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きさげ加工とは?きさげ加工の工程と工作機械でのきさげ加工例

きさげ加工とは?きさげ加工の工程と工作機械でのきさげ加工例

更新日:
2022/08/31 (公開日: 2020/12/21 ) 著者: 甲斐 智
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切削研磨除去加工
     

きさげ加工は「きさげ」とよばれるノミ状のスクレーパー工具を使い、鋳物などの表面を平らに仕上げる金属加工法です。
(英語:Hand Scraping)

金属をすり合わせながらわずか数ミクロンのくぼみ(凸凹)を平らに削ることで、 工作機械ではできない超平面仕上げ が実現。
きさげ加工は古くから職人による手作業で行われ、「キサゲ作業」や「きさげかけ」ともよばれます。

熟練作業者による「きさげ」は機械加工よりも平面度が高く、NC工作機械の基準面となるベッド(土台)や、テーブルなどの案内面・摺動(しゅうどう)面の加工にも使われています。

この記事では、金属加工の現場で使われる「きさげ加工」の特徴や工程について解説します。

きさげ加工について|日本の伝統技が光るきさげは、最新の工作機械にも欠かせない重要な技術です!
日本の伝統技が光るきさげは、最新の工作機械にも欠かせない重要な技術です!

きさげ加工の特徴と工作機械

きさげ加工について|きさげ加工の特徴と工作機械

きさげ加工はNC工作機械のベッド(土台)やコラム(柱)など、機械の精度を左右する重要な構成部品の加工に使われています。

マシニングセンタNC研削盤などの機械ではできない、1ミクロン以下の高い精度(平面・直角面)が得られ、部品同士をピッタリとたわみなく締結することができます。

またきさげ加工でできたミクロン代のくぼみは、潤滑油の「油だまり」となり、テーブルやパレットのスムーズな摺動(しゅうどう)を可能にします。
摩耗に強く、摩擦による機械の「熱変位防止」にも効果を発揮します。

工作機械でのきさげ加工事例

きさげ加工について|工作機械でのきさげ加工事例

人手によるきさげ加工によって、「母性原理」を超えた精度の高いNC工作機械の製造が可能になります。

  • マシニングセンタのテーブル案内面
  • 平面研削盤のベッド案内面
  • 門形マシニングセンタの熱変位によるゆがみ防止
  • 耐振性の高い歯車加工機の製造
  • 平行度の高い工作機械の組立て
母性原理とは
工作機械などのマザーマシンでつくられる部品の加工精度は、”工作機械本体の精度” を超えることができません。これを工作機械の「母性原理」とよびます。

きさげ加工の工程

赤アタリを付ける(きさげ加工)

基準面となる定盤(ジグ)に染料を付け、加工前のワークをこすり合わせます。
ワークの「凸」部分に染料が移る(赤アタリ)ので、そのアタリをきさげで削り落としていきます。

黒アタリを付ける(きさげ加工)

ワークに染料を付け、基準面となる定盤(ジグ)にこすり合わせます。
ワークの「凸」部分だけ染料がはがれる(黒アタリ)ので、そのアタリをさらにきさげで薄く削り落とます。
黒アタリの濃淡を調整することで、高い平面度や摺動(しゅうどう)性を得ることができます。

仕上げ(きさげ加工)

1~2を繰り返すことで、精度の高い平面へと仕上げます。
(実際の工程は、現場や企業によって変わります)

きさげの仕上げ面〈うろこ模様〉

きさげ加工について|きさげの仕上げ面〈うろこ模様〉
ScrapingPatternSlideway©CC BY-SA 2.0
この画像は、クリエイティブ・コモンズ(CC)のもと再編集されています

仕上げ面には、工具の種類や作業者ごとにさまざまな「うろこ模様」がでます。
うろこは1ミクロンほどの溝で、うろこの数が多いほど精密な平面になります。

完全な平面では、金属同士が密着して固着してしまう「リンギング」とよばれる現象が起こるため、適度な密着面になるようアタリの濃淡を調整します。

リンギング:
物理長の精密測定に用いられるブロックゲージでは、2つのブロックの平面を密着させると「リンギング」(Wringing)と呼ばれる現象により、互いに固着してしまい横に滑らそうとしても容易に動かずなかなか離れなくなることがある。
これと同様、または近いことが平面の平滑度が極端に高い機械装置の可動部で起きると、機能停止や性能の低下といった不具合となるため、このような平滑度の高い部品では金属加工の仕上げ段階で特別な工夫が求められる。
引用元: きさげ加工|フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」

きさげ加工で使われる定盤と三面摺り

「きさげ面の基準ジグ」となる定盤は高い平面度がもとめられため、「三面摺り」とよばれるきさげの技法で製作されます。

きさげ加工について|
引用元:横浜精密機械株式会社|キサゲ加工の紹介

三面摺りでは3枚の定盤を組み合わせながらすり合わせることで、測定器に頼ることなくすべての定盤を完全な平面に仕上げることができます。

きさげ加工で使われる工具の種類

きさげ加工について|きさげ加工で使われる工具の種類
HandScrapers©CC BY-SA 2.0
この画像は、クリエイティブ・コモンズ(CC)のもと再編集されています

きさげ工具には、きさげの目的にあわせてさまざまな種類があります。
材質には、焼入れされたハイス(高速度工具鋼)や超硬などが使われます。

平きさげ 平面加工で使われるきさげ
ささばきさげ 内面・端面加工で使われるきさげ

きさげ加工とは?まとめ

この記事では、金属加工の現場で使われる「きさげ加工」の特徴や工程について解説しました。

きさげ加工は「最新鋭のNC工作機械」の製造にも欠かせない重要な技術。
一方で経験や勘による「匠の技」のため、職人の数も年々少なくなっており、後世へ継承が課題となっています。

この記事が、きさげ加工を知るきっかけとなればうれしいです。

〈きさげ加工の関連キーワード〉

切削 研磨 除去加工

この記事の編集者・プロフィール

甲斐 智(KAI Satoshi)
甲斐 智(KAI Satoshi)

1979年 神戸生まれ
多摩美術大学修了後、工作機械周辺機器メーカーの販売促進部門
15年以上に渡り、工作機械業界・FA業界のWebマーケティングに携わる
メーカーでは各種技術専門誌へ寄稿
文部科学省「学校と地域でつくる学びの未来」参加企業

2020年に「はじめの工作機械」を立ち上げ(はじめの工作機械とは

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