは、 4軸リニアモータ駆動の高精度ワイヤー放電加工機。iGroove仕様では、独自のワイヤー回転機構によって、ワイヤーを回転させながら加工することで、厚物のワークでも、上下の加工面の質が均一になり、高精度加工が実現するという。またワイヤーの送り速度を下げることができるため、ワイヤー消費量の削減にも役立つ。
今回の⁺Editionでは、インバータ制御による新開発のポンプシステムによって、消費電力を従来比で最大30%削減した。SDGsに貢献するだけでなく、補助金による導入もしやすい。
高いピッチ精度が要求されるプレート金型の加工や、コネクタなどの電子部品の金型加工など、微細な金型加工ニーズが増えているという。
- 株式会社ソディック
放電加工機ファナック株式会社
ファナック株式会社では、ワイヤー放電加工機「ロボカット α-CiCシリーズ」と協働ロボットによる自動化ソリューションを提案する。
α-CiCシリーズでは、従来のロボカットの中身を一新。鋳物構造からすべて見直し、大幅な剛性アップを図るとともに、金型の微細加工に向けて、加工精度を大幅に向上させた。剛性が上がったことで、EV向けモータコア金型の加工では、高いピッチ精度の超精密加工が期待できる。
また高い結線率を誇る自動結線機能で、長時間の連続無人運転が可能。同社製の協働ロボットと組み合わせることで、さらなる長時間運転が実現する。
協働ロボットは台車で移動できるため、夜間や休日など、必要な時だけセットすることが可能だ。ロボット自身がQRコード読み込んで位置決めするため、ラフに設置しても、自動で位置補正できるという。加工機・ロボット・NCのすべてがファナック製のため、シームレスに連動できるのも強みだ。
一方切削関連で増えているのが、EVの軽量化にともなうアルミ部品の切削ニーズだ。近年では、30番の高速加工機として定番の同社の「ロボドリル」の出番もますます増えているという。EV向けアルミ部品は、モータケースやチェーンカバーなどの大きなものが多いが、ワークサイズさえ機械に合えば、軽切削に向いた30番の機械の方が有利だ。
「ロボドリル α-D21M」では、比較的大きなワークに対応でき、回転テーブルと組み合わせた割り出し5軸による工程集約で、EV向け部品の生産性向上に貢献する。
- ファナック株式会社
マシニングセンタ安田工業株式会社
安田工業株式会社では、ハイエンドマシニングセンタ「YMC430+RT10」を出展。EV向けをはじめとした金型の超精密加工ニーズに応える。
YMC430は、全軸高速リニアモータ制御のマシンニングセンタ。機械内部に冷却液を循環させることで熱変異を低減し、長時間の金型加工でも安定した高精度加工が実現するという。
またDD(ダイレクトドライブ)モーター駆動の高精度ロータリーテーブル「RT10」との組み合わせで、多面割り出しによるワンチャッキング加工や、追従性が必要な同時5軸加工にも対応可能だ。
自動車のEVシフトにともない、ワパートレインの加工におけるマシニングセンタの役割が大きく変化している。切削加工のトレンドが、従来のトランスファーラインによる量産から金型加工へシフトしており、超高精度を強みとする同社のマシンニングセンタの需要が増加しているという。
- 安田工業株式会社
研削盤株式会社岡本工作機械製作所
株式会社岡本工作機械製作所では、金型の平面研削に欠かせない、精密平面研削盤「PSG-SA1」を出展。研削工程の自動化を提案する。
PSG-SA1は「ドレス作業を自動化する、次世代の汎用平面研削盤」をコンセプトとした、同社のベストセラー機。若手オペレーターでも直感的に使える「機上測定(クイックタッチ)」をオプション搭載し、砥石当て込み作業のセンサと組み合わせることで、研削加工の自動化が実現する。また大型タッチパネルとわかりやすい対話ソフトで、熟練者が減る現場をサポートする。
作動油をなくすことで、廃油処理によるCO2排出削減も達成しており、補助金による導入もしやすい。
近年では、EV向けモータコア金型や、半導体用封止金型の超精密加工ニーズが増えているという。また海外向けでは、携帯用レンズ金型の加工も活況だ。
- 株式会社岡本工作機械製作所
研削盤株式会社アマダマシナリー
株式会社アマダマシナリーでは、「未来につなぐデジタル研削ソリューション」をテーマに、デジタルプロファイル研削盤「DPG-150」を出展。熟練者の技量を必要とする、プロファイル研削の省人化を追求する。
DPG-150では、これまでチャート用紙を貼り付けるだけだったアナログ式の投影機をデジタル化。スマートフォンのようなタッチ式のデジタルプロジェクターを搭載することで、CADデータと実際のワーク拡大画像(400倍まで)を比較しながら、だれでも高精度に加工することが可能になった。
またデジタル計測機能を搭載し、これまで目視で行なっていた加工後の計測や、補正加工が自動でできるという。これにより作業者による品質のばらつきが軽減し、安定した加工が実現する。
DPG-150は、ロボットによる自動砥石・ワーク交換にも対応している。荒加工から仕上げまで、全自動で連続加工が可能だ。EV車載向けの電子部品の金型需要が増加しており、金型の精度もより厳しく・微細になっているという。夜間・休日を問わず、加工機を動かし続ける省人化がトレンドとなっている。
- 株式会社アマダマシナリー
金型の精密加工を実現する加工機まとめ
このコラムでは、インターモールド2023にて取材をした、最新の金型加工機をご紹介しました。
高精度・短納期が強みの日本の金型産業ですが、海外金型メーカーの躍進によって、その競争力は年々弱まっています。新素材や6G(第6世代移動通信システム)を見越した市場の変化にいかにスピーディに対応していくかが、事業継続のカギとなってくるでしょう。今後の金型加工技術の最新動向に要注目です。
(製品の最新情報については、必ず各メーカーの公式サイトよりご確認ください)