伝導部品の基本|種類と特徴を具体例でわかりやすく解説
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- 2025/10/15(公開日:2025/05/23) 著者: りびぃ|監修: 甲斐 智
こんにちは、りびぃです。FA(ファクトリーオートメーション)業界で、生産設備の設計をしています!
生産設備にはさまざまな作業を自動化するために多数のアクチュエータが組み込まれています。
アクチュエータの代表例には「モータ」がありますが、モータの軸に負荷(動かしたい対象物)を直接取り付けるというケースはあまりなく、どちらかというとモータ軸と負荷との間に「伝導部品」を取付け、伝導部品を介して負荷へ動力を伝達することの方が大半です。
ということを私が若手設計者の頃に思っていましたが、似たようなことを思った方はいるのではないでしょうか?
しかし実はさまざまな視点から考えると、むしろ伝導部品を中継している方が好都合であることのほうが多いのです。
今回は、FA業界でよく使われている伝導部品の種類や特徴について、それぞれ具体的な事例なども交えながら解説をしていきます。
カップリングの種類と役割

カップリングとは「二つのものを組み合わせる」という意味がある通り、モータと負荷側のシャフトとを連結させるために使用する機械要素です。一見すると「わざわざカップリングなんて使わずに、モータ軸と負荷の軸を一体にすればいいのに…」と思えまが、一体にしてしまうと実は不都合が生じます。
ほかにも考えられることはいくつかありますが、それらをトータルで考えると「モータ」と「負荷軸」は分けておき、カップリングて連結させる構造のほうがメリットが大きいのです。
ただし、このようにモータ軸と負荷軸が分かれているせいで、単に連結をさせようとすると二つの軸心のズレ(ミスアライメント)が発生します。その状態でモータを回転させると大きな振動の原因になり、機械部品の早期故障・破損にもつながってしまいます。
そういったことからカップリングには「二つの軸を組み合わせる」という機能だけではなく、ミスアライメントを吸収する機能を持つものもあります。
〈カップリングの種類〉
モーションコントロール用カップリング
特にFA業界では高いモーションコントロールの性能が求められていることから「サーボモータ」「ステッピングモータ」がよく使われています。これらの用途に適しているカップリングをここでは紹介します。

モーションコントロール用カップリングでは「ミスアライメントの許容値」と「高トルク」「高応答性」とのバランスをどう見るかがカップリング選定の一つのテーマとなります。例えば心ずれにあわせてたわむような剛性の低いカップリングは「ミスアライメントの許容値」が高くなるため、モータ軸と負荷軸との心ずれを気にしなくても良くなるメリットがあります。
しかしその一方、剛性が低いことで以下のような支障が出るケースもあります。
〈モーションコントロール用カップリングの注意点〉
- ねじり剛性が低いため高トルクでは扱えない
- ゲインを上げることができず、高応答性が求められる条件では、運転の制御が難しくなる
スリットタイプカップリング
一体ものの金属で構成されたボディに複数のスリットが入っており、軸心のずれに対してカップリングがたわむようになっているタイプです。比較的安価で入手可能です。
ディスクタイプカップリング
モータ側のハブと負荷側のハブの中に板バネ(ディスク)が内蔵されており、高いねじり剛性とある程度のミスアライメントを許容できます。ディスクの枚数がシングルのものとダブルのものとがあります。
ダブルのほうがミスアライメントが許容される一方、取付スペースを占有しやすい点には注意が必要です。
ゴムタイプカップリング
両側のハブの間に防振ゴムを組み込んだカップリングです。展示会などにいくとこのゴムカップリングがよく取り上げられていますが、最近のゴムカップリングはねじり剛性を高く保ちつつも、ハンチングや共振による振動を吸収することができるそうです。
リジッドタイプカップリング
振動吸収性やたわみの性能がほとんどない高剛性のタイプです。加工機用などのように特に高い精度が求められるような機械のカップリングとしてよく採用されています。
その他の用途のカップリング
その他の用途として使われるカップリングでは「ユニバーサルジョイント」というカップリングが有名です。ユニバーサルジョイントは軸同士の角度のミスアライメントが非常に大きくてもトルク伝達することができるカップリングで、ものによっては45°もの角度ズレまで許容できるものもあります。
主にボルトを締める際に工具アクセスが困難な場合において、ソケットレンチにユニバーサルジョイントを接続して使用することが多いです。
歯車(ギヤ)の種類と役割

初心者の方でも「機械といえば?」といわれてイメージするのがこの歯車ではないでしょうか。実際その通りで、機械にとって歯車は、回転運動や動力を伝達するための機械要素であり、産業機械から日常生活の中の製品に至るまで、多くの場面で利用されています。
歯車は基本的には剛性の高い材質を使って噛み合わせるため、高い応答性が必要な機械には最適です。また適切に潤滑等がされていれば、ベルト・プーリなどと比べると耐久性が高いので、メンテナンス頻度を低減できる効果もあります。
とはいっても使用していくと歯が徐々に摩耗をしていってしまいますが、噛み合わせる歯車の歯数を「互いに素」になるように選定をすることで歯車を長寿命化させることができます。
〈歯車選定時の注意点〉
- 入力軸と負荷軸との距離が離れていると、多数の歯車が必要になる
- 歯車の組み合わせの数次第で、入力軸と出力軸の回転方向が逆になることに注意が必要
- バックラッシが必ず発生するので、正逆転運転でかつ高精度な位置決めが必要な機械には悪影響がある
「歯車」と一口にいっても実際には多数の種類があります。その代表的なものを以下の通り示します。
〈歯車(ギヤ)の種類〉
平歯車(スパーギヤ)

最も基本的な歯車で、歯が軸に対して直角方向に切られています。
加工が容易でコストも低く、効率的に動力を伝達できますが、運転中に振動や騒音が発生しやすいのが欠点です。
はすば歯車(ヘリカルギヤ)

歯が斜めに配置されており、歯が徐々にかみ合う構造になっています。そのため振動や騒音が少なく、滑らかな動力伝達が可能です。
一方で、軸方向にスラスト力が発生するため、スラスト方向の荷重も受けられるような軸受の設置が必要です。
かさ歯車(ベベルギヤ)

主に直角に交わる軸間で動力を伝達します。
歯が直線状のもの(ストレートベベルギヤ)と、歯が曲線状のもの(スパイラルベベルギヤ)とがあり、前者は伝達効率がよく、後者は静音性に優れています。
ウォームギヤ

ねじ状のウォームと、それにかみ合う歯車で構成されるギヤです。
最大の特徴は、ウォームギヤ一組だけで大きな減速比を得られることです。さらに負荷側からトルクを与えても回転がしないという「自己ロック性」を持つため、昇降装置などでは落下防止の機能を果たすことができます。ただし伝達効率が低いという欠点があります。
遊星歯車(プラネタリギヤ)

中心歯車(サンギヤ)を中心に複数の歯車(プラネタギヤ)が回転する構造を持つギヤです。
入力軸と出力軸を同軸にすることができるというメリットがあります。
ラック&ピニオン

回転運動を直線運動に変換するためのギヤです。
ラックは直線状の歯を持つ部品で、ピニオンと噛み合わせて動作します。モータの回転を直動に変換して位置決め制御をする際などによく使用されます。
産業用ロボットでよく使われる「減速機」について

複数の歯車や軸などを組み合わせたものを、一つのケースに収めた要素を「ギアボックス」といいます。ギアボックスには、モータの回転数を増大させる「増速機」と、モータのトルクを増大させる「減速機」とがありますが、ほとんどの場合後者の「減速機」が採用されます。
減速機には、モータ本体にオプションとして取り付け可能な「ギヤヘッド」、ウォームギヤが組み込まれた「ウォームギヤ」、遊星ギヤが組み込まれた「遊星減速機」などのような商品が一般的ですが、それ以外でよく使われ、かつ少々特殊な原理を持つ減速機について紹介します。
〈減速機の種類〉
サイクロイド減速機
まずは「サイクロイド減速機」です。これは一般的な歯車減速機とは異なり、ローラやピンとの接触による伝達を行うような減速機です。ローラやピンとの接触を行うために歯が滑らかな曲線の形をしています。これにより高減速比にもかかわらず高効率で動力伝達可能で、さらに摩耗も非常に少ないです。
ハーモニックドライブ
もう一つは「ハーモニックドライブ」です。こちらは、ハーモニックドライブシステムズ社の商標の減速機で、トルクの入力によって楕円状のカムが回転し、このカムによって内蔵された薄肉の歯が弾性変形しながら噛み合い、トルク伝達を行うというユニークな減速機です。こちらも高減速比にもかかわらず高効率で動力伝達可能です。
ベルト・プーリの種類と役割

入力用と出力用のプーリとにかかるようにベルトを掛けることで、プーリ間の動力伝達をすることができます。ベルト・プーリによる動力伝達では、モータ軸と負荷軸の位置とが離れていても動力伝達可能である点が最大のメリットです。
ベルトは基本的にはエンドレス(輪状)で使用されますが、オープンエンド(切断された状態)での使用も可能です。しかし一方で、ベルト・プーリによる動力伝達は、以下のようなデメリットがあります。
〈ベルト・プーリ選定時の注意点〉
- ベルトの自体の剛性がないため、サーボモータなどを使用する際にゲインを上げることが困難
- ベルトはゴムや樹脂でできていることが多いので、耐久性がそこまで高くない
- ベルトを使用し続けると徐々に伸び切ってしまうので、定期的にベルトの張力調整をする必要がある
ベルトには複数の種類がありますが、プーリもそれに対応するように複数の種類があります。そのため、ベルトとプーリの組み合わせは、ベルトの形状や規格が合致しているものを選択する必要があります。
代表的なベルト・プーリは以下のとおりです。
〈ベルト・プーリの種類〉
Vベルト

ベルトの断面が台形状をしているベルトです。
この台形形状がプーリの溝にフィットしながら動力伝達されることで、プーリとの滑りを抑えて効率よく動力を伝達することができます。とはいっても滑りが起こることもあるため、高トルクがかかるような箇所では使われません。
今でも自動車エンジンの補機駆動やボール盤の動力伝達部などに採用されています。
タイミングベルト

ベルトの内側に歯形が刻まれており、歯付きのプーリと噛み合うことで動力を伝達します。
歯がついているため、ベルトとプーリ間で滑りが発生しません。そのため、位置決め制御などのような、モータの回転との高精度な同期が必要な場面でも採用することができます。
タイミングベルトには大きく分けて「動力伝達用」と「搬送用」とがあり、それぞれに対応するベルトの形状・規格が存在します。搬送用ではベルトのプロファイルを設計することもできるため、ワークの特徴に合わせてベルト形状を設計することも可能です。
平ベルト
ベルトとプーリとの接触面がフラットになっているタイプです。
ベルトの幅の自由度が高いことから、単に動力伝達として使用するだけにとどまらず、ベルトの上にワークを乗せて搬送するなどのような用途によく採用されます。
一方で急加速・急停止のような高いトルクがかかるような状況には不向きです。ベルトとプーリとの間で滑りが生じプーリの空回りにより動力伝達ができなくなったり、ベルト・プーリ間での摩擦熱によりベルトが損傷するなどの不具合が発生してしまいます。
丸ベルト
断面が円形で、動力伝達や搬送用途に使用されるベルトです。機械要素です。まるで輪ゴムのような形をしているのですが、柔軟性が高いため、複雑なベルト経路やでも適応性があります。
高トルクがかかるような用途には向いていませんが、軽負荷の搬送装置や食品、医薬品などの生産ラインで多く使用されています。
チェーン・スプロケットの種類と役割

入力用と出力用のスプリケットとにかかるようにチェーンを掛けることでスプロケット間で動力を伝達させることができます。スプロケットも、プーリ・ベルトの場合と同様にモータ軸と負荷軸の位置とが離れていても動力伝達可能である点が最大のメリットです。
身近な例ですと、自転車のペダルの力を後輪に伝えるところに使用されています。
またチェーンとスプロケットとは噛み合うようにして動力伝達されることから、平ベルトやVベルトのような滑りが発生しません。そのため、高トルクの動力伝達も可能です。そしてチェーンにアタッチメントを使用することで、ワーク等の搬送にも使用できることから、動力伝達用・搬送用どちらの用途にも使用することができます。
ただし、以下のようなデメリットがあります。
〈チェーン・スプロケットの選定時の注意点〉
- ベルトに比べてチェーンの重量が重たいため、駆動させるのに比較的大きなモータトルクが必要
- チェーンとスプロケットとの摩耗を軽減するために、潤滑油の供給が必要
(潤滑油が使用禁止の環境では採用が難しい) - チェーン駆動時に振動が発生するため、それを嫌うような機械には使用しづらい
- チェーンの速度を上げていくと、遠心力の影響でスプロケットへの掛かりが悪くなるので、あまり速度を上げられない。(最悪はチェーンが外れる)
以下、主なチェーンの種類について示します。
〈チェーン・スプロケットの種類〉
ローラーチェーン
最も一般的に使用されるチェーンの一種です。リンクのピン部分にローラーが取り付けられています。
このローラーがスプロケットの歯にスムーズにかみ合い、摩擦を低減しつつ効率的に動力を伝達します。
サイレントチェーン
その名の通り、ローラーチェーンに比べて静音性に優れたチェーンです。
チェーン駆動時の振動や騒音を抑えることができます。
リーフチェーン
何枚かのリンクを交互に重ね合わせてピンで連結したチェーンです。
ローラチェーンより強度が大きく、主に低速機での使用に適しています。
ダブルピッチチェーン
ローラーチェーンのリンクピッチ(リンク間の距離)が倍になったタイプです。
リンクの数が少ない分部品点数が少なくなるので、チェーンを軽量に抑えることができます。
おわりに
伝導部品は、モータの動力を効率よく伝達し、設備の性能を最適化するために欠かせない要素です。それぞれに特性や適用範囲があり、適切に選定することで機械の信頼性や耐久性を向上させることができます。
設計やメンテナンスの際に少しでも参考になれば嬉しいです。

