ABS樹脂とは?ABS樹脂の特徴と製法、強化ABSの種類について
- 更新日:
- 2023/02/22 (公開日: 2023/02/22 ) 著者: 甲斐 智
樹脂のなかでも幅広い用途で使われているABS樹脂。工場や製造現場でも多く使われており、よく聞く名前のため、その由来について気になる方も多いのではないでしょうか?
この記事ではABS樹脂の特徴や、ABS樹脂をベースに強化した材料、ABS樹脂の切削加工のポイントについても解説します。
ABS樹脂とは
ABS樹脂は、A(アクリロニトリル)、B(ブタジエン)、S(スチレン)の3つの材料からなるポリマーで、これらの頭文字からABS樹脂とよばれています。
ABS樹脂は汎用性が高く、A・B・Sの3つの材料の特性をバランスよく兼ね備えています。
材料の配合割合によって、各特性の強弱が異なるため、用途にあわせて調整することが可能です
【A】アクリロニトリル | 耐熱性、機械的強度、耐油性 |
---|---|
【B】ブタジエン | 耐衝撃性、ゴムに類似する物性 |
【S】スチレン | 光沢性、加工性、安定性 |
ABS樹脂:引用元:環境展望台|国立環境研究所 環境情報メディア
ABS樹脂は、成形しやすく物性バランスや表面外観に優れており、家電製品や建材、自動車の内外装部品などに幅広く使われている。
ABS樹脂は、「耐衝撃性」や「機械的強度」に優れていることから、自動車部品や産業機械にも使われています。また光沢があり質感もいいため、オモチャや装飾品などのデザイン性が必要とされる製品にも広く使われています。
一方で耐候性が低いことから、紫外線や太陽光に長時間さらされると劣化しやすく、直射日光があたる屋外や高温環境下には向いていません。
ABS樹脂の加工法
ABS樹脂は、加工性が高いことでも知られています。樹脂の加工方法にはさまざまなものがあり、代表的なものに「射出成形」と「切削加工」があげられます。
最近は3Dプリンタによる造形も一般的になっており、最終製品の形状やコストを優先して、加工法を選択することができます。
まためっきなどの表面処理や溶接(樹脂溶接)にも対応しており、目的にあわせて加工法を選べる点も、ABS樹脂が広く使われている理由のひとつです。
ABS樹脂の製法(ポリマーブレンド法)
ABS樹脂の代表的な製法は、「ポリマーブレンド法」とよばれます。
はじめに「ポリスチレン(S)」と「アクリロニトリル(A)」を配合することで、AS樹脂を製造。そのAS樹脂に、ゴムに近い材質を持った「ブタジエン(B)」と添加剤を加えて、ペレット状にすることでABS樹脂を製造する方法です。
ABS樹脂とポリカーボネートの違い
ポリカーボネートは、ABS樹脂と同様に工業製品に多く使われている樹脂材料です。ABS樹脂よりも耐熱性が高く、耐衝撃性にも優れています。透明であることも特徴で、試作品のクリアモデルとしても使われます。
一方でポリカーボネートは耐薬品性が低く、強酸や有機溶剤と一緒に使う場合には割れが生じるため、注意が必要です。
改良されたABS樹脂の種類と特徴
ABS樹脂をベースに、添加剤や材料を調整し特性を高めた「新しいABS樹脂」が開発されています。
ここでは、ABS樹脂の強化剤やABS樹脂の関連材料を紹介します。それぞれの材料にはメリット・デメリットがあるため、用途にあわせた選択が重要です。
〈ABS樹脂の種類〉
強化ABS樹脂
強化ABS樹脂は、繊維素材を加え「剛性」と「機械的特性」を高めるた材料です。
添加する繊維素材には、グラスファイバーやカーボンファイバーがあり、これらを配合することで強度を高めることができます。
ASA樹脂
ASA樹脂は、ABS樹脂のブタジエン(B)をアクリルゴム(A)に変更した材料です。ABS樹脂の弱点である「耐候性」を改善できるため、利用範囲を広げることができます。
一方で「耐薬品性」は改善されないため、ASA樹脂でもABS樹脂同様に、使用環境の配慮が必要です。
ACS樹脂
ACS樹脂は、ブタジエン(B)を塩素化ポリエチレン(C)に変更した材料です。「耐候性」「耐熱性」「耐衝撃性」「難燃性」など、さまざまな性能が向上しています。
一方で引張り強度が低下するため、機械的に厳しい条件下で使う場合には不向きです。
AES樹脂
AES樹脂は、ブタジエン(B)をEPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)に変更した材料です。
EPDMの特徴から「耐候性」「機械的強度」「耐熱性」「耐寒性」に加えて、「電気的性質」「着色性」が向上しています。
一方で成形性が悪化するなど、使いにくくなる点もあるので、用途にあわせた使い分けが必要です。
ABS樹脂の切削加工のポイント
ABS樹脂は切削性に優れているため、金型の製作スケジュールが確保できない場合や、少量生産が必要な場合には、切削加工が向いています。
ABS樹脂は耐熱性が高くないため、切削熱の影響を受けやすい材料です。熱で溶けた樹脂が、工具についてしまうことで加工精度の低下につながることも。そのため切削加工の際には、適切な冷却や、摩擦熱が発生しないような切削条件の設定が重要です。