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コーティングとは?コーティング工具の種類とCVD・PVDの違い

コーティングとは?コーティング工具の種類とCVD・PVDの違い

更新日:
2024/07/20 (公開日: 2022/01/22 ) 著者: 甲斐 智
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切削工具除去加工
     

コーティングは、金属加工における表面処理技術のひとつ。
切削工具の表面に薄い膜(薄膜:はくまく)を生成することで、母材となるもとの工具材質の性能を強化。硬度(切れ味の高さ)とじん性(欠けにくさ)を兼ね備えた、優れた工具をつくりだすことができます

コーティングされた工具は「コーティング工具」や「コーテッド工具」とよばれ、高精度・高能率の切削工具プレス加工金型として広く使われています。

この記事では、金属加工の現場で使われているコーティング膜・コーテッド工具の種類と、その成膜法について解説します。

コーティング工具について|工具の長寿命化を実現するコーティング技術は、エコロジーや環境配慮への観点からあらためて注目されています!
工具の長寿命化を実現するコーティング技術は、カーボンニュートラルの観点からあらためて注目されています!

コーティングとは

コーティング工具について|コーティングとは

コーティングは、母材となる工具表面に別の材質を蒸着することで、「硬度」と「じん性」の相反する特性を兼ね備えた工具をつくりだす表面処理技術です。

コーティングに使われる材質は、耐摩耗性・耐熱性など高い性質を持っていますが、それ自体で工具をつくることはできません。
母材となる工具材質と一緒になって、はじめてその性能を発揮することができます。

〈コーティング工具の特徴〉
硬度の向上 刃物の切れ味向上、切粉の排出性向上
耐摩耗性の向上 工具寿命の向上、工具コスト・工具段取りの削減
耐熱性の向上 高速加工による加工時間の短縮
ワークとの親和性の低下 ワークの凝着や、構成刃先の防止
豆知識:セラミックコーティングとは?
コーティング工具について|豆知識:セラミックコーティングとは?
引用元:ダイヤモンドよびHiPIMSコーティングを行った切削工具例|JETORO
セラミックは一般的に「陶磁器」のことを指しますが、工業分野では「無機化合物(酸化物、炭化物、窒化物)」全般を指します。
そのため窒化物で薄膜を生成する切削工具のコーティングは、「セラミックコーティング」ともよばれます。

コーティング工具の種類

コーティング工具について|コーティング工具の種類

コーティング工具にはさまざまな種類(コーティング膜)があり、ハイス・超硬合金・サーメット・セラミックなどの工具材質を母材に、チタン・クロムなどの窒化物を蒸着し薄膜を生成します。
加工ワークや加工内容にあわせて、最適なコーティング工具を選択する必要があります。

代表的なコーティング膜

めっきの代替としてのコーティング技術
コーティング工具について|めっきの代替としてのコーティング技術
引用元:六価クロムを使用しない低環境負荷の機能めっき代替技術を開発|産総研
機械部品で広く使われているめっき。機械強度を得るため六価クロムが多く使われていますが、環境配慮や作業者への負荷からその代替技術が開発されています。
一部では六価クロムを使用しない「セラミックコーティング」による防錆技術などの研究も進んでいます。

Ti(チタン)系コーティング

コーティング工具について|Ti(チタン)系コーティング

窒化チタンによるコーティング膜です。
主に切削工具金型で使われている主流のコーティングです。

TiNコーティング(窒化チタン)

耐摩耗性に優れた硬質のコーティング膜です。
代表的なコーティング膜として、鋼材の加工用途で広く使われています。
耐食性が高く見た目もキレイなため、装飾品のコーティングとしても使われます。

TiAlNコーティング(窒化チタンアルミニウム)

窒化チタンにAl(アルミニウム)を添加したコーティング膜です。
TiNコーティングとくらべ耐熱性に優れているため、切削温度の高い高速切削やクーラントを使わないドライ加工に最適です。

TiCNコーティング(窒化チタンカーバイト)

窒化チタンにC(炭素)を添加したコーティング膜です。
TiNコーティングとくらべ耐溶着性に優れているため、鋼材の低速切削に向いています。
また摺動性が高く滑りがよいため、パンチなどの金型にも最適です。

TiCコーティング(炭化チタン)

窒化チタンとC(炭素)を反応させて生成するコーティング膜です。
TiNコーティングとくらべ特に硬度・摺動性が高いため、金型や摺動の多い機械部品・治具に最適です。

TiSiNコーティング(窒化チタンシリコン)

窒化チタンにSi(シリコン)を添加したコーティング膜です。
チタン系のコーティングのなかでも、最も硬度・耐熱性に優れているため、高速切削・ドライ加工や厳しい環境下での特殊加工で使われます。

Cr(クロム)系コーティング

コーティング工具について|Cr(クロム)系コーティング

窒化クロムによるコーティング膜です。
主に金型や機械部品のコーティングとして使われています。

CrNコーティング(窒化クロム)

摺動性に優れた硬質のコーティング膜です。
代表的なコーティング膜として、金型や機械部品で広く使われています。
特に銅に対する凝着性(材質同士の結びつき)が低く、の切削加工で高い効果を発揮します。

AlCrNコーティング(窒化アルミクロム)

窒化クロムにAl(アルミニウム)を添加したコーティング膜です。
耐摩耗性・耐熱性などの特性を高めたコーティング膜で、切削工具治具に使われます。

DLC(非晶質硬質炭素膜)コーティング

コーティング工具について|DLC(非晶質硬質炭素膜)コーティング

DLCは「ダイヤモンド・ライク・カーボン」の略で、ダイヤモンドに近い特性をもつコーティング膜です。
高い硬度と耐摩耗性・摺動性に優れ、切削工具だけでなく、離型性が求められる精密金型や耐焼き付き性が求められるエンジン部品など、さまざまな製品で使われています。

コーティング工具について|アルミや銅などの非鉄金属の切削加工に効果を発揮

またワークに対する凝着性(材質同士の結びつき)が低く、特にアルミなどの非鉄金属の切削加工に効果を発揮。
電子部品向けの銅加工や、自動車エンジン向けのアルミ加工などに欠かせないコーティング技術です。
グラファイトとダイヤモンドの比率や水素の含有量によって、コーティング膜の特性を変化させることができます。

DLC被膜の開発動向:
アルミニウムや銅、CFRPといった非鉄金属を切削加工する場合、切削工具の切刃部分に被削材が凝着して切削抵抗が大きくなり、刃先が欠損する凝着摩耗が問題となる。…(中略)…この問題の解決策としてDLC(Diamond Like Carbon)や多結晶ダイヤモンド(polycrystal diamond:PCD)をコーティングした工具が実用化されている。
引用元: 切削工具におけるDLC 被膜の開発動向|株式会社オンワード技研

コーティングの成膜法、PVDとCVDの違い

コーティング工具について|コーティングの成膜法、PVDとCVDの違い

コーティングの成膜法は、化学的な「CVD法」と物理的な「PVD法」の大きく2つに分類されます。
これらの成膜法は気体状態の物質で表面を覆うため、「気相めっき」ともよばれています。
コーティングは成膜法によって、膜厚や母材との密着性が変わるため、ワークや加工方法に合わせて使い分けがされています。

〈成膜法の種類〉

CVD法(化学蒸着法)

コーティング工具について|マイクロ波プラズマCVD装置
引用元:マイクロ波プラズマCVD装置|マテリアル先端リサーチインフラセンターハブ

CVD法(Chemical Vapor Deposition)は、化学蒸着を利用した成膜法です。
1000℃に近い高温状態で化学反応(熱CVD法)を起こし、母材である金属の表面に薄膜を生成します。

コーティングの密着性に優れますが、高温で成膜するため母材が限られてしまい寸法精度や強度が若干低下します。
粗加工など密着力が必要な切削工具や、金型治具などのコーティングで使われています。
(一般にはガスを利用した熱CVD、プラズマを利用したプラズマCVD、レーザを利用した光CVDに分類されます)

PVD法(物理蒸着法)

コーティング工具について|メッキとPVD膜
引用元:メッキとPVD膜|オンワード技研 技術ブログ

PVD法(Physical Vapor Deposition)は、物理蒸着を利用した成膜法です。
プラズマでコーティング材をイオン化し、母材である金属の表面に薄膜を生成します。

低温(400~600°C)で成膜するため母材の寸法変化や強度低下がなく、高い強度を必要とするドリルフライスエンドミルなどの切削工具のコーティングで広く使われています。
(一般には真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングに分類されます)

コーティングとは?まとめ

この記事では、コーティング工具の種類とCVD・PVDについて解説しました。

従来の工具にコーティングを追加する場合、薄膜の厚さによっては「工具寸法が変わる」「切粉の排出性が変わる」など、加工内容に影響を与えてしまうことも… 工具種類に応じた使い分けが重要です。

コーティング工具が主流となるなか、コーティング選びのヒントになれば幸いです。

〈 コーティング工具 の関連キーワード〉

切削 工具 除去加工

この記事の監修者

甲斐 智(KAI Satoshi)
甲斐 智(KAI Satoshi)

1979年 神戸生まれ
多摩美術大学修了後、工作機械周辺機器メーカーの販売促進部門
15年以上に渡り、工作機械業界・FA業界のWebマーケティングに携わる
文部科学省「学校と地域でつくる学びの未来」参加企業

2020年に「はじめの工作機械」を立ち上げ(はじめの工作機械とは

所属
掲載・登録
寄稿・著書
SNS・運営サイト

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