
AIが切り開く工作機械の新たな可能性とは?工作機械のAI活用例
- 更新日:
- 2025/02/07 (公開日: 2023/03/22 ) 著者: しぶちょー
最近はAIの技術革新が目まぐるしく進んでいます。現在は第3次AIブームと呼ばれており、ディープラーニングを代表とした機械学習技術の発達により、日常生活にもAI技術が広がってきています。
特に直近では、生成系AIと呼ばれる分野が話題です。文字から画像生成するAIや、問いかけに応じて人間が書くような文章生成してくれるAIまで登場し、世間を賑わせていますね。

下記の図や文章もAIに生成してもらったものです。ものすごい技術革新ですよね

当然、その流行は日本の製造業にも押し寄せてきています。ものづくり分野においても、AIを活用した製品やサービスが日に日に増えています。
本記事では、そんな製造業の中でも「工作機械」にフォーカスして、すでに世に出ているAIを活用した製品や、取り組みを紹介していきます。それでは、いきましょう!
はじめに知っておきたい、AIの基礎

具体的な製品を紹介する前に、まずはAIの基礎をざっくりと理解しましょう。
AIを体系的に理解することで、AIを活用した製品の"立ち位置"を理解することができるようになります。
AIってなんなの?
AIとは、Artificial intelligenceの略です。日本語でいう"人工知能"という意味です。では、実際にどんな機能を持ったものをAIと呼ぶのでしょうか。
実はこのAIという言葉… 明確な定義は存在ません。つくった人が「これはAIだ!」と定義したらAIということになります。とはいえ、一般的な共通認識としては、AIは『人間のように思考や判断をするコンピュータシステム』といえるでしょう。

AIは大きく2つの種類に分けることができます。それが「強いAI」と「弱いAI」です

〈強いAI〉

まず、強いAIとは、それこそSF映画に出てくるようなAIです。人のような意識を持ち、人とおなじような思考や判断ができるAIを「強いAI」、また「汎用AI」といいます。
ただし、この強いAIはまだ実現はできておらず、現実には存在しません。AIがたどり着くべき終着点ともいえます。

わかりやすくいうなら、某猫型ロボットですね
〈弱いAI〉

一方、弱いAIとは、限られた領域の中のみで判断を行うことができるAIです。代表的なのは、チェスや将棋のAIですね。決められたルールの中で、最適な解を見つけることだけに特化したAIです。それ以外のことは全くできません。
このようにひとつのことのみに特化させたAIを「弱いAI」、また「特化型AI」といいます。

機械学習ってなんなの?
生まれたてのAIは、何も教えなければ赤ちゃんと一緒です。いくら処理能力があっても、知識や情報がなければ何かを思考することも判断することもできません。
そんな赤ちゃんAIを立派に育てるために行うのが機械学習です。

機械学習を詳しく説明すると『AIが人間のような高度な判断を実行するのに必要な「法則」をコンピュータ自身に探させる方法』といえます

この機械学習の手法は主に3つにわけることができます。
教師あり学習


あらかじめ大量のデータと答えを用意しておいて、それをコンピュータに学習させる方法です。
すでに答えのわかっているデータを用いて、学習していきます。
教師なし学習


答えのついていないデータのみをコンピュータに与えて学習させる方法です。
そのデータが何なのかは問わず、とにかくデータを与えて学習させていきます。
強化学習


行動した結果から学ぶ学習方法です。コンピュータが繰り返し試行錯誤することで、その経験から学習し最適化な行動を見つけ出せるようになります。
人の学習方法と似ていて、人が一生懸命練習をしてスポーツが上手くなるのと原理はおなじです。
AIができること?

AIは何でもできる魔法のようなものだと勘違いされがちですが、実際にできることは非常に限られています。得意なのは予想することです。
種類を予想することを"分類"と呼び、数値を予想することを"回帰"と呼びます。基本的にどのAIもこの回帰か分類のどちらかをしています。逆にいえば、「種類を予想する」or「数値を予想する」くらいのことしかできません。

AIの基礎がわかったところで、具体的な活用を見ていきましょう。
工作機械のAI活用

工作機械のAI活用は、機械本体に搭載されたものから周辺機器まで、幅広く進んでいます。
本記事では、工作機械に関わる作業ごとに切り分けてAIの活用を紹介していきたいと思います。
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加工でのAI活用

AIを使った加工中のビビり振動の抑制(Smooth AI Spindle)
引用元:Smooth AI Spindle|ヤマザキマザック株式会社
AIを用いてビビり振動を抑制する機能です。
ビビりとは、加工中に発生する振動であり、加工面を荒らす原因になります。従来は、人の手による加工条件の調整で抑えていました。それをAIに代替させる技術です。
主軸に取り付けた振動センサでビビり振動を検出し、瞬時に最適な加工条件を見つけ出すことができます。強化学習の一種といえるでしょう。
AIによる加工の異常診断(OSP-AI加工診断)
引用元:OSP-AI加工診断|オークマ株式会社・日本電気株式会社
AIによって加工の異常をリアルタイムに検出する機能です。
ドリル加工に特化した機能ですが、ドリル加工の異常を検知して、破損前に加工を止めることができます。
また得られたデータからドリルの摩耗状態も判定することができ、最適な加工条件も自動算出できるようになります。

工具ホルダによる加工の分析(MULTI INTELLIGENCE)
引用元:MULTI INTELLIGENCE|株式会社山本金属製作所
上記で紹介した2つのアイテムは、工作機械本体に埋め込んだセンサで測定を行うシステムでしたが、このアイテムは工具ホルダそのものにセンサを埋め込まれており、独自開発したソフトウェアで加工の分析を行う仕組みです。
どんな機械でもこの工具ホルダさえ付けば、AIが活用できる汎用性の高さが特徴です。取得したデータを用いて加工条件の最適化や工具の寿命推定、折損検知などを行うことが可能です。
サーボ電流値による加工の分析(MAZIN切削工具監視AIアプリ)
引用元:切削工具監視AIアプリ|株式会社MAZIN
機械のサーボモータやスピンドルに電流センサを取り付け、その電流値の変化から加工や工具の状態を独自のAIアルゴリズムで分析する機能です。クランプ式電流計を後付けするだけで実装できる手軽さが特徴です。
ものづくり白書2019には、日本の工作機械の約40%が「導入から15年以上経過している機械」であると書かれています。こんな状況下だからこそ、このような既存機種に手軽なレトロフィットで導入できるAIが非常に重宝されています。

切粉処理でのAI活用

AIを用いた切粉除去の最適化(AIチップリムーバル)
機内に設置されたカメラの映像をAIで解析、切屑の位置を推定し、フレキシブルに動くクーラントノズルでピンポイントにクーラントを噴射して効率的に切屑を除去するシステムです。切屑の堆積状況に合わせて、最適な洗浄経路を自動で選択することができます。
とにかく大量のクーラントで押し流すという従来の機械の発想を塗り替えるAI活用です。

産業用ロボットのよる切屑の自動除去(COLMINA 画像認識・異常検知AI)
引用元:COLMINA 画像認識・異常検知AI|富士通株式会社
ワーク交換時に画像AIで切屑の有無検出を行い、検出されればロボットで切屑の自動除去を行うシステムです。
切屑の堆積により、自動運転が停止した場合、人が復旧作業に入るまでは停止したままになってしまいます。AIによる切屑の検出とロボットによる自動洗浄を組み合わせることで、自動ワーク交換でのトラブルを減らすことができ、ダウンタイムを削減することが可能です。

検査でのAI活用

加工データから製品品質を推定し、検査レスを実現
加工中のデータを元に製品の品質を予想するAIを構築し、検査を省略するという取り組みです。
従来は、全数の目視確認および抜き取り調査を行っていたものに対して、AIで品質を予想することで目視確認を減らす(ゆくゆくは無くす)ように工程を変更したというものです。
典型的な教師あり学習の応用例であり、製品品質と加工中のデータを紐づけて教師データとしてAIに学習させることで、加工中のデータから製品品質を予想できるようになります。
引用元:加工データから全数の品質を予測|株式会社SUBARU
機械保守でのAI活用

AIを利用した機械の異常検知(AI主軸診断、AI送り軸診断)
引用元:AI主軸診断、AI送り軸診断|オークマ株式会社
主軸や送り軸に取り付けたセンサの値をAIで解析し、機械の状態を診断する機能です。
破損前に異常の兆候を検出し、機械の予知保全を実現します。診断プログラムを実行するだけで現在の状態をセルフチェックできます。

加工プログラム生成でのAI活用

AIを用いた加工プログラムの自動生成(ARUMCODE1)
CAD(図面)データを専用のソフトウェアに読み込ませるだけでAIが解析を行い、NCプログラム・見積書・作成指示書を自動で作成してる製品です。
加工プログラムの自動生成は、工作機械業界としても非常に注目されている分野であり、図面・CADデータ・3Dモデルなどから自動で加工プログラムを生成する取り組みが各社で加速しています。
今後の動向 ~これからどうなるAI活用~
作業の置き換えから、働き方の変革へ

上述の通り、すでに工作機械に関わる各作業でAIが活用されています。今後、こういったアイテムが増えていくのは間違いないでしょう。
一方で、現在のAI活用は「既存の作業をAIに置き換える」とったアプローチのものがほとんどです。あくまでも、既存の仕事のやり方の延長線上でAI導入が進んでいます。
別にこれが悪いというわけではなく、まずはAIとはどんなものかを業界が理解するという地ならしの期間ともいえるでしょう。
次なるステップとしては、「作業自体を変革し、AIに合わせて人が働き方を変える時代」が来ると予想します。その証拠にすでに作業単体ではなく、人そのものに着目したAI活用も出始めています。
引用元:Actlyzerデジタルツイン連携技術|富士通株式会社
各作業ごとに区切られていたAI活用の枠が崩壊し、人の仕事そのものを塗り替える。この変革こそまさにDX(デジタルトランスフォーメーション)の神髄であるといえます。
ただ、勘違いしていけないことはAIが勝手に変革してくれるわけではありません。AIを使って我々が変わっていくのです。主体はあくまでも我々であるということを忘れてはいけません。
AIは敵か、味方か。

AIの話をすると必ず巻き起こる議論として「AIが人の仕事を奪うのではないか」というものがあります。この議論自体、私は的外れだと感じます。まず大前提として、AIはあくまでも道具にすぎません。
例えば、手で穴を掘っている原人がいるとしましょう。そこに文明の利器"スコップ"が登場したとします。そこで原人が「穴を掘る仕事をスコップに奪われた」といったら、違和感がありませんか?
この例でいえば「穴を掘る」ことに価値があるのであって、「手で穴を掘る行為」そのものに価値があったわけではないということです。そこをはき違えると、「スコップに仕事を奪われた」となります。AIに仕事を奪われるという議論は抽象化すればこれに近いものがあります。

「AIに仕事を奪われるかもしれない」と危機感を感じているのであれば、それは自分の仕事の本質的な価値を定義できていない証拠です。AIは道具です、便利なスコップなのです。人が人らしい仕事をするために手助けをしてくれる味方です。そういう意識で積極的にAIを活用していくことが大切だといえます。
一方で、AIが便利すぎる道具であることも事実です。
AIが明確に人から奪うものがひとつだけあります。それは「根拠」です。
AIは分類や数値を予想して、様々な仕事を助けてくれます。しかし、その予想の過程は完全なブラックボックスのため、なぜそのように判断したのかは誰にもわかりません。否、AIのみぞ知るというべきかもしれませんね。

例えばAIに職人の技能を学ばせて脱属人化を図る取り組みも期待されていますが、脱属人化を図った後はAIに依存する俗AI化が待っているかもしれません。
データだけの世界であるなら、結果だけがあれば良いでしょう。しかし、製造業では"もの"が必ず存在します。現地、現実、現物が存在するのです。

AIはそういった根拠を隠してしまい、答えだけを出してきます。便利だからという理由で、そこまでAIに頼りきりになってしまうと、AIは意図せずとも我々の敵になりかねません。つまりは使いようなのです。
AIを正しく理解し、ブラックボックスにさせない使い方をしていくことが大切です。
近年ではAIのブラックボックス化が問題となっており、AIの判断根拠を可視化する研究もおこなわれています。そういった技術をキャッチアップしながら、AIと共存していくことこそが今後のAI活用のカギとなると思っています。
AIが切り開く工作機械の新たな可能性まとめ
本記事の復習をしましょう。
- AIとは、人間のように思考や判断をするコンピュータシステム
- AIを育てる方法を機械学習という
- AIにできることは予想することで、主に回帰と分類がある
- すでに工作機械に関わる各工程でAIの活用が始まっている
- AIは敵でも味方でもなく、道具である
AIの進化のスピードは目まぐるしく、わずか数年で世界はガラッと変わってしまうでしょう。特に冒頭で話したような生成系AIは一気に私たちの生活圏に入り込んできます。今後はAIを活用できる会社とそうでない会社で大きな格差が生まれます。

自分には関係ない技術だ、わが社にはまだ早い… と思わずに、なるべく早く第一歩を踏み出すことをおすすめします。