
工具材質とは?超硬からハイス・サーメットまで工具材質を解説
- 更新日:
- 2025/02/07 (公開日: 2020/04/23 ) 著者: 甲斐 智
NC工作機械の切削工具として用いられるフライス・エンドミル・ドリル・バイトには、さまざまな材質が使われています。
工具に使われる材質は、「硬さ」と「ねばり強さ」によって、加工用途や切削能力が変わります。
温度特性や耐摩耗性も、材質によって大きく変わるため、
加工ワークや加工内容によって使い分けが必要
です。
この記事では、NC工作機械で使われる工具材質の種類や用語を、かんたんに紹介します。

工具の硬さとねばり強さについて

工具には、
「硬度」と「じん性」
のふたつの特徴があります。
加工する機械や加工内容によって、使い分けが重要です。
硬度(工具の硬さ)
工具の硬さは、「硬度」によって表されます。
硬い工具は摩耗に強く、切れ味が高いのが特徴です。
ねばりが弱いため、チッピング(欠け)が起こりやすくなります。
硬度の高い工具はCNCマシニングセンタでの高速加工や、軽切削に向いています。
じん性(工具のねばり強さ)
工具のねばり強さは、「じん性(靱性)」によって表されます。
ねばり強い工具は衝撃や振動に強く、チッピング(欠け)が起きにくいのが特徴です。
硬さが低いため、工具の摩耗は早くなります。
じん性の高い工具は汎用機械での低速加工をはじめ、幅広いNC工作機械で使われています。
さまざまな工具材質の種類

代表的な工具材質には「高速度鋼(ハイス)」「超硬合金(超硬)」「サーメット」などがあります。
材質一覧(硬度順 低い→高い)
見た目ではほとんど見分けがつきませんが、磁石のつきや重さで簡易的に判別することができます。
・高速度工具鋼(ハイス) = 磁石が強くつく
・超硬 = 磁石が弱くつき、重い
・サーメット = 磁石が弱くつき、軽い
・セラミック = 磁石がつかない
炭素工具鋼と合金工具鋼

炭素工具鋼(SK)は、炭素を1.5%ほど含んだ低コストの材質。
合金工具鋼(SKS)は、炭素工具鋼にタングステンやクロムを加えた低コストの材質です。
200〜300℃の低温で硬度が低下するため、低速の切削加工やハンドツールで使われます。
高速度工具鋼(ハイス)

高速度工具鋼は、鋼にクロムやタングステンなどを加えた「SKH」とよばれる材質です。
じん性が高く、刃先も加工しやすいため、一般的な切削工具や汎用工具として多く使われています。
高速度工具鋼:引用元: 一般社団法人 日本鉄鋼連盟「高速度加工用と金型用」
カンナ、ヤスリ、かみそり等に使われる炭素工具鋼、バイト、タップなど高硬度の被加工物を切断、切削する高速度工具鋼、金属やプラスチック成形の金型用の合金工具鋼に分類します。
中でも高速度工具鋼はタングステン、モリブデン、クロム、バナジウムなどの元素を多量に含み、耐熱性、耐摩耗性に優れています。
鋼のなかでも耐熱性が高く、高速加工にも対応できるため、ハイス(ハイスピード鋼)ともよばれます。
(刃先の温度が600℃を超えないよう、切削速度 30m/min 以下での加工が目安です)
耐摩耗性に優れていることから、金型の材料としても使われます。
高速度工具鋼(ハイス)の種類
高速度工具鋼には、大きく〈タングステンハイス〉〈モリブデンハイス〉〈コバルトハイス〉に分けられます。
- 〈タングステンハイス〉
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タングステンハイス(SKH2~SKH10)は、タングステンを多く含んだ材質です。
タングステン(18%)、クロム(4%)、バナジウム(1%)を含んでいます。
- 〈モリブデンハイス〉
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モリブデンハイス(SKH51~SKH59)は、タングステンの代わりにモリブデンを多く含んだ材質です。
タングステンハイスにくらべ、「硬度」「じん性」が優れています。
- 〈コバルトハイス〉
-
コバルトハイスは、モリブデンハイスにコバルトを加えた材質です。
モリブデンハイスにくらべてさらに硬度が上がり、耐摩耗性に優れます。コバルト粉末を粉末冶金で焼き固めた「コバルト粉末ハイス」もあります。
超硬合金(超硬工具)

超硬合金はタングステンにコバルト粉末を加えて、粉末冶金で焼き固めた材質です。
航空機部品などの難削材や、金型加工の切削工具に使われます。
硬度が高く耐熱性に優れるため、マシニングセンタの高速加工に多用されています。
高速度工具鋼(ハイス)にくらべ加工精度が高いですが、振動に弱く欠けやすいため汎用機械などの振動の大きな機械には向きません。
アルミや銅などの非鉄金属の凝着を防止するため、コーティングを施した「コーテッド超硬合金」が一般的です。
コーテッド超硬合金では、チタンやダイヤモンドなどの硬い物質を コーティング することで、硬度やじん性が飛躍的にアップ。
コーティング には、CVD法(化学蒸着)やPVD法(物理蒸着)などの方法があります。
超硬合金の種類
超硬合金には、加える金属や粒子のサイズによって、〈K種〉〈P種〉〈M種〉と、超微粒子超硬合金に分けられます。
- 〈P種〉
-
P種は、一般的な鋼材の切削で使われる材質です。
K種に炭化チタンや炭化タンタルを加えた合金で、高速加工に向いています。
サーメット

サーメットは超硬合金のなかまで、炭化チタンに結合剤を加えて、粉末冶金で焼き固めた材質です。
サーメットの語源はセラミックス(Cera mics)と金属(Metal)で、超硬合金とセラミックスの中間の性能を発揮します。
超硬合金にくらべさらに硬度が高く、耐熱性に優れています。
鉄との親和性が低いため、刃先に切粉が溶着しにくく、光沢のある仕上げ加工にも最適です。
高速度工具鋼(ハイス)にくらべ刃先が欠けやすいため、重切削には向いていません。
欠け防止の コーティング を施した「コーテッドサーメット」なども市販されています。
セラミックス

セラミックスは、アルミナをベースに、粉末冶金で焼き固めた材質です。
耐熱性が1000℃以上と高いため、ドライ加工やセミドライ加工などの超高速加工(500~1000m/min)でも使われます。
1000℃以上の加工では、切削の先端は真っ赤に発熱。
また熱膨張率が低いため、高速加工でも加工精度が安定します。
鉄との親和性が低いため、刃先に切粉が溶着しにくく、光沢のある仕上げ加工にも適しています。
しかし高速度工具鋼(ハイス)にくらべ刃先が欠けやすいため、重切削には向いていません。
欠け防止のため、セラミックスの上からさらにセラミックスを コーティング した「コーテッドセラミックス」なども市販されています。
セラミックスの種類
- 〈アルミナ系(白セラ)〉
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アルミナ(酸化アルミニウム)を主成分とした、白い工具材質です。
鋳鉄や焼入れ鋼などの仕上げ加工に適しています。
- 〈炭化チタン系(黒セラ)〉
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アルミナ(酸化アルミニウム)に炭化チタンを加えた、黒い工具材質です。
じん性が高く、欠けにくいのが特徴です。
- 〈窒化ケイ素系〉
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窒化ケイ素を主成分とした、灰色の工具材質です。
1000℃以上でもじん性が低下しないため、耐熱合金の加工に適しています。
CBN(人工ダイヤモンド)

CBNはダイヤモンドに似せた人工物を使った、ダイヤモンドに次ぐ硬さの材質です。
窒素とホウ素をベースに、粉末冶金で焼き固めた化合物で、正式には「立方晶窒化ホウ素(Cubic Boron Nitride)」とよばれます。
耐熱温度が1300℃と高く、焼入れ鋼や耐熱合金の加工もできます。
ダイヤモンド切削工具(単結晶ダイヤモンド)
ダイヤモンドは、非鉄金属の超精密加工で使われる、非常に硬い材質です。
耐熱温度が600℃と低く、鉄と化学反応を起こすため、鉄鋼の加工には向きません。
単結晶からつくりだされた工具で刃先が鋭利なため、仕上げ加工や鏡面加工などで使われます。
PCD(焼結ダイヤモンド)
PCDは、人造ダイヤモンドの粉末を、金属やセラミックスと一緒に焼き固めた材質です。
ダイヤモンドよりもじん性が高いためチッピング(欠け)が起こりにく、アルミニウムなどの切削に最適です。
超硬合金・サーメット・セラッミックスなど「工具自体」の切削にも使われます。
ダイヤモンドとおなじで、鉄と化学反応を起こすため、鉄鋼の加工には向きません。
コーティング工具について

コーティング工具は、工具表面に「薄膜(はくまく)」を施した切削工具です。
母材となる工具に耐摩耗性に優れたコーティング材料を蒸着することで、「硬度」と「じん性」を兼ね備えた、優れた切削工具をつくりだすことができます。
工具材質とは?まとめ
この記事では、NC工作機械で使われる工具材質の種類や用語を紹介しました。
NC工作機械の加工精度を発揮するためには、工具材質の見極めが重要です。
この記事が、工具選びのヒントになればうれしいです。