
知っておきたい予防保全と予知保全 – 工作機械の予兆検知
- 更新日:
- 2025/02/07 (公開日: 2022/06/01 ) 著者: 甲斐 智
工作機械の稼働率を大きく下げる、部品故障によるラインストップ。現場では、故障する前に部品交換を行いラインストップを未然に防ぐ「予防保全」が行われていますが、故障にはさまざまな原因があり、「いつどの部品が故障するか?」を正確に予測することはむずかしいとされてきました。
それが今、IoT(モノのインターネット)の進化によって、変わりつつあります。
工作機械業界では部品故障の前ぶれを検知して、止まらない工場を実現する「予知保全(予兆検知)」に注目が集まっているのです。
この記事では、産業機械に欠かせないリニアモーションガイド(LMガイド)で高い世界シェアを誇るTHK株式会社社に、工作機械における予防保全・予知保全と、かんたんにIoTが導入できる同社の「OMNIedge(オムニエッジ)」についてお聞きしました。

工作機械における設備保全の種類

設備保全とは、設備のメンテナンスや点検を通じて、機械が正常に稼働するよう維持する業務のこと。故障した機械の修理はもちろん、突発的なラインストップを防ぐためにも、確実な保全が欠かせません。
設備の管理方法について:引用元:設備の管理方法について|中小企業基盤整備機構
設備を安定的に稼働させるためには、故障の発生頻度や発生時期などを分析し、原因をつかむとともに、故障が起こらないように、日々音や振動、匂いなど五感を使ったチェックを行うことが重要になります。
工作機械の“設備保全”には、突然のトラブルに対処する「事後保全」と、トラブルを未然に防ぐための「予防保全」「予知保全」の3つの考え方があります。
〈設備保全の種類〉

事後保全は、部品が壊れてから修理・交換をする保全活動で、復旧までに要する時間がそのままダウンタイムにつながります。
特に工作機械の場合、部品の交換や手配に時間がかかることが多く、事後保全では長時間のラインストップによって機会損失が大きくなる傾向にありました。

例えばロボット搬送ラインの直動部品の故障で、定期交換であれば3時間の計画停止で済む作業が、事後保全によって10時間以上ラインを停めてしまったり… 生産品目によっては数百万円以上の想定外コストになることも。
そこで近年注目されているのが、壊れる前に保全を行う「予防保全」と「予知保全」です。
生産性の高い工作機械では、予防保全・予知保全(予兆検知)を行うことで、大きなコストメリットが見込めます。


多品種少量生産へのニーズの変化によって、設備保全による工作機械の安定稼働の重要性がより高まっています。
「予防保全」と「予知保全」の違い

予防保全と予知保全は、どちらも「部品が壊れる前に」行う設備保全です。
工作機械であれば、主軸やサーボモータ、機械要素部品を定期的にチェックし、保守交換することで、ラインストップを未然に防ぎます。
混同されやすい「予防保全」と「予知保全」について解説します。
予防保全とは

予防保全は、TBM(時間基準保全:Time Based Maintenance)にもとづく考え方で、部品の状態にかかわらず、一定期間でメンテナンスを実施する保全方法です。
あらかじめ設定した部品ごとの耐用時間や寿命をもとに、故障の有無にかかわらず計画的にメンテナンスを行います。
部品故障によるラインストップのリスクを大幅に下げる一方、まだ使える「壊れていない部品」の交換のムダが生まれるため、メンテナンコストはかさみます。 ある一定の確率で発生する部品の突発的な故障には対応することができません。
〈予防保全のメリット〉
- ○ 部品故障によるラインストップを減らすことができる
- ○ 計画的な保全作業ができる
- ○ メンテナンスで作業を標準化できる
〈予防保全の課題〉
- × 部品ごと交換タイミングが、経験やカンによることが多い
- × 予防保全の頻度を上げるほど、ムダな部品交換が発生する
- × 突発的な故障には対応できない
予知保全とは

予知保全は、CBM(状態基準保全:Condition Based Maintenance)にもとづく考え方で、設備や部品の健康状態を監視して、その状態によってメンテナンスを実施する保全方法です。
IoT/AIなどの技術を駆使しながら、部品の劣化・不具合の「前ぶれ(もうすぐ壊れそう…)」を検知し、故障が発生する前にメンテナンスを行います。
部品故障によるラインストップのリスクを大幅に下げつつも、予防保全とくらべ部品交換の頻度を最小化できるため、ムダがありません。
〈予知保全のメリット〉
- ○ 部品故障によるラインストップを減らすことができる
- ○ ムダな部品交換が発生しない
- ○ 突発的な故障も、ある程度検知できる
〈予知保全の課題〉
- × IoT/AIなど監視システムの導入コストがかかる

“予知”とは「何が起こるかを前もって知る」ということ。実は部品の故障を完全に“予知”することは、AI技術をフル活用してもとてもむずかしいのが現状です。
機械部品は、壊れる前に劣化や不具合の予兆が現れます。この「いつもとちがう」を数値化して、日頃の正常値のデータをもとに交換タイミングを最適化することが、現在の予知保全の本質です。いわば「予兆検知」とも言えます!
予知保全(予兆検知)で使われる、IoTセンサについて

予知保全による部品劣化の予兆検知には、FA(ファクトリーオートメーション)でもおなじみの、さまざまな産業用センサが使われています。
特に工作機械で使われるIoTセンサの選定では、狭い機内での取り回しと、振動・切粉・クーラントなどの悪環境下でも高い信頼性を発揮するスペックが必須となります。
ここでは工作機械のIoTでよく使われる、IoTセンサの種類と特徴について紹介します。
〈工作機械でよく使われるIoTセンサの種類〉
加速度センサ

加速度センサは、対象物の動き・傾き・振動・衝撃などの変化(時間あたりの速度変化)を測定するセンサです。装置の微細な振動を捉えることができ、機械部品のき裂や破損の精密診断が可能です。
工作機械では、軸受け・ベアリングなどの劣化検知や、サーボモーターの異常検知などに使われています。振動・衝撃の多い工作機械や、ロボット搬送ラインなどの故障診断に最適です。
AEセンサ

AE(Acoustic Emission)センサは、物質に大きなひずみや圧力がかかった際に発生する「音波(弾性波)」を検出するセンサです。周囲のノイズや環境雑音の影響を受けにくく、機械部品のき裂や破損など、初期段階の異常を捉えることができます。
工作機械では、研削盤の砥石摩耗や工具とワークの接触確認、周波数変化による刃先の状態検知などに使われています。
電流センサ

電流センサは、回路に流れている電流を測定するセンサです。電流の検出方法から「抵抗検出型」と「磁場検出型」に大きく分けることができます。
工作機械では、主軸・サーボモータの消費電力による状態監視や、電力モニタリングによる工作機械の劣化診断、電流負荷の変化による工具の異常検知などに使われています。
引用元:OMNIedge 製造業向けIoTサービス|THK株式会社
IoTセンサは、部品の振動・電流などの測定データをアウトプットしますが、そのデータ自体は単体では意味を持ちません。機械学習された「正常値」から乖離したデータを分析して、初めて予知保全が実現します。
そのため予知保全システムを構築する際は、IoTセンサによるデータの収集だけでなく、そのデータを活用するための診断力も求められます。
直動部品の予兆検知で、壊れる前に保全!

工作機械を構成する機械要素部品。なかでも工程間の搬送ラインや工作機械の駆動を担う「リニアモーションガイド」「ボールねじ」などの直動部品は、ひとたび壊れれば大きなラインストップにつながる重要な要素部品のひとつです。
今国内の製造業では少子高齢化によって、工作機械の自動化が急務… 熟練作業者に依存している設備保守を、IoTによる予知保全(予兆検知)で標準化していくことが、生産性向上のカギとなっています。
そんな現場の課題を解決するのが、THKの予兆検知IoT「OMNIedge(オムニエッジ)」です。

OMNIedgeは、既存のリニアモーションガイド・ボールねじに後付けができるIoTパッケージ。設備診断に適している「加速度センサ」を採用し、専用開発しました。
データ解析に欠かせない解析アンプもセットになっており、すぐに直動部品の⾒える化が実現します。
予兆検知IoTサービス「OMNIedge」が選ばれる理由

さまざまなメーカーが展開している製造業向けIoTのなかで、THKのOMNIedgeが選ばれる理由に、契約時に自動付帯(特別な手続き不要)される、2つのあんしん特典「製造ゼロ待ちチケット」「IoTリスク補償」があります。
THKでは導入面だけでなく、運用面のサポートを付加することで、さらなる価値提供を図っています。
製造ゼロ待ちチケット

製造ゼロ待ちチケットは、OMNIedgeによる予兆検知で直動部品の交換アラートが出た場合、優先的に部品手配がかけられるサービスです。
製造待ち時間ゼロで、納期の心配なく優先的に交換部品の入手が可能※です。
(※製造リードタイムを短くするものではありません)
IoTリスク補償

IoTリスク補償は、万が一OMNIedgeによる予兆検知が機能せず、直動部品に故障が発生した場合、故障部品と交換に係る作業費用(最大100万円まで)が、東京海上日動の保険によって補償※されるサービスです。
(※ユーザー側での個別手続きは不要です)

予知保全(予兆検知)IoT 導入企業の事例

OMNIedgeは工作機械業界をはじめ、さまざまな製造ラインで採用されています。
〈改善前のイメージ〉

〈改善後のイメージ〉

導入前 | メンテナンス部門の熟練作業者しか部品の状態を判断できなかった… |
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導入後 | 部品の状態が、若手社員や海外スタッフでも数字で把握できるようになった! |
導入前 | 部品の状態に関わらず、年に数度メンテナンス(予防保全)を実施していた… |
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導入後 | 故障の予兆の部品からメンテナンス(予知保全)を行うことができ、効率化が図れた! |
導入前 | 故障した部品の納品に時間がかかるため、保守部品のストックが多くコストがかかっていた… |
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導入後 | 製造ゼロ待ちチケットで保守部品の余剰ストックがなくなり、在庫が適正化できた! |
予防保全と予知保全とは?まとめ
この記事では、THK株式会社(東京都港区)に、工作機械における予防保全・予知保全と、かんたんにIoTが導入できる同社の「OMNIedge(オムニエッジ)」についてお聞きしました。
工作機械の稼働停止を未然に防ぐ、IoTによる予知保全(予兆検知)。工作機械の生産性向上が叫ばれるなか、作業者の熟練にカンや経験に頼らない直動部品のCBM(状態基準保全)が、生産性向上のカギとなっています。
THK株式会社について

会社名 | THK株式会社 |
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本社 | 東京都港区芝浦2-12-10 |
事業内容 | LMガイド、ボールスプライン、ボールねじ、LMガイドアクチュエータ等の機械要素部品の開発・製造・販売 |
公式サイト | https://www.thk.com/ |