〈GTJ2023〉最新研削盤にみる自動化・省力化ソリューション
- 更新日:
- 2024/01/10 (公開日: 2023/03/13 ) 著者: 甲斐 智
精密部品の仕上げ工程で行われる研削加工。自動車部品をはじめ、高度化が進む半導体製造装置や金型、光学デバイス、医療機器部品のミクロンオーダーの加工に欠かせない加工技術です。
この記事では、2023年3月8~10日にかけて幕張メッセ(千葉県)で開催された、研削技術の専門展示会 GTJ2023「グラインディングテクノロジージャパン」会場レポートをお届けします。
研削加工のトレンドキーワードは「熟練者」
研削加工は標準化がむずかしく、熟練者に頼ることの多い加工です。一人前になるには、10年以上の経験が必要といわれます。
少子高齢化にともない機械加工の省人化が進んでいますが、研削工程では「段取り」「ツルーイング」「ドレス」など、熟練の目視や経験・カンによる作業も多く、現場の課題となっています。
EV向けの精密部品の研削や、半導体製造装置向けの硬脆材料の研削など、研削加工のニーズが増えるなか、熟練者による工程をいかに自動化・省人化していくかがトレンドとなっています。
半導体産業の設備投資:引用元:ジェトロ|国際戦略物資となる半導体、企業はどう動く
世界の主要半導体メーカーによる相次ぐ巨額の設備投資に牽引され、2021~2022年の半導体製造装置市場は活況し、世界全体の市場規模は2年連続で過去最高を更新した。2023年の半導体装置市場は、メモリIC(集積回路)を中心とする主要半導体メーカーの投資の抑制や延期により、一時的な減速が見込まれるものの、2024年以降は中長期的に拡大することが見込まれている。
グラインディングテクノロジージャパン(Grinding Technology Japan)は、研削加工技術の専門展として2019年からスタートした展示会です。2023年で3回目を迎えます。
特別協賛団体として「切削フォーラム21」と、特別協力団体として「(公社)砥粒加工学会」が参加し、専門技術者によるパネルディスカッションによって、最新研削技術の情報交換が行われています。
→グラインディングテクノロジージャパンについて詳しく解説
自動化・省人化を実現する研削加工技術
研削工程の「自動化」においては、砥石・ワークの検出システムや、熟練者に頼らない研削ノウハウのIT化の動きが加速しています。
また「省人化」においては、研削工程の集約も大きな流れのひとつです。
EV向けや半導体製造装置向けの多品種少量生産に向けて、グライディングセンタによる工程集約やロボットシステムの活用など、加工工程の見直しがますます重要になっています。
研削工程の自動化と工程集約
岡本工作機械製作所では「研削革命」をテーマに、汎用平面研削盤「PSG-SA1」を展示。研削工程の自動化と工程集約を提案する。
研削加工の現場では、後継者不足が大きな課題となっている。PSG-SA1では、若手オペレーターや海外オペレーターでも直感的に使える「機上測定(Quick Touch)」をオプション搭載。砥石当て込み作業の自動化センサと組み合わせることで、研削加工の自動化が実現する。これにより、作業者の拘束時間が大幅に減り、オペレータの機械の多台持ちも可能になる。
近年では、EV向けの歯車やモーターコアの金型需要が増え、研削盤のニーズも増加しているという。
また半導体業界向けには、回転テーブル搭載のグラインディングセンタ「UGM64GC」を展示。主軸40番(BBT)とATC(20本)を備え、軸付き砥石による半導体製造装置部品の研削工程の集約を提案する。
シリコンウエハーを加工する半導体関連製造装置は、その特性上、金属部品が使用できず、セラミックやガラスなどの脆性材で構成されている。これらの脆性材は、ダイヤモンドホイールでしか加工することができず、必然的にグラインディングセンタの需要が急増しているという。
- 株式会社岡本工作機械製作所
誰でも簡単に熟練加工ができる
株式会社ジェイテクトでは、砥石から研削盤まで、研削に関するあらゆるお困りごとをグループをあげて解決する。なかでも注目なのが、昨年JIMTOFで初披露された、CNC円筒研削盤「G3シリーズ」だ。
G3P100Lでは、変形・熱変位・振動といった加工の不安要素を極限まで減らすことで、長期に渡る高精度研削を実現したという。ビギナー向けに「らくらく操作」を搭載し、研削方式やワークサイズを入力するだけで、研削条件の設定が可能だ。
誰でも簡単に熟練加工ができ、現場のベテラン減少にともなう人手不足のニーズに応える。
またグループ会社の株式会社ジェイテクトマシンシステムでは、高い剛性を誇る立形複合研削盤「G3VU86」を出展。高さ600mmの大型ワークもワンチャックで研削でき、ワークの反転不要で高い生産効率を発揮する。主軸フランジを長くすることでツールを短く保持でき、深穴でも剛性を落とさずに研削が可能だ。
工作機械向けや建機向けの大型部品など、一品モノの研削需要に応える。
- 株式会社ジェイテクト
- 株式会社ジェイテクトマシンシステム
熟練者の研削ノウハウをデータベース化
株式会社ナガセインテグレックスでは、高精度門型平面研削盤「SGX-126」を出展。1200×600mmの加工範囲で、中型金型やプレート部品の研削ニーズに応える。
SGX-126では、3点支持の高剛性ベッドを採用。トポロジー最適化によって「軽量化」と「高剛性」を両立した。従来機にくらべ省スペースでありながら、高剛性によって切り込み量が増え、研削能率が飛躍的に向上するという。
またもうひとつの注目展示が、熟練者の研削ノウハウをデータベース化した、業界初の研削加工支援アプリ「GRINDROID(グラインドロイド)」だ。アプリをインストールしたPCやタブレット上で、ワーク材質、サイズ、要求精度、加工時間などを入力すると、推奨の加工システムが提示されるという。
熟練者の減少が続くなか、経験の少ない若手オペレータでも、支援アプリを使いながら一定以上のレベルの研削加工が可能になる。人手不足の解消だけでなく、技術伝承やレベル向上によって新たな顧客開拓も期待できる。
- 株式会社ナガセインテグレックス
ロボットシステムで生産性を向上
株式会社太陽工機では、超小型立形研削盤「USG-2」を展示。スマートロボットシステム(SRS)との組み合わせによる、コンパクトで生産性の高い自動化システムを提案する。
従来、小型の研削盤の砥石交換は作業者が手動で行なっていたが、砥石自体が小さいため交換ペースが早く、自動化の課題となっていた。今回のスマートロボットシステムでは、ロボットが砥石とワークの交換を自動で行う。ロボットを天吊設置することで、下部エリアをワークストッカーとして有効活用し、さらなる省スペースを実現した。
ロボットシステムは、機械の左右どちらにも設置ができ、前面の作業エリアも確保できる。あらゆる生産ラインに適応できることも特徴だ。
近年では、国内のロボット向け要素部品や減速機など、精密部品のネジ研削ニーズが増えているという。人手不足が深刻となるなか、夜間の無人運転でさらなる生産性向上に貢献する。
- 株式会社太陽工機
多種の穴を1本の砥石で研削
三井精機工業株式会社では、精度と使い勝手を極めたジグ研削盤「J350G」を展示。J350Gの一番の特徴は、世界最大の砥石切込みストローク(U軸)だ。
U軸には-3~+50mmのストロークがあり、チョッピングによる内面加工に使われる。これにより、小さい穴から大きい穴まで、多種の穴径を1本の砥石で連続加工することができ、研削能率が向上するという。
また自動計測システムを搭載することで、ワークの芯出しから研削後の穴径測定、追い込み加工まで、一連の研削をインプロセスで自動化する。
ジグ研削盤は、機械部品や金型などの加工に使われる。近年では、スマートフォン向けのレンズ金型や、1000mmを超えるEVモータコア向けの大型金型など、精密金型の加工ニーズが増えているという。
- 三井精機工業株式会社
多品種の工具研削を自動化
牧野フライス精機株式会社では、高精密CNC工具研削盤に「高機能ロボットローダ」を組み合わせた自動化システムを出展。工具研削の自動化ニーズに応える。
従来の工具研削工程では、作業者が工具を手動でセッティングする必要があり、自動化が課題となっていた。高機能ロボットローダ「ROBOX(ロボックス)」では、自動ティーチング機能を搭載することで、パレットの穴位置を自動で検知。これまで難しいとされてきた、工具研削でのワーク供給の自動化が実現する。これによって、大ロットの工具でも、夜間の自動運転が可能になるという。
多品種の工具にも対応できるため、近年増えている工具の再研磨にも最適だ。
またフラグシップモデルの高精密CNC工具研削盤「AGE300FX」では、マイクロビジョンによる機内でのワーク測定を提案。画像認識によって工具を非接触で測定し、異常や不良があれば次のワークに対して自動補正をかける。
機外測定の手間をなくし、自動化ニーズに応える。
- 牧野フライス精機株式会社
半導体製造装置向けの硬脆材料を研削
株式会社東京ダイヤモンド工具製作所では、ダイヤモンド軸付きホイールと、各種ダイヤモンド工具を展示。硬脆材料の精密研削を提案する。
半導体製造装置には、アルミナセラミックやSiC、石英ガラスなどの硬脆材料が多く使われている。これらの材料を加工するにはダイヤモンド工具が欠かせず、マシニングセンタやグライディングセンタを使った研削加工が急増しているという。
同社では、用途にあわせた最適なボンドの選定や、ホイール形状の設計で、高い切れ味と耐摩耗性を両立したダイヤモンドホイールを開発。半導体製造装置部品の研削ニーズに応える。
またもうひとつの注目工具が、MCD切削工具だ。MCDは単結晶ダイヤモンド(Mono Crystal Diamond)の略で、一般的な超硬やPCD(多結晶ダイヤモンド)工具では得られない、研削・研磨に匹敵する精密加工ができるという。他社ではできないようなMCD工具の微細なカスタムメイドにも対応可能だ。
近年ではスマートフォンの高機能化にともない、カメラレンズ用の光学レンズ金型(ニッケル金型)の加工需要が増えているという。
- 株式会社東京ダイヤモンド工具製作所
熟練者による砥石の当て込みを自動化
株式会社メトロールでは、砥石の原点出しに最適な「エアマイクロセンサ」と、研削盤の機上測定に最適な「小型タッチプローブ」を展示。センサによる研削盤の自動化を提案する。
従来、研削加工に欠かせない砥石の当て込み作業(原点出し)は、熟練者による経験が必要で、自動化の壁となっていた。今回のエアマイクロセンサは、回転する砥石の原点をエアで検出。また、同時にワークの高さをタッチプローブで計測することで、加工原点と切り込み量が決まり、研削の自動サイクルが実現するという。
また新製品のエアマイクロセンサ「LK-DPAシリーズ」では、新たにセンサのデータ通信規格である“IO-Link”に対応。工場のフィールドネットワークに接続することで、従来のON/OFF信号だけでなく、エアの圧力データが数値で管理できるようになるという。
EV用モーターコア軸の研削から、半導体製造装置向け部品の研削まで、部品メーカーのトレーサビリティ対応のニーズに応える。
- 株式会社メトロール
研削加工における最新ソリューションまとめ
このコラムでは、GTJ2023にて取材をした自動化・精密化に役立つ研削ソリューションをご紹介しました。
人手不足が進む金属加工業界において、これまで作業者に頼っていた研削工程をいかに標準化していくかが、事業継続のカギとなってくるでしょう。研削工程の無人化に向けて、今後の研削盤の進化に注目です。
(製品の最新情報については、必ず各メーカーの公式サイトよりご確認ください)